創作脚本の部屋へ 作 うがっち ぷち潤色 ごのい
【キャスト】 女５・男２
多田芳子
古村優子
戸塚直哉
堀内沙綾
榎本先生
黒田美樹
藤田 修
倉崎花奈
「オープニング」
開幕。舞台上には大量の演劇部員。きちんと並ばず各自いい位置を取り
大声で歌う。
『白銀は招くよ』
雪の山は 友達 招くよ 若い夢を
ホーヤッホー！ ホーヤッホー！
歌声も 招く
雪の山は 友達 走れ 若い心よ
ホーヤッホー！ ホーヤッホー！
歌声も 走る
沸き上がる雲 樹氷の林 輝く銀のスロープ
あふれる力 とばせスピード 雪煙を蹴散らそう
何かすばらしいことに
ヤー 今日は出会いそうだ
やがて歌の陣形が動き出し、人影の中から芳子が舞台中央に。陣形を作っていた
人々は風のようにその場を去る。舞台上手の卓にもピンスポット。優子は音響卓。直哉、
沙綾は照明卓に付いてオペレーション中である。本来のスタッフは少し離れたところで
スタンバイ。後に役者と入れ替わることになる。芳子、すーっと息を吸う
芳子 やっほー！
優子 よかった、声よく出てる。
直哉 この先が問題でしょ、沙綾、頼む。
沙綾 はーい。Ｑ２の明かり、入ります。３，２，１，ＧＯ。
沙綾、照明卓を触る。ホリゾントライトが色を出す。芳子、しゃがんで。
芳子 その山の頂上には、花が咲いていました。
直哉 おいおい、顔下がってんねんから考えて声張ってくださいよ。
優子 直哉、うるさい。
直哉 すいません。
芳子 円らな花に、咲く意味を問いました。風に怯えずどうやって咲くのですか。
芳子、すっくと立ち上がり、空を指差す。
芳子 その山の頂上には、鳥が飛んでいました。真白の翼に飛ぶ訳を問いました。
腕を下げ、空に向かって声を放つ。
芳子 一体、何処に向かって飛ぶのですか。
沈黙。長い間。
芳子 何処に、何処にぃ～。
優子 あれ…どうした？
直哉 何や何や。
芳子、手をもじもじさせ、目は完全に泳いでいる。
直哉 嘘やろ。絶対台詞とんでるやん。一人芝居のシーンでそんなん最悪や。
優子 も、もういい。次、進まな。
優子、音響卓を触る。音響、変わる。芳子、舞台下の優子にごめんの合図。
直哉 優子先輩、いいんですか、このシーン飛ばして。
優子 しょうがないじゃない。芳子、せりふ出ないんだから。
直哉 でも後のシーンとつながりません！
優子 じゃ、あんた舞台行ってくる？
直哉 俺が？
優子 もういい、沙綾、次、Ｑ３の明かり。
沙綾、返答無し、上を向いたまま口を開け寝てる。直哉、沙綾をチラッと見る。
思わず二度見。
直哉 沙綾？ 寝てる…ありえへん。
肩を叩いたり揺らしたりする。沙綾はね起きる。
沙綾 おはようございます！
優子 沙綾、明かり変えて！
沙綾 はい！ 行きます！
沙綾、寝ぼけた頭で調光卓を操作。舞台背景は豪快に真っ赤に染まる。
芳子 え？ え？ ええ～？ 山が燃えてる。
優子 それ、違うでしょ？
沙綾 ぱに～っく！
直哉 とりあえず一度、暗転させます。暗転！
芳子 （悲痛な叫び）何処へ～～！
直哉、照明卓を触る。舞台の照明、落ちる。曲。同時にスタッフ入れ替え。
出演者三人は上手袖へ移動。
「直哉の怒り」
しばらくして明かりが入る。音響、フェードアウト。ここは演劇部、部室。芳子が
新入生三人を迎え入れている。
一年 おじゃましまぁす。
芳子 どうぞどうぞ。汚いけど入って。ここが今日からみんなの活動場所です。
美樹 おぉ～。これが演劇部部室。
花奈 思ったより狭いんですね。
芳子 そうかな、何処もこんなもん。
修 おぉ、こんなところに。
美樹 どうしたん？
修 Ｔｈｅ ＳＴＡＦＦが。
花奈 何それ？
