創作脚本の部屋へ作：ちゃっぴー 潤色：五ノ井幹也
【キャスト】
優 一 いじめられっ子
梅太郎 健康優良児
歩 いじめっ子
遥 幼馴染み
美 咲 クラスのアイドル
ゆ か ぶりっ子情報屋
友 也 近所のお兄さん
犬 時を告げる犬
電話女 アリ殺し
『７年ぶりの生まれた街』
街の雑音が聞こえる。秋晴れの昼下がり。ここは空き地のはず…なのに、ベンチや
ビーチチェアーや段ボールなどがあってゴミ捨て場みたい。このお話は街角の空き地
に生える雑草のようにどうでもいいお話しなのかも知れません。一人の高校生があた
りの様子をうかがうように空き地に足を踏み入れる。優一である。
優 一 うわぁ〜。変わってねぇ〜。
彼は置き去りになっているゴミの山に手を掛ける。目にとまったのは古びたビーチチェ
アー。引っ張り出して広げてみようか。
優 一 昔もこんなん、あった気がする。うん。
そう言うと砂埃を払って広げてみる。まだ使えそう。恐る恐る座ってみるか。思ったよ
り調子が良い。足を投げ出す。壊れないか確認する。大丈夫だ。寝ころんでみる。こりゃ
いいぞ。大きく深呼吸すると秋の青空とさわやかな風を見つけた。すごく得した気分。
優 一 やっぱここが僕の街や。ええなぁ、この空気…。そや！
ズボンのポケットから携帯。開くと空に向け構える。
優 一 岡田優一１７歳。またこの街に戻ってくることが出来ました。この街の空さん、雲さん、風さん、おっちゃん
おばちゃん懐かしい友達もみんなみんな、また、よろしくお願いします！
そう言うと優一は空に向かってシャッターを切った。音楽。もの凄いさわやかな青春ドラ
マが始まるって感じ。優一はカバンに携帯をしまうと替わりに中から古びたひよこの人形
を取りだした。ひよこにも７年ぶりの街を見せてやりたい。そう素直に思ったからだ。この
ひよこを連れて外に出るのも久しぶりだった。
『いじめっ子襲来』
その時であった。たくさんの小学生が優一を取り囲む。みんなゴレンジャー系の仮面を
かぶっている。何の騒ぎだ？
小学生１ 秘密基地に誰かが侵入したぞ！
小学生２ 犯人を捕まえろ！
優 一 お前ら、何するねん。
小学生３ いた！ こいつだ。
小学生４ やっつけろ！
みんな お〜！
優 一 お兄ぃーさんは怪しい人ではあ・り・ま・せ〜ん！
寄ってたかって優一に襲いかかる小学生。優一はもみくちゃにされて上着とズボンを脱
がされる。カバンも奪われずたぼろに。最近の小学生は恐いね。優一は必死でひよこを
守る。小学生たちは身ぐるみはがすとランドセルを一つ投げつけるように優一に渡して去っ
ていった。
優 一 なんで？
その時一人の女の子（歩）、駆け足で登場。いきなり優一に跳び蹴りをかます。
歩 うおりゃあっ！
優 一 ぬぅあぁっ！（気持ちよくすっ飛ぶ）
歩 何コソコソしてんの？
優 一 何するねん。人が感傷に浸ってるのに。あれ？
歩 あぁっ！
優 一 歩ちゃん？
歩 そのキーホルダーかわいいなぁ。
優 一 なんでランドセル…。
歩 優一、それ歩にちょうだい。
優 一 え？
歩 ちょうだい。
優 一 これは僕のお気に入りの…。
歩 かわいく言ってるけどこれ、命令ね。はい。
優 一 なんかこんなシーン前にもあった気がする。
歩 なんで男のくせにひよこのキーホルダーやねん。ま、あんたひよこそっくりやけど。
優 一 ぴよ吉っていうねん。かわいやろ？ なぁ、ぴよ吉。
