創作脚本の部屋へ県立伊丹西高等学校演劇部2004年度春期・アイフェス参加作品
作：藤村千恵
【キャスト】
奈 々
美 希
綾
陽 菜
隆 司
秋 人
真 平
恭 一
夏休みが始まった。狭くて暑い部室でストレッチをする演劇部員達。中央で奈々は竹刀を持って
仁王立ちしている。イライラ…。ついに爆発。。
奈々 遅い！
未希 真ちゃんまた遅刻やなぁ。
奈々 しばいたるからな。
隆司 ナナ姉さん、やめとき。
奈々 夏休み入って毎日遅刻やんか。
陽菜 バイトしてるんやろ？許してあげよ、ナナ姉さん。
奈々 バイト〜？部活やってんのにバイト〜？
綾 頑張るねぇ〜。
未希 そりゃねぇ〜ぐふふ（笑）
隆司 何や、その意味ありげな気持ち悪い笑いは。
未希 だってだって〜。
綾 何なん、みっちー。
未希 知りたい人ー。
全員 （奈々＆秋人以外）はーい！
奈々 さっさと教えなさい。
陽菜 秋人さんは知りたくないんですか？
秋人 うーん、別に。だいたい想像つくし。
隆司 こづかい稼ぎ？
未希 ぶっぶぅー。
秋人 真ちゃんはそういうタイプじゃないで。
陽菜 そうやわ。ハゲタカじゃあるまいし。
隆司 おい、誤解や！俺はバイトとかそういうめんどくて疲れるコトはせーへん主義や。
綾 どっちみち真ちゃんとハゲタカを比べたらアカンわ。
未希 そうそう。真ちゃんは愛のために…。
奈々 愛のため〜？
未希 あ〜言っちゃったぁ〜。
隆司 おいおい。何やねんそれ。
綾 ホンマに。
陽菜 真ちゃんめっちゃいい人やん。
未希 そうやろ!? まさにこれが…。
３人 (隆司、綾、陽菜）家族愛！
未希 へ？
秋人 家族愛って？
奈々 さぁ。
隆司 体が弱った両親のため！
綾 高校受験の妹のため！
陽菜 よく家出しちゃう猫のみーちゃんのため！
３人 （隆司、綾、陽菜)これぞ家族愛！
未希 ちがーう！
秋人 真ちゃん家の親は元気だし、妹じゃなくて弟だし、猫は飼ってない。
未希 そういう問題じゃない！
奈々 だから何なの！何愛（なにあい）なのよ！
未希 彼女やんか！彼女！
全員 彼女？
未希 彼女のためにバイトしてんの！
陽菜 何で？
未希 プレゼント代やんか。
隆司 こづかいじゃ足りひんの？
未希 ちがーう！
陽菜 え？何？どういう事？
未希 自分で働いて稼いだお金をプレゼント代にするの！
綾 はいはい。なるほどねぇ。
陽菜 ハゲタカ、分かる？
隆司 …わからん。
未希 もう鈍いっつーか、なんつーか。
奈々 お子ちゃまやなぁ。
未希 自分で稼いだお金なの！それだけ価値があるの！愛なの！愛！
ハ・ひ へぇ〜。
綾 全然わかってないな、２人共。
隆司 よくやるよ、真ちゃん。
陽菜 バイトは大変やもんね。
隆司 そうそう。
秋人 男のロマンってかんじする。
陽菜 え!? ロマンなんですか？バイトって、男のロマンなんですか!?
隆司 そうなん？
未希 だから違うってば〜。
奈々 ふんっ！何が愛のためや。きしょく悪い。
未希 そう？私、そんなんされたらズキュンってなるわ〜。
奈々 そうね、爆発するわ。堪忍袋の緒が…。
一瞬その場の空気が凍る。そこへタイミング悪く真平登場。
真平 遅れてすみません！
隆司 真ちゃん、帰れ。
真平 え？
陽菜 タイミング悪すぎ！
未希 早く！
真平 え？
綾 早く！
真平 えぇ？
秋人 いいから帰れ！
真平 …じゃあ、お疲れ様でした〜。
真平、わけがわからないといった様子。必死になる部員たち。しかし遅かった。帰ろうとする
真平の目の前に、竹刀を持って仁王立ちしている奈々。竹刀を振り下ろす。部員たちは奈々と
真平から離れる。
奈々 座れや！
真平 は、はい！
隆司 も〜う。真ちゃんのアホ〜。
綾 お祈りしよう。
全員 （うなずく）
いつものお祈りが始まる。自分にとばっちりがきませんように。
奈々 真ちゃん、毎日毎日、遅刻やね。いいかげんにしてくれる。まだ台本も決まってへんねん。時間ないんよ。
真平 すみません…。
奈々 それに、部活してんのにバイトするって何？部活に迷惑かけへんのやったらいいで。でも真ちゃん毎日
遅刻や。
真平 すみません。でも、９時から部活じゃなくて、９時半やったら間に合うかも。
奈々 はぁ？
真平 それに、時間ないんやし。お説教してる時間もったいによ。
陽菜 真ちゃん！
奈々 他に言いたい事は？
真平 できれば昼からやったらいいなぁ〜って。ちょっとゆっくりできるし。
隆司 真ちゃん！
真平 バイトきついから。ホンマは部活休みたいですわ、ホンマ。
全員 真ちゃん！
奈々 言ったか、全部。
真平 はい。（笑顔）
奈々 えぇ根性しとんな。あたしを本気で怒らせて。
秋人 ぶ、部長？
奈々 何が彼女のプレゼント代のためにバイトや。のろけやがって。
真平 何でそれを…。
未希 アハハ、みっちーしゃべっちゃったＶ
真平 な、なにぃ!?
