創作脚本の部屋へ 作 がっきー 潤色 ごのい
【キャスト】女５
えり（リラックマ好き・影１）
美夏（へたれ優等生・影２）
綾香（世話焼きお節介・影３）
リラックマ（なの？・影４）
えりの母（影５））
「一人かくれんぼ」
ノイズ。上手奥からは画面の青白い明かりがもれている。やがて明かりの方から一人の少女、
美夏が舞台に現れる。手にはナイフ。暗闇の中で時折ナイフが鈍い光を放つのが見える。
舞台中央サスにはバケツが置かれている。どうやら美夏はそのバケツに向かって歩み寄って
いるようだ。舞台上には他の人影も揺れる。人影の一人、口火を切る。
影１ 一人かくれんぼ。
影４ 元は関西地方や四国地方でコックリさんと共によく知られる遊びであったといわれる。
影３ コックリさんと同様に、一種の降霊術とされ、
影１ 自分自身を呪うという説もある。
影４ 午前三時になったら以下の順に行動する。
影３ ぬいぐるみに対して「最初の鬼はおまえだから」と三回言い、浴室に行き、水を張った風呂桶にぬいぐるみを入れる。
美夏 最初の鬼は、お前、だから、お前だから、お前だから、ね。
影１ 家中の照明を全て消してテレビだけ砂嵐の画面にする。
影４ 目をつむって十秒数える。
美夏 うん、数えた。
影３ 刃物を持って風呂場に行き、「見つけた」と言って刺す。
美夏はここでようやくバケツにたどり着く
美夏 リラックマちゃんみっけ。
バケツの中を確認。居ない。
美夏 パニック！ リラックマちゃんどこ？ ねぇ。
あたりを見渡す美夏。静かに上手前のサスがともる。クマ、静かに座っている。
美夏 なんだ、そこかぁって、ひぇ〜
思いっきり息を吸い凍り付く美夏。なんで動いたの？
影１ 各種メディアによる体験談では、隠れている間に奇妙な音がする、ぬいぐるみを捜しに行くと本来の場所と違う場所にいる…、
美夏 い、いるよ。
影１ テレビに奇妙な画像が映る、などの心霊現象に遭遇したとする報告が寄せられている。
上手奥のテレビから突然、ジャパネットたかたの高田社長の甲高い声が流れ始める。
「ジャパネットたかたがお送りするテレビショッピング、今日はデジタルカメラのご紹介です。」
美夏 やめて！ ジャパネットやめて。
ぷつっとテレビが消え、あたりはさらに暗くなる。
美夏 声高いよ。困ったぞ。どんどん困ってるぞ。なんとかしなくちゃ。美夏、ファイト。って出ないよ、こんなんじゃ元気でないよ。
出るの嫌な汗だけだよ。背中とワキがびしょびしょだよぉ。やるんじゃなかったぁ。なんで始めたんだろ、一人かくれんぼ。
影１ 終了方法。
美夏 それ、せめてそれ。終わらせなくちゃ。
影３ 塩水を少し口に含んでから、ぬいぐるみを探し、コップの残りの塩水、口に含んだ塩水の順にかけ、「私の勝ち」と三回
宣言して終了となる。
美夏 塩水、塩水だ。
カバンから小さな瓶。うがい薬。
美夏 怖いなぁ。リラックマちゃん突然動き出したらどうしよう。勝手に歩くんだよ。ここからあそこまで、一人で。こえぇ〜、超こえぇ。
影１ 必ずこの手順によって、二時間以内に終了させなければならない。
美夏 あぁぁ〜、分かってます、分かってますから。いちにいさんしぃ…。
美夏は数を数えながらリラックマに接近。
美夏 歩いてるよ、確実に二十メートルは歩いたよ。すごいね、リラックマちゃん。感心してる場合じゃないよ。それに…、ちょっと…、
でっかくなってない？ 成長、した？ カバンに付いてたやつだもんね。こんなにでっかくなったら、カバンにつけられないもんね。
影３ 必ずこの手順によって、二時間以内に終了させなければならない。
美夏 あぁぁ〜、分かってます、分かってますから。なんだか子供の成長を喜ぶ親の気分。よちよち出来たのねぇ〜。
影１・３ 必ずこの…。
美夏 はい！ やります。ナイフで刺して、塩水かけて、あたしの勝利宣言しなきゃ。
ナイフを握り直し、リラックマに手をかける。目が合う。
美夏 だめ、刺せない。可愛すぎる。あたし気弱。そうだ刺したことにしよう。ここで刺しましたと。（ナイフをカバンにしまう。
見つめる。以下ぬいぐるみも使って）ぎゃー痛い、痛いよぉ。ふふふ、私の勝ちよ。思い知るがいいわ、自分の愚かさをね。
なんだと、覚えていろ。あいにく物覚えは親の代から悪いモンでね。ふわ〜っはっはっは。で、塩水吹きかけて。
そう言うと美夏は瓶からうがいの塩水を口に含み、吹きかけようとする。遠慮する。濡れちゃうしな。
瓶を見つめる。クマを見つめる。うがいする。ガラガラガラ。そのとき確かに聞こえるか細い声。
声 美夏ちゃん…。
