創作脚本の部屋へ作 井上唯香 潤色 五ノ井幹也
【登場人物】
樹 一組アルバム委員
藤川 二組アルバム委員
三田村 三組アルバム委員
紫倉 四組アルバム委員
後藤 五組アルバム委員
村木 六組アルバム委員
波本 七組アルバム委員
安平 八組アルバム委員
ミナミ 図書室掃除当番
西川 〃
ユッコ 〃
黒川先生
『放課後の図書室』
図書室の中。長机がいくつか並び、その横には小さな本棚と背の高い本棚が数台
置いてある。の隣にはキャスター付きの脚立。横には掲示用の黒板。掃除中らしく
椅子は全て机の上に置かれている。一人の少女が思い詰めた表情で置くから現れ、
手にしたロープを脚立にかける。周りを見渡すとおもむろに台に乗り、ロープに首を…。
その時奥からちりとりと箒を持ってミナミと西岡が現れる。
ミナミ 終わり終わり。
西 岡 ユッコ！ゴミ捨てして帰ろ〜。
二人は良からぬコトを企てるユッコの姿に目を疑う。
ミナミ ユッコ！
西 岡 あんた、何やってんの！
ユッコ とめないで！
ミナミと西岡は悲鳴を上げつつユッコに飛びかかる。もみ合う三人。ミナミは体を、
西岡はロープをつかむもんだから苦しむユッコ。そのうちパニック状態の中何とかロープ
がはずれる。
ユッコ なんてコトするのよ、ばかぁ！（と言いつつ西岡に平手打ち）
西 岡 なんで！
ミナミ 普通こっちが言うセリフでしょ。
西 岡 そうだよ。何でわたしがたたかれんの！痛いぃ。
ユッコ 苦しいじゃない！
ミ・西 え？
ユッコ 死んだらどうすんの？
ミナミ 死なないの？
ユッコ …あ、
見つめ合う三人。
ユッコ やっぱ死ぬ。
西 岡 だからやめなって！ミナミが死なないのなんて言うからでしょ。
ミナミ そういう意味じゃないって。
西 岡 （ユッコを再度確保）いいからここ座って。
ミナミ ねえ、ユッコ。どうしたの？
ユッコ 本命、ダメだった。
ミナミ …栄養、難しいからね。
ユッコ ３つ受けたの、滑り止め…。全部ダメだった。
西 岡 あぁ〜。入試で失敗したぐらいで何よ。一般があるじゃない一般が。
ユッコ 西岡は決まったからそんなこと言えるのよ。担任が言ったのよ、この三つ受けてれば絶対大丈夫だから落ち着いて
いけってね。絶対大丈夫って言われて落ちてくるわたしって何？
西 岡 絶対なんて世の中に無いのよ。絶対なんて言ったあいつが悪い。
ミナミ そうそう。私も一般ねらいだし。
ユッコ 違うの、推薦でないとダメなの。あたしは推薦じゃなきゃどこにも行けないの！
ミナミ なんで？
ユッコ 一般には英語があるのよぉぉ〜
西 岡 あぁ〜、英語ね。
ユッコ あたし英語って聞いただけで足がすくむの。暗号に見えるの、イントネーションは絶対違うの選ぶの、ｐｕｔの活用だって
最近ようやく分かったの。でもテストに出たら間違えるの〜。
ミナミ 重症だ。
西 岡 そういえばユッコ、この間『Ｉ ａｍ ａ 靴がない』って言ってた。
ユッコ 一般は無理なの。
西 岡 だからって死ななくても。
ミナミ そうだよ。
ユッコ 死のうなんて思ってなかった。でもね、そのヒモ見てたら、もしかして、このまま死んでしまった方がいいのかもってふと
思って。苦しくなったらやめようと思ってたのよ。そしたらミナミと西岡が来てくれて、ぐいぐい引っ張るからよけいに苦しく
なって。
ミナミ ごめん。
西 岡 悪かったよ。今度は止めない。
ユッコは静かに泣いている。
ユッコ やっぱり止めて。あたし、馬鹿だから。
西 岡 …、ちょっと散歩してくる。ついでにこの子送って帰るわ。
ミナミ あたしも行こうか？