歩 うん、かわいい。だからちょうだい。
優 一 え、アカンよ！
歩 うちに逆らう気？
優 一 いや、あの、だってぴよ吉やし…。
歩 「ぴよぴよ」うるさいわ！ちょうだい！
優一からぴよ吉を奪う歩。
優 一 あ〜、ぴよ吉〜！！
歩 今日からぴよ子に改名や。
優 一 男の子やのにぃ〜。
歩 じゃあねぇ〜。
♪ちゃらら〜 時代劇で流れそうな音楽が流れ、梅太郎が登場。
優 一 うわぁ！梅太郎君！
歩 なんやねん、梅干し。
梅太郎 梅干しじゃねぇ。梅太郎や。
歩 あっそ。
梅太郎 ぴよ吉から手を離せ。
歩 ぴよ子です。
優 一 僕は認めてへん！
梅太郎 分かったって。とりあえずそのひよこを返せ！
優 一 返して！
歩 何で返さなあかんねん。
梅太郎 優一のお気に入りやからや。
優 一 ぴよ吉がいないと…、う〜（泣）返して〜。
歩 情けないなぁ〜。男が泣くなよ。
梅太郎 泣かすなよ！
歩 もう帰っていい？ 早く家帰っておやつ食べたい。
梅太郎 おれもおやつ食いてぇ〜…。じゃない！返せ！
歩 しつこいなぁ。そんなに返して欲しかったらうちを倒してみい！
梅太郎 おぅ！ 行け優一。
優 一 え、ぼ、僕？
梅太郎 今日はいつもとちゃう。お前はぴよ吉のために戦うんや。
優 一 助けに来てくれたんじゃないん？
梅太郎 行くんだ、優一！
優 一 いやや、恐いもん！
梅太郎 俺かって恐いんじゃ！
ぷっつん。切れちゃいましたよこの人。
歩 何ごちゃごちゃ言うとんねん！ さっさと来いや！
ぴくっ。優一と梅太郎、顔を見合わせて…
優・梅 うおりゃあ〜！
２人で歩に向かって行く。余裕でかわす歩。ドーン。優一、梅太郎の上へ
優・梅 ぎゃあ〜…。
歩 ばいばぁ〜い、梅干し、泣き虫涙くん。あ、そうそう。うちの宿題やっといてなぁ。はい、計算ドリル。高橋
先生に告げ口したら承知せえへんからね。
梅太郎 梅干しじゃ…ねぇ。
梅太郎を無視してはける歩。
優 一 う〜…(泣)なんでやぁ〜、なんでこんな目に遭うんや〜。
梅太郎 こら、人の上で泣くな。どけ！
優 一 あ、ごめん。う〜(泣)
梅太郎 男がメソメソ泣くんじゃねぇ！
優 一 だって…。
梅太郎 女に負けて悔しくないんか！
優 一 それ以前にな、何で俺は高校生にもなって小学生のお前らにもて遊ばれてるのかが分からんのや。
梅太郎 優一、お前大丈夫か？
優 一 大丈夫じゃないよ！
梅太郎 そやろ。言うてることが無茶苦茶になってるぞ。
優 一 だから無茶苦茶にもなるって。
梅太郎 ええか、俺らは高校生やない。高学年や。４年生やろ？
優 一 え？ いつから？
梅太郎 ４月からに決まってるじゃん！
優 一 じゃん！って。
梅太郎 気持ちは分かる。大切なぴよ吉歩に取られて…。高学年か高校生か分からんぐらい悔しかってんなぁ。
優 一 そうなん？
梅太郎 俺も悔しい。めちゃめちゃ悔しい。痛いし、むちゃくちゃ…。
優 一 ごめん、僕のためにそこまで…。
梅太郎 何言うてんねん。トモダチやろ。
優 一 梅太郎くん…。
梅太郎 優一…。
見つめ合い、抱き合う２人…(苦)ホモか。やめえろ。うるさいわい。と、そこへ
美咲・遥登場。手にはポンポン。
『応援合戦練習』
遥 うわぁっ！
美 咲 (２人をじーっと見ている)大丈夫、大丈夫…。
２人はまだ抱き合ったままだった。
梅太郎 あ…？
優・梅 何してるの？
