創作脚本の部屋へ 作 キャンディー 潤色 ごのい
【キャスト】（男2・女14）
浦崎美優（妹）
浦崎愛美（姉）
龍一（メカ担当）・ヌー
茜 （リーダー）・ヌーい
京香（ボケ担当）・ヌーち
彩乃（情報通）・ヌーろ
鬼島光輝（巡査）
妃冠（部長）・ヌーほ・ドゥルマ王
富士子・深愛・ヌー・フジコ
由香里・奈留・ヌー・ユカリ
ユユン・真悠・ヌーと・兵士
モリン・美里・ヌーに・兵士・主婦
ベル・智香・ヌーは・兵士
ペペ（妹）・綾音・ヌー・兵士
ネネ（姉）・七海・ヌーへ・兵士
テラー（予言者）・礼華・主婦
兵士
『オープニング』
舞台中央に明かり。一人の少女がヒザを抱えて地べたに座っている。周りには立ちすくむ幾人もの人影。
それぞれの方向を向きながらも、瞳だけは少女を見据えている。CHURCHROUGH
美優 夢を見ていた。
京香 どんな夢？
美優 終わらない夢。
七海 誰かいた？
美優 思い出せない。
茜 そこは何処？
美優 風が吹いてた。
礼華 北風が西風に変わる。
美優 春の武庫川。
綾音 もうすぐ土手に並んだ桜も花開くだろうし、
茜 どこかの誰かが植えたチューリップとかも騒ぎ出す。
美優 小さい頃、私が好きだった場所。
妃冠 ここから甲山が見えて、その奥には六甲山。
京香 他にはスタジアムのようなもの。
美優 それが何かは知らなかった。
遠くのスタジアムを見る。
美優 この川を渡ってみたかった。
彩乃 向こうにはきっと、何か面白いモノが待っている。
真悠 ただそんな気がして。
奈留 草原を大移動するヌーの群れみたいに。
美優 渡ってみたかった。
智香 水辺にワニが潜んでいても
少女は立ち上がり、平台でできた橋に登る。
美優 小学校に入って、初めて川を渡った。
茜 でも面白いモノは何も無かった。
七海 こっちと何も変わらない。
彩乃 車が走っていて、自転車が走っていて。
綾音 川原を走ってる人はこっちにもいる。
礼華 そのときは知らなかったけど、他に走ってる生き物がいた。
奈留 ヌー？ シマウマ？
妃冠 トムソンガゼル！
深愛 実は馬が走っていた。
京香 阪神競馬場。
奈留 なぁ〜んだ。
美優 小さい頃見ていたスタジアムは競馬場だった。
人々は渦を作り始める。その中をさまようように歩く美優。
礼華 ぐるぐるぐるぐる、季節はめぐり。
七海 夏が来て、秋が来て、冬が来て…
綾音 幾度か目の春が来たころ、
美優 お姉ちゃんと私は、別々に暮らすようになった。
『二人の少女』
舞台下手から自転車を押す女。愛美である。それを合図に人影は舞台から姿を消していく。
愛美 ずっと後ばっかりついてくる妹が傍にいなくなった。
美優 ずっと追いかけてたお姉ちゃんがいなくなった。
愛美 寂しくはなかった。会おうと思えばいつでも会えることが分かってたから。
美優 それより毎日会いたいと思わなくなることの方が寂しかった。
少し明るくなる。姉妹の回想。風が吹いていた。遠くでセキレイが鳴いていた。
愛美 よ。
美優 お姉ちゃん、聞いて聞いて。やっと買ってもらった。携帯。（見せびらかし）
愛美 生意気。要るの？ それ。
美優 要るの。みんな持ってるもん。
愛美 お父さんも結局美優に甘いんだから。
美優 メールするね。言ってみたかったんだ、この台詞。
愛美 アドレス変えてん。今度教える。
美優 え〜なんで？
愛美 スマホに変えたから。
美優 ウソ。
愛美 ホント。
美優 いいなぁ、スマホ。
愛美 なんで。買ってもらったばっかりでしょ？ キッズケータイ。
美優 キッズキッズキッズ！ あ〜あ、私は何もかも遅れている。全部お姉ちゃんの後。自由も携帯も。
愛美 部活も勉強も。
美優 長刀も。何もかも遅れてる。
愛美 背は伸びた方だよ。
ちょっと悔しい。にらみ返す負けん気美優。
美優 いっつも、お姉ちゃんが先。
愛美 別に良いやん。
美優 それが嫌。
愛美 産まれたのが少し早かっただけ。産まれるのも、死ぬのも少しだけ先。仕方ないやん。
美優 仕方なくない。制服も洋服も靴も鞄も全部お姉ちゃんのお下がり。新しいものは全部お姉ちゃん。古いのは全部、私。
死活問題やわ。
愛美 大げさ。
美優の決意は固い？
美優 だから、私は絶対お姉ちゃんと違う高校に行くねん。
愛美 それだけが理由なん？
美優 うん。
愛美 それだけが、私立高校に行きたい理由なん？
美優 …そう。
愛美 だったら、高校行く価値なし。
美優 なんで？
愛美 姉貴と同じ高校が嫌。…全然理由になってない。
美優 理由なんか要らんねん。
愛美 じゃあさ、例えば入試の面接で「志望動機を教えてください。」「行きたいのに理由は要りません。」 はい。即不合格！
美優 まぁせやな…。でもな、彼氏に…。
愛美 あれ？ 美優彼氏なんて出来たん？
美優 彼氏なんか居らんし。お姉ちゃんと違って、
愛美 ごめんごめん。
美優 例え話。彼氏に「私のどこが好きなん？」て聞いたとしよう？ なんて答えて欲しい？
愛美 聞いたこと無いし。
美優 「身長１５５ｃｍ以上１６５ｃｍ未満な所と、気が強い所と、ゴキブリ見て勇敢に立ち向かっていく所。あと、体脂肪率１６％〜２２％を
