創作脚本の部屋へ 作：もみじ 潤色 ごのい
【キャスト】
後藤 朱里（あかり） 生徒会（二年）
辻 千夏（ちなつ） 生徒会（二年）
上谷 さくら 生徒会（二年）
関 美幸（みゆき） 文芸部（三年）
出口 桐子（きりこ） 生徒会（一年）
海老沢 舞（まい） 生徒会（一年）
山岸 司（つかさ） 生徒会（二年）
清水 義久（よしひさ） 生徒会（一年）
相田 純一（じゅんいち） 生徒会（二年）
海老沢 豊（とよ） 鉱物研究部（二年）
うどん屋店主・松風幼稚園園児たち
『私の王子様』
体育館の全校集会だろうか。生徒達のザワザワが聞こえている。そんな中アナウンスが入る。
桐子 次は生徒会執行部書記、上谷さくらさんより、体育祭前後の健康管理について連絡です。上谷さんどうぞ。
アナウンスの中、幕前下手よりさくら登場。ピンスポットがさくらを追う。
手にはマイクを握りしめ、緊張した表情である。あ、つまずいた。ようやくセンターにたどり着く。
さくら （一礼）ほ、保健関係の連絡になります。まだまだ暑いこの時期、熱中症と、熱中症と…、あ、水分補給、じゃない、つまり、えっ
次第にざわつく体育館。頭が真っ白になってしまった。全身の血が渦巻きの
ように頭の方へ上がってくる。目眩で世界がぐるぐる回っている。そこへ駆け
つけたのは司であった。
司 マイクの調子が悪いようなので交換します。大変失礼しました。（といいつつさくらのマイクを奪い新しいマイクを手渡す）
さくら え、これ、壊れてない。
司 ええから。それとこれ、カンペ。次はちゃんと覚えて出ろ。
さくら あ、ありがと。
そういうとカンペのメモ用紙をさくらに渡し引き上げる司。嬉しそうに見送る
さくら。マイクを左手、カンペを右手に思わず笑顔。
さくら 司はやっぱりうちの王子様や…。
一瞬の静寂。マイク入ってるやん！ 全校集会で何言ってるんこの子。ザワザワ
ひゅーひゅー。さながら学校へ行こうみたいな状態になっちゃった。
さくら （思わず絶叫）何でうちはこうなん？！
曲Ｃ．Ｉ． 幕上がる。そこには光と陰に覆われた高校生達。執行部の仲間達で
ある。印象的な姿勢でストップモーション。振り返ったさくらは肩を落としてとぼとぼと
仲間達の列に加わる。突然曲Ｃ．Ｏ．
『校長の依頼』
舞台は生徒会室。といっても、長机にイスが何個か置いてある。そしてホワイツボード。
本棚とか。さくらが義久に捕まえられている。その隣に純一。はじっこの方に司、
千夏だけ妙に熱い。皆手に台本。朱里がイスに座って眺めている。
千夏 きゃあー！ 助けて！（熱演）はい！
さくら きゃー（恥ずかしい）
千夏 助けてー！
さくら 助けて！
千夏、真ん中の方にでてくる
千夏 その子を離しなさい！
義久 くくく、ドバン、お前の本気を見せてやれ（棒読み）
純一 ドバババー！
ドバン、さくらに攻撃。
さくら ぐ…は。（台本を見て本当に倒れるの？という目）
朱里 （倒れる倒れる。のジェスチャー）
千夏 さっさと倒れる！
さくら ごめん。（と倒れる）
純一 ドバ？ ジョバババババー！（次はお前だの意）
千夏 きゃあー！（熱演）
義久 叫んでも誰も助けなど来んわ。くくく愚民共、平伏し、額を地面に擦りつけ、我に許し乞うがいい。（棒読み）
千夏 はいそこでもう一発。ドバン！
純一 ドバババー。
千夏 きょぁぁぁぁー！（熱演）
さくら こんな時…。こんな時に彼が来てくれたら…。（ぼそぼそ）
朱里 司！
司 （ぼぉっと自覚無し）
千夏 さくらも！
さくら 彼が来てくれたら！
司 （俺かよとセンターへ出てくる。）まてーい
千夏 あ、あなたは酒かすマン！
全員 酒かすマン！
司 酒かすって…
朱里 続けて！
司 やい。ド…ドッバウヨチ。その子を離せ。（やる気ないんだけど）
義久 むむっ。貴様か。（棒読み）
司 俺が来たからには安心しろ。チョベ…（台本凝視）チョベリバ安心しろ…？ちくしょう。
朱里 （「あってるよ」のサイン）
義久 貴様など内臓を引きずり出し、ハゲタカの餌にしてくれる。いけえ、ドバン。（棒読み）
純一 ドバババー！（司に襲い掛かる）
司 止めろ、お前気、（台本を見ながら純一に向かって軽く殴る仕草）こうか？
純一 グヘェー！（こてん倒れる）
司 だがこっちには…ひ…これなんて読むの（さくらに向かって）
さくら あ、えっと（台本を見て）人質。
司 ひとじ
義久 あ、先輩それ俺のセリフです。
司 あ、ごめん。
朱里 （「続けろ」のサイン）
義久 え、あ、はい。えーと（台本を凝視）くそう、だがこっちにはひ、ひ、ひとじ（棒読みの上噛む）
司 そうはいかな
千夏 だーっ！
皆が千夏の方を見る。
千夏 噛むなよ！
義久 （棒読みで）すみません。
千夏 棒読みかよ！
義久 あ、すんません。
千夏 人質くらい読めよ！
司 …。
