『クラス演劇の勧め　〜一年九組によるシンデレラ〜』

作　五ノ井幹也

　【キャスト】

　　千　秋　　クラス劇責任者。唯一の演劇経験者。作者で主役をやるはめになっている。
　　有　香　　千秋の親友。突っ込み役。からっとした性格で男勝り。
　　麻　紀　　千秋の親友。遅刻の常習犯。活発なおてんば。

　　麗　子　　合唱コンクールのとき指揮者だった。正義感も強く気も強い。でも奥手？
　　久　美　　麗子の親友。気が付くデリカシーある女のこ。
　　美津子　　麗子の親友。気が付かないたくましい女のこ。
　　絵　里　　音響係。ジュディマリとホイットニーヒューストンのCDを持っている。
　　亜　紀　　ちょっと小ボケ。かぼちゃってイメージ。
　　ゆかり　　衣装係。結構器用な子。

　　雅　之　　1年生にして生徒会。東京弁をしゃべる唯一の子。頭いい。
　　裕　太　　バスケ部キャプテン。男らしく生きることにこだわる人気もの。
　　剛　志　　おとなしく小さい男子。自分の考えを持っているが普段は口にしない。
　　光　彦　　変わり者。大道具係。発明王。裏方の鏡。

　　多　田　　おちょけ１
　　今　井　　おちょけ２

　　知　子　　テニス部マネージャー。クラスでは目立たなく生きている女の子。
　　丸　井　　気のいいお人吉。丸い感じの男子。

　　　　　　『オープニング』

　　　　　　定刻に一ベルが鳴る。続いて陰マイクによるアナウンスが流れる…はず。

陰マイ　 （間）ただ、ただ今より、え、あってるやんな、え、いいの？　入ってる？
　　　　　　もう（笑い）『一年九組によるシンデレラ』を（笑い）上演します。いややぁ。

　　　　　　前途多難である。拍手の後、暗転のまま時間が流れる。これでもかという時間の
　　　　　　流れの中に緞帳奥からガサゴソという雑音。我慢できずに無音のまま緞帳が
　　　　　　上がる。「おい、幕上がったぞ。」見えなくなるはずもないのに姿勢を低くして走る
　　　　　　大道具班の男子。ついに効果音が入った。（テープノイズ先行） 照明が入る。
　　　　　　慌ててカボチャとネズミが舞台上に現れる。

カ　ボ 　やあ、ネズミ君。
ネズミ 　やあ、カボチャさん。
カ　ボ 　元気そうね。
ネズミ 　とっても元気だよ。
カ　ボ 　それはよかったわ。
ネズミ 　君も、元気そうだね。
カ　ボ 　うん、元気よ。

　　　　　　元気のアクションと微妙な間。

ネズミ 　ところで、この家の末っ子のシンデレラは、どんな調子だい。
カ　ボ 　ああ、あの気だてのいいシンデレラのことね。
ネズミ 　そう、気だてが良くって優しくて、いつも元気なシンデレラのことさ。
カ　ボ 　それがね、今日は元気じゃないみたいなの。
ネズミ 　それは大変。早速見に行こう。
ナレーション 　二人はシンデレラの様子を見に行くことにしました。

　　　　　　暗転。セットは家の中に場面転換している。（今までは何処やったんや！）　
　　　　　　どたばたという足音がする。音響は無し。やがて静かになると明かりがつく。
　　　　　　ここはシンデレラの家。おっと、なぜか王子様が居るぞ！

シンデ 　あほ、何でお前が出とるねん。
王子様 　え、お前、着替えは？
シンデ 　舞踏会はまだじゃ。
王子様 　へ？　しまった。
シンデ 　早よ引っ込め。
王子様 　…、また会おう！　フハハハハ！
観　客 　ええぞ！　丸井〜！

　　　　　　王子様照れ笑いで去っていく。シンデレラは即座に床磨きの体制に入った。

シンデ 　（顔を上げて）私は、シンデレラ。
観　客 　ゆーたぁぁぁ！
シンデ 　（照れ笑い）
観　客 　かわい〜い。
シンデ 　（耐えきれずに）今日はやけにうるさい日だわ。
観　客 　（笑い）
シンデ 　おまけに今日はお城の舞踏会。ああ、私も一度でいいからお城の舞踏会へ行ってみたい。着飾った人々。美しい
　　　　　音楽。おいしそうなお料理。そして、おいしそうな王子様。（いやらしく笑う）

　　　　　　そこへ継母、姉１，姉２登場。

継　母 　シンデレイラ、シンデレイラ。
シンデ 　あ、お母様だわ。いけない、また叱られる。
継　母 　シンデレイラ。まあ、まだ床磨きが終わってないの。
姉　１ 　遅いわね。
姉　２ 　ほんと、なんてグズなんでしょう。
シンデ 　すいません。
継　母 　早く済ませてしまいなさい。

　　　　　　間。誰かがせりふを忘れている。舞台上でなすりつけ合い。

姉　１ 　お母様。シンデレラがせりふを忘れてしまいました。
継　母 　ほんと。この子はグズなだけじゃなく馬鹿なんだから。
シンデ 　あら、私だったかしら。
姉　１ 　私よ。
姉　２ 　困った子ね。
継　母 　ともかく、私たちは今からお城の舞踏会に行って来ますから、お前は、…何するんだっけ。
姉　１ 　私に聞かないでください。
継　母 　二番目のお姉さん、代わりに言ってあげなさい。
姉　２ 　え、
継　母 　さあ、