意地と根性でキープしている所。それらが総合的に好き。」なんて言われてみ？ どう思う？
愛美 …めっちゃ嫌かな。
美優 嫌ややろ？ 「好きになってから理由は探すねん、☆キラン」とかの方がええねんって。
愛美 彼の場合はそうでも学校は別。もっと真剣に、自分の進む道は選ばなあかんよ。
美優 お姉ちゃんは先生か？
愛美 目指してますけど何か？
美優 いえ、何も。
愛美 ちっちゃいころからの夢だからね。
美優 夢ね。
愛美 そ、まだまだ先のことと思ってるでしょ。中学も高校もあっという間なんだから美優も夢の…
美優 そういえばさ、お姉ちゃんの彼氏ってどんな人？
愛美 聞いてねぇ〜
美優 どんな人？
愛美 秘密。
美優 なんで？
愛美 秘密やから。
美優 えー、教えてや。あ、そうや全部ノーで答えてな。
愛美 ノー。
美優 その調子。背は低いですか？
愛美 ノー。
美優 スポーツマンですか？
愛美 ノー。
美優 イケメンですか？
愛美 ノー。
美優 ヤンキーですか？
愛美 ノー。
美優 頼りになる人ですか？
愛美 ノー。
美優 ペプシよりコーラ派ですか？
愛美 ノー。
美優 だいたい分かった。
愛美 嘘ぉ。
美優 背は高いけど、運動音痴のちょいマシイケメンで、不良には全く縁のないひょろひょろチキン野郎。あははは。
愛美 ちょっと、美優ぅ。
美優 え、当たってる？当たってる？
愛美 あはは、当たってるかも。
二人で楽しそうに笑ってる。
美優 東京行ったら、もう帰ってこないの？
愛美 どういう意味？
美優 お母さんとお父さんが別れてから、こうやって会うことすらほとんど無いのに…。東京行ったら、もうこっち帰ってこないの？
愛美 基本的には無いかな…
美優 お母さんも東京行くの？
愛美 うん。むしろ、お母さんが東京に行くから。
美優 じゃあ、お姉ちゃんって行きたい大学に行くわけじゃないん？
愛美 それは違う。
美優 そっか。
愛美 なんや、お姉ちゃんがいないと寂しいんか？
美優 うん…
愛美 珍しく素直やん。東京なんて近いで。
美優 なんで？
愛美 同じ日本やん。その気になればいつでも来れる。
美優 遠すぎるよ。
愛美 あーもう。心配せんでも美優になんかあったら帰ってくるから。
美優 本当に？
愛美 うん。
美優 じゃあ、指切り
愛美 子どもか？
美優 二十歳まで子どもです。
愛美 じゃ、あたしも子供。
美優 老けた子供。
二人、指切りをする。
愛美 あのさ、東京行くとき、見送りに来て欲しい。
美優 いつ？
愛美 ３月２３日。春休みすぐの日曜日。
美優 絶対、見送りに行く。自転車で行くん？
愛美 そうそう、こいつに荷物満載して。タンス重いわぁ〜って、なんでやねん。新幹線。新大阪から。
美優 ありがとう。一人ノリ突っ込み。
愛美 詳しいことは決まったら連絡する。
美優 了解。
愛美 そや、美優この自転車、使う？
美優 え？ これ？
愛美 あげるわ、それじゃ行けないもの。
見ると愛美の自慢の自転車がきらきら光っている。吸い寄せられるように自転車に歩み寄る美優。照明が変わる。
気付くとさっきまで横で笑っていた愛美は手の届かないところへ消えていた。まるで知らない町にひとり置き去りに
されたような美優。知らない人々、知らない街角。
美優 いらない。お下がりなんていや。
愛美 バイバイ。美優。
美優 待って、どこ行くの？
愛美 遠いところ。
美優 東京なんて近いって言ったやん。
愛美 うううん。もっと遠いところ。アフリカ。
美優 え、遠すぎるよ。どうして？
愛美 見送りに来なかったじゃない。
美優 行こうとしてん。でも、間に合わんかった。
愛美 ずっと待ってたのに。
美優 ごめんなさい。ねえ、待って。一人で行かんとって。
愛美 夢、ちゃんと探すのよ。
美優 お姉ちゃん！
もう誰も返事をする者は居ない。代わりに聞こえるのは誰かのつぶやき。次第にそれは大きくなる。美優は追いつめ
られた。大声で叫ぶ。
美優 お姉ちゃ〜ん！
暗転。音楽と共に場面は五年後の世界へ移動する。
『河原で集合』
オープニングから約五年後。春の武庫川河川敷。軽い夕方の明かり。舞台に現れた龍一、茜、京香、彩乃。
龍一 ばっきゃろぉぉぉぉぉぉぉぉ！
そのまま涙のストップモーション。カラスが東の空に鳴きながら飛んでいく。あほ〜
京香 龍一、どないしたん？
茜 青春やねん。
彩乃 何かあったんかな？
龍一 うおぉぉぉぉぉ！
茜 さぁ。
京香 慰める？
龍一 僕は、世の中を＃＆☆％□♪ったんですぅ〜。
ダイエット主婦が通りかかり、かわいそうにみたいな目でひそひそ見ている。
京香 野々村議員みたいになってるで。
茜 放置もできんから。
彩乃 勇気ある。
茜 お〜い、龍一。そろそろ帰ってこい。
龍一 やかましぃ！ 何が無理やねん！ こっちこそ願い下げじゃ！ このアホ、ボケ、カス、たれ目、たれ乳、たれケツ、ブス、どブス、
デブ、おデブ、ブタ、タコ、デベソ〜〜！ は、すっとした。
不幸にしてそこにいた主婦全員がデベソだったことを龍一は知らない。憤慨して去っていく主婦連合。
彩乃 すっとしたんや。
龍一 うん。
茜 知〜らない。なんか怒ってはったで。
龍一 え。俺なんか言った？