千夏 無視かよ！
司 え、ごめん。
千夏 練習期間短いねんから、やる気出しなさい。
義久 はーい…。
千夏 さくらもやで。
さくら あ…うん。
千夏 ホンマ自分がせなあかんって自覚有るんか？ いつでもこないだみたいに誰か助けてくれると思うな。
さくら ちゃうねん。この間は高橋先生にいきなり言うこと振られたから覚えられんかってん。
千夏 嘘付け。前日までに自分で喋ることまとめられんかっただけやろ。高橋先生のせいちゃうわ。
さくら 朱里ぃ。
朱里 今回はがんばろね。
さくら 頑張ってるよ。
純一 俺のドバン。どうやった？
千夏 やる気は認める。でもドバババーしか言わんからなぁ。
純一 だって、書いてるのそれだけやん。
朱里 それをあれだけ演じ分けるなんて、すごいと思う。
純一 そう？
千夏 ま、ある種イジメかも知れん。負けんな。
純一 出来るだけのことはやってみる。
司 大体酒かすって…。
朱里 お酒の、搾りかす。
千夏 酒を絞った残りカスのヒーロー。
司 他にも方法あるやろ。市の活性化って…。
朱里 だって、ローカルヒーローとか最近よくあるやん？
義久 ご当地ヒーローのことですか？
朱里 そうそう。斬新でよくない？
司 よくない。人前でかす扱いされるなんて、俺のプライドが許せへん。
さくら （頷く）
司 言っとくけど、酒かすやったら俺、絶対せえへんから。
千夏 アンタに拒否権有ると思ってるん？
司 あろうと無かろうとイヤなもんはイヤ。酒かすやるぐらいやったら執行部解散するから。
朱里 そんなぁ。
司 ここだけは譲れません。任期もそろそろ終わりやのに、わざわざこんな仕事引き受けんでええねん。
朱里 だって、校長先生が。
純一 地域復興のため、ご当地ヒーローショーをしましょう。幼稚園とかでやりましょう！（ものまね）
朱里 説明ありがとうございます。
純一 いえいえ。
司 幼稚園とかって、一回だけとちゃうん。
朱里 うん。今の予定３回ぐらい。松風幼稚園と老人センター、他には商工会議所の秋祭り。
司 だっる。
義久 客層バラバラですやん。
朱里 とりあえず一番近いのは十一月の十日。松風幼稚園の学習発表会かな？
司 ん？ 十一月？
千夏 まあしゃーないやん。引き受けてもーてんから。
義久 でもー。
千夏 恥ずかしいけど。まあ、仕事やし。引き受けたからにはもう断られへんやろ。
義久 ですけど執行部解散するって…。
司 本気と書いてマジです。
さくら 千夏。なんとかならんの？
千夏 酒かすマン、なぁ。
みんなうなずく。
朱里 あかんかな。酒かすマン？
司 あかん。
純一 この台本書いたん誰？
朱里 文芸部の三年の関さん。
純一 ふーん。
義久 文芸部ってあの？
朱里 そう、小説とか書く部活。
義久 地下に潜伏して活動してたんですね。
純一 この学校色んな部活あるからな。
千夏 ここは、書き直してもらわなあかんやろ。
朱里 そう？
千夏 （むくれた司をアゴで指し）うん。
朱里 そっか…。
司 ただでさえ幼稚園のガキとか俺をバカにすんねんぞ。酒かすなんかやってみ。ナメられてモミクチャにされてなぶり殺しや。
さくら 目に浮かぶよね。
義久 それじゃ俺のセリフもついでに。これ子供に見せるもんじゃないですよ。
千夏 （台本見て）ぐみんども…。
純一 （台本見て）ないぞう…。
さくら （台本を見て苦い顔）
義久 こんなん嫌ですよお。
朱里 うん。変えよう。
義久 それから名前も。だってドッバウヨチですよ。どうなんですかこのネーミング。
純一 確かにそれは思う。
千夏 名前のひねり所を間違ってるよな。
司 替わったろか？（嬉しそうに）
義久 いえ、酒かすマンは嫌です。
司 く〜。
義久 で、読み進めていくと、ドッバウヨチ進化するんですよ。
純一 進化すんの？
義久 バリベヨチドッバウヨチに。
純一 バリベヨチドッバウヨチ。
千夏 繰り返さんでいい。
朱里 バリベヨチドッバウヨチ。
千夏 便乗せんでいい。
義久 ベリベヨチァエ
千夏 噛むんやったら無理せんでいい。
純一 バリベヨチドッバウヨチ。
朱里 これも訂正やね。
純一 俺の役に対するツッコミはまだか。
千夏 繰り返しは三回までや。
純一 えええー。
さくら バリベヨ…
千夏 話聞いてないんか！
朱里 分かった。関さんには執行部の総意として、台本の一部訂正を要請しておきます。
司 出来たらイベントそのものを撤回して欲しいけどな。生徒会は雑用係じゃないっての。
朱里 そんな言い方したらさ、まるで生徒会の仕事が雑用ばっかりみたいやん。
司 いや、だれもそうとは言ってへんけど。
朱里 じゃこのイベントは雑用で全校集会での委員会報告は雑用じゃないん？ おかしない？
司 いや、ま、どこからが雑用でどこからが本業かは難しいけど。
千夏 どうしたん。珍しく熱いやん、朱里。
