創作脚本の部屋へ 作：いっけ
【キャスト】
三年生
斉藤京奈 役者
高坂 要 演出
今井加枝 照明
大木千友美 作者
二年生
好美亜希子 音響
有村浩隆 役者
河田優美 役者
一年生
藤堂理穂 役者
西崎孝太 役者
舞台上には机。スタンドライトがおかれている。取調室の雰囲気。浩隆が入ってくる。
浩 隆 （周りを見回し）誰も居ないのかな？ お、このライト。雰囲気ある。さすが本物は違うぜ。（椅子に座ると）そろそろ吐いたらどうだ。
目撃者もいる、現場におまえの指紋、おまけに部屋から凶器の刃物も出てきてるんだ。物的証拠がこれだけそろってたらお前の
自白が無くても十分有罪を立件できるんだ。（机ばぁ〜ん！）カツ丼食うか？
優美と理穂がやってきて。
優 美 （銃を突きつけ）食わせてもらいたいもんだな、カツ丼。
浩 隆 えっ？！（手をあげる）
優 美 ここに一体何のよう？
浩 隆 何のようって、ここって特命係ですよね？
優 美 何でそれを？
浩 隆 失礼しました。今日からここに配属になった大下です。
優 美 そんなの聞いてたってけ？
理 穂 そういえば、そんなこと、言ってましたよ。
優 美 なんだ。
浩 隆 なんだってなんですか！
優 美 あ〜ごめんね。新人さんだったんだね。
浩 隆 ひどいですよ。
優 美 そういえば新しくここに配属された人がいるって言われたような？
浩 隆 それでも、いきなり銃を突きつけます？
優 美 このところ物騒な事件が増えてるから気をつけてたのよ。
浩 隆 物騒な事件って？
理 穂 警察内に爆破予告が届いたんです。
浩 隆 爆破予告！？
優 美 まぁイタズラだったらしいけど、この頃そういうの多いみたいだから警戒態勢なのよ。
浩 隆 だからって、あれはないでしょ！
優 美 そんなに、怒んないでよ。
理 穂 ここじゃこんなの日常茶飯事ですよ。
浩 隆 えっそうなんですか？
優 美 もっと神経図太く持たないと。
理 穂 ここは特命なんですよ。
浩 隆 あの、その特命って何なんですか？
優 美 いずれわかるわよ。
浩 隆 はぁ。
理 穂 それより自己紹介しないと。
浩 隆 あっ俺はこの度こちらに配属になりました大下勇気と言います！よろしくお願いします。
優 美 私は奥田すみれ警部補、よろしく。綿パンよ。
浩 隆 えっ？！
理 穂 私は杉下京都巡査部長です。よろしくお願いします。ちなみにショーパンです。
浩 隆 ショーパン？！ あのそれって何なんですか？
優 美 それって？
浩 隆 綿パンとかショ、ショーパンとか。
優 美 あだ名に決まってるじゃない！
浩 隆 あだ名って？
優 美 刑事ドラマにはよくあるでしょ。
浩 隆 今時そんな…。
優 美 何、なんか文句あんの？
浩 隆 いや、無いですけど。
優 美 苗字で呼び合うよりこっちのほうが親しみやすいし団結力も上がるの。
浩 隆 でも、杉下さんのショーパンはちょっとどうかと思いますよ。
理 穂 なんでですか？
浩 隆 いや、それはちょっと。一応俺も男ですし。
優 美 何言ってんの？
浩 隆 だって。
理 穂 何ですか？ 私にはショーパンは似合わないとでも言いたいんですか？
浩 隆 そもそも似合う、似合わないとか想像しちゃダメですし。
理 穂 別にそれぐらいみんな履いてるでしょ。
浩 隆 そうなんですか？！
優 美 あんた何か勘違いしてない？
浩 隆 だって、ショーパンって…勝負パンツのことでしょ？
理 穂 ち、違いますよ！
優 美 勝負パンツって何よ。
浩 隆 違うんですか？
優 美 ショートパンツのことよ。
理 穂 セクハラです。セクハラ！
浩 隆 ちょっと待って下さいよ。
優 美 まさか新人がこんなやらしい奴とは。
理 穂 変態！
優 美 よし！ あんたのあだ名はノーパンに決定！