京香 さぁ。
龍一 じゃ、お疲れ。
茜 おい、帰るんかい。
龍一 え？
京香 自由や。
龍一 お前に言われたない。
彩乃 どっちもどっちやろ。
龍一・京香 それは違う。
茜 二人とも今日ここに集まった目的忘れてるやろ。
京香 目的？
龍一 あ、あ〜〜。
茜 おもろい同好会作って、あのむかつく放送部部長を見返すんじゃないん。
京香 そやった。おのれ妃冠。
龍一 すまん。のっぴきならない事情があったもんで、つい。
茜 そのために、わざわざ彩乃ちゃんも来てくれたんやで。
彩乃 せやで。ちゃんと感謝してや。
龍一 もめ事には絶対いっちょかんでくるもんな。
彩乃 ひど。
茜 それに、もう１人スペシャルゲストも呼んでるで。
京香 誰？
彩乃 もちろん部活入ってない人？
茜 うん。
京香 え、だれだれ？ 私、知ってる？
茜 うん。
彩乃 茜の彼氏？
茜 もちろん違う。あいつ水泳部やし。部活は入ってるし。しかも部長やし
京香 へぇー。誰か分かった。
龍一 え〜、いつの間に。
彩乃 そんなん学年ほとんど知ってるで。知らんのミミズとあんたらぐらい。
京香 え〜
龍一 まじか。
彩乃 っで、ゲストどんな人？ 男子？ 女子？
茜 女子。可愛くて、ちょっと運動できる、Ｏ型。同じクラスの元なぎなた部。
京香 私、茜と同じクラス違うし…
龍一 あっ！ もしかして…
龍一と茜、目が合う
茜 そう、美優。
龍一 ウソやん。
茜 龍一が、ちょっと気になるみたいなこと言ってたから、おもろそうやしチャンス作ってあげようかな〜思って、誘ってみてん。
龍一 最悪。
茜 じゃあ、暇やしＯＫやって。龍一、感謝してや…
龍一、精神崩壊。
茜 あれ？ 思ってたのと反応違う。
龍一 せっかく、行き場のない、この思いを、ここで全てぶちまけ、奇跡的に、立ち直ったというのに…。
彩乃 ひょっとして、美優となんかあったん？
龍一 太陽のバカ野郎〜〜〜！
京香 （可愛く）太陽のアホー！ これ、気分スッキリするし楽しい！
龍一 楽しくない！
彩乃 なぁなぁ、何があったん。
龍一 無理って、たった一言。
茜 何が。
彩乃 ひょっとして龍一、告ったとか？
茜 ウソやぁ、それは無いやろ？
龍一 （間）どうした、俺？ なぜこのタイミングで。
茜 そうなんや。
彩乃 （爆笑）信じられへん。
京香 太陽のアホー！ これ楽しいって。
龍一 決めた。俺、もう、一生恋はしない。
茜 応援する。
京香 アホー！
龍一 うるさい、ボケ。
京香 いや〜！ アホに襲われる。
彩乃 来た来た。美優〜！
龍一 ええ〜、え〜、わぁ〜（どんどんフェードダウ〜ン）
美優登場。自転車を押している。あの自転車だ。
茜 美優ー。ヤッホー。
美優 やほ〜、なんか太陽のアホーってのが聞こえたような気がしたけど、もしかして、そういう同好会作ろうとしてるん？
茜 違うちがう。龍一と京香が勝手に吠えてただけ。京香、知ってるやんな？
美優 知ってんで。中学一緒やったし。
京香 うん。そや、お姉ちゃん元気？
美優 え？ うん。大学、行ってる…。
京香 あのさ、美優のお姉ちゃんアフリカ行ってんねんで。
彩乃 アフリカ？
茜 探検？ なぁ、探検？
京香 ちゃうって、ボランティアかなんか。なぁ。
美優 知らん。連絡も取ってないし。
京香 ふ〜ん。
美優 アフリカなんか大っ嫌い。（話題を変える）あれ？ 彩乃！ 久しぶり！ いつぶり？
彩乃 今日、食堂で会ったぶり。
茜 さっきやん。
美優 再開記念して、後でみんなでプリクラ行こう！
茜 いいよー
彩乃 京香は？
美優 もちろん。
話の流れで全員が龍一を見る。少し離れたところで遠くを見つめている龍一。
彩乃 あのさ、間違うてたら悪いねんけど、美優さっき、龍一に「無理」って言った？
美優 え？ 言ったっけ。
茜 ま、気持ちは分かる。
美優 え？ いつ？
彩乃 今日今日。龍一に何か、言われたやろ？ そんとき。
美優 え？ あ！ あ〜〜。
京香 やっぱし。
茜 そうやったんや。
美優 うん。龍一君、何か話しかけてきてんけど、滑舌悪すぎて何言ってるか分からんかってん。無理、絶対分からんかった。
全員 え〜！
美優 あんとき、何言いたかったん？
茜 おおっと、ここでまさかの聞き返しだ。
京香 よく分からんけど、盛り上がって参りました。
茜 分かりぃやこれぐらい。
彩乃 龍一くん、どうでるか？ どうでるんだ？
龍一、意を決して美優のもとへ歩み寄る。精一杯かっこ付けて出た言葉はこれ。
龍一 決めてん。俺はもう、一生恋はしないって。
女三人 （ちっこい声で）何でやね〜ん。
美優 うん。今度は聞き取れた。
女三人 （ちっこい声で）そこ、ちゃうやろ〜。
龍一 よかった。思いが伝わって。
見つめ合う龍一と美優は笑顔。長〜い間。
女三人 （ハァハァなるぐらい全開で！）青春の、バカ野郎〜〜！
美優 自転車置いてくる。（少し離れたところへ）
龍一 さ、話は終わった。要件に入ろう。
彩乃 なんか、うち、泣けてきた。
茜 ええんか？ ほんまにええんか？
京香 泣いてもええねんで。
龍一 泣くのは家に帰ってからって、決めてるねん。はよ進めてくれ。
茜 お、おう。分かった。
