創作脚本の部屋へ 作 なるは 潤色 ごのい
【キャスト】（女6）
ゆっこ(結仔 ゆいこ)
翠(みどり)
和葉(かずは)
千陽(ちよ)
紫音(しおん)
武者小路篤子
「オープニング」
音楽の中ホリゾントに浮かびあがる映像。空に舞う無数のシャボン玉。薄暗い舞台にはシャボン玉を
追いかける人影。一つとして同じ色はない透き通った球体たち。風に舞い、高く、遠く、何処までも飛んで
いくかと思えば、思いがけずはじけて消える。そんなシャボン玉たちの映像が次々と入れ替わる。
やがて一人の少女が舞台に現れ、シャボン玉たちの映像の前に立つ。ゆっこだ。手を広げ、大きく息をし、
消えてしまうシャボン玉たちを愛おしむように抱き寄せ、抱きしめる。ストップモーション。映像の中にタイトルが
浮かび上がった。『春のしゃぼん』 暗転
「セイシュン」
放課後の教室。自分の席に座ってゆっこがぽつぽつつぶやくようにしゃぼん玉の歌を歌っている。
ゆっこ しゃぼん玉とんだ、屋根まで飛んだ。屋根まで飛んで、壊れて消えた。
教室にある時計を見て溜息。自分のスカートをバタバタさせる。
ゆっこ 吹いてるねぇ〜、風。…
そこへ翠。あわて気味。
翠 ごめんゆっこ、おまたせ。
ゆっこ 遅いぞ翠。我は待ちくたびれた。
翠 ほんまごめん。思ったより部長が熱く語り始めて。
ゆっこ 文芸？
翠 うん。（笑う）
ゆっこ 何？
翠 いや、名前、部長の。
ゆっこ どうしたん？
翠 篤子っていうねん。
ゆっこ それ、笑うとこ？
翠 いや、遅れた上に申し訳ない。流して。
ゆっこ じゃ〜
翠 それにしても焦った。…もう帰ったかと思ってた。
ゆっこ へへ、待ってました。
翠 ありがとう……でももうこの時間やと雑貨屋さん寄られへんな。
ゆっこ まぁいいよ、翠と帰りたかっただけやし。
翠 ほんまごめんな。
ゆっこ まあ文化祭近いしな〜、しゃーないよ。なんか出すん？ 本。
翠 せやなぁ、一人一作品は出展してもらいますって。
ゆっこ 篤子が？
翠 熱く。
ゆっこ たいへんやな。こないだもなんか書いてなかった？
翠 うん。休む暇なしやで、ほんま信じられん！ 売れっ子か？
ゆっこ お疲れ様っす。
翠 そんなぽんぽん話なんか思いつかんで。
ゆっこ 妄想楽しいけどなぁ。
翠 妄想すんのと、小説書けるかはまた別やわ。
ゆっこ そう？
翠 うん。妄想できても文字に起こされへん。また徹夜や……。
ゆっこ 体こわすなよ〜
翠 うん…。だいたいな、文化祭なんて所詮運動部と帰宅部が楽しむ行事やねん。
ゆっこ 毎年言うよな、それ。
翠 今年も言います、これ。疲れすぎて楽しむ気力なんて残ってないもん。
ゆっこ はは、すいませんね〜、文化祭楽しむ勢で☆
翠 けっゆるさん。ゆっこは気楽にいれていいなあ。
ゆっこ 勝ち組帰宅部ぅ。
翠 ごめん全然可愛くないわ。
ゆっこ ひどっ。
翠 ははっ。…で、こんな時間まで何して待っててくれてたん？
ゆっこ 翠がいつまで待っても来おへんから、フラれて見捨てられたヒロイン演じてた。
翠 なにそれ一人でそんなんしてたん？ こわ。
ゆっこ なにそのかわいそうなもの見る目。
翠 かわいそう。
ゆっこ 誰がじゃ、失礼な。翠が遅いからやろ？
翠 ごめんて。…ちなみに言うと？
ゆっこ 儚げに歌ってた、しゃぼん玉の歌。
翠 しゃぼん玉の歌ぁ？
ゆっこ そ。あたし失恋したらしゃぼん玉の歌、歌うって決まってんねん。(謎のドヤ顔)
翠 なんそれ。ゆっこ失恋したことなくない？
ゆっこ ぐっ…
