創作脚本の部屋へ 作 ななみん
【キャスト】（女７）
陽子
花
美晴
雛乃
咲
芽衣
帆香
薄暗い。夜明け前。人が円になって、ゆっくり回っている。中心にはブラボが積んである。星が瞬く。
花 眠る
美晴 星が眠る
雛乃 花が眠る
咲 町が眠る
芽衣 最近あったかくなってきた太陽が
帆香 歩道のすみっこに居るぺんぺん草が
陽子 朝が来ませんようにって、思いながら、願いながら、干したてふかふかの布団に入った私が
花 眠る
美晴 眠る
雛乃 眠る
咲 眠る
芽衣 眠る
帆香 あたし布団手足ではさむ派
陽子 あっ、私も
円から出て寝ていく。
花 あたしはめいっぱい被ってまるまる派
芽衣 あたし、すきまからなんか、怖いのがずああってくるような気して、ぬいぐるみで埋めるねん、けど、朝起きたらぜんぶ蹴散ら
してる、派！
咲 衣服少な目
美晴 こないだ寝言言ってたらしい。コケコッコ―
雛乃 うちなんかいびき。んごー
各々寝る。
花 六時五十分のアラームがなる少し前、もしかしてもうすぐなんちゃうかなって、思ってる。意識がふわーってあがってきて、浮い
てる。半分起きてて半分寝てる、みたいな。十、九、八、
カウントダウンはだんだん言う人が増えていく。
全員 五、四、三、二、一
アラームの音。朝が来た。陽子だけ寝たまま。
美晴 コケコッコ―
芽衣 うわあ、今日もすいません犬さん
雛乃 おかーさーん、くつしたかたっぽないー
帆香 せめてあと五分、いや十分、いやもう布団からでえへん
咲 いややーいややーいーやーやー
花 なんか今日出すもんあったっけ
雛乃 お、おかーさーん、お父さんがトイレ空けてくれへん
美晴 みなさん、星と花と町と、あとそれから、とにかくいっぱいのみなさん
全員 おはようございます
中心からブラボを円になるように動かす。中心には階段がひとつ残る。慌ただしい。
咲 朝は時間との闘いである
芽衣 そう、相手が昇竜拳をうってきたらすばやくかわし、魔貫光殺砲をお見舞いしなければならないのである（咲と戦う）
帆香 朝の五分は昼の十五分くらい価値がある
美晴 歯ブラシを取ると同時に、反対側の手は華麗にアイロンのコンセントをさす
花 どんな寝方しててんってくらいの寝癖にいらいらしつつ、誰かに見せたくなる
雛乃 よっしゃ行こうって時に、くつしたが左右違うことに気づく。あれ、やっぱ一緒か？
花 いってきます
各々、いってきますを言ってはけていく。
陽子 はっきりとした夢を見れるのは、いつも決まって起きる直前。空飛んでたり、泳いでたり、追いかけられてたり、
陽子は階段を見つけると、ゆっくりとのぼり、手をのばす。そこに陽子めがけて袖からラインの
通知音とともに飛んでくるぬいぐるみ。
陽子 （命中）うぎゃ
上からも下からも飛んでくる。宙も飛ぶ。袖から声。
咲 陽子―！寝てるやろ
陽子 お、起き、起きてます
雛乃 起こして言うたん自分やで！
陽子 はい、その通りです
美晴 陽子―！
陽子の名前をみんながぬいぐるみを投げつつ呼ぶ。通知音はなりやむ暇がない。
陽子 起きてます、起きました！おはようございまーす！
陽子が落ちてるぬいぐるみを回収してはける。一個残ってる。場転。雛乃が入ってくる。くつしたを
気にしながら。
雛乃 これやっぱ、いやでも、
美晴と咲が会話しながら入ってくる。
美晴 ほんで今日朝、うっさいねんって言われてんけど、そんなん知らんよなあ
咲 あ、雛乃？
美晴 おー、雛おはよー
雛乃 おおう、おはよう
咲 どしたん？
雛乃 いや、なんでも
美晴 雛も聞いてや
雛乃 なんよ
美晴 弟に寝言うっさいってキレられてん
雛乃 美晴、今日も？
美晴 らしい
咲 寝てんねんからしゃーないよな
美晴 さすが咲、わかってるわ