『同好会作ろう』
茜 とういうわけで、今後について作戦会議を始めます。
京香 知ってると思うけど、うちの高校は入学時、必ず部活に入らなければなりません。
美優 でも、１回入ったら途中でやめるのはＯＫ？
龍一 せやけど部活入ってないと、先生に目付けられる。
美優 そんなことはないやろ？
茜 いや、有るねんな、それが。
彩乃 推薦入試出願資格に「特別活動を一定期間継続していること」ってのがあるねん。
美優 え、やばいやんあたしら。
彩乃 やろ？
龍一 部活が当たり前の学校で、部活やってない。
京香 何か問題あり。
美優 問題ってなによ？
茜 この学校の約９８％が入部してるとか。
龍一 ２つ、３つ。兼部してる奴が、ざらにいる。
京香 例えば放送部の部長とか。
茜 （舌打ち）
彩乃 なんで、そんなに嫌いなん？ 放送部の部長。
茜 ムカつくから。
龍一 理由なってない。
茜 嫌いになるのに理由は要らない。
彩乃 好きになるのに理由は要らない。
龍一 そんな昔の話、忘れたさ。
彩乃 ドンマイ。
美優 あのさ、あたしよく知らんねんけど、放送部の部長さんってどんな人？
京香 どんな人？
龍一 どんな人？
茜 あんな奴や！ おのれ
三人 前田妃冠ぁ！
美優 てぃあら？
彩乃 めちゃキラキラネームやろ。
美優 うん。
京香 あの子がキラキラしてるのは、他人をけ落とした一瞬だけ！
茜 アイツはウチが見つけた秘密の花園に、平気で後からずかずか踏み込んでくる。
京香 そのくせ自分は初めからソコに居たかのように自分の権利をガッツリ主張し、そして。
龍一 全てを奪い去っていく。
三人 おのれ、妃冠！
茜 ウチやで、最初に放送やろうって入部したの。高校入ったら本格的なコンクールとかもあるって聞いてたから、決めててん、放送、
そしたら…。
京香 茜、何部はいるん？
茜 あ、妃冠。うち、放送入ろう思てるねん。
京香 え、放送？ え〜、面白いん？
茜 なんか高校のは本格的みたい。せっかくやから全然知らん事に挑戦しよかなって。あ、あ、でもめっちゃ地味やけどね。妃冠には
似合わんと思うわ。
京香 ふ〜ん。放送ねぇ〜。ま、頑張って。
茜 うん。しめた、奴は放送を考えてない。これで腐れ縁ともおさらばだ！ そう思っていたのに。
龍一 よろしく。
京香 こちらこそ。あら、茜。偶然ね。
茜 何でおるねん！
京香 あたしも考えていたの。放送部。…初めから。
美優・彩乃 あははは。
茜 むかつくねん！
龍一 電車の座席で微妙に隙間開いてるときあるやん、そこに「あ、すいません、ちょっと」とかいうて割り込むおばはんおるやん。
彩乃 おるおる。
京香 すいませんすいません、ぐりぐり。
龍一 そして一度座ったら最後。
京香 （はさまりながら）なに、これ。狭いやん。
全員 お前が座るからやろ！
美優・彩乃 あははは。
京香 ムカつく放送部部長。
茜 そうそう。理由なんてどうでもよくて、放送部を辞めた私達３人（茜、京香、龍一）。
美優 めちゃくちゃ理由あるやん。
京香 現在無職。
茜 私達の居場所なんてない。
龍一 だから新しく作ろうとしてるわけですわ。
美優 なるほどね。
茜 でも同好会を作るには、１人の顧問と５人の生徒が最低でも必要なわけ。
龍一 だから、暇そうな…
京香 （龍一を制止して）部活やってなくて、仲がいい２人を誘ったと。
美優 で、その同好会は何するん？
龍一 …
京香 …
茜 未定。
京香 何をするかを会議しようと思って。
彩乃 もう、私達は参加する前提？
茜 うん。
美優 別に良いけど、内容とかにもよる。私にも用事有るし、週３回で活動とかなら無理やで。
茜 校則によると、同好会の活動は週２回以上らしい。
龍一 放送部は「部」のくせに週１回。
京香 少なすぎ。
茜 おまけに部員は揃わない。
美優 部長がイライラするのもなんか分かるわ。
京香 だからって、来てる部員に八つ当たりはあかんやろ
茜 …話進まんからさ、放送部の話はとりあえず置いとこ。
京香 せやな。
茜 活動はとりあえず週２回の予定。都合が悪かった休んでも良いから、協力してくれるかな？
美優・彩乃 いいともー
京香 ノリ良いな。
美優 京香ちゃんには及びません。
京香 てへ。
茜 で、同好会で何をするか？ 誰か意見ある？
一同、考える。
龍一 パソコン同好会！
茜 却下。
龍一 なんで？
茜 女子って、男子が思ってるほど、パソコン使われへんねんで？
彩乃 私、家のパソコンがWindows８になってから電源きられへん。
美優 同じ！ パソコン使ったら、お父さんに電源切ってもらう。
京香 私なんか、ワードで自分の名前を打つだけで、５分くらいかかる。
彩乃 ワードってなに？
美優 パスワード？
京香 違う。文字入力するやつ
彩乃 キーボード？
京香 違う違う。そういうソフト。スマホのアプリみたいなもん
美優 へー… ぜんぜんわからん。
龍一 女子、機械弱すぎ。
京香 あのさ、このコード何処つなぐん？
茜 適当。ぶち、がき、ぼきぼき（コードをつなぐ）
京香 キャー、どうしよ、音でえへん。
茜 先生。機材全部ワイヤレスにならないんですかぁ〜
龍一 放送部やん。