　　　　　　間

シンデ 　千秋、せりふ！

　　　　　　呼ばれた千秋、台本を片手に舞台の袖からせりふのプロンプ。

観　客 　ちぃあき〜。
千　秋 　だめ、修復不可能。せりふが二ページ飛んでる。
継　母 　どうするのよ。
千　秋 　もう舞踏会に行っちゃって。
シンデ 　（もうやる気がない）分かりました。何でもやっておきます。どうぞ舞踏会にでも何でも行ってください。

　　　　　　継母達、逃げるように舞踏会に出かける。残されたシンデレラ、仁王立ち。

シンデ 　（頭巾を脱いでたたきつける）やってられるか！

　　　　　　暗転。紗幕にスライド上映会。夏休み。木漏れ日の太陽。クラブ活動中の野球部。
　　　　　　ブラスバンド部。誰もいない教室。クラス劇練習中。タイトル画面『クラス演劇の勧め〜
　　　　　　一年九組によるシンデレラ〜』。スライドが消えると紗幕奥から教室が浮かび上がって
　　　　　　くる。やがて紗幕上がる。

　　　　　　『誰も来ない稽古場』

　　　　　　セミの声にグランドから聞こえる練習の音。ここは一年九組の教室。教室正面の黒板の
　　　　　　上には、家訓が架かっている。太い墨の字で『やめなさい』　休み中なので机や椅子は
　　　　　　雑然と置かれたままになっている。その中の一つに女の子がうつぶせて眠っている様子。
　　　　　　そこへ二人の女子が駆け込んでくる。

有　香 　ごめん、遅れた。
麻　紀 　ごめんなさい。
有　香 　麻紀、風呂入っとんねん。余裕やろ。
麻　紀 　だって、昨日遅くまでテレビ見てたから…。
千　秋 　（うつぶせたまま）
有　香 　それにしても暑いな。こんな日に走らすな。
麻　紀 　もう、せっかくお風呂入ったのに。
有　香 　ちょっと、千秋。聞いてんの？　返事せん。死んだか？
麻　紀 　うそ、何で死ぬんよ。
有　香 　だってほら、腕の下に。
麻　紀 　何？
有　香 　遺書。
麻　紀 　何で。
有　香 　友達に裏切られたのが原因や。
麻　紀 　私違うよ。
有　香 　何目むいとん。友達を裏切って風呂入っとったくせに。
麻　紀 　声、掛けてみて。
有　香 　自分でせい。
麻　紀 　いやや、怖い。
有　香 　役に立たん子やねぇ。
麻　紀 　それでもいいから。
有　香 　千秋、千秋。

　　　　　　間。突然がばぁっと起きあがる千秋。三人とも驚きの声を上げ、飛び退く。

千　秋 　び、くりした。
有・麻 　生きてた。
千　秋 　当たり前よ。
麻　紀 　有香がね、私が遅刻したから千秋が死んだみたいに言うんよ。
有　香 　お、あんたでも罪の意識があるんや。
麻　紀 　ひど〜。遺書まで書いてるとか言ったん、有香やで。
千　秋 　これ？　台本。
有　香 　お、書けたん？
麻　紀 　すごいやん。
千　秋 　おかげで徹夜。眠くって。
麻　紀 　それで寝てたんか。
有　香 　（台本をつまみ上げる）かわいそうに。よだれでびしょびしょやで。
千　秋 　うそ！
有　香 　うそ。
千　秋 　もう、いけず。
有　香 　ごめんごめん。
麻　紀 　尊敬するな、台本書けるなんて。
有　香 　千秋は中学の時、演劇部やったからな。
麻　紀 　出来はどう？
千　秋 　言うても書いたのこれが始めて。自信なかったけど、練習日に間に合わすように頑張った。
有　香 　すごいすごい。でも…、信じられへんなこの状況。

　　　　　　教室を見渡す。黒板には「劇の練習日、八月六日。十時教室集合。みんながんばろう。」
　　　　　　の文字。もちろん今日がその日である。他には誰もいない。

有　香 　結局来てるの、私らだけ。
麻　紀 　暑いのに急いで来て損した。
千　秋 　…さっきね、夢見てた。
麻　紀 　夢？
千　秋 　うん。クラス劇の本番当日。
有　香 　どんな感じ？
千　秋 　う〜ん。
有　香 　あほ、そこで唸るな。
麻　紀 　失敗やったん？
千　秋 　ま、夢やからな。気にせんとこう。
麻　紀 　気になるやん。
有　香 　言ってみ。ここだけの話。
千　秋 　大したことないんよ。劇は出来てた。でもね、キッカケ外しセリフとちり、出を間違え間を外したって感じかな。
　　　　　後、セリフも二ページとんだ。

　　　　　　間

麻　紀 　それ、何語。
千　秋 　え？　日本語。
有　香 　うちもよう分からんかった。
千　秋 　要するに、大したことなかったってことよ。（大したことじゃ！）
麻　紀 　セリフが二ページ何とかってのは。
有　香 　飛んだって、言わんと次行くことちゃうん。
千　秋 　ご名答。
有　香 　大したことやんか。あんたが書いた台本、十ページちょっとやで。
千　秋 　次行っただけまし。プロンプしたけど。
有・麻 　プロンプ？
千　秋 　知ってるの？
有・麻 　知らん。
千　秋 　プロンプって言うのは、横からセリフを教えてあげること。
有　香 　ああ、英語の時間、時々千秋にやってもらうやつか。
千　秋 　ま、そんなとこ。他にもなぐりとか、飼い殺しとかおもしろい言葉、あるよ。
有　香 　物騒やな。なにそれ。
千　秋 　なぐりは金槌のこと。飼い殺しいうのは役者が舞台の上で隠れたままずっと潜んでること。
麻　紀 　何か分からん言葉ばっかり。演劇って難しそう。
千　秋 　そんなことないって。やったらおもしろいから。
麻　紀 　ふうん。じゃあね、千秋は何で高校の演劇部入らなかったん。そんなに良く知ってたら、高校でも主役ぐらいでき
　　　　　るのに。
千　秋 　まあね。ちょっとは考えたけど。やめといた。こうやって台本書くなんて思いもよらんかったわ。その話はいいやん。