朱里 うちらがこうして集まって何か出来るのも、任期が終わる十一月末までやねんで。そう思ったらさ、ねぇ、熱くなっちゃうのよ、あかん？
さくら そっか。もうひと月ちょっとで終わりか。
義久 大丈夫です、先輩らのやり残したことは僕らがちゃんと引き継ぎますから。
千夏 お前、何生意気言っとんねん。
司 いっそのこと今から酒かすマン引き継いでくれてもええねんけど。替わったろか？（嬉しそうに）
義久 それとこれは別の話で。
司 く〜。
千夏 ま、どっちにしろ最後のビッグイベントや。楽しもーや。
朱里 ありがとう。千夏。
純一 俺は最初からそのつもり。
朱里 うん。
千夏 で。これからどーする？
司 台本修正かけてもらうんやったら練習はそれからやろ。
純一 帰るか！
千夏 まあ…そーなるか。
純一 よっすあ！
それぞれに撤収の準備。
朱里 あ、じゃあ…次に集まんの明日でいい？
千夏 うちはいける。
男子群 いけるー。（ハモる。）
千夏 ハモんな。
朱里 さくらは？ 大丈夫やんな。
さくら あ…大丈夫。
千夏 後は一年か。なあ、舞と桐子まだ？
朱里 なんか遅れるとは聞いたけど。
千夏 一年何かやってんの？
義久 さあ。
純一 なんや。冷たいんちゃうんその反応。
義久 アイツのことはよう分からんです。
純一 何かあったん？
さくら 桐子、クラブか何か？
義久 （分かりませんのゼスチャー）
朱里 司、この後ちょっといいかな。
司 何？
朱里 うん。言っとかなあかんコト有って。
司 俺に？
朱里 うん。
純一 司、行くで。義久のお悩み相談有るらしいから。
義久 そんなんないですって。
司 あ、うん。俺ちょっと用事、有るみたいやから先帰っといて。
純一 あ、そう。
千夏 他人の不幸は密の味。うちも混ぜて。
義久 だからちゃいますって。
千夏 さくら、行くで。
さくら あ、うん。（荷物とかボロボロ落としながら司に）お疲れ様。
司 お疲れ。
朱里 じゃあ、関さんに変更点伝えとくから。
千夏 よろしくー。ほんでほんで。何やケンカか？ 倦怠期か？
義久 悪魔や、この人。
みんなそれぞれに生徒会室を去る。残されたのは朱里と司。
『告白』
朱里 皆元気やなあ。
司 せやな。
朱里 うち最近もうそんな体力無いわ。
司 同い年やん。
朱里 気持ちの問題かなー。
司 気持ちの問題かー。
朱里 そう。
司 うん。
朱里 司のさ、譲れないモノって何？
司 何、いきなり。
朱里 誰にでも大切にしてるものとか、こだわってることとかあるやん。そんな譲れないモノ。
司 出来たら酒かすマンは、勘弁して欲しいけど、そういうこと？
朱里 ちゃうねん。例えばさ、うちはな、この執行部で過ごした半年がさぁ、譲れへんぐらい大切。文化祭とか、オープンハイスクールとか、
ビックリするぐらい忙しかったけど、やりがいあったし楽しかった。
司 まあな。
朱里 ここには色んなモノがぎゅ〜〜〜って詰まってた気がするねん。放課後は毎日ここがうちらの居場所やった。
司 いろいろあったよな、ほんま。
朱里 それがもうすぐ終わってまうのかと思ったらな、胸がきゅ〜ってなって、切なぁくなって、もぞもぞってなる。
間。グランドの方から野球部の練習する音が聞こえている。
司 …あー…それで。
朱里 え？
司 その…話ってそれ？。
朱里 え、ああ。違う、今から言う。…あ、ほんまにごめんな、急に。
司 いやいや。
朱里 あの、えっと、その、それでね。
司 おう。
朱里 あの…話やねんけど。
司 …お、おう。（ドキドキ）
朱里 …こんなこと言っても、突然で…ビックリすると思うんやけど…。
司 い…いや、ビックリするような話なん？…。（バクバク）
朱里 その、えっと…、あ、今から言うこと二人だけの秘密な。
司 ひ、秘密って…。
朱里 約束？
司 大丈夫。
朱里 うちな…。
司 …うん。（ドキドキバクバク）
朱里 うち…！
司 …！（ドキがバクバク）
朱里 うち…、宇宙人やねん…。
間。
朱里 その、ホンマ突然何言い出すねんって思うと思うけど…！
司、無表情で固まったまんま。
司 あ。ドッキリ？
朱里 ドッキリちゃいます。
司 …へ？
朱里 どっから説明したらいいかな…。あ、ＵＦＯとかで来たんじゃないのよ。うちの星遠いし、肉体で行くのは無理やから。
司 …はあ。
朱里 で、その…わかりやすく説明すると、記憶。うちの記憶を機械で地球に送って、その、人間の体を借りるのね。
司 …はあ。
朱里 うちは今この朱里の体を借りてて、その朱里の脳…まあいわゆる記憶はそのままに、うちの記憶を追加するの。今ここには二人分の
記憶を持った肉体が存在してて…って、わかる？
司 いやその…え？
朱里 あ…ごめんね、ほんまにいきなりで…。
司 いきなりというか…え？ ギャグ？