西 岡 うううん。いい。幼なじみって言うの？こういうの慣れてるから。
ミナミ そうなんだ。
西 岡 うん。明日になったら忘れてるよ。掃除あと、お願い。
ミナミ 分かった。
帰っていく西岡とユッコを見送るミナミ。我に返るとゴミ箱にちりとりの中のゴミを捨てる。
ふと見ると首つりの輪が。脚立に登って取ろうとするミナミ。奥から先生が入ってくる。
先 生 掃除終わった？
ミナミ あ、はい。今ちょうど。
先 生 ちょっとミナミさん。その物騒なもの何？
ミナミ あ、誤解しないで下さい。私じゃありません。
先 生 じゃ誰？
ミナミ 誰でもありません。すぐ片づけますから。
先 生 そう…。じゃあ今日はもういいわ。
呼び出しの放送。
放 送 黒川先生、黒川先生。お電話が入っております。職員室までお越しください。
先 生 じゃあ、行くわね。この掲示物、黒板に貼っといてくれる？あそこにあるのみんな外していいから。
丸めた掲示物をミナミに手渡す。
ミナミ はい、解りましたー。
先 生 鍵は開けといて。この後、ここでアルバム委員会があるから。
ミナミ はーい。
先生は図書室を出て行こうとするが思いとどまって帰ってくる。
先 生 念のために言っておくわ。（ロープ没収）図書室ではターザンごっこは禁止よ。
ミナミ 分かってます。
先生は図書室を出て行く。
ミナミ これ何だろう？
掲示物を一つ手にして広げる。
ミナミ 『悩みの相談室』。一人で悩まないでねか。ユッコにあげよ。『スポチャン』？何これ。……『スポーツチャンバラ』？
『「チャンバラごっこ」をスポーツの土俵に引き上げたものである。』…スポーツぅ？うっわ、世界大会とかあるんだ。
チャンバラに。
何かを考え、掲示物を再び丸めて置くと箒を持った。
ミナミ (箒を振り上げて)とうッ。…？なんか違う。…おりゃあぁッッッッ
ミナミの携帯が鳴る。
ミナミ (箒を傍らに置き電話を取って)あ、美咲だ。もしもしー、…今、掃除終わって帰るとこー。…え？補習？…あーーーッ
忘れてたーッ！え、四時からだっけ？！今何時？五十七分？走れば間に合うか…解った！今すぐ行く！（カバンを
持って）とう！
ミナミは電話を切ると、慌てて図書室を走って出て行った。
『アルバム委員会』
すれ違うように入ってきたのは先生と樹。
樹 ねぇ先生。アルバム委員会ってどれくらいかかるの？あたし早く帰りたいんだけどー。
先 生 帰ってすることでもあるの？
樹 ドラマの再放送！今日、最終回なんだよーッ
先 生 それなら諦めなさい。勉強するって言うならまだしも…受験生っていう自覚を持ちなさい。
樹 ち、違うって！そうそう勉強するんだよ！
先 生 別に時間が遅くたってできるでしょう？
樹 再放送見ながら勉強するんだもん！
先 生 ながら族は成長しないよ。
樹 う…。
先 生 心配しなくても、さっさとやればすぐ終わるわよ。受験生を長時間拘束する気はないから。
樹 何すればいいの？
先 生 この写真を、項目ごとに選んで頂戴(樹にプリントを渡す)
樹 (プリントを見て)何々？『入学式、修学旅行、球技大会、文化祭、体育大会、各クラススナップ』…『それぞれ一項目
につき、十枚程度。』
先 生 写真を選んだら、この画用紙にページのレイアウトをして欲しいの。
樹 写真貼り付けてするってこと？
先 生 ええ。下校時刻までに出来なかったら持って帰ってもいいし、明日やってもいいわ。今週中に仕上げてくれれば
いいから。
樹 わ、みんな若い。なんか楽しそう…。わっかりました！
先 生 ドラマの再放送はいいの？
樹 いやいや、一回再放送してるからその内またするしいいんですよ！