優 一 いや、あの、ハルちゃん違う…。
梅太郎 美咲ちゃんも見てた？
美 咲 (首をブンブン横に振る)
遥 え？見たやんねぇ？
美 咲 …ちょっとだけ…。
梅太郎 ウソやん…。あの、違うからな！
遥 何が？
梅太郎 全てが違う！
遥 意味不明。
優 一 つまり…。
美 咲 大丈夫。私もハルちゃんもそんな風に思ってないから。
梅太郎 あ、そうか。良かったぁ〜…。
遥 え？ 何？ 何が？
梅太郎 うるさい。もうええの。
遥 だから何がよ。
梅太郎 しつこい。その話は終わったんや。
遥 なんで終わっちゃったんよぉ〜。
優 一 時の流れは早いから。
梅太郎 おまえはじじいか。
遥 美咲ちゃん、私仲間はずれにされてない？
美 咲 大丈夫、されてないよ。
遥 なんか納得できひんなぁ。
優 一 まぁまぁ。
遥 もういいわ。練習しよっか。
美 咲 うん…。
梅太郎 練習って？
遥 運動会の…。
梅太郎 おまえに聞いとらん。
遥 な…(怒)
優 一 まぁまぁ。
美 咲 運動会の応援団の…練習。応援団長になっちゃって…。
遥 まぁ、よろしく。
梅太郎 え〜。遥が応援団長？え〜。やる気でねぇ〜。
美 咲 あの…。
梅太郎 何？
美 咲 私。
梅太郎 へ？
美 咲 応援団長、私。
梅太郎 えぇ！？ウソやん！美咲ちゃんが？
美 咲 くじ引きで…大当たり。
梅太郎 かわいそう〜。できるん？ う〜、やる気全開！
遥 私の時と態度違うよねぇ？
優 一 まぁまぁ。
美 咲 ハルちゃんがいてくれるから大丈夫カナ
梅太郎 あんなんで大丈夫か？
遥 ねぇ、蹴っていいかなぁ？
優 一 う〜ん…ダメかな
遥 もう！梅太郎ジャマ！
梅太郎 うるさいなぁ。美咲ちゃん頑張ってな！俺は君の応援団長さっ！
遥 キモイ！ウザイ！どけ！
優 一 梅太郎くん、こっちこっち
優一、梅太郎すみっこに。
遥 よしっ！練習開始！
美 咲 えっと…フレーフレー…。
遥 ダメダメ。もっと大きな声出さんと聞こえへんよ。
美 咲 うん…（ちらっ）
遥 もう一回ね
美 咲 …。
遥 どうしたん？
美 咲 …見てるから…
男２人、じーっと見ていた。
遥 こらぁっ！見るな！
梅太郎 心配するな。おまえは見てない！
遥 分かってる、分かってるわ！ 美咲ちゃんを見るな！ 気になって練習できひんの！
梅太郎 気にすんな。
遥 美咲ちゃんが気にしてんの！
梅太郎 でも、運動会はみんな見てんで？
遥 あ、そっか。でも、今はあんま見んとって。
梅太郎 はいはい。ったく、うるさい…。
優一、後ろ向き。梅太郎、見てないフリ。
遥 よしっ！ 頑張ろう！
美 咲 うん。フレーフレー…何組？
遥 え？
梅太郎 白！ 俺、白組！
遥 うるさい！赤組やからね、美咲ちゃん。頑張ろうねぇ。
美 咲 うん。
遥 よし、もう１回！
美 咲 フレー、フレー、赤組！
遥・美 頑張れ頑張れ、赤組！
梅太郎 頑張れ頑張れ、美咲ちゃん！
優 一 頑張れ頑張れ、ハルちゃん！
あれ…？みんな応援してるやつが違うナァ…。
遥 美咲ちゃん、公園で練習しよっか。
美 咲 …うん。
梅太郎 ええ〜。
遥 付いてきたらアカンで。
梅太郎 心配すんな。おまえには付いて行かへんから。
優 一 梅太郎くん！(何てコトを言うんだ君は！って…)
遥 梅太郎のアホ！ 美咲ちゃんにも付いて来たらアカン！ 行こう、美咲ちゃん。
美 咲 うん…
梅太郎 えぇ〜
