創作脚本の部屋へ作：ちゃっぴー 潤色：五ノ井幹也
【キャスト】
父（広志）ダメおやじ
母（友子）おっとり系。ぬけていて危ない
姉（秋菜）しっかり者。怒ると怖い。大学生
兄（真）無口。何かと我慢させられる。高校生
妹（亜美）みんなのお助け役。でも悪魔。小学生
近所の若奥様（鈴木）自分中心
兄の友達（直也）頭が悪い
姉の友達（誠二）さわやか系
『夏休み』
いわゆるオープニングシーン。家族のそれぞれが夏休みを象徴するアイテムを持って
集まっている。巨大な通知簿をお恐れながらとお母さんに差し出す女の子。にっこり笑った
お母さんはエプロンで手を拭くとそれを受け取り開いてみれば、見事にお顔がゆがむ。
それをきっかけに。
全員 夏休みだぁ〜！
音楽。お母さんは娘を追って、娘はお母さんに追われて退場。父と兄は足取りも軽く
ダイニングテーブルを運び出す。姉は手慣れた調子でテーブルクロスをかけ、花瓶に花を
挿す。ソファーに洋服掛けなども運び込まれ、あっという間に一家の茶の間が出来上がる。
その間に妹は大きな日めくりカレンダーを一枚一枚楽しそうにちぎっては投げを繰り返す。
こうして夏休みは過ぎていった。
『八月二十九日、朝』
夏休みもあとわずか 洗濯物やら宿題やらが散乱した居間。父は新聞を読んでいる。
姉はブツブツ言いながら片付けている。妹は夏休みの宿題に追われている。母は父に
お茶をついでいる。ラブラブである。兄は電話している。
母 はい、どうぞ。
父 ありがとう、友子さん。
姉 お母さん！ いちゃついてないで手伝ってよ！
母 ごめんね。何すればいい？
姉 そこの散らかってる本やチラシ、片付けて。
母 はい、はい。
姉 ちょっと、真！ 長電話やめてよね！ 電話代かかるでしょ！
兄 向こうからかけてきてるから。
姉 あ、そう。ならいいよ。ちょっと、亜美！ あんたまだ宿題終わってなかったの？
妹 もうちょっと。
姉 もうちょっとって言って、どうせ全然終わってないんでしょ！大バカ者！
妹 そうさ！ 私は大バカ者さ！
姉 今日何日だと思ってるの？
妹 七月二十九日。
姉 八月よ、八月。
妹 あぁ〜あ、ずっと夏休みならいいのになぁ。
姉 なに寝ぼけたこと言ってるの。ちょっと、お母さんも何か言って…何してるの？
母 え…？
姉 こんなに高く積んでどうするのよ！ 積み木じゃないんだから！
母 そうよね。ちょっと積み上げ過ぎちゃったわね。
姉 しっかりしてよ…。
父 友子さんがんばれ！
姉 その半分の半分で良いから。ひもで結んで！
母 はいはい。
父、新聞を持ってどこかへ行こうとする。
姉 お父さん。トイレの中に新聞持って入らないでよ！
父 …でも。
姉 でもじゃない！ お母さん…？何やってるの？
母 うまく結べなくて…。
父 友子さん。僕がするよ。
母 いいのよ、広志さん。私がしますから。
父 いやいや、こういう力仕事は男がするべきなんだよ。
姉 むすぶだけでしょうが！ もういいから！ 私がします！
父 そうか…。お姉ちゃんは、よく家のことをしてくれるなぁ。
姉 私がやらなかったら誰がするのよ。仕方なくやってるんだからね！
父 いかん。
姉 いかんじゃないわよ、さっさと行ってくる。
父 後は頼んだ。
母 気をつけてね。
姉 新聞置いていって！
父 （遠くで）これがないと〜落ち着かんのだ。
とか言いつつ父はける。姉はてきぱきと片付ける。母は結びヒモとの格闘中。真、電話を切る。
妹 お兄ちゃん、誰と電話してたの？ 彼女？
兄 直也。今から来るってさ。
妹 直也くん？ なぁーんだ。
兄 何期待してんだよ。
妹 直也くんもヒマ人だねぇ〜。しょうがないから遊んでやるさ。
兄 遊んでもらうんだろ。
