創作脚本の部屋へ 作：ぴの 潤色 ごのい
【キャスト】 男子7人・女子8人・他
修（男）
南（女）
大輔（男）
亮（男）
亜由美（女）
夕菜（女）
千春（女）
しろう（男）
戸阪（男）
美海（女）
伊藤（男）
愛美（女）
千晶（女）
真崎（女）
片桐（男）
紫陽花たち
『オープニング』
舞台上に人影がちらほら。みな自分の居場所を確保し、佇んでいる。一人、二人と
携帯電話を開く。ディスプレーの明かりにそれぞれの表情がぼんやり浮かび上がる。
やがて小さなつぶやきが聞こえ始める。
千晶 助けて。
戸阪 ２１時ちょうどをお知らせします。
伊藤 暑ぅ。クーラー壊れた。
千晶 助けて。
片桐 クーラー死亡。おっつー。
伊藤 おっつーじゃねえ。死活問題だ。
片桐 じゃ、お前氏ぬね。ノシ。
伊藤 ノシじゃねぇ。殺すな。
千晶 助けて。
戸阪 各地で１００歳以上の高齢者の所在が確認できない問題で、あらたに１０市１４人の所在がわからない
ことが４日分かった。
真崎 分からないことが分かった？
千晶 助けて。
真崎 明日から演劇部の合宿。
伊藤 うわ、人ってこんなところからも汗をかくのか。
片桐 どこ？
千晶 台所。
片桐 そんなとこから汗？ それやばくね。
真崎 初めて行く淡路島。しかも現地集合。無事、たどり着けるだろうか。不安で眠れない。
戸阪 これまでに分かった所在不明者は全国１１都道県で計２６人。
伊藤 暑さで寝れたもんじゃねえ。
千晶 あ、ここにも行列が。
戸阪 第８１回大曲全国花火競技大会が開催され、入場者数は８０万人。熱中症患者は２５人に達した。
真崎 冷や汗が出てきた。
片桐 汗が出てるウチは大丈夫らしいぞ。
真崎 ホント？
戸阪 元・大関琴光喜に一億円を要求したとして、指定暴力団山口組系暴力団幹部３人が逮捕された。
千晶 嘘、信じられない。ココにも白い粉。
伊藤 妙にクサくなって来やがった。
片桐 お前が？
伊藤 オレじゃねえよ。
千晶 どうやって殺せばいいの？
片桐 誰？
真崎 何？
千晶 お父さんがメロンパン食べてて。
伊藤 うわ、窓開けたら虫、大量に入ってきた。
片桐 殺虫剤でもまいとけ。
千晶 こぼしたお砂糖にアリが。家中アリだらけなの。
真崎 分からなくなったら人に聞けばいいのよ。無人島じゃないんだから。
千晶 どうやって殺せばいい？
伊藤 コックローチ？
片桐 いや、アリアース。
千晶 ちゃんと効くかな。
真崎 聞くに決まってるわ。
伊藤 アリ？
千晶 うううん。お父さん。
伊藤 やるだけ殺ってみるか。
片桐 (^o^)ﾉｼ。
会話の間、徐々に舞台には携帯電話のディスプレーの数が増えていく。ノシを合図に
シルエットの中、幾つかの傘の花が咲き始める。それはどこか群れて咲く紫陽花の花にも
似ていた。一人の少女が現れ、千晶に語りかける。
南 千晶。
千晶 あ、南。来てくれると思ってた。
南 もちろん。親友でしょ。
千晶 うん。
南は千晶の側まで歩み寄る。
千晶 殺してくれる？
南 いいよ。
そう言うと手にした殺虫剤をまき散らす。音楽。蜘蛛の子を散らすように苦しみながら
去っていく人々。南と千晶も後を追うように去っていく。入れ替わりに数人の人影。舞台
中央には重そうなバケツを下げた男の子の影も見える。
『花火は盛大に』
夕方、白いベンチやアスレッチクようの踏み台があったりする公園の中央に人たかり。
近くで蛙の鳴き声が、真夏の夜の涼しさを感じさせてる。バケツを持った修はみんなに声を
かける。
修 水、くんできた。
大輔 おお、サンキュー。
修 ここ置いとくね。
亮 お疲れ。
バケツを置く修。みんな花火の準備をしている。
亜由美 打ち上げ、打ち上げ、これも打ち上げ？
夕菜 なあ亮、打ち上げ花火ばっか多ない？
亮 まじで？
亜由美 で、打ち上げと。
千春 誰なん？ 花火買いに行ったん。
大輔 俺。
夕菜 どんだけ飛ばすんよ。
大輔 花火は飛ばすもんちゃうん。ほんでロケット花火は人に向けて打つ。