先 生 ……調子いいんだから。
入り口から話をしながら三田村と紫倉が入ってくる。
三田村 あー、いっちゃんだ！
紫 倉 いっちゃん？
三田村 一組の樹。『いつき』だから『いっちゃん』
先 生 三田村さんと紫倉さんもアルバム委員だったわね。
三田村 いっちゃんも？良かった。いっちゃんで。
樹 なんじゃそりゃ。
三田村 だって知らない人ばっかりじゃ嫌でしょ？ねぇ？
紫 倉 なんで？私誘っといて。
三田村 だから、紫倉以外に、だよ。
樹 仕方ないでしょ。
紫 倉 そうそう。
三田村 先生、今日って何するんですか？
先 生 ごめんなさい、樹さんに言っておいたから聞いて。今から職員会議なの。後頼んでいい？
樹 あー、ハイ。
先 生 じゃあ、コレ出席表だから来た人は自分の名前に丸するように言っておいて。また後で見に来るから。
三田村 はーい。
先 生 じゃあよろしくね。
先生は図書室を去る。
三田村 で、何すればいいの？(樹に)
樹 項目にあった写真を十枚ずつ選んで、レイアウトすればいいんだってさ。
紫 倉 写真ってコレ？
樹 うん、そう。
紫 倉 これ、多くない？
樹 三年間の歴史って奴。あたし達も大きくなったから。
三田村 だよね。
樹 ちゃい、さわんな。
遠くから誰かが走ってくる足音。すぐに藤川が走りこんでくる。
藤 川 ふぅ。セーフ。…お、よう。樹。
樹 今度は誰から逃げてたの？
藤 川 近藤。
樹 は？いやいや、寒いよ。
藤 川 こ・ん・ど・う。
樹 …あぁ！近藤か。何かのギャグかと思っちゃった。
藤 川 …アイツ、推薦貰って自分は安心だからって最近調子乗ってんだよ。自慢してきやがるから足引っ掛けて逃げて
きた。
樹 …よくやるよ。この間は生徒指導の星野先生。その前は二組のクラス委員。高校生にもなってやんちゃだねー。
藤 川 人をガキみたいに言うなよ。
紫 倉 藤川もアルバム委員？珍しいねー、こういうの嫌いでしょ。
藤 川 俺だって嫌だったよ。どう考えたってアルバム委員なんか女子のやるもんだろ？なのに、じゃんけんに負けたん
だよ。
紫 倉 (唐突に)最初はグーッ、じゃんけんぽん！(紫倉が勝つ)…やったぁーッ！
三田村 じゃんけんぽんッ(三田村が勝つ)やっりぃッ
樹 じゃんけんぽんッ(樹が勝つ)うっわぁ、マジでじゃんけん弱ッ
三田村 こりゃ仕方ないね。
藤 川 くっそぉー……
『あの人が来る』
藤川は鞄を置くとイスに座って机に突っ伏した。
紫 倉 ねぇ、樹さん。この写真をどう選べばいいの？
樹 そこに項目書いたプリントあるからそれ見てだって。
三田村 ふーん。あ、さっきの出席表見せてよ。
樹 ハイハイ。(手渡す)ついでに丸しといてよ。あたしの名前含めて。
三田村 了解。(プリントを見て)……げ。
紫 倉 どうかした？
樹 みっちゃん？
三田村 うそでしょー？村木もアルバム委員じゃん。あたしヤだよー？
樹 村木…あー…村木ね。
藤 川 村木ィ？
紫 倉 え、誰？村木って。
樹 (三田村に聴こえないように)六組に村木って女子がいるんだけどね、仲悪いんだよ。
三田村 仲悪いんじゃないの。嫌いなだけ。
樹 ほぉら。
紫 倉 村木さん…あぁ、この間まで生徒会役員してた人？
三田村 そうそう！何あの澄ました顔！すんごいムカつく！
紫 倉 えー、でもさー悪い人に見えないよ？村木さん。それにさ、なんか三田村と雰囲気似てるよね。
藤 川 あーッ、それなんか解る！
樹 あーあ。言っちゃった。
紫 倉 え？
三田村 はぁ？！アイツとあたしが似てるゥ？！冗談やめてよ…あんな根性悪と一緒にしないで！大体、昔っから気に入ら