妹 違う！ 私が協力して上げてるんだから！
兄 協力？
妹 う、違う！何でもない。
兄 は？
妹 早く来ないかなぁ、直也くん。何して遊んでもらおっかなぁ。
兄 宿題、早く終わらせろよな。
妹 はぁーい。
兄、はける。母、気になる広告を発見。赤ペンで素早くチェック開始。
妹 あ、そうだ。おねえちゃん。
姉 何？
妹 直也くん来るって。
姉 あ、そうなの。
妹 着替えたら？
姉 何で？
妹 もうちょっと女らしい装いに。
姉 はぁ？
妹 恥ずかしいと思わないの？
姉 そうよね。早く片付けないと…。亜美も手伝って！
妹 早く女になってよ…。
姉 何か言った？
妹 別に…。
姉 お母さん、どこへ行くの？
母 え？ お買い物。
姉 直也くん来るって。
母 そうなの。じゃ、おやつでも買ってくるわね。
姉 迷子にならないでよ。
母 ならないわよ。子供じゃないんだから。
姉 子供だと思うよ。ホント大きい子供！
母 行って来まぁす。
姉 ちょっと！おサイフ！
母 あらら。
姉 あららじゃない！しっかりしてよ…。
父、戻ってくる。
父 あ、友子さん出かけるの？
母 お買い物に。
父 そっか…。僕も付いて行こうか？
姉 ついていかなくていい！
母 ごめんなさいね、広志さん。一人で行って来るわ。
父 気をつけてね。行ってらっしゃい。
母 いってきまぁす。
父 早く帰って来てね。
母 はい、はい。
母、出かける。
父 行っちゃた…。
姉 すぐ帰ってくるよ。歩いて３分のスーパーなんだから。
父 はぁ…。
姉 どいて！邪魔！
居場所のない父。
妹 お父さん、おいで。
父 ありがとう、亜美。
ピーンポーン
姉 はぁーい。亜美！
妹 お姉ちゃんが出てあげなよ。
姉 早く！
妹 はい、はい。開いてるよー！
姉 横着者！
直也 こんにちは！
姉 いらっしゃい。真ー！直也君きたよー。
兄 よっ！
姉 ごめんね、散らかってて。
直也 いえいえ。
妹 ごめんね、お姉ちゃんも散らかってて。
姉 どういう意味！？
妹 そーいう意味。
姉 （ピコピコハンマーで殴る）
妹 （ピコピコハンマーで殴られる）
姉 直也君、お茶でも入れよっか。
直也 あ、おかまいなく。
姉 あ、そう。
妹 あ、そうって何よ。入れてあげてよ。
姉 うるさいなぁ。あんたが入れてあげてよ。私は忙しいの！
妹 もーう！
直也 いいよ、亜美ちゃん。
妹 良くない！よし、私に任せて！
直也 いや、あの…。
妹 私は直也君のキューピットだからさっ！
兄 キューピット？
直也 え？
兄 何？キューピットって。
直也 えっと…さぁ？
妹、すばやくはけてすばやく戻ってくる。手にはお茶とコップ。みんなの分お茶を入れる。
妹 はい、お姉ちゃん。
姉 気がきくじゃない。（飲む）
空になったコップを直也へ。まさか…。
妹 はい、どうぞ。
直也 いや…あの、犯罪でしょ。
妹 いらない？
直也 欲しい…けど…。
兄 何やってんだよ…。
直也 いや、あの…さあ？
兄 おまえ、まさか…。
直也 何？
兄 べつに。
妹 ばれちゃった？
兄 ばればれ。
直也 頼むから言わないでくれ〜。
妹 お兄ちゃん、言っちゃダメ！絶対ダメ！
兄 はい、はい。
妹 約束だからね！もしお姉ちゃんにばらしたら…。
姉 何？
直也 いや、秋菜さん違うんです！僕はそんなつもりじゃなくて、ただ…。
妹 直也君ダメ！ばれちゃうよ！
姉 だから何なの？
兄 実は直也さぁ…。
妹・直也 こらぁーー！
姉 うるさいわよ！いいかげんにしなさいよー！（恐い）
兄 あ、電話。
姉 もしもしはい、坂本でございます。あらぁ。はい、はい。分かりました、伝えておきます。はい。失礼しまっすぅ。
電話は姉を変える