朱里 ギャグちゃうよ。
司 だってうちゅ…え？
朱里 まあ、落ち着いて。
司 え、どう落ち着いたらいいかわからん…。
朱里 あ…やろうね。
司 なんか、その。あんまり突然で、その…いきなり宇宙人とかいうからさ、ビックリして。
朱里 …司はさ
司 …何？
朱里 自分の記憶が全部真実やって言える？
空気が変わる。
司 …へ？
朱里 見てきたもの、感じてきたもの、全てが真実やと言い切れる？ 何億と過ぎてきた年月の中で、たった十何年としか生きてないのに、
得た情報の全てを真実やと信じられる？
司 いやその、えっと。
空気戻る。
朱里 ごめん、何か。
司 …や、ごめん。こっちこそ。
朱里 あ、はは。ホンマに突然やもんね。そらビックリするよね。
司 あ、で、なんで…また。
朱里 うん？
司 …宇宙人って…、いきなり。呼び出してまで。
朱里 そうそう。それで…。またこれも突然な話になるんやけど。
司 …おう。
朱里 あの…うち、もうそろそろ星にかえらなあかんねん。
間。
司 星…。
朱里 星。
司 …。
朱里 ああ、やっぱ話突然で信じられへんよね…。
司 信じれるとかそういうんじゃ無くて…ギャグ？
朱里 だからちゃうよ。
間。司はほっぺたをつねってみる。だが現状は変わってくれない。朱里は手持ちぶさたそうに携帯をいじる。
司 星に…帰んの。
朱里 …うん。
司 そっ…か。星に帰っても、連絡とか取れるんかな。
朱里 これ？ ケータイとかは無理、かな。
司 そやんな。じゃ、それっきりか。
朱里 ごめん、何か。
司 いや…。
朱里 うち居らんくなっても…。その…。
司 何？
朱里 う、ううん。なんにもない。…ただね。
司 …。
朱里 星に帰る前に、思い出に、ヒーローショーちゃんとやりたいの。
司 そうなんや。
朱里 だって、はじめてやもん。生徒会の今のメンバーでこんなのするの。絶対楽しそうやん？
司 …。
朱里 もっと真面目にやった方が面白いと思うのね。確かに酒かすマンってのもアレやけど、変更してもらうように頼むけど、うちらも生徒会で
やれる最後の行事やし…。せやから。
司 …そんなん。
朱里 へ？
司 そこまで壮大な話で盛り上げんでも、フツーにちゃんとやれって言えばええんちゃうん。
朱里 壮大な話って。そんなんちゃうよ。
司 話、そんなけ？
朱里 まっ、待ってよ、司やったら聞いてくれると思って。困ったときの王子様やし。
司 純一とかがノってくれるんと違う？
朱里 冗談とちゃうよ。ほんまやねん。信じて。
司 あそ。
朱里 嘘とかそんなんじゃなくて、ただ、うちの気持ち伝えたかっただけで…。司やったら、手伝ってくれると思って…。
司 ってかさ、俺、今回…
朱里 ちゃうねん…その…ただ…うち…うち…。
悲しげな朱里。ストラップがフラリと揺れた。あーあ。やっちゃった。言いすぎたー。ちょっとフォローに移ってみる。
司 あ。その、ごめん。言い過ぎた…。
朱里 いきなりやもんね。信じてくれへんのも当然やわ。
司 あのさ、疑うわけやないねんけど証拠とかあるん？ 宇宙人の。
朱里 …証拠。
司 いや、やっぱええわ。練習頑張ろな。（去ろうとする）
朱里 二人だけの秘密にしてくれるなら。
司 え？（振り向く）
朱里 えいっ。
朱里のくくった前髪から光線が発射される。ぴかーっ。ビーム音の後に、ガラスの
割れる音。続いて何かの壊れる音。
朱里 …あ。
暗転。
『鉱物研』
明転。生徒会室と特に変わらぬ鉱物研究部部室。豊が居る。暗転中もって
入ってきたコレクションＢＯＸの中身を見てご満悦。喜びを体全体で表現。
純一、司、義久が入ってくる。司はなんだか放心状態。入ってきて早々、イスの
上に体育座り。
純一 えびー。
豊 おう。
義久 お邪魔します。
豊 知らん奴がおる。
純一 後輩。そのへんうろうろしてたから捕まえた。
豊 いいところに来たな。見るか、見ろ。（コレクションボックスから石を取り出す）
義久 何ですかそれ。
豊 ほたるいしぃ〜（満面の笑み）この結晶。可愛いやろ。色も薄緑で綺麗で。
純一 あー。きれいきれい。
豊 特にこの辺なんかいい色と思わん？ 紫外線当てたら綺麗に光るんやでぇ。だから蛍石ぃ。
義久 へぇー。凄い。
豊 やらんで。（嬉しそうに）
純一 そいつは残念や（棒読み）
豊 うへへ。
義久 好きなんですねえ、石。
純一 鉱物研究部作るくらいやからな。
豊 部員俺しかおらんねん。入らへん？
義久 丁重にお断りします。
豊 遠慮とか配慮とかそういうの持とう？
純一 お前、石のどこがええのん。
豊 どこがいいって。どこから話せばいいんや。
純一 長くなりそうなんで、一言で。
豊 そうやな…。石は神やな。
純一 はあ。
豊 綺麗なのもいいけど、地味な中にも魅力があって…。何もせんでも心を掴む…。わからんか、純一…。