美夏 ※◇○☆▽※！
びっくりして塩水飲み込む。
美夏 （咳き込んで）飲んじゃった。
影１ 一人かくれんぼに使用したぬいぐるみは、最終的に燃える方法で処理する必要がある。
美夏 燃やし、ちゃうんだ。
声 美夏ちゃん…。
心の底から恐怖と後悔がわき上がってくる。足元の人形を見つめる美夏。
美夏 ごめん！
音楽。真夜中の街へ飛び出す美夏。とたんに影達も走り出す。目指すは近所の公園。
人目に付かないその場所で、リラックマに別れを告げるのだ。やがて美夏は足を止める。
右手にライター。
美夏 お願い。燃えて！
「出会い」
えり なにしてんの？
美夏 え？
驚いて振り返る。ジャージ姿の少女、えりが立っている。見つめ合う二人。
美夏 別に、なにも。（急いでライターを隠す）
えり すごぉい。どこで買ったん。これ。
美夏 これ？
えり うん。こんなでかいん、見たことない。あんたの？
美夏 ええ、まあ。
えり 見して見して見して。うわぁ〜超可愛い。きもい。でかすぎ。あははは。
美夏 そうでしょ、いつの間にか、成長しちゃって。
えり まじ？ うける。成長するとか。
美夏 ですよね。
えり うちさ、大好きやねん、リラックマ。リラックマ専用ブログとかもやってるぐらい。
美夏 へぇ〜。
えり だって可愛いやん。癒されるっていうか、力抜けるっていうか、アホっぽいっていうか。思わん？ もう神。
美夏 そう、かな。
えり 結構集めてたりする？ リラックマ。
美夏 ええ。カバンに付けたりとか。
えり してるしてる。
美夏 これも、ちょっと前まで、カバンに付けてたんですけど。
えり まじで？ こんなでかいのどうやって付けんの。
美夏 いや、普通に。
えり 勇者。むしろカバンを付けろ。って感じやん。
美夏 あは、あははは。
えり ん？
美夏 今度、やってみます。
えり あのさ。
美夏 え？
えり ちょっとやってみていい？
美夏 何をですか？
えり ハグ。
美夏 は？ ぐ？
えり ほら、こんなでかいの見たことないから、敬意を表してっていうの？ ばぁんって、ハグ。
美夏 あ、あたしにですか？
えり あんたにしてどうすんの。リラックマちゃんに。
美夏 ですよね。
えり あかん？
美夏 だめです。
えり お願〜い。一回だけ。
美夏 だって。これは。
えり だめだ、我慢できない。一生のお願い。
美夏 そんな、簡単に使っちゃっていいんですか。一生のお願い。
えり 行きます。
美夏 気を付けてください。呪われるかも…。
話も聞かず奇声を上げながらリラックマに体当たりハグを決めるえり。リラックマかなり迷惑。
頭取れないように気を付けてね。
美夏 あぁ、あわわ。（安全圏に非難）
えり 楽し〜い。
美夏 （遠くから）大丈夫ですかぁ？
えり ここ、ぷにょぷにょ。癒されるぅ。
美夏 呪われますよぉ。
えり （リラックマを起こしながら）なんて？
美夏 ほら。
見ると明らかリラックマの目が怒ってる。っていうか迷惑そうな顔してる。おまけにちょっと涙目。
美夏 ほら、怒ってる。
えり 怒ってないって。いいなぁ、これ。
美夏 じゃ、用事があるんで。
そう言うと、美夏はリラックマをきちんと座らせると、手を引いて連れて行こうとする。
がっしり反対の手を握るえり。
美夏 なんですか。
えり ちょうだい、この子。
美夏 え？
えり あ、ただじゃなくて、お金払うから。バイト代入ったんだ。
美夏 とんでもないです。
えり うん、分かってる。これがとっても珍しい限定ものだってこと。いくら？ うち、出すから。
美夏 そういう意味じゃなくて。
えり じゃ、どういう意味？ 教えて。
美夏 教えられません。
えり けち、ええやん。教えるぐらい。
美夏 ダメです。
えり そこを何とか。
美夏 ダメ。
えり 一生のお願い。
美夏 さっきもう使っちゃいました。
えり じゃ、生まれ変わった気持ちで。どうしてもあかんの？
美夏 この子は呪われてるかも知れないから。
えり え？ どういうこと、なんで呪われてるの？
美夏 あ、いや…。ともかく、燃やさないと大変なことになるんです。
間。かなりびっくりしたえり。
えり 燃やすの？
美夏 はい。
えり そっか、クマ燃やそうとしてたんや。ここで。
美夏 あの、それは。
えり それって、呪われてるから？ この子が悪いの？
美夏 悪いってわけじゃ。
えり やろ。ひどいやん、かわいそうやん。
美夏 う〜ん。確かにそうなんですけど。
えり 虐待反対。リラックマを守れ。
美夏 困ったなぁ。なんでこんなのに見つかっちゃったんだろ。
えり 呪われてもいい。うちが育てる。