修 バイブル。（勝手に手に取る）
芳子 君、詳しいね。
修 見てもいいですか。
芳子 どうぞ、ってもう見てるよね。
修は近所のイスに座ると、ふんふん言いながら読書。こいつ裏方マニアか？
美樹 こいつ、こんな奴なんで。気にせんとってください。
芳子 はあ。
花奈 他の先輩は。
芳子 もう来る。今日はこないだの春期公演の反省会やねん。せっかく来てくれてんけど、どんだけお構いできるかわからんので
自由にしてください。
修 はぁい。
美樹 あんたは十分自由にしてる。
話の間に直哉、沙綾、優子上手から次々現れる。部室の場面転換は以下の会話を
しながら進行する。
沙綾 おはようございます。
芳子 あ、沙綾、おはよ。直哉も。
直哉 おはようございます…。
芳子 どうした、元気ないぞ。
直哉 普通ですから。
優子 おはよ。新入生？
花奈 今日から部活参加です。
美樹 よろしくお願いします。
優子 こちらこそ。（修を発見）ん？
沙綾 よろしくねぇ～。
芳子 なぁ直哉も、なんか言ったりいや。
直哉、思い切り睨む。一年生、困惑した表情。
芳子 も、もう…辛気臭いなぁ。
直哉、芳子に舌打ち。
優子 ちょっと直哉君、ごめんね、いつもこんなんじゃないんやけど。
優子、一年組のほうを見る。修、会釈。
美樹 大丈夫です、お構いなく。
芳子 え、でも君らって発表見てへんよな。
優子 あ、ほんまや、どうする芳子、反省会、日改める？
美樹 いえいえ、今日からあたしらも部員ですから。
花奈 はい。気使わないでください。
修、読書しながらうんうんと頷く。
芳子 へー、今年の一年は熱心やなぁ。将来に期待やわー。
花奈 いえいえ、そんな～。
花奈、照れて嬉しそう。
美樹 ですから、気にせず、どうぞ。
芳子 では、お言葉に甘えて…。
優子 分かった。
芳子 じゃあ、反省会から始めます…。
コホン、と咳払いをする。
芳子 まず私からね、えっと大事なオープニングの台詞とばしちゃって、すいませんでした。
優子 そうやな、とばしたからってあれはな。
直哉 動揺が露骨過ぎです。
沙綾 まぁ、まぁ…。
しゅんとして活気が失せていく。
芳子 あと、訳分かんない台本書いてすいませんでした。
直哉 表現は稚拙なのに内容は難解すぎて。
優子 そう？ 私は好きやけどなぁ。
芳子 ゆっこ…。
芳子、優子に抱きつく。
優子 よーし分かった分かった、分かったから離れろーきもいぞー。
花奈 仲良いんですね。
美樹 微笑ましい。
優子 言うてる場合ちゃう。
芳子、離れない。
直哉 って言うか難解って言うより意味不明。
沙綾 正直、私もイマイチ。
修、頷く。
芳子 君もか…。
優子から離れる。
直哉 〈やまびこ〉ってタイトルで、第一声〈やっほー〉。これ以外は結局何がしたいかさっぱり。
芳子 いや、それはだね直哉君、ラスト前の急展開で…。
直哉 そこも台詞とんでましたよ。
芳子 いやー、あれはその…うっかり？
直哉 そのうっかりで、話がさっぱり。
芳子 韻踏んできやがった。
優子 ミスばっかりで、観客がっかり。
芳子 お前もか。
直哉と優子、拳を突き合わせる。
優子＆直哉 いぇー。チェケラッチョ。
芳子 ラッパーかお前ら。
美樹 どうやら韻踏めないと演技って出来ないみたい。
花奈 えーできるかなーどーしよ―花奈ちゃん。
芳子 変な勘違いせんといて。
沙綾 えっと…すっきり…どっきり…
芳子 その努力は要らんわ。
修 僕、ｒｈｙｍｅｓｔｅｒ好きなんですよね。
突然の開口に一同唖然。間。
芳子 お、おう。
直哉 話し逸れてます。
芳子 誰が原因や。
優子 とにかくな、この本のことはやろうよって推した私も悪かったわ。