亮 それ、使用方法間違ってるからな。
亜由美 大輔はロケット花火禁止やわ。
大輔 えぇ〜、買ってきたの俺やぞ！
亜由美 ならロケット花火と打ち上げ花火ばっか買わんとって！
大輔 楽しいやん、打ち上げぇ。
夕菜 他の花火は？
大輔 おお、これこれ。ネズミ花火、ヘビ花火、煙幕、爆竹。
亜由美 楽しないし、最後の花火ちゃうし。
大輔 ええやん、面白いって。敵陣にまず煙幕な。投げんねん。視界を奪っといてそこへネズミ花火や。
しゅ〜ん、ぱぱぁん！ きゃーって悲鳴が上がったところに爆竹。ぱぱぱぱぱぁん！ ほんでもって
逃げていくところへロケット花火の集中砲火。しょわっ（間）すぱぁん！ぱぁん！ 快感。
千春 帰ろっかな。
亜由美 そやね。
大輔 ののの！ 帰るん無し。
亮 気合空回りやな。
夕菜 甚平着てくるあたりね。
大輔 かっこええだろ。
亜由美 気合入りまくって逆に気持ち悪い。
夕菜 すね毛燃やしたんねん。
大輔 男心は繊細なんだぞ！
亮 すね毛もな。
大輔 おい！
修 あの、これ。（といって千春たちに花火を手渡す）
千春 あ、線香花火ある。良かったぁするもんあって。
修 これも、手持ち、かな。
夕菜 さすが、修くん。乙女心分かってるわ。
大輔 ちょちょちょ、おい。何一人でええ役回ってんねん。
修 いや、セットに付いてたから。
そう言うと修はまた花火の梱包外しに戻った。
亮 よっしゃ、じゃ、それからやろか。
夕菜 おっけー、配って。
大輔 はい。どうぞ。（みんなに花火をまわす）
亜由美 サンキュー。
千春 あれ？ これどこから火点けんの？
夕菜 え、導火線ない？
千春 あるけど、ここ。
修 それ…。
大輔 （小声で）おい！
修 だってそれ、ロケット花火。
一瞬の間。女たち悲鳴を上げて花火を大輔に投げつける。ゲラゲラ笑ってる大輔。
大輔 やっぱ一番はロケット花火１０連発だろ。
亮 最初から飛ばすな。
大輔 よーし、やるぞ！ライター貸して。
夕菜 あかん、そいつにライター渡したら。
亮 俺持ってないぞ。
大輔 ライター。
亜由美 え？ 誰も持ってへんの？
持ってないと首を振るみんな。
修 コンビニで年齢確認されたから。ごめん。
大輔 え〜〜！？ 花火出けへんやん！
亜由美 修のせいちゃうわ。花火買ったんやったら、ライターぐらい用意しときいや。
大輔 誰か持ってくるやん、普通。
千春 よかった。
大輔 何がぁ。
夕菜 火が無かったら暴れようないし。なぁ。
千春 うん。
亜由美 家から取ってこよっか。
千春・夕菜 （ゼスチャーで全否定）
大輔 あー、ものすっごい花火気分だったのに。
亮 お前だけな。取って来いや。
大輔 俺？ 俺、家遠い。修！
夕菜 修にばっかり押しつけんときいや。
大輔 え〜。
修 ええよ、行ってくるから。
夕菜 修はええの。行かんでも。どうする、亮。
亮 俺？ 別にええけど、なんかそんな気分ちゃうし。
大輔 何？ 亮までそんなこと言う？
夕菜 帰ろっか。
大輔 戦争やろうぜ。戦争。
千春 線香花火だけやったらしたかったのにな。
そこへ、南がやってくる。夏なのに長袖。まるで大輔たちには気がつかないようにベンチに直行。
千春 あ。
亜由美 え？
夕菜 あれ。
亜由美 南やん。
千春 うん。
修 南って？
大輔 知らん？ 南。
修 うん。
亮 まあ南、不登校やからな。
修 あ、ずっと空いてる机の子。
亜由美 そう。なんで来たんやろ。
千春 私が誘ったから。
夕菜 千春が？
千春 南に花火あるけどって。
夕菜 誘ったの？
千春 人数多いほうが楽しいかなって思って。でも、行かへん言うたのに。
そう言うと千春は数歩南に向かって歩き出す。南はちらりとそれに反応。千春の歩みが
止まる。空気が一瞬凍った。
亜由美 何でおんねやろ？
夕菜 やっぱ来たかったんかな。
大輔 よっし、修。
修 何？
大輔 誘ってこい。
亜由美 大輔？
修 僕が！？
大輔 何ビビってんねん。自己紹介ついでや。
亮 まあ、俺らが言うよりええかも。