浩 隆 え〜！ ノーパン？！
理 穂 賛成です。ぴったしですね。
浩 隆 そんなぁ。絶対嫌です！
優 美 もうこれは命令です。
理 穂 ノーパンさん。
優 美 ようこそノーパン。特命係に。
浩 隆 まじでノーパンなんですか？！
優 美 手柄立てろよ。
優・理 ノーパン！
要が手を叩き。動きは止まり、肩の力を抜く部員達。ここは高校の演劇部の部室。
黒板には文化祭まであと七日の文字。上手側に音響・照明席がある。要・加枝・
亜希子が座っている。京奈・孝太も隅に座って舞台を見ている。隅っこには大道具・
小道具が置かれてる。
要 ハイ、セリフは完璧。
加 枝 優美なんかも覚えてるしね。
優 美 ばっちしですよ。
京 奈 だってこのシーン何回目？
要 いや〜…何回目かな？（遠い目をしている）
浩 隆 俺、まじでノーパンなんですか？
加 枝 何？ ノーパンどうしたん？
浩 隆 だって途中どんないいシーンやセリフがあったとしてもですよ。ずっとノーパンって呼ばれ続けるんですよ。そんなの嫌だ〜！！
要 知らないよ。作者に聞いてよ。
浩 隆 だって、千友美先輩〜。
孝 太 先輩、俺の出番まだっすかね。
要 一年坊主のくせにだれっとしない。
孝 太 だって全然出番ないんですもん。
要 だから知らないよ。作者に聞いてよ。
浩・孝 先輩。
要 だって台本来てないんですもん。
亜希子 これってけっこう危険な状態？
浩 隆 たぶん…。
要 っていうかかなりだし。
優 美 今日も千友美先輩来ないんですか？
加 枝 ん〜また家にこもってるみたい。
京 奈 もう文化祭一週間前やで？
理 穂 ふつうどのぐらい前に出来上がるんですか？ 台本。
京 奈 そやね、一月前には毎日練習に入るってのが通常やから、台本もそれぐらいには出来上がってるかな。
理 穂 じゃ、めちゃくちゃ遅いじゃないですか。
孝 太 こんなこと今までにあったんですか？
亜希子 無いよ。音響や照明も台本見てから考えるから今のところホント打つ手なしって感じ。ですよね、加枝先輩。
加 枝 （ダメ紙を細かく破っている）そうね。
亜希子 はは、やっぱり危険な状態やわ。
要 いつなったら出来上がるんやろ？
孝 太 俺の出番は？！
要 それはわかったって。
浩 隆 ありえないですよね。
優 美 ここまで難産なのも珍しいし。
京 奈 そうやな。
亜希子 いつもはネタやら何やらポンポン生むのに。
理 穂 そうなんですか？
加 枝 千友美って何仕出すかわからへんからな。
要 いきなり音響に爆発音お願い！ とか言ってきそう。
亜希子 恐ろしい。
加 枝 でも刑事ものやからありそうやね。
亜希子 念のため銃声と爆発音とサイレンとヘリの発着音と用意してあるんですけど、マシンガンとミサイルとバズーカ砲も用意しとこう。
加 枝 グッジョブ。
孝 太 俺、出番はないし同じシーンばっかしで飽きましたよ。
要 あ、あ〜、ああああ〜。
孝 太 なんっすか。
要 今、誰もが思ってて言わないようにしてたＮＧワードをさらっと言ったな。
孝 太 要先輩なんか、観ながらあくびしてましたよ！
要 言うなよな〜！ こっちもイライラしながらＮＧワードに触れんように平静を装ってるんや。千友美の台本をひたすら祈る気持ちで
待ち続けてるんや。
浩 隆 先輩〜。
要 でもやっぱ、ちょっとは飽きて来た。
加 枝 たしかに。
浩 隆 でも、練習しないと。
孝 太 また同じ所っすか？
亜希子 もうちょっとやる気だして！
孝 太 やる気ってどうやったら出るんですか？
亜希子 ノリで！
孝 太 ノリっすか？！
亜希子 そうノリ！
要 それだ！
亜希子 えっ？
要 そうノリって大事なんだよね。今うちらに無いものはノリやな！ 決めた。イライラしても始まらへん。此処は開き直ってど〜んと
構えていこう！