翠 そもそもあんた好きな人おらんやん。
ゆっこ んもーっ、夢のないやっちゃなー！ ただの妄想やんか！
翠 さようか。
ゆっこ 考えたことある？ しゃぼん玉の歌の意味。
翠 いやないけど。
ゆっこ ないんか〜。まだまだ妄想族には程遠いな。
翠 いやそんなんなった覚えない。
ゆっこ 文芸部で小説書いてるのに妄想族じゃないん！？
翠 そら想像しながら書いてるけども。
ゆっこ じゃあ想像してみてよ。翠のしゃぼん玉の歌はどんな意味？
翠 え〜？ どんな歌詞やっけ。
ゆっこ しゃぼん玉とんだ、やねまで飛んだ、やねまで飛んで、壊れて消えた。はい。
翠 しゃぼん玉がやねまで飛んで壊れて消える歌。
ゆっこ そのまんまやんか！
翠 だってそういう歌やん。
ゆっこ ちゃうやん……しゃあないな、あたしの解釈教えてあげるわ。
翠 いや興味ないけど。
ゆっこ あんな、あたしの思うしゃぼん玉ってのは好きな人への気持ちを表してて、屋根が好きな人自身を例えてんねん。ほんで一番では……
翠 (噛む)あーはいはい。ゆっこのそういう話のくだりはいっつも長いねん。
ゆっこ なんでよ聞いてーや。
翠 いやや……おもんないもん。
ゆっこ みどりんひどいよぉ〜。
翠 きもいからやめて。
ゆっこ そんなガチなトーン。
翠 寒気するぅ。
ゆっこ かわいくない！
翠 かわいいと思ってやってないもん！
ゆっこ さっきの仕返しじゃ〜ぼけぇ！
翠 はいはい、私が悪うございました。
ゆっこ んもぅ〜つれない人ね！
翠 うるせぇこんにゃろ〜！
ゆっこ ひぎゃー！
翠、ゆっこにプロレス技をかけに行く。あかんあかんほんま無理〜とか、二人楽しそう。
ゆっこ ごめん！ わかった！ 悪かった！ あたしが悪かった許してぇぇ！
翠 へっまいったか。
ゆっこ まいりました。
翠 は〜あ、しんど。
ゆっこ 運動不足なんちゃう？
翠 ゆっこには言われたくない。
ゆっこ でしょうな。でも文芸も帰宅部も運動量変わらんよな。
翠 そりゃね。
ゆっこ 今何書いてんの？
翠 まだなんも。こないだ一作品だしたとこやし。
ゆっこ あーさっき言ってたな。
翠 ん。文化祭なー。
ゆっこ でも早めに書いちゃえば、当日健康体で楽しめるやん。
翠 わかってる、わかってるねんで！
ゆっこ お、おう。
翠 けどやっぱな、なんだかんだ締切まで余裕あるわ〜まだ大丈夫〜うふ〜とか思ってて気が付いたらな、…締切前日になってんねん！
ゆっこ 自分が悪いんやん。
翠 どうとでも言ってくれ、あんたにはわからん苦しみじゃ。
ゆっこ でもあたしも長期課題で体験してんで。
翠 あー、確かに。ぽいわ。
ゆっこ やろ？ 人間本気出したらいけるもんよな。
翠 まぁな、全力で後悔しつつ自分呪い殺したろかと思うけどな。
ゆっこ これも青春の一環や。
翠 いややこんな青春。
ゆっこ 物は考えようやで。
翠 お気楽やな。
ゆっこ 気楽が一番っしょ〜。なんせ青春やし…へへ。(急に超にやける)
翠 どした？ 何か降りてきたんか？
ゆっこ うえへ、うへへへへ。
翠 うわ〜きっしょ……
ゆっこ きしょい言うな。
翠 急に怖いわ。何事？
ゆっこ え〜？ へへ、そんなお気楽ガールも文化祭、頑張っちゃおっかなーとか思って。
翠 何〜また急に。クラスのん？
ゆっこ いや、また別のん。
翠 何それ、聞いてない。
ゆっこ うん言ってない。
翠 …え？ もしかして。
ゆっこ ん？
翠 す、好きな人に告るとか！？
ゆっこ あ、それはない。(即答)