大輔 ついでにライター持ってないか聞いて来んねんぞ。
修 え、持ってへんと思うけど。
大輔 頼む。
修 （ちょっとためらって）わかった。
押されるように南を誘いに行く修。立ち止まった千春を追い抜いて南へ近づく。
修 あ、あの。
南 （携帯を見ながら）…何。
修 いや、あの。
間。
修 えっと、その。
振り返ると千春が話しかけることをあきらめたように戻るのが見えた。大輔たちにヘルプ
の眼差しを送る、が。助けてくれず、話せとジェスチャーで伝えてくる。
修 その。僕、同じクラスで。えっと、み、南さんですか？
南 誰？
修 え？
南 うち、あんたなんか知らん。
修 あ、転校して来たばっかりやから、７月、いや６月の終わりぐらいやったかな。
南 ばっかりちゃうやん。
修 かれこれ２ヶ月。あっという間の出来事でした。
南 慣れた？
修 え？
南 学校。
修 うん、ていうか夏休みやし。学校ないし。
南 やんね。夏休み、万歳。
修 万歳。へへ…。
南 行って良し。
修 ハイって、あの、南さん？
南 （遮って）南でいいよ。そうだ、名前は？
修 あ、修。
南 オッケー、修ね。
修 うん。
南 行って良し。
修 いや、そうじゃなくて、あの、南…。
南 呼び捨て？
修 だって、南でいいよって。
南 （笑う）言ったやんな。ゴメン。
修 いや、こっちこそ。
南 で、うちになんか用事？
修 えっと。その、今、花火しようとしてるんやけど、あ、出来るかどうかよく分からへんねんけど、一緒にせえ
へん？ 花火。
南 花火？
修 どうする。
南 …うち、人を待ってるから。
修 あ、そっか。
南 うん。
修 えーっと、ごめん。ほんじゃ、僕、帰るわ。
戻ろうとする修。
修 （思い出して）あ。そや、ライターって持ってる？
南 ないけど。
修 そやんな！ うん、変なこと聞いてごめんな。
南 ライターって、花火するんちゃうん。
修 出来るかどうか、分からへんって、そういうこと。アホやんな。
南 あいつららしいわ、ホンマ。
走りもどる修。
『南って』
亮 おかえり。
大輔 お疲れ。
千春 南、なんて？
亜由美 花火やるって？
修 うううん。人を待ってるからって。
亜由美 人？ ここで？
修 うん。
千春 待ち合わせってこと？ 誰と？
修 さあ。
千春 なんでもっと聞いてきてくれへんのよ。
修 ごめん。
亮 まあまあ。
夕菜 来うへんねやったらええやん。千春もなんでそんなにムキになってんの？
千春 え、別に。ごめん。
修 （そんなのゼスチャー）
大輔 なあ。ライター持ってたか？
修 持ってないって。
大輔 ないかー。
亮 大抵そうやろ。
大輔 南ならもってそうじゃん。
亮 何で。
大輔 いや、そんな感じせえへん？ 俺だけ？
亜由美 そう言われたら、なぁ。
夕菜 まあ。
千春 誰、待ってるんやろ。南。
亜由美 気になんねや。
千春 …うん。
夕菜 ほっときって。私等に関係ないし。
亜由美 まあ、そうだけどさ。千春はね、南と長いから。
千春 いつからやろ、南が変わってもうたん。
夕菜 前は、あんなんちゃうかってんや。
千春 うん。クラスの副委員長でソフトのキャプテン。あと生き物係委員長。
修 そうなんや。
亜由美 思い出した。全校朝礼でウサギの赤ちゃんの名前とか、発表してたよね、南。
千春 …うん。
亮 人は変わるもんやな。
千春 うち、全然変わらへんのに。
ちょっと寂しそうな千春に何人かの気持ちが寄り添う。ＫＹはこの二人。
大輔 南、どんくらい学校来てないっけ。進級とかヤバイやろ。
夕菜 もう無理なんちゃうん？
亮 おい！ 聞こえるやん。
夕菜 おっと。
亜由美 （小声で）言うても授業受けてないしね。
千春 ゴールデンウイークぐらいかな。休みはじめたの。
修 それで会ったこと、無かったんや。
大輔 俺やったら耐えられへんけどな。学校行かんと一人で暇つぶし。絶対窒息する。
亮 窒息せんでも、普通ちゃうよな。これだけ休むって。
千春 でも。保健室、顔出したり。家庭教師頼んでるらしいから、勉強は大丈夫かも。南、頭いいし。