雛乃 なんで寝言しちゃうんかな
咲 何か夢見てるんやろ
雛乃 覚えてへんの？
美晴 夢見てる間は夢ってわからんやん
咲 明晰夢は？
雛乃 何それ
咲 夢見ながら、これ夢やなーってわかる夢
雛乃 へー
美晴 見たことない。いやまた、布団がな、干したてでお日様のにおいするねん。もう、爆睡
咲 干したてのあのにおいってさ、ダニの死骸のにおいらしいな
雛乃 うわ
美晴 所詮咲、わかってへんわ
咲 えっ、さっきとちゃう
美晴 デリカシーと気づかいと真心、夢、希望、未来なんもないわ
雛乃 お先まっくらやん
咲 つらい
美晴 花咲くどころか芽も出ずじまい
雛乃 咲やのに？
美晴 咲やのに
咲 …あんな、いちごポッキー持ってきてんけど、お昼みんなで、
美晴 さあ、光り輝く明日に向かって羽ばたけ、若者よ
雛乃 現金やなあ
美晴 おやつイズ、ラブアンドピース
咲 わかる
雛乃 陽子は？結局来おへんの？
咲 昨日行く言うてたけど
美晴 スタンプ送ってみよか
美晴、携帯をだして見つつ、残っていたぬいぐるみを袖に投げる。通知音。
雛乃 もうちょい待ったら先行く？
美晴 咲だけに？
雛乃 咲だけに
咲 もうちょいだけ
美晴 なんで来ないんやろな
咲 うん
雛乃 昨日も一昨日もやし
美晴 先週もちょいちょい
咲 なんやかんや卒業近いし、クラス全員揃いたいな
美晴 委員長は大変やな
咲 別に委員長やからとかじゃないで
雛乃 せやけど、うちらが遅刻すんで
美晴 （携帯を見る）あ、今向かってますすみません（かみまくりで台詞）
雛乃 陽子から？
美晴 そう。原文まま
咲 誤字り倒してるやん
雛乃 とりあえず来るやん。よかったな
咲 うん
陽子が走って入ってくる。
陽子 おはようございますすみません！
美晴 あいさつからの流れるように謝罪
雛乃 お主、やるな
陽子 朝、ラインありがとうございました！
雛乃 もー、あんまさぼったらあかんで
陽子 いやいや、無遅刻無欠席
陽子が顔をあげ、三人に驚き固まる。
美晴 どの口が言うか
咲 陽子、おはよう！
美晴 おはよーこ
雛乃 おはよーこ！おはよーこ語呂いいなあ
美晴 せやろ？繊細な中に大胆さも秘めてるやろ
陽子 え、あ、うん
咲 何てツッコむんが正解なんやろ
美晴 カモン
雛乃 陽子きたしはよ行こ
美晴 はよ行よーこ！
咲 え、はよ行よーこは語呂悪ない？
雛乃 悪い
美晴 やっぱおはよーこやな
陽子 あ、あのさ！
咲 どしたん？
雛乃 遅刻すんで
陽子 いや、みんな、なんで中学んときの制服なん？
咲 え？
陽子 なんか使うん？それとも、
美晴 陽子何言ってんよ
雛乃 今日は中学の日やろ
陽子 中学の？
美晴 せやで。今日は中学の日
咲 やからあたしら、今日中学生やねんで？
雛乃 もー、うちちゃんと陽子の分持ってきてるで
陽子 私の？
雛乃 制服！それ高校のやろ
咲 ほんまや。それ着るには二、三か月早いな
美晴 雛、準備ばっちしやん
雛乃 絶対忘れてるやろなって思って
雛乃は鞄から中学の制服をだし陽子に渡す。陽子はそれを着る。
陽子 ありがとう
美晴 先生言ってたやろ
陽子 せやっけ
雛乃 さぼりまくるから、わからんなんねんで
陽子 そうでもないし
美晴 どの口が言うか
陽子 あはは
美晴 じゃあさ、なに？
陽子 え？
美晴 あったん？
陽子 なにが
咲 理由
陽子 理由？
雛乃 うん
陽子 行かんの？
美晴 来ないの
陽子 別に
咲 理由なく
雛乃 意味なく
美晴 なんとなく
陽子 ずっと、
美晴 なんかずっと悲しくて
雛乃 なんかずっといらいらして
咲 なんかずっと焦ってて
陽子 ずっと、寝てたかった、だけ
雛乃 ふうん
陽子 そんだけ
咲 …そろそろ行こか
美晴 もうそんな時間？
雛乃 一時間目なに？