翠 ですよね。えーと……何すんの？
ゆっこ えへ。あんな。…有志出る。
翠 …は？ え、なにそれ前から決めてたこと？
ゆっこ ううん、今思いついた。
翠 …はぁぁぁ。急すぎにもほどがある。
ゆっこ 翠がこんな青春いややとか言うから。
翠 それとこれと何の関係があるわけ？
ゆっこ 青春！ しよっかなって。翠と。
翠 私と？
ゆっこ うん。なんかさ、有志出るとか青春ぽくない？ ピロティで歌ったり踊ったり漫才したりさ、かっこいいやん。
翠 たしか…に？
ゆっこ 出ようや、有志。なぁ、なぁぁ〜
なんでいつも唐突に言い出す割にはこんなにもこの子は輝いて見えるんだろう。
翠 …まぶしいなぁ。
ゆっこ え？ なにが？
翠 なんでもない。
ゆっこ なぁなぁ、有志！…どうせなら人と違うことがええねん。
翠 え〜…恥ずかしいしいし嫌や。
ゆっこ なんで？ 人とちゃうことするってめっちゃすごくない？ かっこよくない？
翠 物珍しがられるだけやって絶対。
ゆっこ 翠と！ 翠となんかしたいねん。
翠 そうは言うてもなぁ……。
ゆっこ 一緒に青春しよ〜帰宅部のお気楽ガールにも文化祭出し物さして〜。
翠 ううんんん。
ゆっこ おねがい〜〜〜。
翠 え〜〜。
ゆっこ 柿ぴーあげるから〜〜。
翠 なんでやねん。
ゆっこ へへ、冗談。あかん〜？ なぁなぁ、一生のお願い。
翠 だぁぁもう、わかった。
ゆっこ え！？ やってくれるん！？
翠 ううん、考えとく。うん、残念。
ゆっこ なぁんや。でも、断りはせんねんな。
翠 だってゆっこ、ほんま唐突にアイディア出す割には意見曲げへんやん。
ゆっこ てへ。
翠 そういうとこ、すごいわ、いろんな意味で。
ゆっこ 褒めてる？ それほめてる？ やん照れる〜。
翠 半……いや三分の一ほめてる。
ゆっこ なんで言い直すんよも〜。……あつぅ。興奮したら暑なってきた。
翠 今日もともとあったかいしな〜。てかむしろふつうに暑いレベル。
ゆっこ でもまだギリギリ春やんな。
翠 かろうじてな。
ゆっこ いややなー夏、きらい。
翠 そやなー。
ゆっこ ぽかぽかのちょうどいい気温で日向ぼっこしながらしゃぼん玉吹くくらいが気持ちよくていい〜。
翠 なにそれ。
ゆっこ 春ってなんかしゃぼん玉って感じやん。
翠 でたしゃぼん玉。好っきゃな〜ってかしゃぼん玉に季節なんかあるん？
ゆっこ 知らん！ あたしのイメージの話。
翠 またそれ？
ゆっこ でも考えてみてよ、くそ暑い夏に外でしゃぼん玉する？
翠 せーへんな。
ゆっこ くそ寒い冬も一緒やろ。
翠 秋は？
ゆっこ …秋は……そういうキャラじゃない。
翠 無理やりにもほどがあるわ、何よキャラって。
ゆっこ わっかんね☆
翠 さようですか。
ゆっこ さようです。
翠 帰らへんの？（教室の時計、ほれ、見てみ）
ゆっこ 嘘ぉ！ もうこんな時間？
翠 陽ぃ、どんどん長なるよなぁ。
ゆっこ 帰ろ。あっ、(急にやける)
翠 どした？ また何か降りてきたんか？
ゆっこ なぁ靴履き替えたら校門まで競争しよ。
翠 え〜……
ゆっこ 運動不足なんやし！
翠 体育せっかくないのに。
ゆっこ 負けた方がジュースな。お先に！
翠 ちょ、靴履き替えたら言うたよなぁ、ゆっこ！
とかなんとか言いながら二人はける。
「考えとくって言ったけど」
お昼休みの教室。翠、和葉、千陽、紫音が話ながら入ってくる。
和葉 えー！！ 有志！？
翠 うん、まぁ。超強引に誘われてんねんけど。
千陽 ようやるわぁ。
和葉 誰に誘われてんの？