そこへ南が。手になにか持っている。
南 あのさ。
みんな南の方を振り返る。
千春 南？
亜由美 どうしたの？
南 花火、やるん？
千春 うん。南も、しに来てくれたん？ 一緒にやろ。
亮 千春。ライター。
千春 あ、そやった。ごめんな。せっかく来てくれたのに。
亮 誰かがライター忘れてもうて。
大輔 え〜、そんなんまだ決めんなや。ジャンケンして取りに行く奴決めたらええやん。な、な。
南 これ、使えるか分からへんけど。
南、千春をすり抜けるように手の中のモノを修に渡す。
千春 南…。
修 マッチ？
大輔 よっしゃ！ これで花火出来る！ ありがとぉ、南。
南 うん。
大輔の言葉に嬉しそうにする南。
夕菜 やばい。みんな打ち上げ隠せ。
亜由美 爆竹も、お願い。
大輔 南も一緒にやろうぜ！ はい、これ。手持ちやから。
南 ありがと。
修が誘ったときには断った南が花火に参加する。さっそくマッチを箱から取り出して、
南の花火に火を点けようとする大輔。
大輔 それ。
しゅ、しゅ。点かない。
大輔 あれ。
亮 なにやってんねん。
もう一度マッチをする。が、点かない。
大輔 おかしいな。
亮 貸せ。
亮がマッチをする、が。やはり点かない。
亮 ああ？
なんかイラっときた亮。次々とマッチをすっていく。が、どれも点かない。
大輔 任せろ亮！
残りのマッチを手に全てすった大輔。
大輔 ムカつく。
亮 湿気てるんちゃうん。
大輔 まじで。
亮 残念やったな。
大輔 なんか、目の前でお預け食らった気分だ。
南 ごめん。点かへんって知らんかったから。
千春 気にせんでええよ。
亜由美 あ〜あ。これでお開きって感じかな。
大輔 えー。
亜由美 えー、ちゃうって。南のマッチも使えへんかったし。今日はやめとけってことちゃう？
大輔 あ、修。やっぱ老けてる亜由美連れてコンビニまで。
亜由美 なんて？
亮 なんでも修に頼むんじゃなくて、自分で行ってみいや。
大輔 修はお前と違って、ええ奴なんじゃ。
南 千春、あの子。
修をみる南。
南 えっと。
千春 あ、修だよ。
南 そう。修。
千春 修は転校生やねん。
南 どこから？
亜由美 大阪。かわいそうな奴で、転校そうそうから大輔にこき使われてるねん。
大輔 そんな言い方すんなよ！
亜由美 修もいやなら嫌ってちゃんと言いや。
大輔 そんなことないよな、修。
修 うん。
大輔 ほら！
亜由美 言わせてるやん。
雨がポツポツと降ってきた。
夕菜 え、雨？
亮 外れたな、予報。
亜由美 ちょ、早く帰ろ！ 濡れるっ。
大輔 花火ぃいいいいいい。
花火を急いで片付けるみんな。南は傘を持っていた。傘をさす南。
千春 あ、南は？
南 あたし、残るから。
千春 風邪ひかないようにね！
南 （聞いているのかいないのか返事をしない）
みんな帰りだす。
南 あ、修。
修 何？
南 あたし、ここによく来るから。
修 え？
南 待ってるね。
修 待ってるって、誰を？
それだけ言うとベンチのほうに行ってしまう南。
亮 修！ 行くぞ。
修 あ、うん。
走り出していくみんな。一人残される南。
『待ち人様々』
公園には南しかいない。南は携帯を開き操作する。ここでログオン。照明が変化した
ことは、観客にも感じ取れる。
南 当たったね、美海さんの予報。（携帯片手に）こっちは午後７時過ぎから通り雨。それも３０分程度で
おさまりました。きっと花火は中止になるでしょう。
そこへ現れるのは千晶。同じように傘を差し静かに歩み寄る。
千晶 来たよ。
南 千晶…。ごめん。
千晶 なんで謝るの？ あたしを無視したから？
南 だって、素直になれんくて。
千晶 南は素直だよ。
南 千春のこと今でも親友だと思ってるし、大好きなのに、…大嫌いなの。
千晶 いいよ。嫌いでも。千春だって分かってくれてるよ。
南 ホントに？
千晶 うん。
南 あたしホントにダメかも知れない。自分の気持ちが分からなくなる時がある。苦しいんだ。
千晶 あたしも。