京 奈 ノリがあってもどうしようも無いでしょう。
要 わかってないな〜。
京 奈 何がよ。
要 いつもの公演一週間前ってもっとみんなにノリがあってビッグウェーブが来てるんだって。
加 枝 たしかに。
浩 隆 奇跡の一週間って言いますもんね。
理 穂 何ですかそれ。
亜希子 公演一週間前って役者やスタッフみんながそこで急成長とげたりするねん。
理 穂 だから奇跡。
亜希子 そゆうこと。
要 あるかなん奇跡？
京 奈 ないかもね。
加 枝 そこはあるって言おうよ。
京 奈 なんで？
要 いや、だってうちら引退やし、ビッグウェーブが来て終わりたいやん。
京 奈 ふーん。
要 ふーんって、反応うすっ。
加 枝 いつものことやって。
要 京奈にはこう、熱く燃える心とか無いわけ？
京 奈 要は暑苦しい。
要 うちの話じゃなくて。
京 奈 それで汗臭い。
要 それは乙女としてうちにケンカ売ってるわけ？
京 奈 なんかすっぱい臭いがする。
優 美 えっ？！…（ちょっと要から離れる）
要 そこ、よけるな！それは甘酸っぱいレモンの香り！決してワキ汗や脂汗の臭いじゃない。
理 穂 ワキ汗…。
孝 太 脂汗…。
要 人間誰しも汗はかくでしょ！
京 奈 要は人の倍？
要 新陳代謝がいいと言って下さい。
亜希子 結局先輩、自分で汗っかきですって言っただけですよ？
要 これからうちの事は汗女と呼んで下さい。
京 奈 汗女〜。
加 枝 汗女。
優 美 汗女〜！
亜希子 汗女！
孝 太 あせお…。
要 うっさい！
要が孝太に鉄拳をくらわす。
孝 太 いって〜。
要 何、先輩のこと汗女とかよんでんねん？
孝 太 先輩が言ったんでしょ？
要 ノリやろ冗談やろ分かれや。
孝 太 そんなの勝手やないですか。
要 何！？
孝 太 …何で俺だけ。
要 ノリ。
京 奈 何で要ってそんなに暑苦しいの？
要 ここまで来てまだケンカをうるか。（京奈に近寄って）
京 奈 寄るな。汗臭い。
要 今のはダメージ大きかった。
京 奈 年がら年中あついねん。
優 美 それが先輩らしいですって。
理 穂 今、春なんですけどね。
加 枝 あいかわらず暑いよな。要。
要 なんか、うち今猛烈に傷ついてるねんけど。
加 枝 なんかさ、ありえへんよな。
京 奈 何が？
加 枝 今ごろのんびりしてるなんて考えられへんやん。
要 せやなぁ。ゴールデンウイークには台本探したり書いたりし始めて休み無くなってきて、中間試験あけたら文化祭公演の練習一色。
京 奈 一月半休みなしでぶっ通しやからな、過去二年間は。
理 穂 先輩、高校の文化祭ってどんなんですか？
亜希子 いたって普通だと思うよ。
理 穂 何か漫画だとやたらと盛り上げってるからどうなんだろうって。青春で恋バナで思いで満載で。
優 美 全然。恋バナとかウエヘヘなものなんてこれっぽっちもおまへん。
要 強いて言えば、うちらには特権があるってことぐらいかな。
孝 太 何ですか？
要 演劇部ってこと。
孝 太 はっ？
要 だって文化祭やでクラスの出し物でも劇をやるねんから演劇部のうちらが劇をしないでどうするん！
加 枝 これって他の生徒には出来ないことやと思うよ。
孝 太 でもクラス劇もありますよ？
要 まぁ、そうやけど。ちょっと違うな。あっちはまあ言うたら隠し芸大会やん。たいてい男がオカマになって照れながらギャグ言っとったら
盛り上がるねん。うちらの文化祭公演はそれとは違う大きな意味がある。
理 穂 なんでですか？
優 美 先輩らの引退公演？
浩 隆 一年生のデビュー戦！
加 枝 それもあるけど、このメンバーでやる舞台はこれが一度っきり。
要 そうやんな〜一回だけやもんね。
京 奈 だから文化祭が終わった後って何か複雑。