妹 直也君、ホントにお姉ちゃんでいいの？
直也 …うん。
姉をじっと見つめる２人。姉は再び忙しそうに部屋を片付け始める。
父 直也君。
直也 あ、おじさん！居たんですか。すみません、気がつかなくて。
父 いいんだ、どうせ影がうすいんだ。
妹 あと、頭もね。
父 おいおい、まだ大丈夫だよ。
兄 なぁ直也。話って何だよ。
直也 え？ないよ。
兄 はぁ？じゃあ何しにきたんだよ。
直也 それは…。
妹 会いたくてしょうがなかったんだよね。
直也 …まぁね。
兄 誰に？
直也 えっと…それは…おまえに会いたくてしょうがなかったんだ！最近会ってなかったし！
兄 おととい来ただろ。
直也 そう…だけど…。
妹 もう！お兄ちゃんじゃましないでよ！私たちデキてるの！
父 な…なんだって！？
直也 亜美ちゃーん？？
妹 私と直也くんは両想いなのよ！ラヴラヴなの！もうすぐ結婚するの！
兄 おまえまだ小４だろーが。
父 亜美…ホントなのか？
妹 最近の小学生は進んでるのよ！
直也 あの…亜美ちゃん、それはマズイよ。
妹 いいの？みんなにバレちゃうよ！
直也 う…分かったよ。
兄 直也、考え直した方がいいと思うけど。
直也 オレもそう思う…。
妹、直也の背中をバチンと叩く。
直也 いや、いいんだ。オレ達結婚しまぁーす！
姉 え？直也くん？
直也 あ…秋菜さん。いや、あの…違うんです！
父 直也くん！どっちなんだよ！
姉 いいんじゃないの。うるさい妹ですが、どうぞよろしくお願いします。
直也 秋菜さん…。
父 亜美…。
父と直也、どこか似ている。
妹 話がややこしくなっちゃった。
兄 おまえのせい…？
妹 …宿題しなきゃ。
そこへ、大量の荷物をかかえた母と誠二が登場。
姉 お母さん！遅いよ。
父 友子さん！おかえり。
母 ただいま。
姉 誠二くん！どうしたの？
誠二 道でばったり会って。
母 荷物がいっぱいで困ってたのを助けてもらったの。
姉 そうなの。ありがとう。
誠二 いえいえ。じゃあ、帰ります。
姉 え？お茶でも飲んでってよ。暑かったでしょ。
誠二 でも…。
姉 いいから。座って。
誠二 そうですか。じゃあ。
姉 そうそう、お母さん。佐藤さんのおばちゃんから電話あったよ。
母 あらそう。
姉 自治会費半年分、１８００円集金に寄せて頂きまっすぅって。
母 やだ、もう半年たったの。時の流れって早いのね。
直也 亜美ちゃんあの人誰？
妹 誠二さん。お姉ちゃんの…
直也 秋菜さんの…？
妹 ただのトモダチ。
直也 なんだ…。
姉 はい、どうぞ。
誠二 ありがとう。
姉 お母さんいっぱい買ったわねぇー。
母 特売やってたのよ。
父 友子さんが特売に？
母 特売って大好きだわ。
姉 お母さんこう見えて特売のプロだもんね。
特売は母を変える。
誠二 そうなんですか。お母さん大売り出しとか苦手そうですよね。
母 あら、そんなことないわよ。
誠二 だって人混みの中とか押しのけて買うわけでしょ。
母 大丈夫。下の方は空いてるものなの。
直也 亜美ちゃん！今、おばさんのコトお母さんって言ってたよ。ホントにただのトモダチなの？
妹 ただのトモダチだよ。
直也 ホント？嘘ついてない？
妹 ねぇ、これどうやるの？
直也 え？どれ？えーっと…分かんない。
妹 …。
直也 ごめん。
姉 誠二くんどこか行くとこだったんじゃないの？
誠二 ううん。バイトの帰り。今日やめたけど。
姉 何で？
誠二 母さん入院したんだ。
母 あら、大変。
姉 え？大丈夫なの？
誠二 うん。ぎっくり腰…だから。
姉 あ、そうなの。
誠二 だから家事とか俺がするしかないからさ。
姉 一人っ子は大変だね。