遥 この線から出んとってください。（地面に線を引く）
梅太郎 うわ。
遥 バーリヤ。高圧電流プチ。
梅太郎 ビリビリっ。熱ぅぅぅ！
遥、美咲を連れて行ってしまう。
優 一 あ…
残された２人。
優・梅 (ため息)
梅太郎 何で優一までため息つくん？
優 一 え…、あの…。
梅太郎 やっぱ俺、公園行く。優一も行こう！
優 一 …(首をブンブン横にふる)
梅太郎 なんで？行こうや
優 一 ハルちゃん、怒るから。
梅太郎 あっそ。じゃあ、一人で行く。
優 一 アカンって。怒るよ、ハルちゃん。
梅太郎 ハルちゃんハルちゃんってうるさい。
優 一 だって…かわいそう。
梅太郎 え？何て？
優 一 …ううん、なんでもない。僕、行かへんから。
梅太郎 じゃあ一人で行くな。また明日〜。
優 一 ばいばい…。
優一の記憶から高校生だった昨日までが消えていき、小学生の今日こそが全て
になりつつあった。懐かしい街角の不思議な出来事。
優 一 明日、か。
『誰なん？』
梅太郎を見送った優一はふと足元に気付く。アリだ。列になって歩いている。
ずっとたどっていくと巣穴も発見。いいこと思いついた。ランドセルから取りだした
のは給食の残りのパン。小さくちぎってアリの列のそばに置く。来ない。もうちょっ
と近くに。
優 一 おい、そんなカラカラのミミズなんかよりこっちの方が美味しいぞ。ほら、よけるなよ。あ、一匹来た。
アリ太郎、パンやぞパン。食べてみ？ 心配して触角動かしてる。･･･かわいいなぁ。いいよなぁ、ア
リは。あ、もう一匹来た。わ〜話してる。（ちょっと声高く）何してるの、アリ太郎君。（ちょっと声低く）
やあアリ子ちゃん、見ろよ。見かけない白い物が落ちてるんだ。（ちょっと声高く）わぁ、お砂糖だ！
（ちょっと声低く）違うよ。甘くないんだよ。（ちょっと声高く）でもいい匂い。もっと食べてみましょう。
（ちょっと声低く）そうだね。むしゃむしゃ。うん、旨い！（ちょっと声高く）さっそくお家に運びましょう。
（ちょっと声低く）そうだね。今夜はごちそうだ。さっきのミミズと白いのと。でもみんなで食べるのに
はちょっと少ないなぁ。
一人アフレコしながら優一はさらにパンを小さくちぎって地面に落とす。
優 一 （ちょっと声高く）わぁ〜おっきな白い固まりがぁ〜。（ちょっと声低く）危なぁい。大丈夫かい、アリ子
ちゃん。（ちょっと声高く）ええ。大丈夫よアリ太郎君。それよりごちそうが増えたのよ。（ちょっと声低く）
ラッキー。これでみんなで食べられるね。急いでお家に運ぼう。（ちょっと声高く）ええ。子供たちきっと
喜ぶわ。ウフッ。
ふと気が付くと物陰に一人の影。こっちを見ている気がする。高校の制服を着た女の子。
優 一 誰？
すっと姿を隠す女の子。優一はもうひとかけらパンをそこに置くと、恐る恐る
女の子が消えた物陰をのぞく。誰もいない。今のお姉さん、どこかで見たこと
があるような気がするんだけど…。
『アリと優一』
そこへ友也登場。
友 也 おっ、優一。
優 一 あ、近所のお兄さん。
友 也 まぁ、近所のお兄さんやけど…。優一、一人？
優 一 ううん。
友 也 えっ？ 一人やんか。
優 一 ううん。５０人ぐらいやね。
友 也 えぇ？ ５０人？
優 一 あ、５０匹か…。
友 也 何が？
優 一 アリが。
友 也 あぁ、蟻ね。
優 一 気をつけて、踏まんようにね。