亜希子 去年は初舞台、無事に終わった〜って喜んでたら、先輩達泣いててびっくりしましたよ。
加 枝 やっぱね〜。泣くよ。
要 加枝は泣き虫やから余計。
加 枝 そうですよ〜。
京 奈 うちは文化祭が一番好きやな。
浩 隆 そうなんですか？
京 奈 うん。
亜希子 うちは…全部好きですね！
要 よくばりやな。
亜希子 だって、どれも思い出深いものやし。
加 枝 うちも去年はそんな風に思ってたな。
理 穂 やっぱり文化祭って特別なんですね。
加 枝 えっ？
理 穂 だって先輩らこれで引退ですし。
要 何いってんの！あんたらはデビュー戦やで！
京 奈 自分らのが特別で新しい経験やで。
孝 太 新しいって？
京 奈 舞台に立てばわかるよ。
加 枝 変わるよね。
優 美 変わったな〜。
浩 隆 俺、まだ覚えてますよ。あの要先輩の額に輝く大粒の汗。
要 忘れろ。
優 美 まつげに汗の粒が乗ってましたもん。
京 奈 絶対に忘れれない思い出が増えるよ。
理 穂 こうやって演劇部の伝統が後輩たちに伝えられていくんですね。
京 奈 せやで。後は任した
理 穂 京奈先輩…。
要 理穂騙されるな、こいつは去年舞台を止めた極悪人やねんから！
京 奈 ゲネやろ、それは。
要 ゲネでも公演前日にセリフ忘れて舞台止めるなんてどんだけ演出泣かせか！
加 枝 いいやんか、公演は上手くいってんから。
要 今年はやめてや〜。
京 奈 せーへんよ。
亜希子 なんか懐かしいですね〜。
浩 隆 もう一年たってんな。
亜希子 ヒロなんか文化祭前、ずっとトイレこもってたよな。
浩 隆 なんでそれを？！
優 美 全員知ってるって。
亜希子 あまりにも情けないから要先輩が一発ビンタ「あんたがしないで誰がすんの！」やもんね。
孝 太 ビンタですか？！
要 やってほしかったらいつでもどうぞ。
孝 太 遠慮しときます。
浩 隆 あんとき初めて先輩が先輩に見えてんな〜。
要 ん？それはどうゆうことかな？
浩 隆 いや、頼りになる先輩だと…。
京 奈 先輩らしくないから。
要 そうなんだよな〜〜っておい！
加 枝 乗り突っ込みや！
理 穂 さすが関西人！
要 まぁね。
京 奈 でもへたくそ。
要 うっさい。
浩 隆 ずっとこのままがいいですね。
優 美 先輩、切実に留年しませんか？
要 なんでやねん。嫌やわ。
優 美 やっぱ先輩らいないと無理ですって。
亜希子 いなくなるのって想像つかへんよね。
要 大丈夫！うちも想像つかへん！
京 奈 いばっていうこと？
要 つかへんもん、だって。
加 枝 まぁ今だにヒロが部長ってものなんかくすぐったい感じ。
京 奈 わかる。時々いらってくるし。
浩 隆 先輩何気にひどい。
要 後輩のためを思ってきびしくあたってんの。
優 美 うそ〜。
加 枝 それとちょっと嫉妬もプラスされてるかな？
優 美 嫉妬ですか？
加 枝 ちょっとね。
要 これからがあるねんもん。もう朝レンとかしたい放題やで！
亜希子 したことありませんし。
優 美 練習は放課後だけでたっぷりです。
理 穂 そいえば、練習しないんですか？
亜希子 えっ？
理 穂 今日の？
要 …しよっか。
孝 太 どこのシーンやるんですか？
要 同じシーン！しかないやん。
浩 隆 じっさい今来てる台本はたったの一シーンで起・生・転・結の起しか来てないですもんね。
京 奈 これじゃあセリフ覚えで奇跡の一週間は終わりやな。
要 それは自分がセリフ覚え悪いからやろ。
京 奈 あたしだけの問題ではないような（優美を見る）
優 美 うちも、セリフ覚えだけはどうも無理みたいで。
要 問題児がいることをあいつは覚えてるんかな？
浩 隆 でも千友美先輩やったら、「台本出来たよ〜」ってのほほんってきそうですよね。
理 穂 軽くごめんね〜ってあやまりながら。
加 枝 ありそう。