　　　　　ともかく、これからどうするかよ。
有　香 　そうやな。このままやったらヤバい。後一月後に文化祭の本番や。なんとかせな。
麻　紀 　役者の人、何人出るの。
千　秋 　え〜っと。セリフがあるのが、十人。舞踏会で踊るだけの人が、やっぱり十人。合計二十人。
有　香 　クラスの半分か。ちょっと増えたんとちゃうの。
千　秋 　一部の人だけでやるんじゃなくて、クラスみんなでやった方がいいかなって思って。
麻　紀 　そりゃそうよ。みんなでがんばろう。
有　香 　私最近、みんなでって言葉聞いたら寒気する。
麻　紀 　何で？
有　香 　だって、うそばっかり。合唱コンクールかってクラスのみんなで一丸となって頑張りました、とか言うてるけど、
　　　　　麻紀なんか当日の朝練、遅刻してんで。
麻　紀 　でもな、来てからは頑張ったで。来てからは。
千　秋 　そうやね、チャイムなる前十分間。
麻　紀 　悪かったって。
有　香 　麗子、怒っとったで。ま、あれはまずいわな。
麻　紀 　もう、終わったことやん。忘れましょう。
千　秋 　やっぱり指揮者やってたら、クラスのみんなのこと気になるんやろね。今度は私らがそう言う巡り合わせ。
有　香 　あんた、遅刻は今日限りやで。
麻　紀 　なにも悪気があって遅れるのと違うもん。
千　秋 　そりゃそうやけど、今日来てない九組の残り三十七人には悪気がある？
麻　紀 　分からへんよ、そこまで。
有　香 　だいたい四十人も一緒におってまとまろう、いうのが無理。そう思うやろ。一人ぐらい遅刻するで。でもな、大人は
　　　　　ちゃうねん。こういうときに一丸となられへんクラスは力がないみたいに言うねん。リーダーがおらへんとか、集団
　　　　　を理解してないとか。
千　秋 　お、エンジンかかってきました。
有　香 　そんなん言うから、まとまれへんかったら自分らが駄目みたいな気持ちになるねん。行事の度にみんながバラ
　　　　　バラになっていくねん。
麻　紀 　（オーバーに）私の遅刻が、そこまでみんなに悪影響を与えていたなんて気付かなかったんです。
有　香 　だいたい大人のどこが一丸となってるんや。数学のタッヒーが校長の悪口言うてるの、うちは聞いたぞ。
千　秋 　いい調子。
麻　紀 　なんて言ってたん。
有　香 　聞きたいかぁ。
千・麻 　聞きたーい。
有　香 　集合！　あんな、（こそこそ話し。「え、うそぉ等」盛り上がる。

　　　　　　『王子様』

　　　　　　教室の入口に男子が一人現れる。咳ばらいひとつ。先生が来たのかと大あわてで
　　　　　　平静を装う三人。

雅　之 　来てるの、これだけ？
千　秋 　はい。
麻　紀 　あ、なんや。宇津井君やん。
雅　之 　なんやって失礼な。
有　香 　ごめんごめん。そういう意味じゃないから気にせんとって。
麻　紀 　ね、宇津井君は悪気があって遅れて来たんじゃないよね。
千　秋 　麻紀。
雅　之 　え、悪気なんかないよ。朝から実行委員会の方に行ってたから。
麻　紀 　そうか、宇津井君、文化祭実行委員やもんね。よかった。悪気なくて。ねえ、千秋。
千　秋 　うん。
雅　之 　他に男は？
千　秋 　来てない。
雅　之 　まずいなあ。ちょっと様子見てこよっか。
有　香 　（先回り）おっと、せっかく来たもん、逃がすわけにはいかん。
雅　之 　逃げるなんてそんな。ねえ。誤解だよ誤解。
有　香 　その東京弁が信用できん。
雅　之 　あ、差別だ。偏見だ。
千　秋 　そうよ、有香言い過ぎ。宇津井君は私らの次に練習に来てくれた人なんよ。
麻　紀 　そうや、貴重な協力者や。
雅　之 　そこまで言われると、今度は心苦しい。
有　香 　溺れる者はなんとやら。うちらの立場も苦しいなぁ。
雅　之 　君、感じ悪いよ。よし、分かった。ワラじゃねえとこ見せてやる。今から練習？　それとも何か作る？
千　秋 　ありがと、練習する予定なんだけど、役者がそろってなくて。
雅　之 　あ、そうだよね、俺一人で何が出来るって問題じゃねえか。
千　秋 　ごめんね。せっかく来てくれてるのに。
雅　之 　ま、そんなに落ち込むなよ。
麻　紀 　そうや、最初からそんなに上手くいかへんって。元気出して前向きにいこ。
有　香 　前向きにって、誰も練習に来ないんじゃ。
麻　紀 　誰もとちゃう。四人もいる。
有　香 　四人しか、とも言えるわね。