翠 あー、２組の子で
和葉 あ、結仔ちゃん？
翠 そうそう。
千陽 ほんま仲ええな〜。
翠 まぁ、中学から一緒やしなぁ。
和葉 中学から一緒でも高校なったらなんとなく疎遠なるパティーンもあるで。
紫音 ありがち。
翠 そういう和葉ちゃんと千陽ちゃんも中学から一緒やろ？
千陽 そそ。中学３年間も一緒やってんで。
和葉 それに加えて高校も２年間一緒！ ほんまうっとうしいわ〜！
千陽 ひっど〜。
翠 あはは。紫音ちゃんは？
紫音 え？ あぁ、私？
和葉 紫音は高校入ってから２年連続同クラやねんな！
紫音 それ。
千陽 担任も変わらんし、結構やりやすいよな。
紫音 そやな。柏原せんせいい人やし。
和葉 うんうん、結構好きやわ、かっしー。
翠 可愛い先生よな、英語の発音めっちゃいいから好き。
千陽 わかるー！ 女の先生の中で一番好き。
紫音 声、可愛いよね。
和葉 可愛いな。割とクラスも大事にしてくれるしな〜。
千陽 文化祭楽しみ。
和葉 それな。あれやろ？ 次の５、６時間目クラスの役割決めるんよな。
翠 せやった。
千陽 なんやっけうちのクラス。たこ焼き？
紫音 ベビーカステラよね。
翠 千陽ちゃんたこ焼きてぜんっぜんちゃうやん(笑)
千陽 ベビーカステラとたこ焼き似てるやん。
和葉 どこがやねん。
千陽 えへへ。細かいことは気にしないの！
和葉 あっそ。みんな何するん？
翠 ん〜、食品よりゲームの方行こっかなーって思ってるけど。
和葉 そうなん。あたしカステラ焼こかな。
千陽 えーほんなら千陽もカステラしよかなー。
和葉 うわ真似すんなや、カステラとたこ焼き間違った分際で。
千陽 人間だれしも間違いは犯すものなのです。
和葉 カステラとたこ焼きに謝れ。
千陽 ごめんなさい。
和葉 あやまるんかーい。
翠 息ぴったりか(笑)
千陽 これぞ５年間の積み重ね。
和葉 慣れって怖いな。
千陽 千陽らも二人で有志出れるんちゃう。
翠 女二人で漫才とか。
和葉 そんなんハードル高いわ。
千陽 どうも〜千陽で〜す。
和葉 どうも〜和葉で〜す。
千陽 二人合わせて〜？！
二人 Perfumeです！
和葉 ってなんでやねん！ 人数すら足りてへんわ。
千陽 そっか、紫音、入って入って。
紫音 え、え、どうするの？
千陽 三人あわせて
三人 Perfumeです！
和葉・千陽 ってなんでやねん！
何故か両サイドから中央の紫音に突っ込む形となる。もろに受けちゃう紫音。
紫音 何で私だけ突っ込まれるわけ？
和葉 センターとってるからやん。
千陽 美味しいなぁ、紫音。
紫音 これって美味しいの？ 美味しいって何？
翠 めっちゃノリノリやん。いけんちゃう？ 有志。
和葉 いやいやいやいや、無理。
千陽 有志のハードルは高いもんな。
和葉 第一そんなおもんないからな今のも。
千陽 楽しかったらええやんかぁ。
和葉 千陽はな。
千陽 しお〜ん、和葉が千陽に当たりきつい〜。
紫音 私が、いっとん当たられてるし。
千陽 １トン？
翠 あ、紫音ちゃんはクラスの係。何したいん？
紫音 あ、あぁー…私はゲームのほうかな。
翠 あ、じゃあ一緒にしよ。
紫音 うん。
和葉 なんでみんなゲームなーん？
翠 食品だって衛生面とか厳しいし大変かなって。
千陽 あーそっか！
和葉 でも２年といえば食品バザーじゃない？
紫音 でも、交替する暇ないくらい忙しいらしいし。
千陽 でぇぇ、そうなん！？
和葉 へぇ。でもあたしはカステラやな！