誠二 あっちゃんみたいな姉さんいればなぁと思うよ。
姉 洗濯物とかたまってるんじゃないの？
誠二 山積み…。
姉 今度手伝いに行こうか？
誠二 いいよ、そんな。
姉 私、家事得意なのよ。好きだし。
誠二 でも…。
姉 いいから任せてよ。
誠二 ありがとう助かるよ。
直也 亜美ちゃん！秋菜さんあいつの家に行くって！どうしよう…。しかも“あっちゃん”って何だよ！
こんちくしょう！
妹 いいんじゃない。
直也 洗濯するって言ってるよ。
妹 そうだね。
直也 ホントにただの友達？
妹 …。
直也 亜美ちゃん！聞いてる！？
妹 聞いてるよ。
直也 じゃあ答えてよ！
妹 （手を出す）
直也 何？
妹 お金ちょーだい。
直也 え！？あの…ポテチとかじゃダメかな？
妹 あのねぇー、子供だからってなめないでよ！現金でいただきます。
直也 …いくら？
妹 （手をパーにして見せる）
直也 ５０円？
妹 本気で言ってるの？
直也 ごめんなさい。はい、５００円。
妹 よろしい。
兄 直也、おまえそれでいいのか？
直也 いいんだ！全ては秋菜さんのためだ！
妹 私が思うに、あの二人はデキてる。
直也 ウソォ！？ただの友達だって言ってたじゃないか！
妹 友情が愛情になるなんてことめずらしくないのよ！
直也 ごめんなさい。
妹 私の言う通りにすれば何とかなる。
直也 どうすればいい？
妹 まずはお父さんを味方につけるのよ。最近家の中でもお母さんのそば以外居場所をなくしかけてるから、
ちょっと優しくすればうまくまるめこめる。
直也 そっか。
妹 ほら、早く行きなよ。誠二さんにお姉ちゃんとられちゃうよ。
直也 よっしゃぁ！
直也、父に近づく。しばらく見つめ合う二人。
父 どうしたんだい？
直也 おじさん…いや、おとうさん！肩をもませて下さい。
父 え？
直也 失礼します！
直也、父の肩をもむ。しかし…バックの取り合いになり意味もなく盛り上がる。
父 いや、ちょっと…くすぐったいよ。ははは…。
直也 え…？
父 肩さわられるのダメなんだ。ごめんよ。
直也 そうですか…。
直也がっくり。亜美のところに戻って来る。
妹 まだチャンスはある！あきらめちゃダメだ！
直也 うん…。
ピーンポーン
母 はぁ〜い、開いてま〜す。
泣きながら若奥様登場。
母 あら、鈴木さん。どうしたの？
鈴木 おばさん…聞いてくれる？
母 えぇ。どうぞ、座って。お茶でも飲んで。
妹 また逃げられたな…。
姉 こらっ！
鈴木 あのね、おばさん。私まだ１８歳だよ！
母 知ってるわよ。
鈴木 まだまだ遊びたいし、欲しい物だっていっぱいあるし。
母 そうね、前も言ってたわね。
鈴木 それなのにあいつは何にも分かってないの！ひどいと思わない？ねぇ、まこりん！そう思うでしょ？
兄 はい？いきなり俺にふらないでもらえますか。
鈴木 逃げたのよ！また逃げたのよ！またまた逃げたの！
妹 違うでしょ。３回目だから、またまたまた逃げたでしょ。
直也 あの、何が？
鈴木 私の旦那様よ！
直也 え？奥さんに逃げられちゃった旦那様は聞いたことあるけど…。すごいですね。
鈴木 そう？
姉 すぐ帰って来るんじゃないですか？
鈴木 そうかな？
母 今度は何したの？
姉 台所が大爆発したとか？
妹 ゴミ屋敷復活させちゃったとか？
母 合コンに行ったの？
直也 えーっと、あの、だめだ！思いつかない！
兄 そんな無理しなくても…。
鈴木 みんなひどい！私そんなことしない！
妹 したじゃん。
鈴木 それは過去の話じゃない！
妹 どれも夏休み中の事です
鈴木 そうよ！それが何よ！
妹 大人になりなよ。
鈴木 あんたみたいなランドセルしょってるガキに言われたくないわよ！