友 也 あ、分かった。けど俺、アリ嫌いやわ。気持ち悪い。
優 一 じーっと、見てたらかわいいよ。
友 也 うわぁ〜。生物の先生と同じような事言うし。
優 一 何が？
友 也 アカゾウリ虫ちゃんかわいいぞ〜って…。俺、気分悪くなってレポート書けんかったし。
優 一 高校、大変？
友 也 うん、まぁ。小学校に戻りたいかも。
優 一 小学校も結構大変。
友 也 生意気言うな。
優 一 僕な、さっきこいつらに餌あげてん。
友 也 ほな、このアリみんな優一の飼いアリなんか？
優 一 飼ってるわけとちゃうけど、友達みたいなもん。
友 也 友達って。
優 一 こいつがアリ太郎。
友 也 名前まで付けてるんや。
優 一 ほんでこっちの小さいのがアリ子。
友 也 手軽でがっちり入院保険って感じやね。
優 一 名前付いてるのはまだ２匹だけやけど。
友 也 全部付いてたら恐いよ。
優 一 見分け付かへんもんねぇ。
アリを見つめる優一。友也ちょっと涙ぐむ。
優 一 あれ、泣いてるの？
友 也 …お前、友達おらんねんなぁ。
優 一 おるよ！ 友達。
友 也 分かった。それ以上言うな。近所のお兄ちゃんが友達になったる。
優 一 それは嬉しいけど、友達ちゃんといる。梅太郎君や美咲ちゃん、ヒロシ君、コウちゃん、幹也君。遥ちゃ
んに〜、…歩ちゃん。だから心配せんとって。
友 也 そうなんか？
優 一 友達はおる。でも僕は友達とちょっと違うねん。
友 也 アリに名前付けるぐらいやからなぁ。
優 一 僕なぁ、みんなと違うねん。違いすぎるよ。男のくせに、メソメソしてて、弱虫で。もっと、みんなと一緒に
なりたいよ。梅太郎くんみたいにお気楽で、ハルちゃんみたいに強きで、美咲ちゃんみたいにアイドル
的存在で。
友 也 あんな、人のええとこばっかり気にしててもしゃぁないんちゃうか？ もっと自分のええとこ見つけな。
優 一 そんなん、ない。さっきも歩ちゃんにぴよ吉取られて、返せってよう言わんかった。
友 也 ぴよ吉？
優 一 うん。ランドセルに付けてたキーホルダー。お気に入りやったのに。
友 也 なんや、アユミいう子は友達ちゃうんか？
優 一 友達…。でもやっぱり違う。
友 也 そんな奴やっつけたれ。
優 一 あかんよ。めっちゃ強いのに。僕だけやない。梅太郎君でもかなわへん。
友 也 そんなに強いんか。
優 一 無敵。最強。絶対無理。
友 也 おったなぁ、小学生ぐらいの時そんな奴。あんな、ええこと教えたろ。強い相手に勝つ方法。
優 一 勝つ？
友 也 うん。アリになるんや。
優 一 こんなちっこい？
友 也 アリは確かにちっこい。でもな、大勢で集まったら大きな獲物でも倒せる。アフリカにいる軍隊蟻はみん
なで集まって大きな牛でも倒してしまうんやで。
優 一 ほんま？
友 也 ほんまほんま。人間なんかも軍隊蟻が近づいてきたら逃げるんやって。だからな、優一も仲間集めて
みんなで戦ったら勝てるって。
優 一 う〜ん。
友 也 信じてないんか？
優 一 そんなことない。でも、僕は勝ちたいわけやないねん。強くなりたいだけ。
友 也 強くなって、相手を倒すんやろ？ ぴよ吉取り返したくないんか？
優 一 取り返したい。
友 也 ほな相手を倒さな。分かる？
優 一 う、うん。
友 也 優一は優しすぎるんや。相手のこと考えすぎるんや。だからな、自分ばっかり損する。優しいんはええ