千陽 忙しいのもせいしゅ〜ん。
和葉 せっかくの文化祭やしやりたいことやるのが勝ちやろ。
紫音 だね。
ゆっこ入ってくる。
ゆっこ みーどり〜。
翠 うわ出たぁ。
ゆっこ なによ、わざわざ昼休みにきてやったんだぞ〜。
翠 わーうれしー。
ゆっこ お邪魔しま〜す
翠 邪魔するんやったら帰って。
紫音 ホント教科書通りのボケ突っ込みよね。
和葉 あー、結仔ちゃん？
ゆっこ そうです！
千陽 あぁ〜、この子が！
ゆっこ え、そんな有名？ いや〜照れるなぁ。
翠 いやちゃうから。
ゆっこ えと皆さんは？
和葉 和葉です。
ゆっこ 和葉ちゃん。
千陽 千陽でーす。
ゆっこ 千陽ちゃん。
紫音 あ、紫音です。
ゆっこ 紫音ちゃん。おっけー☆
翠 てかどうしたん？
ゆっこ あぁ！ そうそう有志の出し物決めようと思って。
和葉 あれ？ みっちゃんでるん？ 誘われてるって言ってなかったっけ？
翠 そう、誘われてる。ゆっこ強引やから。
ゆっこ えへへ…。いろいろ考えててんけどなかなか思いつかんでな……。
千陽 もうみっちゃん出るながれやな〜。
翠 ほんまそれな。
ゆっこ まぁお笑いはちょっとハードル高すぎるやん？
翠 さっきその話したわ。
ゆっこ したん？ いや〜いいね〜やる気だね〜。
翠 うるさいわ。
千陽 なんかお笑いっぽいことしてみたら？
翠 千陽ちゃん？！
ゆっこ そんなん急に言われても〜……何？ おもろいこと？
和葉 一応考えるねんな(笑)
ゆっこ うーん。お前の父ちゃん何中？ ぴかちゅー！ いやおもんないな。
和葉 アル中は？
ゆっこ お前の父ちゃん何中？ アル中！
翠 …。
千陽 …。
紫音 …。
和葉 …ごめん。
ゆっこ うん、おもんないなやめよう。
翠 心が痛いわ。
千陽 ピロティが凍りつくのが想像できたわ……。
紫音 やっぱりお笑いって難しい。
ゆっこ そやな〜、芸人さんてすごいな。
翠 たしかに。
和葉 そんなん出来る勇気ないもん。
ゆっこ よし次行こう。
千陽 歌？
ゆっこ 大抵ああいうのって弾き語りとかになるよな。
翠 ピアノも何も弾かれへん。
ゆっこ ほんならカスタネットは？
千陽 うん、たん、うん、たん♪
翠 そのリズムで何、語るねん。
和葉 リコーダーは？
ゆっこ リコーダーか！ ええな！
千陽 ほんならなんかちっちゃいのんとでっかいのん二人で吹けるなぁ。
和葉 ソプラノとアルトな。
千陽 そうそれ。
和葉 ってそれもうリコーダーのアンサンブルなってるから。
千陽 どうせなら吹きながら舞ってみるとか。
紫音 リコーダーダンス？
和葉 何それ(笑) 気持ち悪くなりそう。
千陽 両手使われへんからひたすらケツ振るしかないな。ヒョロロロ ピッポロ、ピッポ〜ロ
和葉 ピッポロ、ピッポ〜ロ
二人 ピョ〜ロピョロロロピ〜ポロ〜♪(和葉と二人、曲にあわせてケツを振る)
ゆっこ それもうケツダンス(笑)
翠 いややそんなアホみたいなん……歌の披露ならどっちかが歌わないとあかんよな。
紫音 リコーダーの伴奏で歌うなんて、斬新。
翠 ほんまな。
ゆっこ ほんなら皆で出る？！
和葉千陽紫音 結構です。
翠 ですよね。
ゆっこ ちぇ〜、みんなでリコーダー吹けば伴奏なったかなって思ったのに。
翠 皆まで巻き込まないの。
ゆっこ でへ。……うーん。二人で歌ってハモる？
翠 何歌うんよ。あたしら音楽の趣味全然合わんやん。
ゆっこ よなぁ。
千陽 なんか有名な曲とか？ 和葉そういや歌うまいよな、なんか歌って。