要 千友美も少しは顔出せばいいのに。
京 奈 いくらなんでも顔出しづらいんじゃない？あいつでも。
亜希子 千友美先輩がですか？
孝 太 ん〜。
加 枝 それか家で集中してるとかね。
優 美 けどいないとちょっと寂しいですね。
京 奈 別に。
要 照れるなって。
京 奈 照れてない。
孝 太 先輩生きてるんですかね？
加 枝 一年生はまったく会わないもんね〜。
京 奈 そりゃあ不安になるわ。
要が小道具がある場所からぬいぐるみ（守護神様）を取り出し。
要 寂しがりやの京菜のためにこれを。
要、ぬいぐるみ（守護神様）を差し出す。
京 奈 何これ？
要 千友美がいない時は私を千友美だと思ってね。
京 奈 あんた馬鹿にしてんの？
要 心配してあげてんの。
亜希子 けど、いいじゃないですか。先輩の代理ってことで。
亜希子、要からぬいぐるみをもらい机の上に置く。
浩 隆 これで全員そろったてことで。
孝 太 なんか先輩死んだみたい。
要 見えないことも無い。
優 美 きっと先輩はいつまでもあたし達のことを見守ってますよ。
加 枝 千友美、どうして文化祭前に死んでしまったの〜！
要・優・加 およよよよよよ〜。
浩 隆 勝手に殺さないで下さい！
理 穂 先輩達ひどいですよ。
亜希子 理穂ちゃんこれがノリやねん。
理 穂 ノリですか？
要 そう。これが出来て立派な役者さんやな。
理 穂 が、がんばります。
孝 太 俺も！
要 いいね、一年生は素直で！
優 美 それじゃあ、うちら二年生が素直じゃないみたいじゃないですか？
要 そんなこともあるで！
浩 隆 あるんですね。
京 奈 二年にもなっていつまでも先輩の言う事素直に聞いてどうすんねん。
加 枝 ちょっとは口答えしていいねんって。
要 喧嘩なら京奈が買うから！
京 奈 なんでやねん。
浩 隆 そんな恐ろしくて出来ませんよ。
要 ヒロも亜希子も部長・副部長の権力を使ったほうがいいって！
優 美 先輩、フルに使ってますもんね。
要 へへ。
加 枝 うちらが引退してからエンジンかかるんちゃう？
京 奈 そうやな。
加 枝 やっと口うるさい先輩もいなくなった〜って。
要 ヒロどうゆうことや〜！
浩 隆 そんなこと思ってませんって！
加 枝 しかたないから、さっさと引退するわ。
浩 隆 だからそんなこと思ってませんって。
要 それじゃあ、練習もう一回しましょうか。
京 奈 やっぱりやるんだ。
要 あたりまえ。
孝 太 え〜。
要 あんた観てるだけなんやから文句言わない。
孝 太 だって。
要 そんなこと言って孝太は奇跡の一週間に参加できるんかな〜？
孝 太 それどうゆう意味ですか？！
要 さぁ？
浩 隆 孝太、気をつけろ。演出の時の要先輩は危険や。
孝 太 えっ？
優 美 演出の権力を最大限に活用するから！もしかしたら…。
亜希子 あっ練習の前に千友美先輩に応援メール送りません？
優 美 いいやん、それ！
孝 太 もしかしたらって何ですか！
浩 隆 ドンマイ。
孝 太 うそ〜。
亜希子 （携帯を持って）何て送ります？
要 千友美はやるときはやる女だ！
亜希子 （メールを打ち）はい。
優 美 頑張ってください。
加 枝 照明、早く決めたいんだけど〜笑いで。
亜希子 （メールを打ち）…笑いっと。はい。
孝 太 早く出番下さい！切実に！
浩 隆 楽しみにしてます！
亜希子 （メールを打ち）はい。
理 穂 先輩の台本大好きです。
京 奈 いつまで待たせるねん。
亜希子 （打ち）んで、みんな待ってますよっと。それじゃあ送信！（ぬいぐるみに向かって送信する）
要 それじゃ練習しますか！
七 人 は〜い！
要 じゃあ浩隆の「誰も居ないのかな？」からどうぞ！（手を叩く）
また同じシーンの練習をしだすみんな。そして暗転。