けど、いざというときはバシッと言わんとあかんで。
優 一 うん。
友 也 ほんでどうしてもあかんかったら俺に言い。ぴよ吉ぐらい取り返したるから。
優 一 お兄ちゃん、小学生の女の子相手に本気でかかっていくわけ？
友 也 いや、本気でかかっていくわけちゃうけど。ぴよ吉取り返したいんやろ？
優 一 あかん。本気でかかっていかんとお兄ちゃんでもやられる。
友 也 まじっすか？
優 一 まじっす。
友 也 どんな女や、ホンマ。
優 一 あ、アリ太郎もうあんな所まで行っちゃった。
友 也 どこ？
優 一 ほら、白いもんくわえてるから見えるやん。そこ。階段のちょっと手前。アリ子もすぐ後ろ歩いてるよ。
友 也 優一、目ええなぁ。
二人はアリ太郎とアリ子の方へ。
友 也 ここ危ないよなぁ。人とか通るで。
優 一 うん…。僕、守る！
友 也 は？この蟻を？
優 一 うん。今夜はミミズとパンの豪華な夕食やねん。な、アリ太郎。
友 也 なんか俺までアリに感情移入してきちゃった。
優 一 慣れてきたらかわいいやろ？
友 也 うん。頑張れアリ子。
優一、そのへんのガラクタでアリの行列を守ろうとする。友也もそれに付き合って
しゃがんでアリを見ている。そこへ携帯で話しながら自転車でやってくる女子高生。
優＆友 ああああああああああああああ！
通行人 え？ 何？
通行人急ブレーキ。自転車は滑るように友也と優一の真ん前に止まった。アリ、
踏まれる…。
優＆友 アリ殺し！
通行人 うざっ！
優＆友 早くどいて、早く！
通行人 何よ？（キレてる）
優＆友 アリ太郎、アリ子！
パタンと携帯を閉じ自転車をこぎ出す通行人。残った二人ははいつくばって
地面を探す。
友 也 あ〜あ。せっかく優一が守ってたのに。
優 一 う〜…、アリ太郎…（泣）
友 也 泣くなよ。ほら、まだアリ子が生きて…、うわぁ〜、アリ子〜。
優 一 アリ子まで、わぁ〜（泣）
優一、泣いている。よしよししてあげる友也。怒りながら遥登場。
遥 あ、近所のお兄さん！
友 也 まぁ、近所のお兄さんやけど…。
遥 あれ？ 優一、どうしたん？
友 也 アリ太郎とアリ子が…、事故で…、え〜っと…。
遥 アリ？（足元を見る）あ…。
優 一 う〜…。
遥 よしよし。
友 也 ハルちゃん、後はお願い。
遥 帰るん？ 久しぶりに見たのに。
友 也 帰るんちゃう。さっきの女に文句言ってくる。
遥 アリ踏んづけた？
友 也 アリ殺し女め。電話しながら自転車乗るな。（はける）
遥 電話してなくても踏むときは踏むと思うけどなぁ…。（優一の腕を振って）ばいばぁ〜い。
遥は友也を見送った後、優一のそばへ近づいてくる。当然腰に手。
遥 （お姉さん口調）優一君、一つ言ってもいいかな。
優 一 何？（アリを拾っている）
遥 アリに名前付けるの、やめた方がいいんじゃないかな。
優 一 なんで？
遥 ほら、自分とこに飼ってる犬がいるじゃない、当然名前付けるよね。かわいがるよね、死んじゃったら
悲しいでしょ。名前も知らないヨソの犬だったら悲しくないから。
優 一 だって。
遥 お母さんが言ってたの。犬は飼っても飼われるなって。
優 一 なんでそんなに分かったような顔してるん。
遥 それはね、ちゃんといろいろ分かってるから。
優 一 どうせ僕は分かってませんよ。（涙を拭いて）あ、そうだ。ハルちゃん応援の練習は？