一歩下がる部員たち。
真平 おい！
奈々 おいで、真ちゃん。（怖く）
真平 た、た、た、助けて…。
一ヶ所に小さく集まる部員達。誰も助けてはくれない。
奈々 真ちゃん、おいで。
真平 い、いやだ…。
奈々 おいで。早くおいで。
じりじりと迫ってくる奈々。そして、ついに。
奈々 来いやぁ！
真平 ぎゃあ〜！
竹刀を振り回して真平を追いかける奈々。恐怖のあまり動けない部員達。
真平 こうなったら、まきぞえにしてやるー！
部員達のところへ逃げ込む真平。追いかけて来る奈々。まきぞいになる部員達。部室の中を
叫び声がこだまする。しかし、暑さと疲れが奈々の怒りを忘れさせようとしていた。力ない悲鳴。
やがて悲鳴はやみ、バタバタと倒れ込む部員達。
奈々 あ、暑い…。
隆司 クーラー入れやがれよぉ〜…。
綾 この学校貧乏でケチでアホやから…。
未希 アホとか言わんといてよぉ〜…。
秋人 みっちーに言ってへんのちゃう…？
陽菜 そうそう。
真平 はぁ〜…。
全員 ゛あづーい゛！
まるで嫌がらせのようにセミが鳴く。ミーンミーンミーン…。
隆司 ゛あー、鳴くなセミ〜…。
未希 よけい暑くなる〜…。
秋人 気にしたらアカンねん。知らんふり、知らんふり。
陽菜 そうですよね、秋人さん。
しかしセミはさらに大きな声で鳴く。ミーンミーンミーン。これはもう、嫌がらせである。耳をふさぐ部員。
奈々 静かにしやがれ食うてまうぞ！
しーん。セミは鳴くのをやめた。
奈々 さ、部活するよ。みんな適当に集まって。
だらだらと動き出す部員達。
奈々 返事！
全員 は、はい！
しゃきしゃきと動き出す部員達。分かりやすくてよろしい。
奈々 夏休み明けの老人ホームでの公演の台本どうする？
隆司 あと１ヶ月。ピンチやな。
奈々 台本持ってきた人は？
しーん。みんな顔を見合わせる。
奈々 じゃあ今台本書いてる人は？
しーん。みんな顔を見合わせる。そして綾ドンに注目する。
綾 何よ。書いてへんよ。
未希 綾ドンがダメになると…。
真平 絶望的やな。
奈々 分かった。じゃあ、どんな台本したい？
陽菜 オリジナル台本！
未希 そうやねぇ。既製はイヤや。
奈々 でも誰も台本書いてへんねんな。
隆司 綾ドン何とかならんの？
綾 ムリやわ。この前の台本で体力使い切った。
真平 厳しいなぁ。
秋人 俺、思うねんけど、老人ホームでの公演となると台本もちょっと考えなアカンのちゃう？
未希 何が？
秋人 分かりやすい内容にするとか。
陽菜 そっか。お客さんは、おじいちゃんおばあちゃんやもんね。
隆司 で、分かりやすい内容って？
秋人 それが問題やな。
未希 ちゃんと見てくれるんかなぁ。
不安になる部員。いや〜な空気。
隆司 あ〜もう！俺こういうの嫌いや。
綾 話し合い？
隆司 そう。特に台本決めの話し合い。体動かしたい。
未希 遊ぼっか。
奈々 そうやって遊びすぎたから台本が決まってないんやろ。
秋人 本気で考えんと。
綾 ネタがない。
奈々 困った…。
と、そこへ一人の男がやって来る。
恭一 失礼するでござる。
全員、この男に注目。
未希 …誰？
恭一 拙者、佐藤恭一と申すものでござる。今日から演劇部に入部しますでござる。よろしく。
沈黙。
奈々 全員集合〜。
全員 ハーイ。
奈々 おまえか。あんな変なん勧誘したんは。
隆司 俺ちゃうよ。
陽菜 違うん？
綾 ハゲタカじゃないなら誰？真ちゃん？
真平 違う違う。
秋人 どうする？部長。
奈々 どうするって言われても。
未希 顧問から何も聞いてへんの？
奈々 全然。今、ハワイ旅行、行ってるし。
陽菜 そうなん!? いいなぁ〜。
恭一 もし。
隆司 おい、もしとか言ってんで。
未希 病気や。
恭一 無礼な！
未希 うるさぁい！みっちーキーック！
恭一 ぐわぁ〜。
時代劇の斬られ役のように見事に倒れる。
全員 おぉ〜。
恭一 どうも、どうも。
秋人 なぁ、使えるかも。
奈々 イヤ。絶対イヤ！
秋人 役者に向いてると思うで。
綾 ある意味ね。
奈々 キャラ濃すぎやわ。
隆司 ナナ姉さんも十分濃いですよぉ〜。
奈々 何やて、ハゲタカ。
秋人 ケンカ、しない。
恭一 あのぉ〜。
未希 何？
恭一 拙者の入部を認めるかどうかの話し合いかもしれぬが、拙者誰に何と言われようと今日から演劇部員で
ござる。
陽菜 そうやんねぇ〜。そうやと思ってた。
綾 諦める？
奈々 くぅ〜。あたしは諦めへん。
恭一 では、拙者の話を聞いて下され。そもそも拙者が演劇部に入部したいと思い始めたのはつい昨日の事
でした。
隆司 早くねぇか？
恭一 こう見えて元テニス部でござる。
綾 ウソん!?