妹 私だって言いたくないよ
鈴木 うるさーい！
姉 あの、落ち着いて。
鈴木 おばさん！おかわり！
母 はいはい。どうぞ。
鈴木 （一気飲み）
母 で、何があったの？
鈴木 あのね、今日お給料の振り込みの日だったの。それで…。
母 それで？
鈴木 前から欲しかったヴィトンのバック買ったの。
母 いくら？
鈴木 …５０万。
全員 でもね、私結婚してから一度もプレゼントなんてもらったことないのよ！
妹 新婚旅行帰ってからまだ１０日だよね。
鈴木 うるさい！
誠二 ２・３日に１回逃げられてるんですね。
鈴木 すぐ帰ってくるわよ！
姉 そーいう問題じゃないような気がします。
鈴木 しょうがなかったのよ！ずっと欲しかったの！
妹 子供じゃないんだから。
父 忍耐！ 忍耐だよ！
母 お給料、全部使っちゃったの？
鈴木 …うん。
母 これからどうやって生活するの？
鈴木 考えてなかった…。
母 じゃあ今から考えたら？
姉 お母さん？
鈴木 考えられない！どうしようー…。
妹 もうダメだね。
鈴木 ダメって何よ！
妹 もう帰ってこないと思います。
鈴木 何言ってんのよ！またすぐ帰ってくるわよ！
姉 そうですよ！ 亜美、余計な事言うんじゃないの！
妹 みんなそう思ってるんでしょ。
しーんとする。みんなそう思ってます。
鈴木 何でしーんとするのよ！ありえないでしょ！
妹 あんたのその性格がありえないんだ！
鈴木 そんな事ない！ねぇ、まこりん！
兄 まこりんって呼ばないで下さい…。
鈴木 もういいわよー。
立ち上がり、すみっこにいる父に歩み寄る。
鈴木 パパさんはどう思います？
父 え？どうって言われても…。
鈴木 私だってちゃんと家事してるんですよ！ちょっとぐらい自分へのご褒美買ったっていいですよね？
父 え？う…うん。いいんじゃないの。かわいいし。
母 広志さん？（怖い）
父 いや、友子さん違う！
母 知りません！
父 友子さん！
姉 鈴木さん！お父さんから離れて下さい。
鈴木 分かってるわよ。
妹 わが家までダメにしないでよ。
鈴木 それじゃあ私が疫病神みたいでしょ！
姉 いいから離れて
鈴木 （兄に近づく）
兄 ムリムリ！
鈴木 ムリって何よ！
兄 いや…。
いつのまにか男４人かたまっている。
鈴木 男なんていなくたって生きていけるのよ！
妹 じゃあ一人で生きてよ。これ以上犠牲者を出さないように。
鈴木 うるさい！もう帰る！
妹 どうぞとっととお帰り下さい。
鈴木 言われなくたって帰るわよ！おばさん、これいただいて帰りますね。
そこらへんにあるおやつを大量にお持ち帰りして帰っていく若奥様。おびえている男４人。
あきれている女３人。
姉 こら、男共！情けないぞ！
兄 オレ、あの人本気でムリ！
父 父さんも。
母 あら、かわいいって言ってたじゃない。
父 違うんだよ！あれは仕方なく…。
母 鼻の下のびてたわよ！
『不満の種』
必死になる父。母の怒りはおさまらない。ついには日常生活での不満が爆発する。
母 そこに座って。
父 （正座する）
母 何か私に言うことありませんか？
父 …ごめんなさい。
母 それから？
父 いや、あんまりにも冷たくするのもねえ、旦那さん出ていったばっかりだし…。
誠二 そうですよ。あれでも女の人なんだから、あんまり冷たくするのも。
母 それから？
姉 今、やばいから。
誠二 そうみたいだね。
父 誠二君、見捨てないで…。
直也 お父さんのピンチだ。僕が。
母 そ・れ・か・らぁ？
直也 ここで見守ってます。
妹 弱虫。
父 だって、ひと言いっただけだよ。かわいいって。
母 それから？
父 もちろん、友子さんが一番かわいいんだけどね。
母 話をそらさない。