遥 （元に戻る）あ…そうやねん！ 優一、聞いてや！ 梅太郎がな、付いて来たらアカンって言うてんの
に「俺は美咲ちゃんを応援するんや！」って…。何なんよ！「美咲ちゃん、美咲ちゃん」って！もう〜、
ムカツク〜！！
優 一 まぁまぁ。
遥 うちもな、美咲ちゃんの事大好きやで。かわいいし、勉強教えてくれるし、守ってあげたい！って感じ
やし。でも、梅太郎は分かってないねん！ 美咲ちゃんには好きな人がいんねん。一組の林くん。
両想いやねんで。
優 一 へぇ〜。
遥 大体梅太郎は鈍いねん！ 何も分かってへん！ うちにも、もうちょっと優しくしてくれたっていいやん。
うちら幼稚園の時から仲良いわけやし。
優 一 うんうん。
遥 「美咲ちゃん、美咲ちゃん」って、お前はストーカーか！…って、うち、一人でしゃべりすぎ？？
優 一 …うん。
遥 あ、ごめん。つい我を忘れて…。
優 一 ハルちゃんらしい。（笑）
遥 なんか、ちょっとスッキリ。
優 一 あれだけしゃべればねぇ〜。
遥 ごめん。ホンマごめん。昔っから、優一にグチってばっかやんね。
優 一 そういえば、そうやね。
遥 優一相手やと安心して我を忘れれる。
優 一 え！？（それって…）
遥 梅太郎みたいに、つっこんでこ〜へんし。あれは、ムカツク。
優 一 あ、そ〜いうことね…。（なぁ〜んだ）
遥 なぁ優一。お墓つくろっか。
優 一 お墓？
遥 うん、アリのお墓。
優 一 …うん。
遥 これ何？
優 一 これで、アリを守ろうとしたんやけど…。踏まれた。
優一、ガックリ。
遥 よく頑張りました。花マルやね。
優 一 …花マルか。
夕焼けがキレイ。のほほんとした雰囲気。二人は誰にも踏まれない隅っこ
の方へアリさんを連れて行く。
『情報屋中西ゆか』
夕暮れの中遥と優一が家路につく。残されたのはアリのお墓とお供えのパン。
日が暮れ月が出る。現れたのは野良犬一匹。パンを発見し幸せの踊り。月に
向かって思わず遠吠えする。すると、辺りはすがすがしい朝に。動揺する野良犬。
下手の木戸から眠そうに梅太郎登場。野良犬と目が合う。
梅太郎 犬。
野良犬 （違うちがうのゼスチャー）
梅太郎 お前、また人の家のゴミ箱ひっくり返しに来たんか。
野良犬 （だから違うってのゼスチャー）
梅太郎 今日こそ許さん、成敗してくれる。
梅太郎のテーマ再び流れる。短いほうきが梅太郎の剣。
梅太郎 覚悟！
切ってかかる梅太郎。ジャンプしてかわす犬。こしゃくなぁと切り返す梅太郎を
振り向きざまに犬キック。吹っ飛ぶ梅太郎。犬嬉しそうにその場から消えた。
梅太郎 くぞぉ〜、今日も逃げられた。昨日遅くまでゲームしすぎたからなぁ。どうも調子がでぇへん。。あ〜、
眠い…
ベンチに横になる梅太郎。そこに、怪しいオーラの女の子がスキップしながら
回転して登場。少女マンガの一コマみたい…。
ゆ か あ、梅干し！ おっはよう！
梅太郎 んあ？ 梅干し！？ 梅干しじゃねぇ！梅太郎や！
ゆ か 起きた〜梅干し〜。
梅太郎 うわぁ〜出たぁ〜。
ゆ か 中西ゆかで〜す。ゆかりんって呼んでちょ。
梅太郎 呼びません。(寝る)
ゆ か ちょっと〜起きて起きて起きて〜。
梅太郎 …(寝てる)
ゆ か (自分のリコーダーでツンツンする)梅干しくん、ツンツン
梅太郎 こら。ツンツンすな。
ゆ か はぁ〜い。
ゆか、梅太郎のランドセルをあさる。国語のノートを見て大爆笑。