南 いつからやろ。こんなに弱っちくなってもうたん。泣けてくる。
千晶 泣けばええんちゃう。
南 涙が出えへん。
千晶 涙が出るから泣いてるとは限らへよ。心で泣けばええんちゃう。
南 その心が乾いてるねん。
千晶 だから苦しいのか。
南 そう、苦しいのだ。
千晶 雨、降ればいいのに。
南 降ってるよ。
千晶 違うよ、心の中にだよ。
南 …そうだね。
千晶 すぐ止んじゃう夕立みたいな雨じゃなく、心の奥底まで染み渡るような雨が。
南 降るかな。
千晶 降るよ。
雨はしとしと降っている。そこへ傘を差したロックンローラーみたいな奴（戸阪）登場。
戸阪 午後、８時だぜ。ベイベ。
南 誰？
千晶 戸阪。時を告げるボット。
戸阪 （無言で挨拶）
南 どうしよ。また幻影が増えてる。
千晶 心配ないよ。あたしが呼んだから。
南 千晶が？
千晶 うん。南の心がこれ以上渇かないように。だって南、一人になりたがってるような顔してるくせに、ホントは
寂しがりやさんでしょ？
南 どっちなんやろ。一々めんどくさいよね。
千晶 そんなの気にしないの。ねぇ、戸阪。
戸阪 ん？
千晶 たまには何か他のこと喋ってよ。お願い。
照れたような笑いを残し、無言で去ろうとする戸阪。
千晶 ねえ、戸阪。
戸阪 （困ったように立ち止まり、両手を広げるゼスチャー）レアメタル産地、追われるゴリラ。携帯電話
回収で守れ。
戸阪は南に軽く目で合図をすると舞台を去っていく。南の背後に別な登場人物。
愛美 戸阪はボットだもの。気の利く一言なんて期待しても無理。
南 だれ？
愛美 ひどいな。いつも。ｔｗｉｔｔｅｒで話、してるじゃない。『アルマジロ』のアイコンといえば？
南 愛美？ 信じられない。
愛美 そう？ 他にも来てるよ。
周りには何人かの登場人物。
美海 どやった？ あたしの天気予報。
南 美海さん？
美海 当たったでしょ。
南 さっきはありがとう。美海さんの天気予報のお陰で濡れんで済んだ。
美海 雲が東に流れてたからね。ＩＴｏＨちゃんも来てるで。
伊藤 よ。邪魔するよ。
南 すごい。
千晶 これで寂しくないでしょ。
南 うん。幻影にしたらリアルすぎるけどね。
千晶 あたし達にとってはこの世界がリアルなの。
伊藤 ホンマにすぐ止むんか、この雨。
愛美 結構降ってるけど。
美海 止まへん雨はない。今どうしてるん？
愛美 雨のお陰で夕涼みなう。
伊藤 クライアントのとこから引き上げ中。雨宿りなう。
南 ドンブリ公園で人待ち中。待ちぼうけなう。
千晶 南に付き添いなう。
愛美 誰待ってるんやろね。
美海 ね。
千晶 ね。
伊藤 興味なし。
南 つれないなぁ、。ＩＴｏＨ。
伊藤 人の恋路をジャマするほど暇じゃないもんでね。
愛美 そんな忙しい人間はｔｗｉｔｔｅｒなんかせえへんって。
美海 やんね。
伊藤 バレた？ オレ、暇なん。
美海 な、ＩＴｏＨちゃん。暇で謎かけして。
愛美 また無茶振りを。
伊藤 整いました。
南 早いね。
伊藤 いや、結構手間取った。暇に任せて謎解きしたのは、南に頼まれてた「ドンブリ公園の都市伝説」。
美海 そっち？
南 ありがとう。調べてくれたんや。
伊藤 はい。六十年以上昔の資料まで遡ってやっと例の話の謎を解く鍵を見つけました。
愛美 なんか見つかったの？
伊藤 この公園は昔、紫陽花寺の裏山で、そこには一本の真っ白い大木があった。二十年ほど前に落雷で
倒れてしもたらしいんやけど、この大木は不思議な力を持ってて、願いを託せば叶えてくれるという言い
伝えがあったんや。
南 しろうの話、ホントだったんだ。
愛美 で、鍵というのは？
伊藤 終戦まもなくの紫陽花寺を写した一枚の写真だ。背後に確かに写る白い大木が見えるか、見えるか。
高らかに携帯電話のディスプレーを掲げる伊藤。全員どれどれとそこに集まるがリアクションが
イマイチ薄い。
伊藤 あ〜もう。これでどうだ。
そういうと伊藤は各自の携帯に写真を転送。それはすぐさま受信された。
南 これ、紫陽花寺。