女子 あははは。
茜 …だから却下。
龍一 もういいです。
茜 他？
美優 はい！ スマホ同好会！
茜 却下やな。
京香 そもそも学校に持ち込み禁止やし。
美優 みんな個々にスマホ。スマホいじり部…
龍一・茜・京香 放送部やん！
三人目を合わせる。
茜 捨てると決めた放送部の話は置いといて、却下。切り替えよう。今は今、昔は昔。
京香 そう。今は昔。
彩乃 竹取の翁といふものありけり。
美優 野山にまじりて竹をとりつつ… ここまでしか覚えてないわ。
彩乃 彩乃も…あ、はいはい！ 古典同好会。
茜 悪くは無いけど楽しくないよね…
京香 全然続かへんし。
龍一 同好会までして勉強したない。
茜 いっそのこと妃冠ムカツク同好会でもつくる？
美優 それじゃ、同好会じゃなくて同嫌会だよね。
彩乃 嫌悪の嫌で同嫌会。
龍一 同嫌会まで作って引きずりたくない。
美優 だよね〜。
京香 じゃあさ？
茜 何？
京香 太陽にほえろ！同好会。とかどう？
彩乃 刑事ドラマ？ しかもピンポイントで？
京香 そうじゃなくて、太陽のアホー！ って、叫びまくる同好会。
茜 却下。
京香 なんで？ 気分すっきりするで？
美優 そもそもなんで、太陽のアホー！なん？ 普通、太陽のバカヤローじゃない？
京香 私はバカより、アホ派やな。「アホ」って言われても笑えるけど、「バカ」やったら真剣に落ち込む。
茜 私はバカヤロー！ やな。確かにバカは落ち込むけど、バカヤローの方が響きが良い。
彩乃 私は、タワケ派。
龍一 たわけ？
茜 なんで？
彩乃 パパが私にタワケ者って言うから…
龍一 太陽のタワケー！ …ダサい。
彩乃 そんなことないよ。
茜 太陽のバカヤロー！ やっぱこれ。
龍一 太陽のアホー！
彩乃 太陽のタワケー
龍一 太陽のアホー。アホ、アホ、アホーッ！！
京香 放送部のアホー！
茜 部長の、バカ野郎〜！
ヒートアップ。その時であった。川原に忍び寄る三つの影。
『妃冠降臨』
妃冠 （陰マイク）誰がアホやて？
京香 あ、あの声は！
龍一 奴が来る。
彩乃 何？
茜 油断するな。
美優 どうすればいいの？
荘厳なＢＧＭが流れ出し、気のせいか照明まで変化する。両脇に下僕の富士子（会計）、由香里（食料調達係）を
引き連れ部長、妃冠が降臨する。
妃冠 あ〜か〜ねぇ〜。
茜 なぜここに。
妃冠 お前らの行動なんて…
音響がんがんかかってる。いやむしろレベルアップしている。
妃冠 お前らの☆＃△＆…
これは困った。由香里のラジカセはどのスイッチを押しても止まらない。
妃冠 お前らの◎！％◇＠…、やかましいわ！
やっと止まるＢＧＭ。かなり焦る富士子と由香里はストップモーション。絶対怒られる奴や。
妃冠 なにやってんの、あんたら。
由香里 すいません。
妃冠 喋られへんから。
由香里 はい。
富士子 いや、昨日はこれ押したら、ちゃんと。
妃冠 はぁ？
富士子 いや。
二人 すいません。
由香里 もう大丈夫です。
妃冠 頼むよ、もう。
龍一 放送部、機械弱すぎ。
三人 はぁ？
龍一 いや。
由香里は勝ち誇った表情で音響を一度入れ、再び止める。三人どや顔。
茜 いや、再生停止しただけやから。
美優 それでよくお昼の放送とか出来てるね。
京香 奇跡やねん。
龍一 機械もんはほぼ俺。
妃冠 どこまで言ったっけ。
富士子 お前らの…。
妃冠 お前らの行動なんてお見通しなんだよ。
京香 うちらここ来て喋ってただけや。なぁ。
茜 ああ。
妃冠 嘘つき。だから茜が信用できへんねん。
茜 なんやて？
妃冠 だってそうやん。いつかって自分が被害者みたいな顔してるけど、結局原因作ってるの自分やから。
茜 よ、よくもぬけぬけと。
妃冠 放送部抜けて同好会立ち上げるとかいうてるらしいけど、あたしの居るウチは意地でもさせへんからね。
龍一 情報つつぬけやん。
彩乃 こわいぃ〜。
京香 なんでなん？ なぁ。
不気味にほほえむ放送部三人衆。「ふっふっふっ」
茜 別に妃冠の許可もらおうなんて思てへんから。
妃冠 そこの二人。なんも知らんで呼び出されているかも知れへんけど気、つけや。茜は嘘付く癖、あるから。ね。
横にいる富士子と由香里。無言でうなずく。それだけで意味がある。
妃冠 放送部、一番に入部決めたの、あたしやから。
茜 それはうちが入ろうかなって…
妃冠 あたしやから。
富士子と由香里。無言でうなずく。
美優 あの〜、めちゃくちゃ怖いんですけど。
彩乃 怖すぎて笑える。
美優 なぁ、どっちが言うてること、ホンマなん？
茜 うちや！
妃冠 比べるまでもないわ。
京香 茜、負けたらあかんで。
茜 負けるか。
妃冠 放送部逃げ出して、こそこそ同好会作ろうとしてる段階でもう、あんたは負けてる。負け犬や。負け犬同好会でも作ったらええ
やん。
茜 おのれ…。
妃冠 今のあんたは、あんときのあんたや。
茜 あんときやと？
妃冠 中学テニス、夏季新人大会初戦。覚えてる？ 茜。
京香 茜、部長中学んときテニスしてたん？
茜 ああ。ペア組まされてたの、うち。
彩乃 え〜
茜 最悪の黒歴史や。
妃冠 大切な初戦。あたしたちは抽選で名門私学と当たってしまった。誰が見ても試合の結果は明かやった。夏の太陽が容赦なく