和葉 なんという無茶ぶり。
千陽 千陽手拍子役するから。
ゆっこ じゃあみんなでしゃぼん玉の歌歌おう。
皆 え？
ゆっこ 知ってる？
和葉 知ってるけども……。
ゆっこ よっしゃ歌お。はいせーのっ
皆 しゃぼん玉とんだ、やねまで飛んだ、やねまで飛んで、壊れて消えた。
なぜこんなことになったのか……わからないなんだこれ……と微妙な反応のゆっこ以外。
ゆっこ へへへ、たのし〜。
翠 楽しいかこれ……。
ゆっこ あかんか。
翠 本番二人でっせねぇさん。
ゆっこ ほなどうしましょかおばさん。
翠 誰がおばさんじゃしばくぞ。
紫音 あはは。
千陽 仲いいな〜
和葉 やっぱ長いこと友達やると息合うんよな。
千陽 謎にね。
紫音 けなりぃ…。
千陽 ん？
紫音 あ、うらやましいかなってこと。
ゆっこ はあああああどうするどうする？
翠 どうしようかねぇ。
和葉 てかもうみっちゃんは出るのね？
翠 え……あっ。
ゆっこ ほんまや当たり前のように悩んでくれてる……。
翠 くそうやられた。
紫音 まぁいいんじゃない？
翠 う〜ん、でもやっぱ文芸のほうでも作品書かなあかんしさ。
紫音 文芸部…。
千陽 大変そう〜。
翠 大変！ まぁ後回しにばっかりするから悪いねんけど。
和葉 そんなん、書いたことないわ……。想像力ないからなー。
ゆっこ あああ！！
翠 うぇえなんじゃらほい。
ゆっこ それや！ 小説！ 想像力！
和葉 え？
ゆっこ なんか古典であったやん、歌詠み対決みたいな。
千陽 うん。
ゆっこ それやったらいいねん。朗読みたいな！
翠 えぇ……。
ゆっこ どんだけお客さんの心に響かせられるかって！
「ジムリーダー登場」
篤子 素晴らしいアイディアだわ。
突然教室に響き渡った声に全員が振り向く。掃除用ロッカーから突然現れた女子高生は、熱くその瞳を輝かせていた
（ちょっと背後に炎見えてる感じ）。
篤子 詩のボクシングね。
翠 あちゃ〜
他全員 詩のボクシング？
篤子 詩のボクシングは、リングに見立てた舞台の上で二人の朗読者が自作の詩などを朗読し、どちらの表現がより観客の心に届いたか、その表現力を競うイベント。
キャッチコピーは「声と言葉の格闘技」。
ゆっこ はあ。
和葉 誰？
千陽 知らない。
篤子 主催するのは１９９７年、音声詩人で映像作家の楠かつのり氏が、声の言葉による新たな表現を見出すため設立した、日本朗読ボクシング協会
『JAPAN READING BOXING ASSOCIATION』、通称ＪＲＢＡ。以後その活動は現在でも続いています。
翠 部長…。
紫音 文芸の？
ゆっこ 篤子！
篤子 申し遅れました。私、３年２組、武者小路篤子です。文芸部で部長、やらせてもらってます。
翠 名乗ってるよ。
ゆっこ ２年８組、津田結仔です。翠さんがいつも、お世話になってます。
篤子 お友達？
翠 あ、はい。
篤子 そ、よろしく。
ゆっこ お願いします。
二人、がっつり握手。
翠 結託してるよ。
篤子 早速だけど、今の話しとても興味深いわ。私、この学校の文化祭には失望してたの。模擬店、ゲーム、下品なバンドにちゃらけたダンス。あれが文化祭？
ただのどんちゃん騒ぎじゃない、お祭りじゃない、アレだったら文化の二文字を削ってもらいたい。祭（サイ）で十分、サイよ、サイ。「ただ今から第５０回、
サイを開催致します！」って。
ゆっこ はい、その通りです。
篤子 文化の薫り高い文芸作品をせっかく、せっかく作り上げ、心を込めて製本し、展示会場に積み上げていても振り向く客はごくわずか。この学校の奴らに文化を