千晶 ちゃんと見せて。
南 ほら、そこの大鳥居が映ってる。
愛美 周り山やん。
伊藤 未開発の大地と言ってもらいたい。
美海 どれが白い大木なん？
伊藤 見えんのか、拡大してみろ。
各自画像を拡大。そこには裏山にそびえ立つ白い大木が確かに写っていた。
南 白木だ。
美海 うお、変なとこ拡大してもうた。（スクロール、スクロール）わぁ。出た。
愛美 ホンマにあったんや。
南 うん。願いを叶えてくれる白木様…。
伊藤 オレは画像を国土地理院発行二万五千分の一地形図と照合し、白木のはえていた地点の緯度経度を
正確に計算した。計算の結果はこれだ。北緯 ３４度４７分３秒。東経 １３５度２３分１５秒。
愛美 伊藤、前から聞こうと思てたんやけど、あんた普段何の仕事してるん。
伊藤 プライバシーは明かさん主義やねん。
南 とにかくそれって何処。ＩＴｏＨ。
伊藤 星よ、我らに教えたまえ。その昔この地にあった白木のありかを。星って言っても人工衛星だけどね。
南 いいから早く。
伊藤 では、ご一緒に。せぇの。
全員 じー・ぴー・えす！
５人は画面を見ながらこそこそ場所を微調整。やがてぴたりと止まる。
伊藤 間違いない。北緯 ３４度４７分３秒。東経 １３５度２３分１５秒。
南 願いを叶える、白木様。
雨の音が消え、緑の木漏れ日が差し込む。そして白木があったとされる約束の場所には
天から一筋の光が差し込んでくる。４人はあっけにとられるかのように空を見上げ、有るのか
無いのか分からない白木の姿を見つめている。そこへ緑の傘をさしている男が現れた。
それを合図に南は携帯を閉じ、他の４人は静かに四方へ散らばっていく。明かりは現実的
夜へと戻る。
しろう 遅れた？
南 遅い。
しろう （笑う）ごめん。
南 あのさ、この間しろうが教えてくれた白木の話、覚えてる？ 願いを叶えてくれる白木様。
しろう うん。覚えてるけど。
南 やっぱりここにあったみたい。二十年ぐらい前に雷で折れちゃったらしいけど、ここ。（指を指す）
しろう へぇ、そこ。限定？
南 うん。悔しいな、もうちょっと前に産まれてたら見れたのに。
しろう 見てどうするんよ。
南 どうするって…、どうしよ。
しろう お願いすること、なんかあるん。
南 考えてなかった。
しろう みんなと一緒に学校に行けますように。
南 …違う。
しろう 毎日笑って暮らせますように。
南 違う。
しろう 嫌いなやつが居なくなりますように。
南 違う。全然違う。
しろう おかしいな、顔に書いてあるのに。
南 しろう、いつからそんな意地悪なったん？
しろう 前から。
南 あたしの願いは、強くなりたい…、かな。
しろう 強く？
南 うん。他の人のこと願ってもしょうがない気がする。あたしが強くなって完璧に近づけたら、今みたいに
迷うこともなくなるのにって気がする。
しろう 気がする…か。
南 うん。決めた。あたし、白木様にお祈りするから。
しろう 雷で折れたんちゃうん。
南 それでもするから。
そういうと、南はサスの当たる場所にひざま付くように祈りを捧げた。ちょっと遠くで
見守るしろう。祈りを続けながら。
南 待ってる間にクラスメイトに会った。
しろう 話、した？
南 うん。
しろう 珍しいやん。なんて？
南 転校生なんやて。修って子やった。
しろう 女の子？
南 男子。なんてことない影が薄い、男の子。
しろう 友達になれそう？
南 さあ。ちょっと喋っただけやし。友達おらんでも、あたしには千晶がいる。しろうだって毎日会いに来てくれる。
しろう 修、なんて？
南 花火しよって。でも。神様が今日はやめとけって。
しろう 神様？
南 うん。ライター忘れるようにしたり、マッチ湿らしたり、雨まで降らせるイタズラ神様。
しろう そんな神さん、まだおるんやろか。
空を見上げて言うしろう。
南 おる。
しろう 雨、終わりそうやな。
南 しろう、雨好き？
しろう どうやろ。あ、でも植物とかには雨って命やから。そう考えたら、好きかも。南は？