ないんだよ！普段は『三田村―』ってひっくい声で言う癖に、都合悪くなると猫撫で声で『みっちゃーん』…キモいん
だよ、このヤロウ！
樹 みっちゃん、口悪いよー。
紫 倉 そうだよ、誰が聞いてるかわかんないよ？
藤 川 とか言って本人が聞いてたりしてー。
入り口に人影(安平)。四人は気付かない。
三田村 いいよ、別に。聞きたきゃ聞けばー。もう、何もかもムカつく！村木に似てるって言われることも、中学ん時だって
委員長会で一緒だったし、誕生日だって一日違いでいっつもひとくくりにされてもううんざり！
安 平 へ〜ぇ、そうなんだ。
間
樹 なんだ、安平かァ〜…もう焦るじゃん！普通に声かけてよ。
安 平 村木だと思った？
藤 川 思った。
安 平 心配しないでも村木だったら黙って聞いてないよ。
三田村 ……それもそうか。
紫 倉 にしても、本当に嫌いなんだね、村木さん。
藤 川 でも、選択の授業とか普通に喋ってんじゃん。
紫 倉 そーなの？
三田村 話をするのと、嫌いなのとは別！
安 平 よく喋っててケンカにならないね。
三田村 今更。
樹 女ってそんなもんよ。
藤 川 女って恐えーッ
そこへ、今度こそ村木と後藤が話をしながら入ってくる。
村 木 本当マジでありえなくない？何あのハゲ！
後 藤 まだ怒ってんの？
村 木 だってムカつくじゃん！偉そうに言いやがって、お前の頭が反射してまぶしいんだよッ！
紫 倉 ごっちーッ
後 藤 紫倉―。
後藤は村木から離れて紫倉に近づく。村木と三田村は目が合い、一瞬お互い動きが止まる。
村 木 あ、樹ィーーッ！
樹 やっほ。
村 木 あんたいつになったら漫画返してくれんの！
樹 え？あぁ！忘れてた！持ってくる持ってくる！明日絶対持ってきてちゃーんと六組届けるから。
村 木 そういって何ヶ月経つと思ってんの。
樹 今度は絶対だって、ね？だからそんなに怒んないでよ。
村 木 ホント？今約束したからね？
樹 ホントホント。絶対持ってくるから。
安 平 相変わらずぴりぴりしてるねぇ。
村 木 別にぴりぴりなんて…。
樹 そうは見えないけどー？
村 木 樹！
藤 川 おいおい、なんだよー。もしかして男子は俺一人？あーもー最悪。
三田村 あ、でもホラ。コレ見てよ(藤川にプリントを見せて)波本も委員らしいよ？
藤 川 七組の？マジで？やった！
安 平 でもそれなら早く来ないとね。もう時間が時間だし。
三田村 それもそっか。早く終わらせて早く帰ろーっと。紫倉―、早く作業やっちゃおー？
紫 倉 はぁい。ごっちも行こッ。
後 藤 作業って何すんの？
紫 倉 写真を選んでレイアウトするんだって。
後 藤 写真？
三田村 アルバム用の。
藤 川 だいぶ量があるよなー、この写真の山(写真の束に手を伸ばす)
安 平 そりゃあ三年間の写真が全部あるわけだから、山にもなるでしょう。
樹 歴史、歴史だよ。
紫 倉 なんか面白いのないかなー。
後 藤 面白い写真探すわけじゃないでしょ。
藤 川 …おっ、これ樹じゃねぇ？
三田村 どれどれ？あ、これ入学式ん時のだね。
安 平 本当だ。(笑って)うわぁー何この仏頂面―。樹―ッ
樹 え、何？
藤 川 (樹に見せて)ほら。
樹 うっわあぁぁッ何この写真！勝手に見てんなよ！(藤川から奪い取る)
村 木 どんな写真？あたしにも見せてよ(樹の手から写真を取って)
樹 え、ちょっと見るなって！
村 木 (笑って)うっわぁー、すっごい澄まし顔―。あ、これメガネ違うんじゃない、今と。
三田村 ホント、黙ってたら優等生に見えるのに。
村 木 ずっと黙ってれば？内申上がるかもよー？