　　　　　　間。

千　秋 　がっかり。私、徹夜で台本書いてんよ。
雅　之 　台本は、完成？
千　秋 　まあね。
雅　之 　やるじゃん。残された問題は「いかに人を集めるか」か。
有　香 　大問題や。担任は当てにできへんし、どうしょういうて悩んでるねん。
千　秋 　有香、そうも言ってられへんから、いっぺんだけ相談してみいへん？
有　香 　誰に？　担任か？　カー、無駄無駄。
麻　紀 　先生、劇の練習に、人が集まらないんです。
有　香 　それは困りましたね。
麻　紀 　どうしたらいいんでしょう。
有　香 　自分たちでどうしょうもないなら、やめなさい。
麻　紀 　そんな…。
有　香 　文化祭は生徒の自主性の上で運営されるものです。人からどうこう言われてさせられるものではありません。
雅　之 　言いそうだよね。
有　香 　う〜、こうなったら意地でも成功させてやる。ともかくこれからどうするか、作戦立てよ。宇津井君も協力してくれる？
雅　之 　もちろんええよ。今から少しぐらい時間あるし。
有　香 　サンキュー。作戦第一。とにかく人集めや。連絡網で片っ端から連絡して、これから教室に集まってもらう。まずそ
　　　　　れから始めよう。テレカ持ってる？
麻　紀 　あるよ。連絡網の最初は、明石君と伊藤さんやんね。
千　秋 　そうやけど、今の時間に連絡網回して最後までいくかな。
有　香 　とりあえずやってみな。行くで。
雅　之 　ちょっと待った。連絡網もいいけどもっといい方法がある。
千　秋 　どんなん？
雅　之 　連絡網だと誰に回ったか回ってないか、こっちで把握できないよね。人がバラバラに集まっても劇の練習はやりに
　　　　　くい。役に当たっている人だけに直接電話して、確実に集まってもらった方がいいんじゃないかな。それでとにかく
　　　　　練習が始められる。
麻　紀 　そうか、何も全員集まる必要ないもんね。
有　香 　家にいなかったりクラブ活動中だったらどうするの？
雅　之 　それが問題だから、代役練習を頼めそうなやつも二、三人声を掛けて集める。
有　香 　頭ええやつはやっぱちゃうなぁ。それでイコ。千秋、どう？
千　秋 　ばっちり。宇津井君来てくれて良かった。
麻　紀 　感動〜。
雅　之 　大げさだよ。ね、役に当たってる人、全部で何人？
千　秋 　ええっと、十人。男子が五人に女子五人。
有　香 　集合時間は？
千　秋 　一時でどうかな。
麻　紀 　決まり。遅刻厳禁ね。
有　香 　よく言った。
雅　之 　じゃあ、女子の方お願い。男は連絡するから。
有　香 　ＯＫ！　麻紀、行くで。
麻　紀 　う、う〜ん。

　　　　　　有香麻紀教室を出ていく。

雅　之 　お昼から実行委員会の続きがあるけど、それまでだったらいろいろ出来るから言って。
千　秋 　ありがとう。連絡、お願い。
雅　之 　分かった。

　　　　　　雅之も教室を出て連絡に。見送る千秋。

千　秋 　見直しちゃった…。コピー行っとこ。うふ。

　　　　　　台本をかき集め、財布を取り出すと走って教室を出ようとする千秋。Ｕターンして
　　　　　　帰ってきて黒板の文字の「がんばろう」の部分に赤のチョークでぐるっと丸。再び
　　　　　　教室を出る。恋はこのようにして生まれるのか、作者はいっさい責任を持たない。
　　　　　　うふ。

　　　　　　『危険分子』

　　　　　　誰もいない教室。と思ったら不思議なところから女の子が三人現れる。ほこりっぽく
　　　　　　て煙たそう。

麗　子 　…暑いわね。
久　美 　…ほんと。
美津子 　…暑いわ。
久　美 　ただでさえ暑いのに、見た？
麗　子 　（ブリブリで）見直しちゃった。
三　人 　あ、ち〜。
麗　子 　ちょっと電話するだけやで。何見直せちゅうねん。
久　美 　コピーしてこよ。うふ。
三　人 　も、あっつぅ〜。
麗　子 　やめて、もう。はい参りました。降参ですぅ。
美津子 　私たちも気を付けないと、男子の前じゃついかわい子ぶっちゃうから。
久　美 　あんたは大丈夫。
美津子 　どういう意味。
麗　子 　確固たる自分を持ってるってことよ。
美津子 　あ？（考えてる）
麗　子 　暑い中練習来てみたらこれや。誰も練習してないわ男に色目使ってるやつはおるわ。どうしょうもないクラスや。
　　　　　こんなクラスで合唱コンクール優勝しようと思っとったわたしが甘かった。
久　美 　麗子がせっかく本気になってがんばっとったのに、みんなちゃんと声出さへんし。
麗　子 　最後の日まで遅刻してきて、雰囲気ぶちこわす奴おるし。
久　美 　しんどい思いしただけアホみたいやったやんな。
麗　子 　アホって何、アホって。
久　美 　ごめんなさい、言い過ぎました。
麗　子 　あの苦労、思い知らせてやる。毎回遅刻して練習の雰囲気壊して、台本火着けて燃やしたるねん。