純一 えびー。
豊 何。
純一 なんか面白いことない？ 石以外で。
豊 石以外か（舌打ち。でも思い返して）せや、舞がな、バナナダイエット始めてんけど、なんか品不足とかでどこのスーパーにも売って
へん言うてむくれとるねん。駅前の商店街でたまたま見つけたから買って帰ったら「うき〜、アリガトウお兄ちゃん」って。猿かアイツは。可愛いやろ。知ってた？ バナナ不足。
純一 石と妹以外で。
豊 何？ 今日生徒会ないん？
純一 あるでー。
豊 じゃあ行けや。
義久 まだ集合まで時間あるんです。
純一 行きたくないんやって。これともめてるから。
義久 もめてるってワケじゃ。
豊 先輩、後輩いじめんなや。
純一 溺れるモノは何とやら。ここは一つえび先生に悩みを打ち明けてみるというのも手やで。
義久 なんで今日会ったばっかの石マニアの先輩に話せなあかんのですか。
豊 蛍石、またの名をフローライト。化学式はフッ化カルシウムＣａＦ２。
純一 ごめん。俺が間違ってた。
豊 パワーストーンとしての効果には、落ち着きを取り戻させ、正しい判断に導く力があるとされている他、ストレスを取り除いて心身の
調和を保つ力があるとされています。
純一 この石に？
義久 そんな効果があるんっすか。
豊 いかにも。
義久 話してみよかな。
純一 意外といけるかも。
義久 あー。聞いてくれます？
豊 よし。お兄さんに言ってみ。
義久 彼女のことなんですけど。その…。彼女の気持ちがよおわからんのです。
間。
豊 そんなもの俺達がわかると思ってんのか！（くわっ）
義久 お、思ってませんけど！ ほら、パワーストーンとかで。
豊 石を過大評価するな！
義久 いいです。元から先輩らを頼りにしてませんから。
純一 豊、俺ら見下されてるぞ！
豊 こいつ窓の外に放り出せ！（腕掴む）
純一 了解！（足掴む）
義久 ひぃぃぃー！
ハンマー投げぶらぶらぐるぐる。
純一 何ぐるぐる回ってんねん。もうちょっと持ち上げようや。
豊 重い（落とす）
義久 だっ！
豊 もうだめ。体力だめ。
純一 せめてギャグを最後まで通すくらい頑張ろうや。
義久 俺、今のおいしくも何ともないですよ。
豊 大阪人のノリについていかれへん！
純一 俺は兵庫県民や。
豊 ばれたら仕方ない。
義久 ばればれですやん。
純一 豊はともかく義久はもうちょっと体力付けな、アクションシーンとかやって行かれへんで。
義久 ボスはそこまでせんでもええんですって。
豊 あ、そうか。生徒会、ヒーローショーすんねやって？
純一 そう。そう。せやねん。
豊 酒かすマンの。
純一 （司を気にして）いや、酒かすかどうかはまだ。（笑）
豊 俺生徒会入らんでよかった。
純一 人事のように言いよるな。
豊 人事やもん。
義久 恥ずかしいんですよ。
純一 司が主人公やねん。
司はあさっての方を向いている。
豊 どないしたん。
純一 朝からずーっとこんなん。
豊 なんかあったん？
純一 いや昨日さ。生徒会終った後、後藤に呼びとめられて。
司。ぴくっ。
豊 向こうから？
純一 向こうから。わざわざ俺らを先に帰らせてな。
豊 ほう。
純一 二人だけで。メールでも、電話でも済ませられない用事。
豊 脈あり？
純一 せやと思うんやけど。
豊 放課後二人っきりの生徒会室で「ずっと…司のことが…すき…」
純一 やき…。
豊 （純一を殴る）どうなん、どこまでいったん。
司、あさってを向いたまま。むしろ表情が険しくなった。
純一 それが、聞いてもこの有様でな。
豊 なんやねん、ピンクな思い出独り占めすんなやあー。
義久 ピンクっ…！
純一 お前、なんか反応小学生みたい。
豊 ちゅーか？ それとも大声で言えないようなことまでかあ〜？
豊がどつくと、司が無表情で笑い出す。
豊 （驚く）どっ…どうした？
純一 司が壊れた…！
笑い声が止まる。盛大なため息が漏れる。
豊 …ほんまにどうした…。
純一 言ってみ？ 聞くぞ。
豊 告白じゃなかったんか？
司 …告白やった…。
義久 せやったら。
司 愛じゃないほうの…。
純一 愛じゃないほうの？
豊 何のやねん。
司 …。
体育座りで、顔をうつぶせにする司。純一、豊、義久、顔を見合わせる。
豊 あー…その、女が全てじゃないぞ、世の中。
純一 そうそう。
豊 落ち込むな。
義久 どういう状況かよくわかりませんけど。
豊 青春は恋だけではない。
純一 あっ！ちょっと今カッコよかった。名言。
豊 いや、照れますな。
純一 もっと言ってやって！
豊 えっと…。
義久 女なんて、男の気持ちわからんように出来てる生き物なんですよ！
純一 お。
義久 最近つまんないだの、気を使えだの、乙女心をわかってないだの、使わすだけ使わせて友達と帰るとか…。
純一 憎しみこもってるぞ、義久。