美夏 待ってくださいって。呪われるのは私かもしれないんです。
えり なおさら結構。決めた。連れて帰る。
美夏 ダメです、放してください。
えり きゃ〜、誰か来て。クマ殺し、クマ殺しがいます。
美夏 そんな大きな声、ださんといて。
えり 放火です。１１９番に電話して。
影３ ちょっと、何時だと思ってんの？
美夏 す、すいません。
ついに我慢の限界。美夏は手を放し逃げ出す。えりの勝利宣言。
えり 勝った。
美夏 呪われても知らないですから。
えり それはあんたや。
後に残ったのはリラックマとえり。
えり さてと、どうやって持って帰ろ。あは？
「再接近」
綾香 で、どうやって持って帰ったの？
えり おんぶして。
綾香 おんぶぅ？
えり 重くは無かったんだけど恥ずかしかった。ウォーキング爺ちゃんに変な目で見られるし。
えりの友人綾香。現れて二人で会話しているのだが何かおかしい。二人の会話は
かみ合うのに目線がかみ合わない。それぞれの手にはケータイ。
綾香 そらそうやろ。夜明け前に巨大リラックマ背負った女子高生とすれ違うんやもんな。
えり 足もつれながら二度見された。
綾香 まって、どれぐらいのでかさって？
えり １メートルちょっと。
綾香 でかいな。
えり いいやろ。
綾香 部屋、せまなる。
えり 一緒に寝るねん。
綾香 ガキか、あんたは。
えり ん？
綾香 なんな。
えり もうちょっとでかいかも。１メートル２０、いや３０ってとこ？
綾香 なんで疑問形なん。
えり こんなでっかかったっけ。
綾香 成長してたりして。
えり してるかも。この子の前の持ち主がそんなこと言ってた。
綾香 ウソ。
えり ほんま、最初カバンに付けてたって。
綾香 ないわぁ。
えり ないやんな。
綾香 ナイナイ。
えり じぃ〜っと見とこか。成長してるかどうか。
綾香 本気なん？
えり そや、ムービー撮ろ。
綾香 あはは、もし撮れたら送って。信じるから。
えり 送る送る。やる気出てきた。
綾香 （ケータイ離して）アホやろ、ホンマ。
えり なんて？
綾香 いや、何でもない。風呂行ってくる。
えり 急やな。
綾香 ムービー撮るねやろ。
えり そっか。じゃね。
綾香 はぁい。バイバイ。
綾香は電話を切ると袖へ。えりの方はちょっと離れてリラックマ観察中。リラックマは
見られてちょっと迷惑そう。えりはケータイのカメラで自分とリラックマのツーショットを撮る。
いつもの得意の笑顔。プリクラみたい。カシャ。シャッター音と同時にリラックマも笑顔。
撮り終わると元の無表情に戻る。楽しそうに写真を確認するえり。写ってる写真を見た
とたん、思わず二度見。
えり 何これ。
これは遊べる。同じ様にもう一度トライ。リラックマ乗ってこない。今度はシャッターを
切る瞬間にクマの顔をのぞき込む。やっぱ乗ってこない。ムカつくので変顔で一枚。
二枚、三枚目にクマ変顔。普通だったら不気味に思うところだが、えりは違った。
えり 何これ何これ。顔、微妙に違う気がすんねんけど。（しみじみと写真を見比べニヤリと笑う）た〜のしぃ〜。
恐れを知らぬとはこいつのことだ。ま、大好きなリラックマがちょっと遊んでくれる
みたいな感覚かな。
美夏 あ、リラックマ好き発見。大丈夫かな、何も起きてないかな。うわ、あの後おんぶして帰ったんだ。他には…。大丈夫。
イチかバチか、申請してみよ。
えり (着信、携帯ひらいて)…お友達申請。
美夏からの承認申請のメール。えりは気づかずお返事。ブログ掲示板でもやり取りが
始まる。
えり 申請ありがとうございます。
美夏 こちらこそありがとう。
えり 更新通知しておきます。
美夏 わたしも。
えり 高校生？
美夏 そーですよ。
えり もしかして高３。
美夏 いいえ。高２です。
えり １７歳か。
美夏 １７です。
えり んじゃタメ。タメ語でいいよ。
美夏 了解。
えり うち、もともとタメ語やったし。
美夏 もし私が年上やったらどーしてた？。
えり 一瞬で敬語にかえてた。
美夏 バレバレやん。
えり たしかに。ＬＩＮＥ知ってる？
美夏 知ってるよ。
えり じゃＬＩＮＥやってる？
美夏 やってるよ、メールよりも楽チンやし。
えり じゃＩＤ教えて。
美夏 …ＭＩＫＡ１１１５です。
えり じゃ、今からＬＩＮＥで話すね。
美夏 うん、よろしく。
一度ブラウザを閉じるがすぐさまＬＩＮＥ．
美夏 早。
そー言うとケータイを開き、会話再開。
えり はろー。
美夏 早いね。
えり サンクス。
美夏 名前は、えりちゃんやんな。
えり なんでわかったんや。