樹 今更上がんないだろ！返してよ！(再度奪い取ろうとするがかわされる)
藤 川 (村木から写真を受け取って)いいじゃん、この写真アルバムに入れようぜ。
三田村 賛成―ッ
樹 くっそぉー。
端でしゃがんでいじける樹。
紫 倉 大丈夫？樹さん。
樹 あぁ、大丈夫、気にしないで…。
三田村 放っときなって。
村 木 (樹を見て)あんたそんな座り方してると一昔前のヤンキーみたいだよー
安 平 目つきも悪いしねー。
樹 はぁ？
三田村 ちょっと待った(樹の横に同じように座って)
樹 何よ。
三田村 やるならちゃんとやれ。眉間にシワよせて。
樹 こう？
村 木 違うって、こうだって(同じように座って)
樹 うっわー！村木すっげ恐いって！
後 藤 本物のヤンキーみたくなってんよ。
三田村 ほら、樹もやってみ。
樹 こ、こう？
村 木 違うって。こう。三田村もやってみ。
三田村 こう？
紫 倉 すごいすごい！
藤 川 うっわぁ…。
樹 こう？
安 平 そうそう！(笑って)それ三人でやってみてよ。
後 藤 私、写メろっかな。
紫 倉 いくよ？いっせーので！
走って波本が入ってくる。
波 本 遅くなりましたーッ
村・三・樹 (波本をにらんで)あぁ？
波 本 すすすすすすいません！！！！
藤 川 波本！
波 本 すいませんすいません！あああああのッ、えっと、掃除が長引いちゃってッすぐ来ようと思ったんですけどッなん
でか解らないけどオレしか掃除に来てなくてッ…えっとえっとえっと…ごめんなさいッッ！
波本以外 ぷッ…あははははははッ
波 本 …え？…えぇ？
樹 ごめんごめん。別に怒ってるわけじゃないからー。
三田村 そうそう。ちょっと遊んでただけ。
村 木 そんなに恐かったんだ。
後 藤 そりゃあもう。ホントに写真撮っておけばよかった。
女子六人はまだ笑いながら会話をしている。
藤 川 (波本に)最初はグー！じゃんけんぽん！
波 本 えぇ？(ワケもわからずとりあえず手を出す)
藤 川 ……負けた…。
三田村 また負けてやんのーッダサーッ
藤 川 うっせぇな！黙れ！
波 本 え、えぇ？
樹 波本が悪いわけじゃないから気にすんな。
藤 川 よし、波本。来い。
『宿敵』
藤川は波本を連れて女子の輪から離れる。
安 平 樹、あたしらも写真見ようよ。
樹 あぁ、…うん。
村 木 ねぇねぇ、これって何の時の写真？
後 藤 どれ？
村 木 この右側のって藤川…だよね。左ってこれ…。
後 藤 ……紫倉？
紫 倉 私―？
三田村 (写真を見て)これさー、なんか手繋いでるみたいに見えない？
村 木 あー、見える見える。
紫 倉 えぇ？！
村 木 (樹を引っ張って)こんな感じ？
樹と村木が写真と同じようなポーズを取る。
紫 倉 えぇ〜？！
三田村 もー、水臭いなー…なんで言ってくれないの紫倉。あたしら友達でしょ？
後 藤 紫倉。友達として忠告しといてあげる。藤川はやめとけ。
紫 倉 いやいやいやいやいやいやいや。そんなんじゃないってば！手を繋いでるように見えるだけでしょ？違うって
ほらよく見てよ！
三田村 言い訳したって無駄無駄。
紫 倉 だからぁ〜…
村 木 もー、そこらへんにしときなよー？
三田村 なんで？いいじゃん別にー。
村 木 嫌がってることやらなくても…。
三田村 あんたそれ人のこと言えないでしょ。
間
樹 (遮って)ねぇねぇ！この写真に映ってるの村木じゃない？ホラ、文化祭ん時の！
三田村 あたしちょっとトイレ行ってくるー。紫倉も行かない？
紫 倉 え、あぁ…うん。じゃあ行ってくる…。ごっちは？
後 藤 あ、わたしはいい。
三田村 行くよ。