直哉、バツが悪そうに顔を逸らす。
芳子 あ、あの…一旦私はこれで…時間もアレなんで、次、どうぞ。
沙綾 私…ですね…。
芳子 …せやな。
優子 …うん。
沙綾 えっと、照明って大事な仕事任されたのに、居眠りしちゃってすいませんでした。
直哉 あれは居眠りってレベルちゃう、最早就寝や。
優子 寝顔可愛かったなぁ。
直哉 そこじゃないでしょ。
優子 …せやな。
沙綾 すいません…前の晩緊張して一睡もできなくて…本当にすいません！
芳子、まじまじと沙綾を見る。
芳子 可愛いなぁ…。
沙綾、困った表情。
芳子 困った顔も…でへへへへ。
芳子、顔を崩しニタニタしている。
美樹 何あれ、怖い。
一年組、芳子と距離を置く。
直哉 エロ親父ってこんな感じかぁ…キモいわぁ…お前らも気ぃ付けろよ。
一年組、うなずく。
芳子 ちょっと待てお前ら、てか直哉お前に関しては先輩に向かってエロ親父って、エロは否めないとし
ても親父とかキモいとか！
直哉 うっさいわぁ、騒音おばさんⅡ世。
芳子 何イギリスの王侯貴族風に言うてんねん！ ブリティッシュ感じてもなんもうれしないわぁ！
お前はさっきから先輩に向かってなぁ…
直哉、思い切り立ち上がる。
直哉 自分のこと〝先輩〟やって、本気で思ってるんですか？
芳子 えぇ？
優子 ちょっと。
直哉 優子先輩は悔しくないんですかっ？ ずっと役者好きでやってきて、それやのに、勝手にほぼ
一人劇書いてきて、かき回すだけかき回して、ヘラヘラしてるんですよ、腹立たないんですか！
優子 気持ちはわかるけど、今はちょっと…
直哉 第一コレは何なんですか？ ただの謝罪会見やないですか。謝ってるだけで…反省会ってこういう
のじゃないでしょ。
芳子 もう何なんさっきから！ 反省会なんてしたことないんやから分かる訳ないやん！
直哉、呆然。
直哉 こんなんやから…こんなんが部長やからこんな結果やねん。
芳子 …そんなに文句あるなら出て行けばいいやろ！
優子 ちょっと！
下手から榎本入ってくる。片手にロールケーキ。
榎本 ヘーイみんな！ ええもん買ってきたぞー！
花奈、美樹、ちょっと助かった気分。修、ちらりと榎本を見て本に戻る。
直哉 ありえへん…。
榎本 何やこの空気…。おいおい折角一年生も、来てくれてるのに…。
直哉 ありえへんわこんな部活！
叫び、直哉はけていく。
優子 直哉君！
榎本 …なんじゃこりゃ。
「懺悔会」
美樹、驚愕。花奈、怯えてしまっている。
優子 ごめんな、みんな…。
優子、一年組の方へ言う。
榎本 行ってもうたけど…。
芳子 放っておいたらいいですよ。あんな奴こっちから願い下げです。サヨナラです。ああせいせいした。
優子 芳子！ あんたいい加減に…
芳子 どうせ私はいい加減ですよ。
美樹 そんないい加減で、後輩に道、教えられるんですか？
間。
芳子 え？
美樹 いや、何でもないです。思わず。
芳子 そ、そうなん…。
優子 美樹ちゃん？
美樹 あ、はい。
優子 ありがとう。あたしの代わりに、大切な事、言ってくれて。
美樹 いや、そんな。
優子 芳子、あんた直哉君最近どんな気分やったと思う？
芳子 …え？
優子 あの子、ちょっと前までは、先輩の最後の舞台やからって必死でいろいろしてくれたのに。なかなか
せりふ覚えられんあんたに、部活終わってから付き合ったり、音響探すのにツタヤ三件ハシゴした
り。それやのに最近のあんたは…。
芳子はっとする。
優子 練習もぜーんぜんせんとヘラヘラしてさぁ…お菓子食べたり遊んだり…んでこの結果や。誰だって
怒るよ。
沈黙。長い間。
芳子 謝らな…。