義久 俺なりに精一杯やのにどこがあかんねやーー！
一人打ちひしがれている義久。
司 …例えばな？
純一 うん。
豊 聞いたろ。
司 好きな子がな。
純一 うん。
司 例えば、例えばな。
豊 わかったて。
司 …宇宙人やったらどうする？
間。
豊 とりあえず、司がちょっと普通の状態じゃないのはわかった。
司 あ、ほんまちゃうで、例えばやで。
義久 え…朱里先輩、宇宙人やったんか？
司 （精一杯首を振る）いや違う、その、宇宙人ではないけど、その、宇宙人並みのスケールの例え。うん。
豊 落ち着け。
司 で。…どうしたらいい…？
豊 えっと、えっと。
純一 ふ。今更なことを。
義久 えっ。
純一 答えは簡単や。
司 …何？
純一 精一杯愛する。
司 …はあ。
純一 好きになった子が宇宙人やというのなら、その子の星から地球からブラックホールからそのへん飛んどる隕石までひっくるめて
好きにならなあかん！
豊 隕石はとっても素敵やと思う！
司 はあ。
純一 これは義務や。愛し、愛され、恋という輪廻に生まれた人間としての…。いや、男のプライドとしての！
司 男の…。
豊 プライド…。
純一 せや。
義久 なんか先輩、輝いてます…！
純一 直視すんなよ。目ぇ焼けるで？
義久 （目を覆う）なのになんで今まで彼女居ないんですか。
純一 傷をえぐって楽しいか。楽しいんかお前。
豊 俺には居るのに。
純一 えっ。
豊 ほた〜るいしぃ〜。
純一 コメントに困る。
司 それがギャグやったら？
豊 俺の愛は真実や！
純一 （殴）え？宇宙人っていうのが？
司 （頷く）
純一 せやったら、そのユーモア性すらも包み込んであげるのが愛や。義務や。以下略や。
司、純一を見ながら何か考えている。だが、結局体育座りに戻る。
豊 ダメか、司！
純一 司には重すぎたか…。
豊 っていうか、お前ら生徒会ええの。
純一 え、今何時？
豊 ぽーん、四時。
義久 えっ。
純一 さっさと言え！四時集合やのに。
豊 遅刻どんまい。
純一 司。行くぞ。
司、体育座りで顔をうつぶせたまま動かない。
豊 …司無理そうやで…。
純一 司―っ！
義久 どうします？
純一 豊、手伝ってくれ。
豊 あ、生徒会室に運ぶの？
純一 （頷く）そっち持て。
豊 あいよ。
豊、純一、うまいこと体育座りの司を二人ではさんで去る。残された義久。
豊 （袖から）荷物―！
義久 あ、はーい。
義久、全員のかばんを持ち、少し悩んでコレクションボックスも持つ。
義久 重っ。
ふらふらしながら義久、去る。
『くすぶる女共』
サス位置にさくら。手にはコップを４つ無理して持ってる。人混みをかき分け移動しているのか？
さくら 譲れないもの。現状。現状維持。教室でみんなと居るとき、みんなが笑っていれば今がずっと続いて欲しいの。誰かがマイナス
パワー出しているときはそれ以上マイナスパワーを出す人が増えんとって欲しいなって思うの。さくら、ジュース買ってきてえやって
言われたら、うん他に要る人は？って聞いちゃうの。前うちが行ったやんとか、今度はあんた行ってよとか、断って空気読まれへん
みたいに言われるの無理。人混み任せ、風任せ。生徒会入ったのも、千夏任せ、風任せ。あっ。
誰かにぶつかった。コップが手から滑り落ち、床にころがった。別のサスに千夏と朱里。
千夏 数学爆発しーひんかな…。
朱里 いきなりなかなか無茶やねぇ。
千夏 …いんすうぶんかい…って何…。
朱里 今更聞くか。漢字では因縁の因に数字の、
千夏 やり方。
朱里 だからａ二乗＋２ａｂ＋ｂ二乗とか。
千夏 あー！ もう数学ほんま爆発しろ！
朱里 今度教えよか？ 数学。
千夏 ええなぁ朱里は。一生に一度でええからそんなセリフ吐いてみたい。
朱里 そんな。簡単な奴やったらってこと。
千夏 気持ちだけもらっとく。今お腹一杯や。
朱里 そうとう絞られたな？
千夏 滝沢。アイツの頭、絶対瀬戸物で出来てんでセラミィックちくしょう！ いつか数学準備室ごと爆破したんねん。どがぁん〜ぱっ
りぃぃ〜んって。
朱里 生徒会が学校転覆テロ目指してどうすんの。
千夏 当面の目標は地域復興と数学撲滅や。おっと一番乗りか。
生徒会室の明かりを点ける千夏。場面は瞬時に生徒会室へ変わる。
朱里は窓を開け、空気を入れかえる。
朱里 あのさ、今日関さん来てくれるって。
千夏 作者さん？
朱里 ちょっと怖かったけど、昨日の変更依頼はしっかり伝えといた。やってみましょうだって。
千夏 あの人なんか無意味なオーラ出てるもんな。分かるわ怖いって。じゃともかく酒かすは変更か。司もこれでちょっとはやる気出すやろ。
朱里 だといいけど。他にも衣装のことで相談したいんで…って言ってた。
千夏 ふーん。
朱里 今日はちゃんと練習できるかな。
千夏 …あんさあ、そのことやけど。