私らを照らしていた。それでもあたしはあきらめずにコートに立った。ところがや…。
回想シーンである。そこは灼熱のテニスコート。
茜 妃冠。もう無理。ギブアップしよ。
妃冠 何を言うの、始まってまだ５分も経ってないじゃない。
茜 じゃなんで５分で２ゲームも落としてるねん。
妃冠 それが何よ。意気地なし。負け犬。
茜 何とでも言うてくれ。さっきから１ポイントも取られへんやん。
妃冠 茜がボレーさえ決めてくれたら。
茜 それはサーブ入れてから言うてくれ。
由香里 妃冠〜！ ファイト〜！
富士子 相手ビビってる〜！
茜 ビビってるか？
妃冠 ビビらしてやろうじゃないの。あたしの必殺弾丸サーブ。見せるときが来たようね。
茜 そんなんあるんやったら最初から出してくれ。
妃冠 見てなさい。
二人位置に着く。前衛茜、後衛妃冠。妃冠は振りかぶってエアＫよろしくラケットを振り下ろした。
妃冠 ハッ！
轟音を発して飛び出したボールは、見事茜の後頭部を貫いた。すぱ〜ん！
茜 おい！
妃冠 なんでそこに居るのよ。
茜 前衛やから。
妃冠 あんたさえ居なかったら。
茜 普通にファールやから。だいたい今日に限ってなんでうちが前衛で妃冠後衛なん。いっつも逆やん。
妃冠 だって、相手のボール、速いんだもの。
茜 ギブ！ ギブアップれしゅ。
回想シーン終わり。
妃冠 ひどい話だったわ。
美優 かわいそう。
茜 やろ、ひどいやろ？
彩乃 これで負け犬呼ばわりとか、さすがにねぇ。
妃冠 なんですって？
富士子 ちょっと彩乃さん。
龍一 ん？
茜 思い出したらめっちゃムカついてきた。うち、決めた。意地でもオモロい同好会作る。小学校から続いてる負のスパイラルを、
断ち切ってやる！
京香・龍一 お〜。
妃冠 だから勝手なことは許さないって言ってるでしょ。
茜 そうやって妃冠のわがまま聞いてきたからこんな事になってるねん。
妃冠 こんな事って何よ。
茜 こんな事はこんな事や。
ついに一線突破。二人のつかみ合いを中心に双方入り乱れて止めるもの、けしかけるもの、人の環がわちゃわちゃする。
龍一 行け、行ってまえ。
由香里 ラジカセ、アタック！
富士子 マイクチョップ！
龍一 いってぇ
美優 なぁ、やめよ。
彩乃 暴力反対。
茜 痛い痛い、誰や爪のびてるの。
大騒ぎである。そこへ登場する警察官。無線で本部に連絡。
鬼島 え〜、現場到着。通報通り１０人ほどの不良グループが喧嘩。不良グループの喧嘩です。二、三人確保しますか？ 了解。
気配を感じ動きをとめるみんな。笛を吹いてひと言。
鬼島 全員手を上に上げて地面にひざまずけ！
龍一 逃げろ！
叫ぶ声をあげて逃げ出すみんな。
鬼島 こら！ 撃つぞ！
彩乃 撃たないでぇ〜
京香 死ぬ、死んでしまう。
妃冠 先に逃げるんじゃないわよ。
茜 うっせ〜バカやろう。
あっという間に消えていく仲間たち。静かな河原に戻る。ヒバリが鳴いている。ふと後ろを振り向くと、たった一人
手を挙げてひざまずいてる素直な子。美優である。ゆっくりと近づく鬼島巡査。
『黄ばんだ絵はがき』
鬼島 （美優の近所で）ばーん！
美優 ☆！（相当ビックリ）
鬼島 みんな帰ったよ。
美優 え〜！
鬼島 困るんだよね、こんなところで大騒ぎされたら。
美優 ご、ごめんなさい。
鬼島 通報が来たら出動しなくちゃいけないし。
美優 通報？
鬼島 そう。この近所の人から。川原で騒いでる高校生がいるから何とかしてくれって。
美優 それは…。
鬼島 こっちも高校生のもめ事に関わってるほど暇じゃないんだけどなぁ。
美優 私たち、何も。
鬼島 ってワケじゃないみたいだったよね。
美優 …はい。でも違うんです。
鬼島 何が？
美優 その、あの、つまり…。
鬼島 つまり？
美優 いえ、いいです。
鬼島 一言で言うと？
美優 放送部部長、大嫌い…、みたいな？ アタシじゃなくて、友達が。
鬼島 バカ野郎って、それ？
美優 まぁ。そこに本人が来て、何ていうか、
そういうと手帳を取り出す鬼島。
鬼島 名前は。
美優 誰の、ですか？
鬼島 お譲ちゃんの。
美優 おじょ…、浦崎、美優。です。
鬼島 年は？
美優 １６歳。です。
鬼島 じゃ、高校２年生？
美優 はい。あの、あたし逮捕されるんですか？
鬼島 逮捕されるようなことしてたの？
美優 してません！
鬼島 じゃ、大丈夫だよ。学校は？
美優 いわなきゃダメ…
鬼島 ダメです。
美優 天神川学園。
鬼島 天神川ね。一緒にいたのは全員同じ学校の子？
美優 …はい。
鬼島 了解っと。よし、帰っていいよ。
美優 おしまいですか？
鬼島 おしまい。今度また、同じようなことがあったら、学校にも連絡するから気をつけるように。みんなに言っといてください。
美優 すいませんでした。
手帳をしまう鬼島。美優は一礼すると大急ぎで自転車をとって行こうとする。鬼島の動きが止まる。
鬼島 ちょっと待って。
美優 はい。
鬼島 その自転車、お譲ちゃんの？
美優 はい。
鬼島 盗難車とかじゃないよね。
美優 違います！
鬼島 ちょっと見せて。