語る資格なんてある？ そう思い続けて二年半。
和葉 熱いよな。
紫音 うん。
翠 ごめんな。
篤子 でも私、間違ってました。ここに、文学を声で表現し、観客へ向かって投げかける詩のボクシングを、有志の出し物としてやってみよう、そんな素晴らしい一歩を
踏み出そうとしている下級生が居たなんて。津田さん、私、感動しているの。
ゆっこ ありがとうございます。
篤子 翠さん。
翠 はい。
篤子 受けて立つのです。文芸部の代表として、この誇り高きイベントに参加し、そして勝利するのです。今こそ文芸部のそこ力を、愚民たちに思い知らせるのです。
翠 え〜
紫音 愚民って。
和葉 あんたのことな。
千陽 え？ 何？ 何のこと。
篤子 この試合、私レフリーとして参加します。文化祭のメイン・エベントにふさわしい、文化の薫り高い戦いを演じましょう。
翠 部長〜
ゆっこ 熱いわぁ、篤子先輩。
篤子 あ、忘れることだった、これ、部活ノートね。じゃ。
そう言い残すと嵐のように去っていく篤子。
翠 詩の…
ゆっこ ボクシング…、ね。
音楽。ブル転。
「ハジケル」
数日後の放課後の教室。翠が一人で教室にいる。そこへ紫音が登場。
紫音 翠ちゃん。
翠 紫音ちゃん。どしたん？
紫音 あぁ、忘れ物取りに来た。
翠 何？
紫音 漢文の教科書。
翠 あっ明日小テストか。
紫音 忘れてた？
翠 あっぶねー、ありがと紫音ちゃん、私も忘れるとこやった。
紫音 あはは、よかった。翠ちゃんは何してんの？
翠 あー、ゆっこ待ってるねん。まだ来なくて。あいつほんま部活も入ってへんはずやのにどこいったんやろ。
紫音 ゆっこちゃんって、このあいだの？
翠 そう。
紫音 よく翠ちゃんの話にも出てくるよね。
翠 うそ、そんなにしゃべってる？
紫音 うん、結構。すぐ名前覚えちゃったもん。
翠 あちゃー。お恥ずかしい限りです。
紫音 あはは。いいなぁって思うよ。
翠 え？
紫音 なんか、ほんまにその子のこと好きなんやなって伝わってくる。
翠 いや、好きかって言われると、どうなんやろって思うで。
紫音 そっかな？ 嫌いな子、待ったりしないじゃん。
翠 そらずっと一緒におるけどもや。
紫音 はい、そのずっと一緒にいるゆっこちゃんをひと言で表して下さい。
翠 え？ ひとこと？
紫音 頭に浮かんだインスピレーションが大事です。行きますよ。
翠 ちょ、ちょっと待って
紫音 ３、２、１、ハイ！
翠 強情なエノキダケ。
間。爆笑。
紫音 何それｗｗｗ。
翠 ゴメン、ほんまゴメン。頭の中に、エノキダケが、全面に。
紫音 しかも強情って。
翠 あの子、言い出したら聞かへんとこあるから。
紫音 じゃ、エノキダケは？
翠 う〜ん、白っぽくてひょろろってしてるくせに、鍋には欠かせない歯ごたえ？ってか、味ないのに美味しい？ちゃうな。
紫音 分かった。歯に引っかかる存在感？ 頑固に取れないやつ。
翠 あ〜、時々いらっとさせられるのはそれか。
紫音 でも欠かせないんでしょ？ 鍋に。
翠 そやねんな。あの子みてたら、なんか、こう…。眩しいよなって時、あんねんなぁ。
紫音 ふ〜ん。
翠 勝手にキラキラしとけよ、ホンマって感じ。
紫音 だから目が離せないって感じ？
翠 へへ…。感じ。
紫音 面白い。
翠 そっ
つづく…
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