美夏 ブログのタイトル、「えりのひょろひょろ日記」って。
えり そっか。なんか恥ずかしいな。
美夏 ひょろひょろは恥ずかしい。リラックマ、拾ったって？
えり まぁ、正確に言えば違うねんけど。見たブログ。
美夏 う、うん。夜明けにおんぶで街を歩くとか、面白い子やなって思って申請しちゃった。
えり ありがとうございます。
美夏 その後、リラックマちゃんの様子は？ 変化無い？
えり それがさ。面白いねん。
会話しながらリラックマを振り返るえり。当然のように大人しくしてるリラックマ。
美夏 え、なんか起こったん？
えり うううん…。また教えたげる。
美夏 え、気になるやん。
えり そうやって読者の心をワシ掴み。
美夏 卑怯な。
えり あなた様のお名前は。
美夏 なんやと思う。
えり そっちも来たか。うーん。沙希ちゃん？
美夏 ＮＯ．
えり 奈美ちゃん。
美夏 ＮＯ．
えり わからん。太郎ちゃん？
美夏 女や。
えり 難しいわ。教えて。
美夏 …美夏です。
えり みかちゃん？
美夏 うい。
えり みかんみたいで可愛い。
美夏 初めて言われた。ありがとう。
えり リラックマ好きやんね。
美夏 好きやけど。
えり えりも大好き。
美夏 何かうれしい。私のまわりあんまリラックマ好きおらんから。
えり わかるそれ。リラックマストア行ったことある？
美夏 もちろん。梅田のやろ。
えり 私さ、みんなついて来てくれへんくてさ。行ったこと無い。
美夏 ま、私も友達じゃなくてお母さんと行ったけどね。
えり お母さんなんか、ついて来てくれるわけないし。
美夏 そっか。
えり 一人でもいいけど、えり方向音痴やから。
美夏 大変やな。
えり 美夏ちゃんお願い。
美夏 なに？
えり 一緒に行こ。えりを夢の国へ連れて行って。
美夏 そーくるとおもった。
えり やった。
美夏 今月の２５日にリラックマとキイロイトリが遊びに来るねん。しかも限定５０名様はリラックマと２ショット撮影。
えり そんな夢みたいな話。行くに決まってるやん。
美夏 じゃ、決定。
えり 時間とか適当に決めてまた連絡する。
美夏 了解、お願いします。
えり ほんまにありがと。
美夏 いえいえ。
えり じゃ、また。
美夏 はいよ。
そこで会話は終わる。えりは明らかに大喜び。美夏はこうしてえりへの再接近のチャンスを手にした。
「風呂上がり」
頭にタオルを巻いた綾香登場。手にはブラシとドライヤー。風呂上がり。当然のようにパジャマ。
置きっぱなしのケータイからラインの着信音。ちらりと確認する…、だけ。イスに座ると髪の毛を
乾かし始める。ドライヤーの音。このドライヤー中々大変。息が続かない。大きく息を吸って
もう一度。もう一度。髪が乾くより汗が出そう。疲れた頃に着信音。と同時に後ろの方で吹き出しを
掲げる少女のシルエット。
えり 「あやか〜。」（「 」はラインの吹き出しを手に声でもセリフを発するの意味。『 』は吹き出しのみ。セリフは発しないの意味）
綾香 ちょっと待ってよ。まだ髪の毛乾かし中。
えり 「おともだちできた。」
綾香はケータイを放置し、ドライヤーに集中。ほぼ貞子状態。
えり しかとか。既読付いてるで。
えりは吹き出しをいくつか持って綾香に接近。着信音。
えり 「あ〜やかっ。」（無視されて）「あやか〜。」
この頃、綾香のドライヤーはピークを迎える。そんなことは知らないえり。ちょっと寂しい
のでその思いをクマに訴える。
えり クマぁ、聞いてよ。綾香、風呂、長いよ。もう二時間ぐらい経ってんちゃう？ ふやけるよ、両生類に先祖返りするよ。嫌だよ久々に会ったら水かき生えてるとか。ヒマ、ヒマだよ。
そういいながらえりはリラックマの足元に座り込む。綾香はそろそろ髪の毛まとめ中。
えり 既読付いてるのに返事来ないのってイヤ。付いてなかったらあ〜、寝たんやとか電池切れてるんやとか思うやん。
既読付いてたら読んでるくせに相手にされてへんみたいで…、寂しい？ てかむなしい？ てかムカつく？
ん？この気持ち何？ なんやろ。でも分かる？ 分かってくれる？
そう言いながらえりはリラックマに吹き出しを持たせる。
クマ 『うん、分かるよ。』
えり ありがとう。クマなら分かってくれると思っててん。
クマ 『ともだちだからね。』
えり うん。友達。（そう言いながら見えない綾香の方を見つめる）そうだ。
音楽。明かりはリラックマサスとホリゾントにシルエット。走り出したえりは部屋の片隅から
使わなくなった古いケータイを取りだしリラックマの元に戻る。一心不乱に何かの操作を