明かりがつくと黒板の文字はあと四日に変わってる。ぬいぐるみはちゃんと置かれている。
またもや劇の練習中みたい。要と浩隆が話しをしてる。
要 あんたが噂のノーパン？
浩 隆 そ、そうですけど。あなたは？
要 私？ 私は柴本純警部補。ジーパンよ。
浩 隆 ジーパンってことはあなたも特命係の人ですか！
要 あぁ。よろしくノーパン。
優美がやってくる。
優 美 ジーパン！！
要 どうした？！綿パン。
優 美 ショーパンが一人で奴らのアジトに向かいました！
要 本当か？！
優 美 ショーパンからメールが来て（携帯を要に見せる）
要 奴らの居場所が特定できました。少し調べてきます。勝手なことを！
浩 隆 あの、奴らって誰ですか？
要 警察にケンカ売ってきてる奴らだよ。
浩 隆 爆弾魔ですか？
要 あぁ。
優 美 どうしますか？ ジーパン。
要 とにかくボスに連絡だ。
優 美 それじゃあショーパンはどうなるんですか！
要 勝手な行動は許されないんだ。
優 美 そんな。あたしはショーパンを助けに行きます！
要 助けるって言ったって場所はわかってるのか？
優 美 探します。
要 無理に決まってるだろ？
優 美 それでも探します！
要 もう勝手にしろ！
優美はける。
浩 隆 ジーパン。綿パンやショーパンのこと、見殺しにしていいんですか？
要 ノーパン。
浩 隆 はい。
要 お前、射撃の成績はどうだった？
浩 隆 それはだけはよかったです！
要 私は苦手なんだ。奴ら何しでかすか分からない連中だ。いざというときはまかしたぞ。
浩 隆 えっ？
要 一応念のためにな。
浩 隆 はい。
要 行くぞ。ノーパン！
浩 隆 はい。ジーパン！
要が手を叩き。優美が戻ってきて。
浩 隆 なんかいくら格好つけてもノーパンじゃ台無しですね。
要 そう？
浩 隆 何かノーパンって呼ばれるのに慣れてきてる自分が嫌だ。
優 美 先輩〜。
要 何よ？
優 美 ペースが速いですよ！
要 当たり前やろ！
優 美 無理ですよ。無理！
加 枝 やっぱり三分で五ページ覚えろってのはね。
要 文句は作者に言って下さい。
優 美 そんな〜！
亜希子 あんた、ちゃんと家で読んでるん？
優 美 いや〜何度読んでも無理なもんは無理やからあきらめてる。
亜希子 なんでそうなんの？
優 美 頭が悪いんですかね？
京 奈 同意を求めるな。
優 美 ひどい。
要 そんなこと言ってていいんか？
優 美 いや、何て言うか…。
要 覚えれるな？
優 美 はい。
京 奈 千友美のやつ、ありえんねんけど。
亜希子 まぁまぁ。
京 奈 いくらなんでも遅すぎやろ！！ さんざん待たせて今日持ってきたのがたった五ページ。
浩 隆 まぁとりあえずなんとか三分の一は台本できたみたいですし。
要 そう！ やっと三分の一。六十分ものの二十分。残り四十分は霧の中。
理 穂 きっとこれからどんどん来るんですかね？
要 だからうちらもハイスピードで練習しなきゃ。なんたって時間が無い！
優 美 地獄だ〜。む、
亜希子 無理じゃない！
優 美 はい。…でも、それもわかるんですがもう少しやさしめで…。
要 苦情も要望もまったく聞く気はありません。
孝 太 （手をあげる）先輩！
要 だから聞かないって。
孝 太 ついに俺のセリフ、来ました。少ないけど出番あります。
要 お〜、やる気満々やな！
孝 太 セリフも入ってます！
要 おぉ！でも孝太のシーンはまだ先やからな。もうちょっとスピード上げてみる？
孝 太 （同時に）はい！
優 美 （同時に）無理！…あっ。
要 それは冗談やって。
京 奈 だいたい千友美がもっと早く台本書かへんから。
加 枝 覚えるの時間かかるもんね。
浩 隆 それで長ゼリばっかしですもんね。
優 美 いや〜ほんと台本無いと困りますけど急にきても嫌ですね〜。