父 本当ですよ。
母 広志さん、この際だから言わせてもらいますけど、せっかくの夏休みなのにどこにも連れて行ってくれ
ませんでしたね。もう今日が夏休み最後の日曜日なんですけど。
兄 ホントだ。
姉 お休みだと曜日の感覚、なくなっちゃうよね。
父 そうだよねぇ。（相づちを打つ振りをして逃走を図る）
母 まだ話は終わってません。
父 はい。
姉 海ぐらい連れてってほしかったな。花火大会も行きたかった。
妹 断然遊園地。
母 私はエステ。
兄 エステ？
母 そうよ。ベッカムとビクトリアのコマーシャル、知らないの？
妹 夏休みでエステ？
母 当たり前よ。連想ゲーム行くわよ。夏！
誠二 僕？ じゃ海。
姉 入道雲。
直也 太陽。
兄 サンオイル。
妹 小麦色の肌。
母 エステ。
父 ガキ大将。
誠二 虫取りアミ。
姉 セミ。
直也 虫かご。
兄 カブトムシ。
妹 力持ち。
母 むきむきエステ。
父 友子さん、今のはちょっと苦しく…？
母 なあに？
父 いえ。
妹 考えてみたらこの家にないものばかりだね。夏の連想ゲーム。
母 そうね。
兄 クーラーつけてテレビ見て、ごろごろしていた夏休み。
姉 暑いからさ、どこかに行こうって気もなかったけど、終わっちゃうとなると寂しいもんだよね。
父 …今から行く？
母 え？
父 今からみんなで行こうか！海もエステも花火大会も！
姉 ムリでしょ！
父 何とかなるよ！
姉 花火大会とかやってないし。
父 花火買って、海でやればいいよ。
妹 お父さんって単純。
父 友子さん、どうかなぁ？
母 どぅって…いいわよ、行きましょ！
姉 お母さん！？
母 さぁみんな、支度して！すぐに出発よ！
妹 お母さんも単純。
兄 俺、パス。
母 ダメよ。みんなで行かなきゃ。
兄 いいって。
父 おい、せっかく友子さんのきげんが良くなったのにそんなこと言うなよ。
兄 えー。
姉 いいじゃない。今日だけがまんして。
父 忍耐！忍耐だ！
父・母・兄・妹は出かける準備を始める。直也・誠二、どうしよう…というかんじで座っている。
直也 僕達、どうします？
誠二 …帰ります。（立ち上がる）
直也 そうですか。
誠二 帰らないんですか？
直也 帰りますよ。貴方の後に。
誠二 あの…僕、何か貴方の気にさわるような事しました？
直也 ホントは分かってるんじゃないんですか。
誠二 え？
直也 とぼける気ですか。
誠二 とぼける？
直也 はっきり言います！貴方には負けません！
誠二 ？？
直也 帰らないんですか？
誠二 …失礼します。あっちゃん、帰るよ。
直也 あっちゃんって言うなよな…
姉 一緒に行かないの？
直也 誘われてる！
誠二 いいよ。たまには家族で仲良くしろよ。
姉 大きなお世話。
誠二 まぁ。んじゃあ、ばいばい。
姉 ばいばい。
誠二 おじさん、おばさん。失礼します。
母 ごめんなさいね。ばたばたしてて。
父 今度ゆっくり。
誠二 はい。（直也に）帰らないの？
直也 帰りますよ。
誠二、みんなに挨拶して去る。
直也 亜美ちゃん！
妹 何？
直也 あいつ、挑戦的だよ。
妹 あ、そう。好感度また上げられちゃったね。
直也 なんで嬉しそうなの？
妹 ライバルが多い方が恋は燃え上がるの。がんばって。
直也 僕のこと応援してくれるんじゃないの？
妹 応援してるわ、だから５００円。
父 さぁ！出かけるぞ！！
姉 亜美、これも片付けなさい…亜美！
妹 ！
姉 あんたまだ宿題終わってなかったの？
父・母 え！？
妹 帰ってからやるよ。
姉 終わらないでしょうが！
母 おでかけできないじゃない…。
姉 バカ！
父 えーい、こうなったら…今からみんなで宿題すぞ！
つづく…