　　　　　　麗子のあまりの気迫に残り二人がわずかに引く。

美津子 　ちょっと麗子。そこまでせんでも。
久　美 　そ、やな。何も千秋らだけが練習、邪魔してたわけやないし。
麗　子 　それはそうやけど、むかつくんよ。宇津井君、合唱の時にはあんな風に手伝ってくれへんかってんで。それが
　　　　　今回に限って。
久・美 　は、はぁん。
麗　子 　何ハモってるの。
美津子 　勘の悪い私にも分かった。
麗　子 　何が。
久　美 　ということは、勘のいい久美ちゃんにはすべて見えた。
麗　子 　何が見えたんよ。
久　美 　ジェラシーやね。
麗　子 　ち、違うわ〜。
美津子 　麗子、ああいうタイプが好きやったん。
麗　子 　ちゃうちゃうちゃうちゃう、絶対にちゃう。
久　美 　だって、そうとしか取られへんもん。なあ。
美津子 　そうですね。
麗　子 　…嘘、そうなん？
久　美 　そうなんって、麗子、てきぱきしてるくせに、こういう所だけ異常に奥手やな。
麗　子 　おかしい、私がそんな。何かの間違いや。私は一生結婚しないねんから。
美津子 　はいはい、言うとき。
久　美 　きっとこの辺に、たちの悪いキューピットがおるねんで。だって宇津井なんかクラスで一学期あんまり目立ってる
　　　　　方ちゃうかったもん。
美津子 　どっちか言うと変わってる方やったな。ほら、うちらが今度学校近所にマクド出来るらしいで、言うとったら。
久　美 　君たち、マクドナルドのことマクドって言うの？　変だよ。
美津子 　え、じゃあなんて言うん？
久・美 　マック。ゲエエ〜
久　美 　あいつぐらいやで、マクドのことマック言うんは。
麗　子 　宇津井君の悪口はやめて。（ハッ）
美津子 　ほら。
久　美 　こりゃ重傷や。
麗　子 　暑い暑いと思っていたら、暑さは夏のせいではなかった。私の知らないところで燃え上がっていた、心の炎のせい
　　　　　だった…。（静止）
美津子 　え、今、完全に自分の世界に入りました。
久　美 　深い催眠状態です。
麗　子 　…こういう劇がしたぁい！　ロミオとジュリエットみたいな。
美津子 　それで、ジュリエットは
麗　子 　私。
久　美 　予測はつきますけど一応聞いてみましょう。ロミオは？
麗　子 　宇津井君。
久・美 　やっぱり。
麗　子 　あかん、恥ずかしくてようせん。そんなん。やめ、やっぱり今のなし。
久　美 　あんた、悪役に徹するか、かわいい女演じるかどっちかにし。
麗　子 　私、ＡＢ型やから。
美津子 　それに劇の台本、もう書けてるみたいやで。シンデレラ。
麗　子 　そやった。出遅れてる。
久　美 　そんなん言うんやったら、責任者決めるときに推薦したったのに。
麗　子 　ちょっと待って。シンデレラと言えば王子様よね。そこが問題やわ。シンデレラは誰がするんやった、なあ。
久　美 　千秋。
麗　子 　聞きたくなかったその言葉。王子様は？
久　美 　安心し。丸井君や。
麗　子 　…まる？　丸井君？　あの？（ゼスチャー）
美津子 　そう、あの（ゼスチャー）丸井君。
麗　子 　オッケー。問題なし。精一杯やってもらいましょう。私は、遅刻して行くからね。お腹減ったからご飯食べてくる。

　　　　　　残された二人。唖然としている。

美津子 　なあ？
久　美 　何？
美津子 　いやな予感、せえへん？
久　美 　するな。

　　　　　　暗転。真夏の蝉はあぶらゼミ。

　　　　　　『丸井君情報』

　　　　　　午後の部。教室にちらほらと人影が見える。有香や雅之の連絡のせいで人が集まって
　　　　　　きている。久美と美津子の姿も見えるが、予告通り麗子はいない。みんな夏休みに久し
　　　　　　ぶりに会えたので楽しそうに雑談中。（光彦、剛志、有香、千秋、久美、美津子、亜紀、
　　　　　　ゆかり、絵里）時間ぎりぎりに麻紀がかけ込んで来る。

麻　紀 　滑り込み、セーフ。
有　香 　三十秒前。その性格なんとかならん？
麻　紀 　いいじゃない、間に合ったんだから。わ、いっぱい来てる。
千　秋 　役者の人全員って訳にはいかなかったけど、これだったら練習できそう。
麻　紀 　すごいすごい。でも、男子はまだ二人。宇津井君ちゃんと連絡してくれたんかな。
千　秋 　してくれてるって。裕太は後でクラブ抜けて来る言うて出ていったし、今は丸井君所、連絡行ってくれてる。
有　香 　丸井君だけ連絡つかへんかってんて。
麻　紀 　多田と今井は？
有　香 　あいつら調子のって役者する言うとったくせに、練習日に二人でプールやて。しばかなあかん。
麻　紀 　ありうるな。あの子ら。あ、麗子がおらん。ふふ、これであいこや。
有　香 　アホ、喜ぶな。
千　秋 　始めよっか。


練習開始。千秋がしゃべり、有香麻紀がサポート。


千　秋 　そしたら、まだそろってない人もいるけど、第一回目の練習を始めます。台本が出来たので、一人一部ずつ取って
　　　　　下さい。
ゆかり 　千秋ちゃん書いたん？
有　香 　そうやで。作家の先生や。
絵　里 　かっこいいね。
千　秋 　そんなんちゃうわ。ええっと、まだ少し量が足りないと思うので、これから練習しながら少しずつ改造していく予定で
　　　　　す。
剛　志 　質問。
千　秋 　はい、室井君。
剛　志 　僕は大道具なんですけど、何を作ればいいんですか。
千　秋 　ええっと。今は役者の練習を先にしたいので、後で相談し、ま、しょう。
剛　志 　後って、いつ頃ですか。
有　香 　あとあと、それまで台本見て考えといて。
剛　志 　考えとけと…。
有　香 　メモするな！　ほんま。
千　秋 　それでいいですか。
剛　志 　いいです。