紫 倉 う、うん。
安 平 いってらっしゃーい。
三田村は紫倉を連れて図書室を出て行く。
後 藤 これって何年の時の？
樹 えーっと…村木が舞台で挨拶してるってことは…去年のやつじゃない？ほら、生徒会役員してた時の。
安 平 さっきの樹の写真のこといえないくらい澄ました顔してるよねー。ほら、村木見てよ。
樹 村木？
村 木 何あいつ…。
後 藤 村木？
村 木 さっきの聞いた？何あの言い方。なんで人がいるところでああいうこと言うのかなー…。最悪。あいつのああ
いうところ嫌い。
安 平 まぁまぁ。
藤 川 (走ってきて)なぁ、さっきのプリントは？
樹 プリント？どのプリント？
波 本 項目の書いてあるやつが見たいんだけど。
村 木 だって思わない？自分のこと棚に上げて人のことばっかり言って。…何もこんな人がいっぱいいるところで言わ
なくてもいいじゃん。
藤 川 何なに、誰の話？
村 木 三田村。
藤 川 三田村のこと嫌いなの？
村 木 藤川も思う？ムカつくでしょ！三田村。
藤 川 いや、そうじゃなくて三田村…
樹 (藤川を遮って)藤川！ちょっと黙っといて！
村 木 三田村が…何？
藤 川 だからさっき三田村が村木の…てッ
樹は藤川を軽くはたいた。
樹 余計なこと言わないでいいの！
藤 川 何が！俺はただ本当のこと言おうとしただけだろが。
樹 言っていいことと悪いことがあるでしょ！
村 木 一体なんなの？
安 平 放っとき。
村 木 でも…
後 藤 ほら、村木ッ
後藤と安平は村木を藤川から離す。
藤 川 急に殴らなくてもいいだろ？！
波 本 ふ、二人とも落ち着いて。
樹・藤 おまえは黙ってろ！
波 本 (二人に殴られて)いたッ
三田村と紫倉が帰ってくる。
樹 あ、おかえりー。
藤 川 ……。
三田村 なに、またなんか言ったの？藤川。
藤 川 別にー。
後 藤 紫倉、ちょっと来てよ。
紫 倉 んー？
『昔の話』
紫倉は後藤に呼ばれて村木達の方へ。
三田村 あたしら中学ん時もしたよねー、アルバム委員。
樹 三田村いたっけ？
三田村 うっわ、ひっど。
樹 だって、ほら。そん時はあんまり喋ったこともなかったし。
藤 川 お前ら同じ中学？
三田村 うん。あたしと樹と安平と〜…村木も一緒。
波 本 オレも！
三田村 そうそう波本も。
藤 川 どおりで皆仲いいわけだ。北中だっけ？
波 本 うん。
藤 川 北中からウチ来た奴多いよな。
三田村 たまたまアルバム委員に多いだけだって。実際に比率みればどこも同じくらいだと思うけど？
藤 川 そーか？
樹 藤川って中学何処だっけ。
藤 川 俺は坂中。
波 本 坂中？
三田村 ほら、川から見える坂の上にある坂之上中。
波 本 あぁ、あそこか。川から見える坂の上にある坂之上中。
樹 それって逆さ坂の上にある坂之上中だよね？
藤 川 おまえら馬鹿にしてんのか。
三田村 本当のこと言っただけでしょー。
樹 坂中って他に誰がいんの？
藤 川 こん中じゃ俺だけ。
波 本 ここからじゃ遠いもんね、坂中。
藤 川 そーそー！ホントそれな！寝坊したら確実に遅刻だし。
三田村 家からどれくらいかかんの？
藤 川 チャリで普通に走って四十分。
樹 四十分？！じゃあ、あんた何時に起きてんの？
藤 川 五時半。
波 本 ごっ…
樹 五時半ん？！
三田村 ありえない！何それ！っていうか早起き似合わないよ。
藤 川 うるせぇな。朝練もあったしこの時間に起きないと間に合わないんだよ。
樹 そりゃ授業中寝たくもなるわ。
波 本 すっごいもんね。気付いたら寝てるし。起きてるのって体育ぐらいじゃない？