始めるえり。やがてリラックマは命を持ったように顔を上げ、立ち上がり笑顔でえりに話しかける。
クマ 「はじめまして」
えり あなたは誰？
クマ 「クマです。」
えり やたっ。大成功。
古いケータイはリラックマに新しいＩＤを与えるための鍵となった。えりはそのケータイを
リラックマのポケットに忍ばせる。そしてもう一度はぐ。もうリラックマは後ろにすっころんだり
しない。きっちりとえりを受け止め笑っている。
えり 行こう、綾香んとこ。
クマ 「うん」
クマとえりは弾むようにかけだし、綾香のところへ駆けつける。すっかり髪の毛も乾かし
終わり、鏡に向かって可愛い顔をし、足元に散らばった髪の毛を拾い集める綾香。
背後にクマ、仁王立ち。着信音。
クマ 「あ〜やかっ。」
綾香 しつこいなぁもう。えり？
振り返るとクマ。びくっとして一瞬引く。クマ、笑ってる。少し離れたところから楽しそうに
眺めるえり。
クマ 「はじめまして」
綾香 だれ？ この子。
クマ 「クマです。」
綾香 いやいや、クマちゃうやろ。クマ、ラインせえへんし。
クマ 「クマです。」
綾香 おちょくってるんか。（ケータイを手にして）「だれ？ あたしの知ってる人？」
クマ 「有名人」リラックマだよ。
綾香 えりぃ。変なん来た。あんたの好きなクマやで。
えり 『既読』
綾香 既読ちゃうねん。
クマ 綾香ちゃんのことはなんでも知ってるよ。身長１５６ｃｍ、体重５６ｋｇ、座高８９ｃｍ。
綾香 ストーカーや。あたしのことなんでも知ってるって。
クマ あははは。座高、高くない？
綾香 うるさい。
クマ 最近の悩み。周りにまともな男子がいない。将来の夢。お嫁さん。
綾香 え？ その情報。えり？ えりやろ。
えり、遠くで立ち上がる。と同時にリラックマ一時停止。近くのイスにふぁさりと座る。
えり 違うよ。えりはここ。
綾香 じゃ誰よ、このクマ。
えり リラックマ。うちとこの。
綾香 やっぱ生きてたとでも言うんか？ ムービーは？
えり ムービーはぁ、撮れへんかった。でもな、そんなんもうどうでもええねん。うちの子しゃべれるねん、お話ししてくれんねんで。
綾香 どないしたんか知らんけど、えりがしゃべらせてんねやろ？ だってあたしの将来の夢とか悩みとかアホな話、あんたしか
知らんねんもん。
えり ええやん、そんなんどうでも。
クマ だよね。
えり ともだちだから
クマ 『ともだちだからね。』
画面を確認する綾香。肩をすくめてクスリとわらう。
綾香 ま、いいか。あんたらしいわ。
えり あは。
クマ これから、よろしく。
綾香 よろしく。
えり よろしく。
クマ 綾香、お風呂長いんだね。
綾香 お風呂大好き。泳いでるねん。
えり どんな豪邸や。
綾香 だって４ＬＤＫやで、ＬＤＫ。ラブリー、デラックス、カッコええ。
クマ 行ってみたいな。
えり なぁ。
綾香 来んでええ。
クマ なんで？
綾香 あんた、デカいねやろ。部屋狭なるから。
えり どんな豪邸や。
クマ 狭い豪邸？
綾香 まぁ、正直な。
クマ 高い座高？
綾香 まだ言うか？ 拒否ルで。
クマ もう言いません。
綾香 えりも。
えり いやいや、うちは言うてない。
綾香 大体さっきの数字も間違ごうてるからな。
えり 何が？
綾香 そんなに重ないし。
えり 体重？
クマ 何キロ？
綾香 言うか。
クマ 座高はあってるんや。
綾香 あってない！
☆えり あははは。
☆クマ あははは。
綾香 何？
えり 楽しいな。
クマ うん。
いつの間にか三人は一つのサスに集まっている。ほのかで暖かい部屋。
綾香 こんな夜中に、あたしら何してるんやろ。
えり 修学旅行みたいと思もわへん？
綾香 修学旅行？
えり うん。消灯時間過ぎて、電気消して。でも眠たくなくて、寝たら負けみたいな気がして布団の中でパジャマでしゃべるねん。
綾香 やったやった。歯磨きした後やのに、枕元にお菓子並べて。
えり 部屋中にお菓子の匂いぷんぷんさせて。
クマ ホットケーキとお団子が大好きです。
綾香 そんなん無い。
えり 先生に見つからんように声潜めて。
クマ いいなぁ。クマ、修学旅行、行ったことない。
えり やんな。
クマ 行きたいなぁ、修学旅行。
綾香 今度は人間に産まれなさい。
クマ そっか、そうする。
えり ええやん。こうして話せるって。毎日が修学旅行や。
クマ 今日も？
えり 明日も。
綾香 明後日も？
えり そう。
綾香 眠たい時は寝んで。
えり 綾香はマイペースやもんな。
クマ ワガママ、ワガママ
綾香 あんた、言いにくいことクマに言わせんの無しやで。
えり バレた？