ゆ か アハハ！ 字汚い！ ぐちゃぐちゃ、アハハ。(ツボ)
梅太郎 こら！ 人のランドセル勝手に開けるな。しかも何笑ってんねん。
ゆ か 字汚い。ミミズのダンスってこういう字の事言うんやね〜。
梅太郎 笑うな！返せ！
ゆ か はぁ〜い。
梅太郎 ったく…。(寝る)
ゆ か ねぇ、つまんない。
梅太郎 学校行け。
ゆ か 梅干しは？
梅太郎 梅干し…(無視して寝る)。
ゆ か 無視すんな〜梅干し〜。起きろ〜。
梅太郎 うるさい！ しつこい！ 消えろ！(寝る)
ゆ か …ひどい。そんなに怒らんくても…。(泣)
梅太郎 え？ 泣くなよ。
ゆ か あ、起きた。(ニッコリ)
梅太郎 は？ ウソ泣き？
ゆ か バーン。(水鉄砲で)
梅太郎 …！(寝る)
ゆ か こうなったら…。
ゆか、ポケットの中からマル秘手帳を取り出す。嬉しそうに開くと朗読開始。
ゆ か １０月２９日の梅干しくん情報〜。
梅太郎 梅干しじゃねぇ、梅太郎や。
ゆ か ２時間目社会の時間。ひたすら机を消しゴムでこすった後、机の穴に消しゴムかすを詰めて鉛筆のおし
りで餅つき〜と遊ぶ。あまりに餅つきに没頭したため、先生の話を全然聞いかず、結果等高線を７色に
ぬり、美しいと満足したところで高橋芙美子先生の愛の鞭を食らう。「これは体罰じゃないの、愛の鞭よ、
きぇぇぇ」ドス・ボカ・バキ・さくっ。
梅太郎 ずっと見とったんか。
ゆ か 壁に耳あり障子にゆかりん。４時間目算数〜ぅ。
梅太郎 知らん知らん、昨日、算数の時は怒られんかったぞ。手も挙げたし。分数かって最近分かってきてんぞ。
ゆ か 梅干しくん鼻くそ事件発生。
梅太郎 もうええやん、起きるから。起きます。
ゆ か 左の鼻をほじくっていた梅干しくんはごっつい長い鼻くそをゲット〜。自ら目を丸くして小さい声で「おっ」
と驚きをあらわにする。かわいっ！
梅太郎 事件とか言うな。誰でも鼻くそぐらいほじくるやろ。
ゆ か しばらく指で遊んだ後…、イスの裏にぬちゃくる。きゃー！
梅太郎 あー、そんなんまで見とったんか。お前、何もんや。
ゆ か ゆかりんって呼んでちょ。
梅太郎 呼びます。もう、呼ぶから。ゆかりん（不自然）その手帳かせ。
ゆ か だめぇ、この手帳は、ゆかりんが集めたみんなの情報がぎ〜っちり詰まってるの。だからダメ。
梅太郎 お前、スパイか情報屋か、芸能レポーターか。
ゆ か 何でも聞いてチョ。
梅太郎 じゃあな、高橋芙美子先生（自称１８歳）のホンマの歳は？
ゆ か （恐怖に顔をゆがめ）そ、それは…、タブーでナイスな質問ちゃん。ここに貴重な情報があるの、高橋先生
は寅年よ。
梅太郎 え、え、どういうこと？
ゆ か １８か３０か４２か５４ってこと。
梅太郎 ホンマに１８ってことはないから、３０？
ゆ か （歌）そうだったらいいのになぁ〜。先生喜んじゃう。
梅太郎 え〜！ ４２歳？
ゆ か 先生たちの間で健康診断が毎年５月に行われるんだけどぉ、バリウム飲むから前の日から絶食しな
きゃいけないのはぁ、４０以上の先生だけなんだって〜。高橋先生中休みにサンドイッチこっそり食べ
てる日あったの知ってた？
梅太郎 家のオカンより６つも年上やったんや…。
ゆ か まさかまさかだけど、５４だったりするかもネ。今度高橋先生に直接聞いてみて。
梅太郎 うわぁ〜そんなん直接よう聞かん。
美咲と遥、２人で仲良く登校。
つづく…