藤 川 おいおい、それは言いすぎだろ。
三田村 いっちゃん達同じクラスだったんだ？
樹 一年の時ね。
藤 川 コイツすっごいうるさくて。
樹 それはあんたでしょ。
三田村 で、実際は？
波 本 …どっちもどっち？
樹・藤 波本！
三田村 あんた達ホントいいトリオだね〜。
波 本 よく歴史の話で盛り上がってたよ。
三田村 歴史？
樹 そうそう！こいつがありえないこと言うから！
藤 川 なんだよ、ありえないことって！石田三成のどこが悪いんだよ！
樹 悪いも悪い！何言ってんの！陰険で策略家のくせに戦はちっとも強くないのよ。だから関ヶ原の戦いで負けんのよ。
藤 川 陰険で策略家って誰が決めたんだ。見たんか？あ？
樹 見てないよ。見てないけど石田三成は陰険ってことで話は決まってるの。
藤 川 それはな、豊臣を滅ぼした徳川家康が自分を正当化するためにでっち上げた嘘八百なんだよ。三成は戦国時代を
代表する立派な武将だぁ！
樹 戦国時代と言えば織田信長でしょーッ？
藤 川 お前分かってねぇなぁー…。織田信長なんて歴史初心者が言うもんだ。
波 本 ほら。
三田村 はぁ〜ん。
樹 石田三成なんかマイナーなのよ！いいじゃない、織田信長なら誰だって知ってるし、一番の武将に決まってるでしょー？
藤 川 その考え方が甘いんだよ。メジャーな武将が強くてカッコイイとは限らねぇんだ。その証拠に信長はずっとうつけものっ
て言われてたじゃん。
樹 はぁ？そのうつけものが居たから戦国時代が成り立ってるんでしょうが。石田三成ってそんな強い武将だったわけじゃな
いし、どこがカッコイイのかわかんないし。
藤 川 確かに、強くなかったのは認める。だけどな、関ヶ原で石田三成は最後まで諦めなかったんだぞ？！時代に背を向け
て！男気あっていいじゃねぇか！
樹 男気？やだやだ、武将は男気だけじゃダメなのよ！信長はカリスマ性と戦のセンスだってずば抜けてるし。武田騎馬軍団
を破ったのは誰だって思ってるわけ？！
藤 川 はっ、何がカリスマ性だ。石田三成はなぁ、扇子持って闘うんだぜ。知らねぇだろ！
樹 扇子ッ？！何言ってんの、それはゲームの話でしょうが！それを言ったら信長だって魔王って言われて最強の武将だって
書かれてるんだから！
三田村 あたしさっぱり解らないんだけど。
藤 川 だからなんだよ！
波 本 オレもさっぱり。
藤 川 三成だってなぁ！
三田村 …二人とも、いい加減にやめなって！
樹 好き勝手言われて黙ってられるんもんですか！
藤 川 俺だって！
波 本 (写真を見て)あ、樹と藤川。
樹・藤 は？
『明日の話』
村 木 あぁ〜受験やだなーッ
後 藤 今更何言ってんの。
村 木 あたしはずっと思ってたよ。高校入ってからずっと。先生だってうるさいし、勉強しなくちゃいけないし。
紫 倉 じゃあ辞めればいいのにー。
村 木 行きたい大学があるの！
安 平 へぇ、村木大学行くんだ？
紫 倉 でも村木さんは生徒会役員やってたし、推薦取れたんじゃないの？
村 木 そう思うでしょ？！それが残念なことにあたしの志望する大学、推薦受け付けないんだよー。あたしはその為にわざ
わざめんどくさい生徒会役員やったっていうのに。
紫 倉 …そうなんだ。
安 平 紫倉さんと後藤さんは？
後 藤 私は就職するんだ。
紫 倉 私は大学。推薦で先週決まったとこ。
村 木 じゃあ二人は別々のとこに行くんだね。
後 藤 本当は途中まで私も大学志望してたんだけどね。
安 平 なんで急に就職に変えたの？あ、言いたくないなら言わないでいいんだけど。