みんなぬいぐるみに向かってしゃべる。
要 いっつも思うけどもうちょっと計画的に動いてほしいな。
加 枝 行き当たりばったりやもんね〜。
亜希子 でも頑張ってるんですよね〜。
優 美 それを知ってるから言えないですよ。
要 いや、でも今回のことは怒らないと。みんなに迷惑かけすぎ！
加 枝 そうやんな。でも、なんか聞けないんだよね。調子どうって。
京 奈 聞くなってオーラがでてるね。あれは。
浩 隆 けどさすがにハラハラしましたよ。
京 奈 今日には完成してるやろ。
優 美 じゃないと。
要 だって四日前やし。
加 枝 本人も頑張ってるみたいやし。
噂の張本人、千友美がふらふらとした足取りで登場。
亜希子 先輩！
八 人 おはようございます！
千友美 …おはよう。
優 美 お疲れ様です。
要 もう、みんな待っててんで。
孝 太 先輩、元気でした？
浩 隆 肩こってませんか？
加 枝 ほら。座ったら？
加枝がイスに薦めるが座ろうとしない千友美。
理 穂 暑いし、うちわであおぎましょうか？
亜希子 ちょっとお菓子でも食べますか？
京 奈 調子はどうなん？
要 まぁ千友美やから、心配はしてないけど。
孝 太 どこまでいったんですか？
理 穂 最後ってどうなるんですかね？
千友美 …。
浩 隆 先輩、どうしたんですか？
京 奈 台本ってどうなってるん？
千友美が突如土下座をしだす。
千友美 台本出来ませんでしたっ！すいません！
八 人 えぇ〜〜〜〜！！
要 台本…。
亜希子 出来なかった？
千友美 完成しませんでした。
八 人 いやぁ〜〜〜〜！！
要 なんで？
浩 隆 ほんまですか？
加 枝 どうしたん？
優 美 もう書けないって事ですか？
亜希子 どうすんの？どうすんの？！どうすんの〜？！
京 奈 どうゆうこうやねん！
千友美 粘りに粘っても最後まで書けませんでした。
京 奈 書けませんでしたって…文化祭どうするん？
要 どうするって台本…台本が…。
亜希子 音響は言われた曲や効果音は用意してたんですよ。
加 枝 照明だって考えてた…。
孝 太 あの、よく状況がわからないんですけど。
理 穂 先輩…。
要 千友美、ちゃんと説明して！
加 枝 書けなかったって、今までは書けてたやん。
千友美 ラストに近づくにつれてどんどん行き詰まって。
要 それで？
千友美 セリフがまったく出て来なくなって書いても書いても納得できへんくて。そしたら余計に何も浮かばんくなった。
京 奈 今さら…。
加 枝 なんで言わんかったん？
千友美 みんなのメール見たら言えんくて。みんなうちの台本楽しみにしてるねんから書かないとって思って。出来なかったなんて言え
へんくて。
要 言えへんって、もう四日前やで！？
浩 隆 先輩、落ち着いて。
要 落ち着くも何も、台本の無い劇やで…。
加 枝 ちゃんと書いてきてるって思ってたから。
優 美 今から、うちらで台本作るなんて無理や。
亜希子 でも、先輩にまかせっきりやったし。
浩 隆 誰にだって出来へんときありますって。
加 枝 それですまへんやろ？
浩 隆 …。
加 枝 出来へん、書けへんでは…すまへんやろ！！
優 美 練習なんて出来ずに公演迎えんの？！
要 ありえへん…。どんだけ練習のスピード上げたって。
亜希子 そうやけど、ここで喧嘩してもしょうがないですよ。
優 美 でもさ、…無理やん。
要 こんなことはじめてや。
京 奈 時間がなさすぎる。
加 枝 …なぁ、これからどうするん？
間。沈黙が続く。誰もこれからどうするなんてわからないんです。
京 奈 今年の文化祭は辞退しよっか。
要 辞退ってなんでそうなるんよ！
京 奈 なんでって仕方ないやん。
要 仕方ないって、あんたうちらはこれで最後やねんで？
京 奈 やけど、文化祭でよかったやろ。