綾香 バレバレやん。
えり 綾香も呼んできたらええやん。キイロイトリさんとか、こりらっくま。
クマ キイロイトリさん。
綾香 そんなんしません。
えり 楽しいで、人数増えるの。そや、美夏ちゃんにも声かけていい？
綾香 誰な、それ。
えり 新しい友達。
クマ 賛成さんせ〜。
綾香 どこの子？ 学校？
えり ちゃう。けどリラックマ好きやねんて。リラックマ好きに悪い人はいない。
綾香 嫌やで、話題全部クマ関係とか。
クマ 恐縮です。
えり 分かってるって。付いてきて。
綾香 言っとくけど眠なったら落ちるからね。
クマ 今夜は寝かさないぜ。
まったく夜中にこいつら何してるんやろね。部屋の電気を消すみたいにサス明かりを消すと、
三人は美夏の居る場所へと旅立った。わちゃわちゃほたえながら。
『美夏の悪夢』
えり達は舞台奥の箱に座って影になる。やがてホリゾントも消え舞台が暗くなる。
ここはおそらく美夏の家。きっと真夜中。ケータイをライト代わりにして美夏登場。
枕を抱きかかえ恐る恐る居間へ降りてくる。最近寝不足で目の下にはクマ。呪われてる？
美夏 眠れない。全然眠れない。絶対なんか起きるよ。
影１ そんな、
影３ ことは、
影４ あるまい？
美夏 ある、あるって。燃やしてないもん、クマ。
影３ 燃やしてないね。
影１ ないない。
影４ どうなるの？
美夏 何が？
影４ 燃やせなかったらどうなるの？
影３ 続くの、永遠に。
美夏 永遠に？
影達、なぜか面白そうに笑っている。耳をふさぐ美夏。
美夏 いや！ こんな生活いや！ えり〜、ひょろひょろえり。なんで邪魔すんの。クマ連れて行くん。ってかなんであそこで強く
出られへんの？アタシ。ええやん、アタシのクマなんやから。一人かくれんぼしようが、燃やそうが、アタシの勝手やん。
八つ裂きにしたってとがめられる筋合いちゃうやん。クマ殺し？ はぁ〜？ 初めから生きてへんねん。ば〜か。
☆影１ ば〜か？
☆影３ ば〜か？
☆影４ ば〜か？
美夏 言えないよぉ。そんなこと産まれてこれまで一回だって言ったことないよ。言えるの一人の時だけだよ。どこまでチキン
なんやろ。アタシ。
影１ や〜い。ニワトリニワトリ
影３．４ チキンチキン
影１ ニワトリニワトリ
影３．４ チキンチキン（遊んでよし）
美夏 うるさい！ 黙れ！
辺りを見渡す美夏。誰もいない。
美夏 一人で何やってるんやろ。アタシ。ば〜か。
というと疲れと自己嫌悪で座ったまま枕を抱きかかえる。場の空気が変わる。
影１ 一人かくれんぼで起こると言われてる現象。
影３ 数日の間に夢の中に変化がおきる。
影４ 夢の中で人形を隠した場所の夢を見たら注意すること。
美夏 え、ここ？
影１ 夢の中で、背後から『○○ちゃんみっけ』という声が聞こえるらしい。
影３ 声のした後に身体のどこかの部分に触られた感触があったら絶対に振り向いてはいけない。
美夏 聞こえない聞こえない。あわわわ。
影１ 夢をみた日から遊びを終わらすまで、夢で触られた部分に注意して過ごさないといけない…、らしい。
美夏 （泣きそう）らしいって何よ！。
影４ 遊びを終わらせるには、夢でも現実でもいいので、人形のある場所まで行き『捕まえた』と言って、夢の中で、自分が触られた
部分と同じ箇所をタッチする。
影１ 次に『かくれんぼは終わり、もと来たとこへお帰り下さい』と言って、ぬいぐるみを捨てて終わらせる。
美夏 行かなきゃ。えりちゃんのとこ。
怯える美夏の背後に、いつの間にか三人の人影が近づく。
クマ 美夏ちゃんみっけ。
美夏 出た、出たかも。
クマ リラックマだよ。今日はコリラックマとキイロイトリも一緒だよ。
えり 嬉しい？
綾香 嬉しないわ。なんで風呂上がりにこんなん。
クマ 付き合ってくださいよ。
綾香 高いで。
えり 美夏ちゃん。
美夏 絶対に振り向いては…、いけない！
といいながら思いっきり振り向いてしまう美夏。明かりの中には美夏のところに遊びに来た
あの三人が輝いていた。吹き飛ぶ枕、全身で驚きを表現する美夏。叫びと共に逃げる、追う、
逃げる追うのアクションシーン。綾香も参加させられる。やがてリラックマ走るの遅いので美夏が
追いつく。腰抜ける。
美夏 クマ！
クマ ども。
美夏 夢だ。絶対夢だ。
えり そう、夢みたいでしょ。
美夏 覚めて、いや、覚めないで。リラックマちゃんみっけ！
えり どう？ うちのリラックマ。
美夏 あの？
えり そうあの。この子喋れるようになったんだ。
美夏 すご〜い。怖〜い。
えり すごいでしょ。美夏ちゃんだったら絶対喜んでくれるって。