　　　　　　女の子の何人か、くすくす笑う。

千　秋 　それでは役者の確認をします。シンデレラが、わたし、です。継母が麗子さんで、姉１が久美さん。姉２が美津子
　　　　　さんです。麗子さんはまだ、今日は来てません。
麻　紀 　麗子さん、どうしたん？
久　美 　いろいろあるんやろ。
美津子 　たぶん遅れて来るわ。
千　秋 　それから、王子様が丸井君で、じいや役が裕太君。それから家来１、２が多田君と今井君。
有　香 　今日はプールです。
千　秋 　魔女が麻紀ちゃんで、ナレーターが有香ちゃん。それから新しく増えた役があってネズミと、カボチャなんですけ
　　　　　ど、　まだ決まっていません。
剛　志 　質問！
有　香 　なに？
剛　志 　その役はどんな役ですか。
千　秋 　ええっと…。
全　員 　台本、読め！
剛　志 　台本を読め…。
有　香 　だからメモするなって。あんたも一々真面目に答えようとしなさんな。
千　秋 　他に質問…。
有　香 　もうええ！　台本読んでみよ。
亜　紀 　代役やったらしてあげるよ。
ゆかり 　わたしも。
麻　紀 　サンキュー。じゃあね、

　　　　　　そこへ顔色を変えた雅之、飛び込む。

雅　之 　丸井が、入院してるって。
久　美 　なんで。
雅　之 　おととい、けった、いや自転車乗ってて、車と接触したらしい。
麻　紀 　丸井君が？　（笑）事故ったん？
有　香 　あほ、笑い事やないで。
麻　紀 　あ、ごめん。
剛　志 　それで、丸井の怪我の程度は？（なぜか写真を抱いている）
千　秋 　いや！
有　香 　あんたもやめ！
久　美 　いつの間にそんなものを…。
亜　紀 　まさか…。
麻　紀 　どうなん？
雅　之 　命に別状とか無い。ただし、退院まで一月ぐらいかかりそうだって。
麻　紀 　よかった。
有　香 　あんたが変なもん持ち出すから、心配したやんか。
絵　里 　でも文化祭までに退院できるん。
雅　之 　それなんだ。お母さんに連絡ついたんだけど、劇のこと謝っといてくれって伝言。
美津子 　うそ、かわいそ。
有　香 　どうする。王子様やで。
雅　之 　役代えなきゃ。
千　秋 　でも、一学期の終わりにさんざんもめて、丸井君がやっと引き受けてくれたのに。
雅　之 　光彦、お前どう？
光　彦 　（滅相も無いという無言のゼスチャー）
ゆかり 　裕太君とかは？　じいや他の人に代わってもらって。
絵　里 　ほんまや。頼んでみたら。
亜　紀 　みっちゃん、じいやぐらいやったらやってもええやろ？
光　彦 　（苦笑い）
有　香 　もう一つ、可能性があるとしたら、宇津井君にやってもらうこと。
久　美 　それ、まずい。
美津子 　なんで？
久　美 　アホやな。麗子狂うぞ。
美津子 　ほんまや。
麻　紀 　何がまずいの？
久　美 　いや、宇津井君は、実行委員の方忙しいし。な。
美津子 　そ、そう。結構大変やろ。大変なことになると思うわ。
雅　之 　俺もそれが心配。俺自身はやってもいいんだけど、みんなに迷惑かけるかもしれないから。
有　香 　出来るよ。
千　秋 　有香。
有　香 　なあ、千秋。王子様出てくるの最後だけやろ。そこの練習だけ固めて宇津井君来れるときに出来へんの。
千　秋 　できんこと無い、かも知れへんけど。
久　美 　でも委員会にクラス劇で、余裕無くなるで。
千　秋 　私もそれが心配。
有　香 　でも、出来ないことはない、わけやね。後は宇津井君次第。
雅　之 　う〜ん。やってみるか。
久・美 　わちゃ〜。
麻　紀 　ありがとう。

　　　　　　久美・美津子以外、拍手。二人顔を見合わせる。

雅　之 　ごめん、早速だけど昼から実行委員会だから行って来る。来れるときいつか連絡する。
有　香 　はいよ。台本。サンキュー、引き受けてくれて。
雅　之 　ああ。

　　　　　　雅之は実行委員会へ。入れ替わりに麗子到着。悲劇的なタイミングである。

麗　子 　あ、宇津井君。
雅　之 　こんちわ。急いでるから。
麗　子 　じゃあ。（なにも知らずに見送っている）
久　美 　あんた、麗子に言う勇気ある？
美津子 　無い。
麗　子 　遅れてごめんなさい。何かあったの？
久　美 　えへへへ。
麻　紀 　麗子ちゃん。大変やってん。丸井君が交通事故で入院。王子様役、出来なくなってん。
麗　子 　大変やん。劇、中止？
ゆかり 　になるところを宇津井君が引き受けてくれて、一件落着したところ。
絵　里 　あ、丸井君のお見舞い、行かな。
亜　紀 　病院どこなんやろ。
千　秋 　あ、それでね、麗子さん。台本。