美優 これは大学に行ったお姉ちゃんが、使わないからあげるって。本当です。盗難車とかじゃありません。信じてください。
鬼島 お姉さんの名前は？
美優 浦崎、
二人 愛美。
なんでお巡りさんがお姉ちゃんのこと知ってるの？ ちょっとビックリする美優。同じように驚いた顔の鬼島巡査。
懐かしいものを見るような眼で美優のことを見つめている。
美優 知ってるんですか？ お姉ちゃん。
鬼島 よく。そっか、妹さんか。そっか。
美優 やっぱりお姉ちゃん、何か事件に巻き込まれてるんですね。
鬼島 いや、お姉さんを知ってるのはこの仕事をしてるからじゃないんだ。お姉さんとは高校の同級生でね。あれから連絡は？
美優 （首を振る）いいえ。
鬼島 そっか。遠いもんなぁ、アフリカ。
美優 お母さんやお父さんは何度か現地に。口もきかなかった二人が、一緒にアフリカまで行くなんて思いもしなかった。お姉ちゃんに
また一本取られた気分。
鬼島 何か分かった？
美優 向こうでの生活は少し。でも行方不明になる前後のことは全く。
鬼島 そっか。
美優 あたし、時々考えるんです。お姉ちゃんはなぜアフリカに行っちゃったんだろうって。ボランティアなんて日本だっていくらでも
出来るのに、なんでアフリカなんだろう。地球の裏側までわざわざ。バカみたい。
鬼島 まぁね。
美優 いくら考えても答が出なくて。行ってみたら分かるのかな？
鬼島 実は僕も一度、あっちに行ってみたんだ。
美優 お巡りさんが？
鬼島 あ、鬼島光輝っていいます。
美優 鬼島さん。なんでわざわざ？
鬼島 お姉さんとはその、何て言うか、仲良し、そう仲良しだったんだ。そうだ。
というと鬼島巡査は手帳の中に半分に折りたたんである少し黄ばんだ絵はがきを取り出す。
鬼島 これ。
美優は手渡された絵はがきを急いで受け取る。
美優 お姉ちゃんの字だ。
鬼島 愛美ちゃんが一度目にアフリカに学生ボランティアで出かけたときに送ってくれた絵葉書。
美優 （消印をみて）二年前の春。
光輝と美優を残して明かりが変化を始める。
鬼島 記念に取ってあるんだ。
美優 見ていいですか？
鬼島 どうぞ。
美優 dear光輝。ちょっとだけ余裕が出てきたから絵葉書送るね。今居るのはドドマって町のワークキャンプ。現地の子供たちに
英語を教えている先生のお手伝いをしています。
しばらくすると浮かび上がってくる愛美の姿。
愛美 伝染病とか治安とか、来る前は心配もしたけど、ボランティアスタッフのお陰で安心してお仕事出来てます。何より子供たちが
可愛いの。最高！
愛美の周りには何人かの子供たち。これでもかって言うぐらいひっついてくる。幸せそうに笑っている愛美。
愛美 マイネーム、イズ、マナミ・ウラサキ。
ネネ マラビ、ブラサビ
子供たち （ゲラゲラ笑う）
愛美 ノー、マナミ、ウラサキ
ペペ マナミ、
愛美 そう！ ウラ…
ペペ サビ！
子供たち （ゲラゲラ笑う）
愛美 もう、わざとやってるなぁ〜。ワッツィズ、ユゥアァ、ネィム？
一斉に自分たちの名前を愛美に聞いてもらおうとする子供たち。やかましいけど楽しそう。
ユユン マイ、ネーム、イズ、ハバタバノボ・ユユン・マバユブ。
モリン マイ、ネーム、イズ、コボモボリビ・モリン・ミビサバトボ。
ペペ マイ、ネーム、イズ、ナバカバ・ペペ・アバヤバネベ。
ネネ マイ、ネーム、イズ、マバキビノボ・ネネ・ナバナバミビ。
マナミ あはは、分かんねぇ〜
全員 （ゲラゲラ笑う）
チャイムのベル（カランカラン♪）。
愛美 さ、勉強の時間だよ。教室行った行った。
ネネ ンディヨ（は〜い）
ぺぺ トゥウェンデ！（行こう）
モリン トゥウェンデ！
歓声を上げて教室に駆け出す子供たち。見送る愛美。
愛美 一ヶ月の期限付きだけど、ここでの生活はすごく充実してる。私のしたかった仕事って、これなのかも知れない。それぐらい。
帰ったら連絡します。タンザニアより愛を込めて（笑）、愛美。
愛美の明かりが落ちる。
美優 愛を込めて（笑）？
鬼島 え、そんなこと書いてたっけ？ 返してくれる？（奪い返して）あ、ホントだ。書いてた。
美優 お巡りさんって、お姉ちゃんの彼氏？
鬼島 ま、そういう説もある。
美優 あ〜、
鬼島 何？ 何。
美優 ひょろひょろチキン野郎。
鬼島 チキン？
美優 いえ、
照明が元に戻り始める。
鬼島 高校の頃お姉さんとくだらない競争をして。どっちが世の中の為になる事を見つけられるかって競争。ホントバカみたいなこと、
ムキになって喋ってた。ともかくそれで愛美ちゃんは先生に、僕は警察官になるって決めた。僕は警察学校へ進み、愛美ちゃん
は茨城の大学にいった。
美優 それがいつの間にアフリカに行っちゃったんだろ。
鬼島 不思議？
美優 はい。
鬼島 僕は全然不思議じゃなかった。何て言うかスケールが大きいっていうか、豪快っていうかそんな人だから。見えちゃったんだろう
な、世界が。
美優 世界…か。
鬼島 一度言い出したら聞かないしね。
美優 あたしも探しに行きたい。
鬼島 アフリカ？
美優 鬼島さんも行ったんでしょ？ あたしも行きたい。
鬼島 無理無理。遠いし。直行便無いよ。
美優 あたし、飛行機平気です。
鬼島 言葉通じないし。