朱里 ん？
千夏 さくら、大丈夫かな？
朱里 大丈夫かなって？
千夏 あの子に演技とか無理やで。
朱里 まだ始めたばっかりやん。練習せな分からへんって。
千夏 そうかなぁ、あの子のでけへんぶりは半端やないで。
朱里 そうかな？ 千夏はさくらのこと近くで見過ぎてるからそんな気になるねんって。
千夏 時々ほんまイラッて来るんよ。すぐでけへんってパニクるし、なんかゴツゴツいろんなモンにぶつかるし。わざとやってんやろか。
朱里 そんなことないよ。
千夏 そら朱里は何でもすって出来るからあの苦労が分からんねんって。
朱里 なんでも出来るなんて大間違いや。うちにもでけへんこと一杯あるって。
千夏 何言うてるん。勉強でもスポーツでもなんでも出来るやん。その点うちは微妙に出来たり出来へんかったりやから。あ〜自分の
中途半端さが恨めしい。
朱里 千夏はそんなさくらをしっかりさせてあげたくて生徒会に引っ張ったんちゃうん。
千夏 そうやけど、今となっては余計なお世話やったんかなって、落ち込むこと多いで。だってあの子、半年前に比べて成長したか？
あ、そんなこと言うたらうちの中途半端ぶりも全然中途半端のままか。う〜ますます落ち込んできた。
朱里 二人とも半年で結構変わったと思うけどな。
千夏 そうかなぁ。人間変わるってホンマ大変やねんて。
朱里 せやけど…。
さくらが入ってくる。上半身制服。下半身短パン。
朱里 あ。
さくら 二人とも、早いね。
千夏 そーでもないよ。
さくら うちのクラス終礼長くて。
千夏 で、あんた。スカートは？
さくら え？ あ、うそ。ちょっと行ってくる。
朱里 どこまで？
さくら 食堂！
走り出すさくら。
千夏 なんでやねん！ 普通更衣室とか教室とかやろ。
朱里 そのまま行くん？
千夏 これ、はいて行け〜。
思わず千夏、自分のスカートを脱ごうとする。何かを巻いて帰ってくるさくら。
さくら 大丈夫。これ、巻いていくから。
再び走り出すさくら。見るとそれは応援団旗。派手である。
千夏 かえって目立つやろ！ ほんま。
朱里 突っ込みどころ満載やね。
千夏 ワザとやってるんちゃうかって思う気持ち、分かるやろ？
朱里 それやったら天才やん。
千夏 勘弁してよ。
朱里 うちはさ、あんなさくらも好きやで。
千夏 なんで。
朱里 だって、大事な友達やもん。
千夏 あの子に代わってお礼言わせてもらうわ。ありがとう！
桐子、舞が入ってくる。
桐子 こんちはー。
千夏 よう。
舞 さくら先輩、どうしたんですか？
朱里 ちょっと忘れ物。
桐子 で罰ゲーム？
千夏 みたいなもんかな。
桐子 廊下横幅一杯使って、ばっさぁって。ね。
舞 うん。ちょっと迷惑。
千夏 ところでさ、桐子。
桐子 はい。
千夏 昨日なんかあったん？ 来んかったから。
桐子 あ、すいません。数学の追試が中々終わらなくて。
舞 ウチもです。たいがいにして欲しいです。うちら文系やのに。
朱里 生徒会、数学弱すぎよね。
舞 出来る方がおかしいんですよ。
千夏 それだけか？
桐子 ええ。
千夏 ホンマに？
桐子 はい。
顔を見合わせる桐子と舞。千夏は何を聞きたいんやろ？
朱里 どうしたん？千夏。
千夏 いや、ええねんええねん。数学の追試が原因やったら話は早い。もうすぐ数学爆発するから。
桐子 え〜！
舞 わ〜い、賛成賛成。
朱里 するなよ、賛成。
千夏 それにヒーローショーの練習も台本のせいであんまり出来んかったからな。気にせんでええねんけど〜テンテンテン。
桐子 何です？
千夏 昨日な、ちょっと聞いてんけど、最近義久とうまいこと行ってないらしいやん。
桐子 誰に聞いたんですか？
千夏 いや、聞いたっちゅうか問いつめたっちゅうか、拷問したっちゅうか自白させたっちゅうか。義久。
桐子 あの、…喋り。
千夏 いやいや、そんなペラペラとは喋らんかってんで。でもな、青少年が物憂げな表情を浮かべとったからお姉様としてはつい聞いて
あげたくなってもうたんやなぁ。
朱里 千夏って生き生きしてるよね。こういう時。
桐子 なんかもの凄く悔しい気分なんですけど。
千夏 まあ片方だけの言い分を聞くのも不公平ってモンやん？ 桐子にも相談のってあげること無いかなって？
舞 まぁ聞いてもらったら？ おとといの。
桐子 それだけちゃうねんで
朱里 何？
千夏 乗ってきましたん？
桐子 義久信じられへんのですよ。
千夏 なんや、浮気か？ 暴言か？
桐子 おととい、義久と一緒に、うどん食べたんですよ。
朱里 うどん？
舞 ウチも一緒に行ったんですぅ。
朱里 好きやモンね、うどん。
舞 はい。
朱里 で？
桐子 そんときあいつ、卵上にのっけたんですよ。
朱里 うんうん。
桐子 そしたら白身だけ食べて、黄身は残すんですよ。何でって聞いたら、黄身は嫌いやからって言うんですよ。