　　　　　　千秋、麗子に台本を渡そうとする。麗子、台本を手に取るがその場で動こうとしない。

　　　　　　『練習開始』

麗　子 　そういうこと。
千　秋 　うん。驚いたでしょ？
麗　子 　…別に。予測はついてたし。（遠くのイスに腰掛ける）
美津子 　どうする？　麗子、目、つり上がってる。
久　美 　うち、恐ろしすぎて何も考えてない。
有　香 　さ、全員ちゃうけど人がおるうちに練習開始。
麻　紀 　みんな、がんばろな。クラス劇、上手いこといくように。
亜　紀 　麻紀ちゃん気合い入ってるなぁ。
絵　里 　最初だけにならんようにね。
麻　紀 　大丈夫ですぅ。
有　香 　千秋、練習、どうするの。何処から始めるか言うて。
千　秋 　うん。じゃあね、一番最初から読んでいこ。
麻　紀 　了解。それでは、最初のシーンから参ります。って言うても最初のシーンはネズミとカボチャやで。役の人まだ決ま
　　　　　ってない。
絵　里 　カボチャってカボチャの服着るの？
ゆかり 　何かかぶるんちゃうの？
千　秋 　それはまだ、決まってません。
絵　里 　おっきなカボチャで顔だけ出る穴、開いてるやつ？　私それやったら絶対いや。
ゆかり 　私も。
絵　里 　意外と亜紀ちゃんなんか似合うんちゃう？
亜　紀 　え、何？　何のこと？
ゆかり 　言えてる。
亜　紀 　何よ。
有　香 　はいそこ、私語しないでください。
四人組 　はーい。
有　香 　千秋もぼーっとしとらんとてきぱき言ってよ。練習進めへんから。
千　秋 　ごめん。それじゃ、ネズミとカボチャ、やってくれる人。
絵　里 　亜紀ちゃんが！
亜　紀 　え、何？
絵　里 　カボチャ、してくれるそうです。
亜　紀 　え、ちょっと、待って、カボチャは。
絵　里 　代役代役。あんた、さっき代役やったらする言うたやん。
亜　紀 　そんなん、ゆかりかって言うた。
ゆかり 　そうやったっけ。
亜　紀 　汚ねぇ〜。
有　香 　はいはい、もめないもめない。
麻　紀 　じゃ、私する。
有　香 　麻紀は魔女やろ。他の人。

　　　　　　要するに練習が進まない。久美と美津子は教室の隅でこそこそ話し。麗子、及び
　　　　　　剛志は黙って台本に目を通している。光彦は黙ったまま。麗子が台本を閉じた。

麗　子 　あ〜、もう！

　　　　　　間

麗　子 　イライラするねん。練習するん？　それとも雑談？
全　員 　練習。
麗　子 　ほな練習やったら？
有　香 　だから練習するために役を決めてるねん。ちょっと待って…。
麗　子 　代役やろ。千秋がさっさと決めたらええねん。
千　秋 　でも、みんなで決めないと。
麗　子 　そんなん言うてたら、カボチャ決めるだけで夕方なる。時間の無駄や。そんなんやったら私は帰るよ。
久　美 　まあ、気持ちは分かるけど、出だしから飛ばしすぎ。
美津子 　丸井君が事故にあうなんて予測できへんかってん。
麗　子 　そんなんで怒ってるのとちゃう。
麻　紀 　まあまあ、みなさん落ち着いて。亜紀ちゃん、亜紀ちゃんが素直に引き受けてくれたら、ここまでもめんで済んだ
　　　　　んよ。
亜　紀 　え〜、私のせいなん？
麗　子 　違う。千秋のせい。
有　香 　何で千秋のせいなん？
麗　子 　劇のこと、一番詳しいのは千秋でしょ？　分かってる子が中心になって責任果たしていかなあかんのに、変にみん
　　　　　なでしようなんて気を使って。だから練習が進まへん。仕切ってるように見られたくないんかも知れへんけど、誰か
　　　　　が責任もって仕切らんと、何にも出来へんよ。
絵　里 　案外そうかもね。
ゆかり 　千秋、やってみたら？
絵　里 　そうや。亜紀ちゃんカボチャやりなさいって。
亜　紀 　え〜。やっぱり私？
麻　紀 　そういう流れだから。
千　秋 　…分かった。亜紀ちゃん、やってくれる？
亜　紀 　…ええよ。でも代役だけな。それが条件。
千　秋 　うん、分かった。じゃあ、次はネズミですが。光彦君やってくれますか？
光　彦 　（頭をかいて立ち上がる）
千　秋 　ありがとう。じゃあ二人は前の方へ出てきてセリフを読んでください。ト書きは、最初ゆかりちゃん読んでください。
　　　　　後、ナレーションは、
有　香 　私。まかしといて。
ゆかり 　ト書きって？　これ全部私？
千　秋 　そうです。
ゆかり 　分かりました。え、言ってええん？
千　秋 　どうぞ。始めます。はい！
ゆかり 　「シンデレラ。ここはシンデレラの家の前。ネズミとカボチャが現れる。」
亜　紀 　「やあ、ネズミ君。」
光　彦 　「やあ、カボチャさん。」
亜　紀 　「元気そうね。」
光　彦 　「とっても元気だよ。」
亜　紀 　「それはよかったわ。」
光　彦 　「君も、元気そうだね。」
亜　紀 　「うん、元気よ。」
光　彦 　「ところで、この家の末っ子のシンデレラは、どんな調子だい。」
亜　紀 　「ああ、あの気だてのいいシンデレラのことね。」
光　彦 　「そう、気だてが良くって優しくて、いつも元気なシンデレラのことさ。」
亜　紀 　「それがね、今日は元気じゃないみたいなの。」
光　彦 　「それは大変。早速見に行こう。」
有　香 　「二人はシンデレラの様子を見に行くことにしました。」
ゆかり 　「暗転。セットは家の中に場面転換している。やがて明かりがつく。ここはシンデレラの家。シンデレラが床を磨い
　　　　　て　いる。」
千　秋 　はい、そこまで。
亜　紀 　緊張したぁぁぁ。
絵　里 　何でこれだけで緊張するん？
亜　紀 　するの。やってみ。
ゆかり 　かぶりものはいや。（四人で楽しそうにしゃべる）
有　香 　千秋、こんな調子でええん？
千　秋 　声、もうちょっと大きくしないと体育館では聞こえないと思う。
有　香 　大きくってどれぐらい？
千　秋 　中学校の時の先生に、百メーターぐらい向こうの人に伝えるようにしゃべりなさいって言われたことある。
麻　紀 　百メーター？　すごいね。千秋、出来るの？
千　秋 　百メーターは無理かな。でも出来るだけ大きく声だそうとしてた。発声練習とか毎日して。
美津子 　今のシーン、もう一回せんでええん？
久　美 　光ちゃんやる気出してスタンバってるで。
光　彦 　や、ええよ。まだするんかなと思っただけやから。
麻　紀 　光ちゃん、意外と上手かったで。
有　香 　ほんまや。見直した。
光　彦 　うるさい。（恥ずかしそうに座る）
千　秋 　今のシーンは有香ちゃん以外代役なので次のシーン行きます。
美津子 　ちょっと待ってよ。心の準備が。
久　美 　はい、行くで。
美津子 　あ〜、もう、知らん。下手やけどごめんな。
久　美 　麗子。見たって、美津子本気で緊張しとる。
麗　子 　なあ、久美。私ってなんでこんなことしてるんやろ。
久　美 　え？
麗　子 　千秋らの邪魔したろって気分やのに。
久　美 　そういえば、そういう計画やったわね。
美津子 　（人の字を書いて飲み込んでいる）
麗　子 　むしろ停滞する練習を活性化してしまった。
久　美 　そういう性分なんでしょ。
麗　子 　私は何のために遅刻したの。
久　美 　あの子らに合唱コンクールの時の苦労を味あわせるため。
麗　子 　なのに、あの子らは別に何も感じてない。むしろ私がいない間に、王子様が宇津井君に…。
久　美 　あれね、妨害する暇もなくすっと決まったから。
麗　子 　何か作戦、考えなくちゃ。