美優 英語勉強します。
鬼島 スワヒリ語だし。
美優 ジャンボ！
鬼島 無理だって。
美優 でも行きたいんです。
鬼島 君も強情だな。治安悪いし。誘拐とか強盗とか結構あるよ。
美優 拳銃持ってる人、知り合いにいます。
鬼島 誰？
美優 鬼島さん。
鬼島 僕？
美優 一緒に来てください。
鬼島 このかっこじゃ行けないでしょ？
美優 でも一度行って無事に帰ってきたんでしょ？
鬼島 あははは。全然無事じゃなかったんだ。
美優 え？
鬼島 空港降りたら周りは大きな黒人ばっかで、表情とかよく分からないから全員泥棒に見えるんだ。
美優 捕まえたらいいじゃないですか。
鬼島 何言ってるの？ 管轄外だから。飯食いに町に出たら私服の警官からパスポート見せろとか言われるし、職務質問するから
パトカーに乗れって言われて見たら普通のおんぼろトラックだし、こいつら偽物だって逃げるようにホテル帰ったら…
美優 どうしたんですか？
鬼島 全財産の入ったリュックサックが消えていた。
美優 ええ？
鬼島 行って二日目で無一文。心折れるでしょ？ 折れるよ。帰りの財布もカメラも航空券も。パスポートもよ。ボキボキに折れたよ。
交番に届け出したら探してくれるのかと思うでしょ？
美優 探してくれないんですか？
鬼島 この人に聞くと分かるかも知れないって、占い師の住所教えてくれたよ。
美優 占い？
鬼島 ここの最新捜査方は占いかと？ 結局占い師に会いに行った。お前のリュックを取った男は、子供が病気で困っていたんだ。
お前のお金で薬が買えて感謝している。知らねえよ。それから愛美ちゃんのいたワークキャンプの人に話を聞いて、同情され
てお金借りて逃げるように帰ってきたんだ。愛美ちゃんを助けに出かけたつもりだったのに、何も出来なかった。情けない話
だよ。思い出したら悲しくなってきた。
美優 こんな人が彼氏…
鬼島 でも一つだけ占い師の言うことを信じようって思ったことがある。愛美ちゃんのこと。
美優 お姉ちゃんの？
鬼島 ああ。愛美は生きている。北の山の麓の村で。帰れないのは大事な約束を果たそうとしているからだ。その約束を果たしたら、
きっと彼女はお前の元に帰ってくる。街の北には遙にそびえるキリマンジャロ。麓に広がるのはセレンゲティーの大草原。
音楽。美優はまだ見たことのないアフリカの大地を想像し始めていた。六甲山の山々は遙に
そびえるキリマンジャロに、目の前に広がる河原は大草原に、武庫川はヌーの群れの渡るマラ川
へと姿を変えていく。
美優 あたし、行かなきゃ。お姉ちゃんとの約束、果たさなきゃ。
鬼島 約束？
美優 お姉ちゃんが東京に発つ日、見送りに行く約束してた。でも…
鬼島 行けなかった。
美優 いつでも会えるって思ってた。さよなら言えなかった。後悔してるんだ、意地張って見送りに行かなかったこと。もう一度会って
ゴメンって言いたい。素直な気持ちでお姉ちゃんと話したい。今はそれが夢。だから。
鬼島 大丈夫。愛美ちゃんはきっと生きてる。
美優 会える？
鬼島 会えるよ。絶対。
『アフリカからの招待状』
舞台中央に明かり。美優は次第に霧の中から現れる景色に目を奪われていく。周りに現れる幾人もの人影。
それぞれの方向を向きながらも、瞳だけは少女を見据えている。
美優 夢を見ていた。
鬼島 どんな夢？
美優 終わらない夢。
七海 誰かいた？
美優 思い出せない。
京香 そこは何処？
美優 風が吹いてた。
美里 西風が南風に変わる。
美優 雨期のマラ川。
綾音 もうすぐ転々とそびえるバオバブの木も花、開くだろうし、
茜 ずっと雨を待ち望んでいたアカシアとかも騒ぎ出す。
美優 ずっと想像でしか行けなかった場所。
妃冠 まあるい地平線が見えて、その奥にはキリマンジャロ。
京香 他には何もない。
美優 人類が産まれた原始の大地。
舞台に広がる広大な草原のプロジェクションマッピング。
美優 その川を渡ってみたかった。
彩乃 向こうにはきっと、お姉ちゃんが待っている。
真悠 ただそんな気がして。
奈留 草原を大移動するヌーの群れみたいに。
美優 渡ってみたかった。
智香 水辺にワニが潜んでいても
曲が変わる。舞台奥にシルエットで現れる人影。バックサス。
テラー ドンビー・ア・ドンバ！
壮大なダンスシーン。武庫川の河原は一瞬にしてアフリカの大草原へと姿を変える。ダンスはアフリカの
原住民の踊りのようであり、野生動物が群れているようでもある。やがで中の一人（テラー）が美優の前に立つ。
テラー ミーユ、ブラサビ？
美優 （驚きながらも）はい。美優は私です。
テラー 始まりまして。わたしテラーいいます。テラー・ンバヤ。
美優 テラーさん？
テラー やぁ〜
鬼島 あんた、あの時の。
テラー はぁい。おひさぶらり。（手を出す）
鬼島 あ、は〜い。（握手）
テラー コングらっちゅれーション。
鬼島 いやいや、何もお目出たくない。
美優 鬼島さん、知ってるの？ この人。
鬼島 ああ、あん時の…、占い師だ。
美優 え〜。占い師？
つづく…
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