美夏 泣いてるよ。
クマ 泣いて喜んでるんですね。
美夏 ねえなんで？ なんで喋れるようになったの？
えり それはね。うちが助けてあげたから。
クマ ありがとう、えりさん。
えり 心が通じたんだよね。
クマ はい。
美夏 他には？ 歩くの？ 動くの？
えり まだ練習中。
綾香 練習してるんだ。
クマ 頑張ります。
美夏 何か言ってない？ 前の持ち主がどうとか。
えり さぁ。
クマ 変な人でした。
美夏 どんな人？
クマ 私のこと、燃やすって。
美夏 ひ、ひどい人だね。
クマ 大丈夫。えりさんが助けてくれました。
えり だってリラックマ好きとしては黙っとかれへんかってんもん。美夏ちゃんだってそうするやろ。
美夏 そう、かな。
えり 夜中に大声出して追っ払った。
美夏 ちょっと迷惑。
綾香 だよね。
美夏 ねえ、あたしのこと、怒ってない？
えり 誰が？
美夏 クマ。
えり なんで？
美夏 だって、リラックマがしゃべるなんて、信じてなかったっていうか、疑って掛かってるというか、びっくりして逃げ出しそうになった
から。
クマ だれだってそうです。怒ってませんよ。
美夏 ほんと？
美夏は次第に、画面上にいるリラックマは一人かくれんぼのせいで命を持ったのではない
という事に気付いていく。
クマ 本当です。
えり だって。安心した？
美夏 うん。（引きつり笑い）いいな、ウチのリラックマも喋れるようにならないかな。
えり 教えよか？ やり方。
美夏 （引きながら）すご〜い。教えて。また今度。
綾香 分からん。リラックマ好きの発想が分からん。
クマ 分かってください。
えり 美夏ちゃん。紹介するね。この子綾香。
綾香 新しいリラックマ友達なんやろ？
えり そう。仲良くしたげてね。
綾香 へいへい。こんばんわんこ。
美夏 こ…？
綾香 ノリ悪い子？
美夏 (明らか傷ついている表情。面白くね)
えり (笑いながら)人見知りやねんって。
美夏 …。
えり 綾香しょっぱなからきついわ。
綾香 しゃーないやん。こんな性格やもん。
えり (顔を覗く)美夏ちゃん？
美夏 …ん。
えり どーしたん、ぼーっとしてダメージ受けた。
美夏 いや。大丈夫。
綾香 あんたら、ネットで知りあったんやろ。
えり ブログ見てくれて。リラックマ好きって書いてあったし、気合いそうやから。
綾香 出た。くそリラックマ。
クマ くそじゃありません。
綾香 ブログとかなんか怖くない。
えり なんで。
綾香 だって知らん人やん。会ったことは？
えり 無い。けど美夏ちゃんとは今度、一緒にリラックマストア行くから。
美夏 楽しみだよね。
綾香 実際会ってみたらおっさんかも知れへんねんで。
美夏 おっさんじゃないです。
えり 大丈夫。おっさんやったら走って逃げるから。
クマ おっさんを目の敵にするのはやめてください。
綾香 そっか、リラックマっておっさん入ってるんや。
クマ 公然の秘密です。
えり そんなん言うけど、綾香とも知り合ったキッカケはミクシィやん。
綾香 そやったっけ。
えり 覚えてないん。
綾香 …うろ覚え。
えり ジジイか。
綾香 (笑いながら)どっちかって言うとババアや。
美夏 (苦笑)
えり ごめんな。私等いつもこんなかんじ。
美夏 ううん。聞いてて面白い。
綾香 ま、仲良くしましょ。
美夏 うん。よろしく。
えり さ、何して遊ぶ？ なんかしたいことある？
クマ 修学旅行。
美夏 修学旅行？
えり そう。夜遅くまで部屋でこっそりしゃべるの。修学旅行みたいやなって喋っててん。
綾香 修学旅行といえばやっぱ、枕投げでしょ。
美夏 届くの？
えり 信じれば届くかも。
クマ やろう、枕投げ。
綾香 で、どうすんの？
えり この歌知ってる？ 僕には〜、夢〜がある♪ 希望〜がある、そして♪
クマ 『ちんこがある〜』
間。みんなにぼこぼこにされるクマ。
クマ ゴメ、ゴメンナサイ。
綾香 あんた、都合の悪いことクマに喋らすのやめって言ったやん。
えり 何？ なんのこと？
美夏 これ、隠しとくね。（パネルを遠くに）
クマ あ〜、僕のちんこが。
綾香 おかしな言い方しないの。
えり （笑ってる）じゃ、クマは一回休みってことで。行くよ。
言葉の枕投げ。受け取った人は次の人へと言葉の枕をつないでいく。最初に枕を拾ったのはえり。歌い出す。
えり 僕には〜、夢〜がある♪（パス）
綾香 希望〜がある、そして♪（パス）
美夏 持病がある〜♪
えり ストップ！ そのタイミングで枕持ってた人は、自分の持病を告白すること。
美夏 え、お腹イタとか？