南 雨が降る前の土の匂いが好き。
しろう 土って匂う？
南 知らん？ 湿ってて緑の香りを包んだ匂い。白木はもう無いかも知れへんけど、確かにここにあったなって
感じられる匂い。あたしが一番好きな匂いかも知れへん。
しろう ほんまや。ええ香りや。
南 うん。
しろう …あ。
南 何？
しろう 土の匂いに混じって、ほら。
南 何？
しろう かすかな花の香りがしてる。
南 え、ほんま？
しろう ああ。もうすぐ咲くんや。たくさんの紫陽花が。
南 紫陽花が？ 紫陽花寺の？
しろう 寺の紫陽花はあかん。梅雨の頃にしか咲かへん。
南 じゃ、どこで咲くん？
ぐるっと辺りを見渡すしろう。
南 ここに？
しろう そう。ここにもあそこにも。
南 夏やのに？
しろう ああ。
南 不思議。しろうの言うことはなんでも。
しろう 知ってた？ 紫陽花って色が変わるねん。
南 え、紫陽花って青色じゃなかったっけ？ ピンクかな。
しろう 紫陽花は気まぐれに色を変える。
南 そうなんや。
しろう お前の色はこれやでって、せっかく神さんが決めてくれてるのに。神さんがおらんようになったのを
見計らって色、変えるんや。
南 嘘ばっかり。
しろう 嘘ちゃうで。紫陽花はたくましいししたたかや。群れて咲く。他の花が咲かへんような季節に自分らだけ
花付ける。日陰でも生きていける。どんどん大きなって一面紫陽花だらけにしてしまうんや。
南 紫陽花、最強。
しろう 一緒に見てくれるか？ 紫陽花が咲くの。
南 うん。見たい！
しろう 決まり、な。約束。
南 約束。
そう言うとしろうは南を残し闇の中へ消えていく。深いグリーンの木漏れ日が舞台を埋め尽くした。
『二人の約束』
公園はいつの間にか夕暮れ近く。ベンチに南が居る。なんだか今日はしんどそうに
うずくまっている。そこにコンビニ帰りの修がとおる。修は南に気づき近寄ろうかどうか
迷う。
修 南、さん？
南 修？
名前を呼ばれて立ち上がろうとする南だが、足元がふらつきベンチへ倒れ込む。
修 わぁ。（大急ぎで駆け寄って）大丈夫？
南 大丈夫。ちょっと目まいしただけやから。
修 座っといたほうがええよ。
南 うん。ありがとう。来てくれると思ってた。
修 え？
南 言ったやん。待ってるって。
修 僕を？
南 ここによく来るからって。
修 (思い出して)ああ！ そや、そやったね。
南 修やったらあたしとの約束、覚えててくれると思ってた。
修 約束って、ねぇ。
南 違うん？
修 いや、そう。覚えてた。
南 ありがとう。
修 買出しのついでもあったし…、あ。
さっき吹っ飛ばしてしまったコンビニ袋を振り返り、拾いに戻る。
修 うわ、大丈夫かなこれ。（袋を拾い上げ、中身確認）
南 ごめん、あたしのせいかな。
修 いやいや、平気。
南 良かった。
修 あのさ、いっこ聞いていい。
南 うん。
修 なんで、僕を待ってたん？
答えない南。聞こえてないのか？もう一度、名前を呼ぶ修。
修 南さん？
南 …ここに、あったんやて。
修 な、なにが？
南 ここが公園になるずっと前に、大きくて真っ白い木があってん。
修 白い木？
南 うん。雪のように真っ白で、大きな木が。
そこに木があるように上を見上げる南。
南 白い木って書いて、白木って言うの。
修 白木…。
南 みんなからは白木様って呼ばれて、その白木様は願いを叶えてくれるんだって。
修 へぇ。木やのに願いを叶えてくれるん。
南 うん。それこそ、大勢の人たちの願いを。
修 そんな木があったんや。
南 白木の木は、何百年も前からあってんて。昔の人は、どんな気持ちで願ってたんかな。
修 きっと神様が。
南 神様？
修 うん。神様みたいなんが、木に宿ってると思たんやろな。
南 なんで？
修 だって白い蛇は神の使いとか言うやん。白ってそんな感じちゃう？かな。
南 その神様って、まだココに居ると思う？
修 どうやろ。僕にはわからへんわ。
南 あたしね、毎日ここに来て祈り続けることで、神様が帰ってくるような気がするねん。白木はなくなってもうた