朱里 あらら。
桐子 白身どうせ味無くないですか？ やったらはじめから卵いらんやんって話やないですか！
舞 桐子もてんぷら上に乗せて、中のえびだけ食べて、衣の部分全部残してたやん。
桐子 そしたら義久、うちの食べ方に文句つけてきたんですよ。人のこと言える状態かっての。
朱里 はあ。
舞 うちとしてはどっちの行動も信じがたいんですけどね。
朱里 なんかよくわからんけど、桐子が黄身を、義久が衣を食べればええ話とちゃうの？
舞 でしょ。でも両方譲らないからうち、どっちも食べたげよっかって言ったんですよ。でもくれなかったんです。
桐子 そういう「もったいない目線」での話はしてないわけですよ！
朱里 そう…ごめん…貧乏くさくて。
舞 食いしんぼで…。それでなんか一昨日はケンカなって、悪い空気のまま帰ったんです。
千夏 しょーもな…。
桐子 うちとしては譲れなかったんです！
朱里 そうなん？
舞 で。どーすんの。
桐子 別れよっかな。
三人 えええっ！
桐子 意見の違いというか、そういうので。
舞 いやいやいや。
朱里 それはさすがに。
千夏 義久もそんなん言ってたな。
桐子 あいつも？ 何それ腹立つ。
朱里 えええ。
舞 いや、ええやん。ごめんなさいしたらええやん。
桐子 頭絶っ対下げたくない。うち悪ないもん。
朱里 どっちもどっちちゃうのん…。
桐子 うちとしては「ああそうだね、ごめんね」って言葉がほしいの。そんな器がええの。義久はそんなん無いの。
舞 前の彼氏と別れたんもそんな理由やったねえ。
千夏 進歩ねぇ。
桐子 ええですやん。男は星の数ほどおるから。
千夏 女もね。
朱里 他人が口出す問題ではないとは思うけど、それで別れるってなんか腑に落ちひんよ。そういえばさ、告白ってどっちからやったん？
桐子 んー、うちからでしたねえ。
千夏 おおー。
桐子 いやでも、うどんはキッカケに過ぎひんのです。付き合い始めるとわかってくるのもあるんですよ。
千夏 何を？
桐子 初めはあんな性格と思わなかったとか。
朱里 義久、へたれやもんね。あ、ゴメン。
桐子 へたれはへたれでいいんですけど。
朱里 いいんや。
桐子 重要なのはへたれの次ですよね。いざとなったときにカッコイイだけで違うというか…。潔く非を認めてさわやかに謝るとか、人ごみで、
普段手なんて繋がないくせに「はぐれるだろ」なんてさっと手を取るとか。分かりません？このニュアンス。
千夏 わかる。それはわかるぞ。それこそ女のロマン！
朱里 わかる？
舞 （首を傾げる）
桐子 じーえーぴー！
千夏＆桐子 ＧＡＰ！（握手）
舞 えー。ヘタレはヘタレなのがいいんじゃないですか。
千夏 邪道。
桐子 男が情けないとかありえへん。
舞 そうかなあ。可愛くないですか？
千夏 ないない。な、朱里。
朱里 まあ、個人の自由というわけで…。
千夏 逃げた。
さくら息を切らせて帰ってくる。
さくら ただ今！
全員 うわっ！
さくら どうしよ。スカート、見つからへんかった。
千夏 いや、見つからへんにしてももうちょっと目立たんように帰って来いよ。
さくら だって。
朱里 上も体操服になるとか。
さくら あ、っそっか。
舞 そのかっこで校舎内縦断したんですか？
さくら 急いでたから。（応援団旗を返しに）
朱里 やっぱ天才やね。
桐子 さくら先輩は想像を超えてます。
さくら ごめん、遅くなって。
千夏 慣れてます。
舞 さくら先輩はどっちのタイプですか？
さくら 何？
舞 男の人はへたれでもいいか、それともいざというときになったら変身するへたれがいいか。
さくら 何よ。そんな話してたん？
朱里 まあ成り行き上。
桐子 変身して欲しいですよね。
舞 うちは無理して変身せんでもいいんちゃうかなって派です。
千夏 え〜ねん。さくらにそんな選択権はないから。
さくら そんな言い方ないわ。うちかって憧れって言うか、突然こんな人現れたらどうしよみたいな妄想すること、あるもん。
桐子 妄想って。
舞 さくら先輩にやけてます。
千夏 ほ〜、生意気な。ほな言ってみ？
さくら 変身、して欲しい。
桐子 ですよね。
さくら うん！
桐子 ですよね、乙女はそういうのにあこがれるもんなの。
朱里 そうなん？
桐子 先輩はわかってません！
朱里 ええー。
さくら 乙女の…。
ほわんほわんほわんほわんほわーん。さくらの脳内妄想突入。さくら以外ストップ
モーション。悪役義久がマント姿で登場。
さくら あなたは誰？
義久 ふはははは。お前のスカートは頂いた、返して欲しければ一千万円用意しろ！
さくら 助けてぇーっ。
義久 ははははは。叫んでも誰も助けなど来んわ。
さくら 誰かー。
司 （袖から）させるかっ！
司、異様にかっこつけてカボチャパンツと白タイツで登場。
つづく…