えり そんなんじゃなくて、気持ちの持病。
美夏 え、え、あ、見てはいけないものほど凝視してしまう。あ、ヤンキーだ、特攻服とかどこで売ってんだろ。じ〜。
みんな ららら、ら〜ら〜♪ ららら、ら〜♪ 前向いて歩こ〜♪（パス）
えり その調子！
クマ 僕には〜、夢〜がある♪（パス）
えり 希望〜がある、そして♪（パス）
綾香 持病がある〜♪ 自販機でジュース買う時に、ホンマに飲みたい奴の右と左のボタンも一緒に押して何が出てくるか試したくなる。
た〜！ うわ、最悪。おしるこ。
みんな ららら、ら〜ら〜♪ ららら、ら〜♪ 前向いて歩こ〜♪（パス）
美夏 僕には〜、夢〜がある♪（パス）
クマ 希望〜がある、そして♪（パス）
えり 持病がある〜♪ ミシン目見たらついつい切り取りたくなる。映画のチケット切り取り無効、切ったらあかん、切ったらあかん、
あかんのにぃ〜、ビリバリやってもうた！
みんな ららら、ら〜ら〜♪ ららら、ら〜♪ 前向いて歩こ〜♪（パス）
綾香 僕には〜、夢〜がある♪（パス）
美夏 希望〜がある、そして♪（パス）
クマ 持病がある〜♪ 大好きなおやつを半分だけ食べるって難しくないですか？ ホットケーキ、コリラックマさんに半分残しておこう。
むしゃむしゃ。あ、いつの間に…。全部食べちゃえ、がぁ〜。
みんな ららら、ら〜ら〜♪ ららら、ら〜♪ 前向いて歩こ〜♪
歌は次第にテンポアップ。踊りも入って賑やかな夜。美夏の心も次第に解けていく
気がした。
『扉の向こうの訪問者』
ノックの音。動きを止める４人。下手のサスに別な女。ノックの主だ。
綾香 先生だ！
美夏 おやすみ！
というが早いか箱を枕に寝たふりをかます綾香と美夏。クマもすとんと箱に座り込む。
静寂。えりは？ えりだけは起きてる。ノックは聞こえているはずなのに返事をしない。
もう一度ノック。
えりママ えり。起きてるんでしょ。
スマホをポケットにしまうえり。ため息一つ。
えりママ いくら夏休みでも程々になさい。
えり うん。もう寝る。おやすみ。
えりママ おやすみ。
そこで会話は終わるのか？ と思ったが、今夜は違った。
えりママ 専門学校の話だけど、どうしてもっていうなら行ってもいいから。
えり え？
えりママ お金なら大丈夫。夢なんでしょ？ 自分のお店持つの。えりのこと応援したいって言ってくれる人、いるんだ。
えり 橘さん？
えりママ …そう。嫌？
えり …嫌じゃない。
えりママ そう。よかった。えりの話してたの。料理が好きでオムライスなんてあたしが降参するぐらいの腕前だって。今度食べてみたい
なだって。
えり あのさ…、寝るから。
えりママ あ、ごめん。
えり おやすみ。
えりママ おやすみ。（部屋へ戻ろうとする）
えり …お父さんのこと、忘れないでね。
間。扉越しの緊迫感。
えりママ 忘れないわ。
去る。静寂の中一人残されるえり。ふと見ると動かないクマが一緒に泣いていた。
えり 僕には、夢がない、希望もない、そして、持病はある。大切なことほど上手く喋れない。今が大切なんて言ってみるけど、それは
五年後の自分が見えないから。お母さんには幸せになって欲しいくせに、自分がその材料にされてるようでむかつく、吐きそう。
クマ。どうすればいい？ クマ。
クマに寄り添うようにえり。クマのポケットからケータイを取り出すけど、
自分で自分は慰められない。
えり するわけないよね、返事。
クマとえりだけ暗闇に浮かび上がっていた。二人ぼっちだけど、独りぼっち。
『えりさんはお休みです』
ラインの呼び出し音が暗闇に響く。美夏が円形舞台に沿って歩きながら登場。
綾香は舞台の奥へ。えりは膝を抱えて眠りにつく。リラックマは座ったままじっとしている。
美夏 みんな寝たかな。（画面を確認）既読１。あはは。誰か起きてる。夏休み、万歳。まだ起きてる人〜。早く寝ましょうねって、あたしもか。
ラインの着信音。一人じゃないって安心感がとりあえず広がる。画面を確認。え？
クマ は〜い。
美夏 クマ？
クマ クマです。
美夏 えりちゃんは？
クマ お休みです。
美夏 なんで？ なんでクマだけ起きてるの？
クマ いろいろあるみたいで、今日はもう寝るって布団かぶってグーグー。
美夏 いろいろって？
クマ いろいろです。人間に起きる難しいことは、クマには分かりませんから。
美夏 そっか。
クマ 別にいいんです。クマですから。
美夏 そうだね。
クマ はい。
つづく…
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