優子 …わかった。
芳子 ん、うん。
優子 呼んできたるわ。言うこと考えときや。
芳子 ありがとう。
優子、小走りではける。芳子、座る。少し間。
榎本 青春やなぁ、よう分からんけど。
沙綾 せんせ、クラブのピンチやというのに何してたんですか？
榎本 だからこれ、ロールケーキ買って…
花奈 ロール、ケーキ。
花奈、沸き上がる唾液を押さえ込む。
榎本 先食うとくか？
沙綾 いやでも…
花奈 えー…
花奈、沙綾、二人で芳子の方を向く。
榎本 多田、食うか？
芳子 いえ、待ちます。
花奈 ですよ、ね。
花奈、残念そう。美樹、少し不満気に花奈を見る。
芳子 …皆、食べといてもいいよ。
沙綾 先輩が待つなら私も待ちます。
美樹 当然私も。
花奈 修は…？
修、黙ってうなずく。
花奈 じゃあ、あたしも。
ちょっと不満そう。
芳子 みんな、ごめんな、私のせいで。
花奈 いいです。
榎本 ま、黙って待っとくのもお腹鳴るから、なんか別な話でもしながら待つか。
花奈 はい。え～っと皆さんは、どんなお菓子好きですか？
榎本 君、徹底して食い物路線やね。
美樹 私マカロン。
榎本 おしゃれやなぁ、せいぜい食べてもシュークリームぐらいやわ。
芳子 私は苺のやつならなんでも好きかなー
花奈 へー。先輩意外と乙女ー。
芳子 意外って失礼な…花奈ちゃんは？
花奈 私はね…えっと…
修 （割り込む）フィナンシェ。
一同呆気にとられる。
芳子 …え？
修 フィナンシェ。
芳子 …何が？
修 好きなお菓子。
芳子 誰の？
修 花奈。
花奈 何で知ってんねん。
修、ピースしてキメ顔。
芳子 修君は？
修 羊羹。
芳子 …そ、うか…。
修 特にとらやの羊羹。もはや神。
芳子、困惑。
美樹 こいつは慣れるまで時間かかりますから…。
芳子 なんか…修君って独特の空気、発してるよね。
美樹 いつもこんなんですよ。
沙綾 いつもってなかなか…。
榎本 こいつの世話とかハードワークそうやな。
修 えへ…。
修、照れる。
芳子 …なんで照れてるん？
美樹 さー。
花奈 分かんないです…。
榎本 謎…やな。
修 では謎解きを少々。藤田修、十五歳。ＡＢ型、十月二十四日生まれ。趣味、ラップ。好きな芸能人、
舘ひろし。渡辺徹は論外。
呆然、誰もが言葉に困る。
芳子 今の…何？
沙綾 自己紹介？
美樹 今日の修、気前いいなぁ…。
榎本 そういうもんなんか？
花奈 もしかして…すごい役者なんかなぁ？
芳子 ごめん、私らが悪かったから、演技とラップをつなげないで。
修キメ顔でポーズ。一同、もうどうしたらいいかわからない。少しの沈黙。
気まずくなり、口を開く美樹。
美樹 あの…先輩！
芳子 ん？
美樹 劇を上演するのって、やっぱ大変ですか？
芳子、少したじろぐ。
芳子 うーん…まぁまぁかなー。
美樹 …えぇ？
沙綾 美樹ちゃん中学の時何部やった？
美樹 あ…えっと…陸上部です。
沙綾 陸上にも試合ってあったでしょう？
美樹 まぁ…はい。
沙綾 緊張はそんなもん。
美樹 …はい。
沙綾 たださ、集団プレーが難しい。役者だけじゃなくて、音響も照明も入れた集団プレー。
修 ざ、スタッフ
花奈 へぇ～。
芳子 それがうまいことできずにグダグダなっちゃったりね…。
一同、少し反応に困った様。
芳子 へへ…まぁ、美樹ちゃんらはこんな思いせんようにな。
美樹 …。
美樹、黙っているのに何かを話している。
花奈 あの！
芳子 うん？
花奈 やっぱ悔しいですか？
芳子、目を伏せる。
つづく…
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