後 藤 ううん。大した理由じゃないんだ。大学よりもそこの職場の方が学びたいこと学べるから。親は国立だったらなんて勝手
なこと言ってたけど無理に決まってるでしょ。それに大学は今じゃなくても行けるからね。
村 木 じゃあいつか大学も行くつもりなんだ？
紫 倉 え、そうなんだ。やっぱごっちはすごいね。
後 藤 ううん。今は何も考えてない。したいことがしたくて行くだけ。
紫 倉 でも私はごっちと同じ大学行きたかったなぁー。あのさ、もしかしてだよ、私が大学いる間にごっちが入学してくるなんて
いいなぁ。
後 藤 私が受けて受かるかなんてわかんないでしょ。
紫 倉 そんなことないよ、ごっちの成績なら絶対受かってたって！
安 平 後藤さんて頭いいんだ？
村 木 そりゃもう。あたし中間の結果聞いて負けたって思ったもん。
紫 倉 そうそう。絶対ごっちは大学行った方がいいよ。
後 藤 いやいや。安平さんは？
安 平 あたしは専門学校志望。入試はまだなんだけどね。
村 木 みんな頑張るねぇ〜。
安 平 あんたもでしょ。
村 木 もういいよ！受験の話なんて辞めよ。面白くないし。それよりほら、写真写真。
後 藤 村木が言い出したくせに。
安 平 まぁまぁ。
紫 倉 もう修学旅行の写真ないー？
安 平 これも修学旅行のやつじゃない？
村 木 言っちゃなんだけど、修学旅行しょぼかったよねぇ〜。
安 平 あたしは結構楽しかったんだけどな。
紫 倉 私もー。美味しいものいっぱい食べられたし。
後 藤 (写真見ながら)ホントがっついてるもんねー。後ろの男子だって紫倉見て驚いてるよ。
村 木 だって、隣の高校はハワイ行ってんだよ？！あたしら北海道。何この違い。
後 藤 終わったもんをグチグチ文句言っても仕方ないでしょ。
村 木 ハワイだよ？外国だよ？羨ましいじゃん。
紫 倉 ハワイって何が美味しいんだっけ。
安 平 あー、あれじゃない？マカダミアナッツ。
紫 倉 マカダミアナッツ？あー…コンビニとかでお菓子売ってるよね！
村 木 いや、あれは違うでしょ。
紫 倉 違うの？
後 藤 ハワイねぇ〜。私は北海道で良かったよ。
村 木 なんで？
後 藤 むしろなんで皆が外国に行きたがるのかが私にはわからない。日本で生まれたんだから日本をもっと満喫するべきだっ
て！温泉とか秘境とかいろいろあんだから。
安 平 あたしも日本の方が好きー。
村 木 えー？紫倉さんは？
紫 倉 私？美味しいものが食べられるところが好きー。
後 藤 また言ってるよ。
紫 倉 カニだよね、やっぱ。
村 木 何それ。
紫 倉 卒業旅行。ごっちと計画してるんだ。
後 藤 まだ本決まりじゃないんだけどね。
村 木 いいねぇ、それ。
紫 倉 でしょ。お金もないし結構日程厳しいんだけど、城之崎でカニ食べ放題なんて渋くていいかなぁなんてね。
後 藤 なんせ就職だから。しょぼい卒業旅行だよ。
安 平 もう計画してるんだ。
村 木 しょぼく無いって。自分たちだけでしょ、夢だよ夢。
紫 倉 そう？（なんか嬉しそう）あ、そうだ。良かったら一緒に行っちゃう？
後 藤 紫倉…。
村 木 え、いいの？行く行く。
紫 倉 ごっちと二人で計画始めたんだけど、人数多い方が楽しいかな、なんてね。ねえ。
後 藤 ん？まあ女二人ってのも、ね。
安 平 失恋の傷を癒す『傷心旅行日本海』
村 木 いぃ〜。癒したい！あ、その前に相手いない。
安 平 俺で良ければ。
見つめ合う二人。耐えられず吹き出し共にもだえ苦しむ。
後 藤 何だよ紫倉…。
紫 倉 ん？どうしたの？
後 藤 別に。
後藤は何故か不機嫌そうに紫倉のそばを離れる。気づかない紫倉。
つづく…