けど、この場所にいた神様は絶対死んでないって、信じてるねん。だって感じるもん。神様の気高くて
優しい空気。
修 南はすごいな。僕にはよく分からへん。
南 そうかな…？
修 でも、何でそんなこと僕に教えてくれるん？
南 え、えっと。なんでやろ。
修 なによそれ。
南 あ、待って。その、なんて言えばいいか分からへんけど。なんか、修も似てるなって。
修 似てるって僕が？ 何に？
南 素直で心がきれいで、世の中の汚いものに染まらない白さみたいな…。そう、修は、白やねん。
修 え〜。そんなん初めて言われたし。
南 そう？ 一目見てぴんと来たけどな。
修 じゃ、僕にも神様とか宿ってるわけ？ すげぇ。
南 それはない。
修 だよね。神様とか宿ってたら、もうちょっとしっかりするやんな。
南 修はしっかりして無いん？
修 しっかりどころか、うっかりしてる。不器用やし、得意なこと特に無いし、これになりたいって夢も目標も
無いし。
南 だから優しいんだ。
修 優しい、かな。
南 うん。優しいよ。修と話してると、安心する。
修 なんか、照れる、なぁ。
南 だから白いんだ。
話しながらも、南の視線は見えない白木を探している。
修 …なんか、南って、表情がころころ変わるね。
南 え？ 変？
修 いや、変ちゃうよ。いいなって思った。
南 いい？
修 そうやって話せる南が。
南 あたしは、普通に喋ってるだけよ。
修 なんか自分ってものを持ってるって感じがする。僕は、自分らしさとか全然ないから、羨ましいかな。
南 羨ましいの…？ あたしが？
修 うん、いいなって思う。
南 …修は？ 自分が嫌いなん？
修 嫌いってことはないけど、好きでもない。
南 せっかく優しくて綺麗な白なのに。
修 優しくて綺麗な白じゃなくて、空っぽの白かも知れへん。
南 忘れてるだけちゃうの？ 本当に夢や願いはないん？
修 …多分。好きなことや、したいことを見つけるのは難しいから。
南 そのうちきっと見つかるよ。
修 ありがと。なんか見つかるって気が、ちょっとしてきた。
修の言葉に喜ぶ南。
修 南、さんは？ もし今も白木があったとしたら、何お願いするかな。
南 え？
修 夢とか、願い。
南 あったとしたらじゃなくて、有るって信じることにした。
修 じゃ、もう何か願ったん？ 白木に。
南 願ったよ。
修 どんなこと願ったん？
南の顔が真剣になる。
南 …何にも迷わないぐらい、強くて、完全な自分になれますようにって。
修 何にも迷わない、自分。
南はゆっくり立ち上がると、白木に向かい再び祈り始める。じっと見つめる修。
『目撃者たち』
怪しい人影が公園に現れる。大輔と亮だった。
亮 そういうことやったんか。
修 違う。
大輔 何二人だけでええ雰囲気なってんの？ あぁ？
修 ちゃうでしょ、南ちょっと調子悪いから。（大輔：カシャッ）何写メってんの？
大輔 誰に送る？
亮 クラスの奴ら。後、担任？
修 ちょっと。削除して。
大輔 それはできん。出来んって。
南に気を遣い、なおかつ写メを削除させようとする修はけなげ。男二人は完全に遊んでる
モードだけに可哀想である。
大輔 修だけじゃなくどうか俺にも彼女を！
修 大輔！？ 誤解やって。
大輔 まあ。ただの彼女じゃダメなんだ。可愛くて控えめで、それでもって色白の眼鏡っこ。そして胸だ！
でかけりゃいいってもんじゃない。そりゃあＦカップなんて喉から、腕が出るくらいに欲しいが、あれは
やっぱ観賞用だな！ 俺はＢからＣがジャストだと思う！ なんかさ、こう、俺のもんって感じがする
じゃん…。でもなによりも大事なのが。身長は俺より下！ これは決定事項だかんな！
願いと欲望を取り違え、演説よろしく己の理想像を暴露しまくる大輔。
大輔 まぁ、その点南はまずないから。残念だったな！
南 （鼻で笑って）雄豚。
つづく…
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