要 はぁ？
京 奈 これが大会やなくてよかった。
要 文化祭やからって…舞台は同じやろ？お客さんにうちらの劇観てもらわないと。
京 奈 そのお客さんに未完成な劇をみてもらうん？
要 まだ四日あるやん！
京 奈 あと四日やろ？
要 今からみんなでなんとかしたら
京 奈 なんとかって何するん？
要 なんとかって…みんなで頑張ったら出来るって！
京 奈 あんたが一番わかってるやろ？ 演出やねんから。どんだけがんばっても限度がある。
優 美 そうですよね、限度がありますよね。
亜希子 優美！
優 美 だってうち、自信ないよ。練習も出来へんくて舞台に上がるなんて無理。
要 限度も無理もそんなん関係ない！
京 奈 そうかな…？
要 こんな終わり方なん、うちらの三年間…こんな終わり方なん？
京 奈 それはうちらのわがままや。
要 わがまま言ったらあかんの？
京 奈 一年生の初めての舞台をこんな形でやるべきじゃない。せっかく楽しみにしてたのに。
要 いいやんか！どんな形でやってもやらんよりわ！
京 奈 あんたが文化祭をしたいのは引退ってだけやろ？
要 それの何があかんの？！
京 奈 それだけのためにみんな巻き込んでどうするん？ ことごとく失敗してお客さんにつまらなさそうな顔されて、そんな悔しい思いさせ
るん？
要 そうやけど、みんなには次があるからいいやん！
京 奈 最後でそんな悔しい舞台にするん？
千友美 京奈…。
京 奈 うちはゴメンや。
優 美 先輩達、ちょっと落ち着いて考えましょうよ。
要 京奈だって自分のわがままやん！みんなのためって言ったて自分が情けなく終わりたくないからやろ？
京 奈 そんなんじゃない。
要 いっつも、かっこよくいたいもんな、情けない自分なんか見られたくないんやろ？
京 奈 そうじゃなくて。
要 うちは情けなく終わってもいい。幕も上げないで終わるよりましや！
京 奈 …今までさ、いろいろあったよな。
要 えっ？
京 奈 部活。しんどくても楽しかった。途中からは部活ってだけじゃもう満足できなくて怠けたりしたけど。
要 うちだってそうや。三年間、ずっと部活が大好きやったかって言われるとそうじゃなかった。
京 奈 でもさ、後悔してないやろ？
要 そんなん、当たり前や！だからここで終わりたくないねん！
京 奈 要はわかってない。
要 何が？
京 奈 かっこつけたらあかんの？最後やからこそ…かっこつけたいんやんか！
要 …。
亜希子 なんとかしましょう。うちもこれで先輩らと終わるなんて嫌ですもん。
優 美 …亜希子はどうしたらいいんかわかるん！？
亜希子 えっ？
優 美 なんとかするって、何をするん！なぁうちらはもういいやん、先輩らがいいて言うんやったら無理する必要ないし。
浩 隆 お前何言ってんねん。
優 美 だって、どう考えても無理やん！
孝 太 …俺も、こんなゴタゴタしたなかでやりたくないです。
理 穂 孝太…。
要 あんた、早く出せ出せってうるさかったやん！あのやる気はどうしたん？！
孝 太 だってあん時と今は状況も先輩らも違いますやん。
亜希子 違うって？
孝 太 みんな、なんて言うかワクワクしてました。
要 今はワクワクしないん？
孝 太 はい。
京 奈 もう止めようや。こんな思いまでして、やる事ちゃうやん。
加 枝 京奈、何言ってるん？
京 奈 こんな大変なんやったら別にいいやん。
亜希子 先輩…。
京 奈 しんどいだけやん！
要 何それ？思っても無いくせに、悔しくてたまらんくせにそんなこと言うなや！
亜希子 先輩、うそつきです。
要 京奈は…京奈は自分で言ってたやん。自分は一番…文化祭が好きやって。
加 枝 うちもそうやもん。やっとわかったもん。うちらの演劇の始まりはホールでも何でも無い。ここやった。
つづく…