美晴 国語
雛乃 朝からゴリ田！？
美晴 うほ（親指をたてる）
咲 うほー
美晴 うほうほ
雛乃 うっほっほ
ゴリラでプチエチュードをしながら、美晴と雛乃ははけていく。
咲 うち、堀田先生、あんま嫌いちゃうけどな
陽子 そうなんや
咲 行事ごと熱いし
陽子 せやな
咲 ほら、いこ
陽子 あ、うん
行こうとして立ち止まる。
咲 陽子？
陽子 咲、あのさ、
咲 ん？
陽子 あのさ、私、私、登校拒否するわ
咲 え
陽子 んじゃ
帰ろうとした陽子の腕を咲が掴む。
咲 待ってや
陽子 えー
咲 行こうよ
陽子 いや、うーん
咲 登校拒否って
陽子 とっきょ
咲 そんな着拒みたいに
陽子 待ち合わせ遅刻、ごめん
咲 そういうこと、ちゃうやん
陽子 ごめん
咲 なんでなん？
陽子 いやなんか
咲 うん
陽子 いっかなって
咲 なにが？
陽子 なにがっていうか
咲 陽子、
腕が抜ける。
陽子 ごめん。…じゃあ
咲 あ、
陽子が走ってはけていく。咲はちょっと間見送った後、反対側へはけていった。場転。
陽子の部屋。陽子がはいってくる。落ち着かない様子。夕方になる。袖から陽子のお母さんの声。
花 陽子ー、堀田先生きはったでー
陽子 ……
花 陽子ってー
陽子 …はーい
階段をのぼってくる。堀田先生が部屋に来た。先生は影だけが舞台上に居る。
芽衣 こんにちは
陽子 こんにちは
穂香 今日ちょっとあったかいわ
陽子 そうなんですか
芽衣 そう。俺汗かきやからさ、ちょっと汗かいた
陽子 あはは
穂香・花 今日、なにしてた？
ここから影はだんだん大きくなっていく。＊＊＊の部分は宇宙語。
陽子 あ、えっと
花・芽衣 あ、別に怒る訳ちゃうからな
陽子 はい
芽衣・穂香 なんでもいいで。漫画読んでたでも、テレビ見てたでも
陽子 あの、なんも。特になんも
美晴・雛乃 そうか。じゃあ何考えてた？
陽子 別に
雛乃・咲 別になんも考えてない？
陽子 はい
花・芽衣・穂香 陽子、俺もな、学生の時そういう時あってん
美晴・雛乃・咲 自分の心がわからん時。苦しいよな。でもな
花・芽衣・穂香 そういう時は一回＊＊＊してみ
美晴・雛乃・咲 ＊＊＊＊＊＊やろ？
陽子 え？
花・芽衣・穂香 俺はお前の事を知りたいと＊＊＊＊＊
陽子 先生、なんて？
美晴・雛乃・花・芽衣 同じクラスの＊＊＊＊
雛乃・咲・芽衣・穂香 ＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
自由に宇宙語を飛び交わす。影はいつしか山みたいに大きくなっていた。
陽子 先生、わかりません
宇宙語ラッシュは続く。宇宙人に捕まりそうになる。そこに、ラインの通知音とともにぬいぐるみが
ひとつ、舞台上に投げ込まれる。陽子にあたる。
宇宙人 ＊＊＊＊陽子＊＊＊陽子＊＊
陽子はぬいぐるみを影に投げつけた。声がやむ。
陽子 陽子って呼ばんとって、ください
宇宙人（全員） ＊＊＊？
陽子 わからん
宇宙人 ＊＊＊＊
陽子 なに言ってんのか、わからん！
ぬいぐるみが飛び交う。たまに陽子にもあたる。陽子はぬいぐるみでひたすら影を殴る。宇宙人が
宇宙語を叫ぶ。その中で陽子の声が聞こえる。
陽子 くそゴリラ先生さようなら、先生のこと忘れません。くそゴリラ先生さようなら、先生のこと忘れません。
いつしかぬいぐるみは陽子に集中砲火。陽子は階段もふっとばす。
陽子 くそゴリラ先生、さようなら、したいのに、先生のこと、忘れたいのに、夜、布団の中で目を瞑って先生の事が浮かんだ時、
私はどうすればいいですか
陽子が埋まっていく。暗転。
つづく…
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