　　　　　　その間にシンデレラの千秋がせりふを言い始める。

千　秋 　「私は、シンデレラ。この家の末娘です。今日はお城の舞踏会。ああ、私も一度でいいからお城の舞踏会へ行って
　　　　　みたい。着飾った人々。美しい音楽。おいしそうなお料理。でも無理な願いだわ。お母様のお許しが出なければ、
　　　　　私はこの家から出ることすら許されない。」
絵　里 　「そこへ継母、姉１，姉２登場。」
麗　子 　あのさあ、私からもう一つ提案があるねんけど。
千　秋 　何？
麗　子 　千秋に監督、やってもらいたいんよ。
絵　里 　監督って、映画監督みたいな？
千　秋 　お芝居では演出って言うの。
麗　子 　そうその演出。私ら劇するのあんまり慣れてないし、良く分らへんから、ちゃんと出来てるかどうか見とく人がいると
　　　　　思うねん。千秋が出てる間の演出、麻紀とか有香に頼める？
麻　紀 　そりゃね、やらなくもないけど。
有　香 　正直言うと、よく分からん。
麗　子 　シンデレラの役を上手な千秋にやってもらうのもいいけど、全体のこと考えたら、演出やって他の人の演技を良くし
　　　　　ていった方がメリットあると思うねんけど。どう？
千　秋 　私はどっちでもいい。
美津子 　私も自分のことで精一杯。
久　美 　（目配せを受けて）美津子、そうでもないで。おかしな事してないかどうか、分かってる人に見といてもらった方が
　　　　　絶対安心やって。
美津子 　そう、やな。うん、千秋、お願いする。
有　香 　でもな、肝心のシンデレラは誰がするん。千秋抜けたら他おらへんで。
麗　子 　私にいい考えあるねん。
麻　紀 　何？
麗　子 　裕太にやらせる。
絵　里 　シンデレラを？
ゆかり 　裕太君に？

　　　　　　間。

亜　紀 　面白いかも。
ゆかり 　変よ。裕太君がシンデレラなんて。
絵　里 　おかまやん。
麗　子 　それが狙い。どうせ文化祭なんやからお祭りでしょ。面白くなると思おうけど。
久　美 　そういう作戦に出たか。
有　香 　何？
久　美 　いや、すごい発想やなと思って。
麻　紀 　私反対。気持ち悪すぎる。
亜　紀 　何で、絶対うけると思うけど。
有　香 　うけるのはうけるわな。
麗　子 　でしょ。千秋がシンデレラをすると、とっても似合うと思うけど文化祭としてはインパクトに欠ける。その点裕太なら
　　　　　インパクト満点。
麻　紀 　千秋、どう思う？
千　秋 　実は、私も考えてた。裕太君、結構有名やし、私がするよりいいかも。
麗　子 　決まり。それで行こう。シンデレラのガラスの靴は思いっきりでかいことにするねん。
久　美 　臭いもつけるのはどう？
亜　紀 　いやや、それ。
ゆかり 　どんどん話が変わりそう。
麗　子 　台本作り直さな駄目かもね。千秋、お願いね。
有　香 　千秋、ほんまにええんか？
千　秋 　…ええやん、みんなで面白い劇作れたら。
麻　紀 　千秋。

　　　　　　そこへ話題の張本人、裕太がやってくる。

裕　太 　うっす。クラブ抜けられへんかってん。練習進んでる？
光　彦 　かなり。
裕　太 　それは結構。で、俺は何すればええねん。
全　員 　シンデレラ。
裕　太 　いや、それは分かってるねん。シンデレラの中の何をすればええかっちゅうこと。
光　彦 　だから、シンデレラ。主役やで。
裕　太 　そうか、主役かって、待てぇい！
剛　志 　質問。結局シンデレラは男なんですか、女なんですか。
裕　太 　うっせい！　俺は男だぁ。
光　彦 　裕太！　落ち着け。

　　　　　　暴れる裕太に取り押さえるみんな。混乱の中暗転。

続く…

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