恭一 テニスコートで打ち合いをしていたら、演劇部の部室から発声練習をするのが聞こえたのでござる。
恭一、隆司に向かってボールを打つパントマイム。打ち合う二人。そして奈々以外の残りの部員が
発声練習を始める。
恭一 暑い〜、暑いよぉ〜。
隆司 立て！立つんだ佐藤！
恭一 もうムリです…。
隆司 何だと!? この根性なし！
恭一 暑い…暑い…。あ、あそこは演劇部か…。いいなぁ。中へ入りたい。涼みたいなぁ〜。
隆司 立て！立つんだ佐藤！
恭一 もうイヤだ！テニス部辞めます！
隆司 佐藤！おい、佐藤！
恭一 こうして拙者の涼しい夏休みが始まろうとしているのでござる。
奈々 涼みたいだけか!? それから何であんたら小芝居に参加してんねん。
全員 はっ！（気付く）
恭一 あのとき決めたのでござる。灼熱地獄から這い上がりスタートの道を歩んでゆこうと！
奈々 だまれ！
恭一 な、なにぃ？
奈々 いいか侍もどき。よーく聞きな。あたしの名前は小沢奈々。みんなからはナナ姉さんって呼ばれてる。
恭一 大将か。
隆司 部長です。
奈々 ここでは、あたしの言う事には絶対服従！ルールはあたしが決める。
恭一 何様じゃ。
隆司 女王様です。
奈々 耐えられるんか？
恭一 耐えてみせる！
奈々 じゃあテストしようか。
未希 あれ、やっちゃうのぉ〜？
真平 みっちー喜び過ぎ。
秋人 あれかぁ〜。
陽菜 あれねぇ〜。
恭一 あれとは何かね。
未希 パンパカパーン♪
綾 はい、マイクをどうぞ。
恭一 マイク？
陽菜 歌ってもらいまぁ〜す。
隆司 拍手〜。
全員 イエ〜イ。
恭一 歌うのか？
全員 はい！
恭一 ここで!?
全員 はい！！
隆司 伝統なんっすよ〜。
真平 思い出したくない…。
未希 真ちゃん顔真っ赤にして半泣きやったもんねぇ〜。
真平 やめろ、やめてくれぇ〜！どうせ僕はおんちや〜。
未希 秋人さんはなかなか歌えんくて二時間ねばったらしいし。
秋人 何でそれを…。
綾 みっちーはぜんぜん平気やったもんね。
陽菜 もうええって言ってんのに一人カラオケ大会が始まって。
隆司 二十曲ぐらい聞かされて。
真平 「今日見たいアニメがあるんで帰りまぁ〜す」って。
未希 エヘヘ。
奈々 さぁ、歌ってもらいましょか。
恭一 う…。
奈々 役者はなぁ、人に見られるんや。恥ずかしがっとんじゃあ演技はできひん。そんな腰抜け、うちにはいらん
のや。
隆司 よっ、お姉様！
陽菜 ステキ！
未希 惚れちゃう！
奈々 テストに合格せんことには部員として認めへん。どうする？お侍さん。
真平 出たぁ〜。姉さんスマイル。
奈々 さぁ。
隆司 さぁ。
未希 さあ。
全員 さあ！
恭一 う…さらば！
恭一、逃げて行く。歓声。
隆司 やりましたねぇ、ナナ姉さん。
奈々 あたしの勝ち。
真平 どうぞ。（イスを持ってくる）
奈々 ありがと。
未希 肩でも揉みましょうか？
隆司 暑くないですか？（うちわであおぐ）
もう女王様である。
奈々 変なのはおっぱらったし、めでたしめでたし。
秋人 …台本は？
凍りつく部員達。忘れてたの？
陽菜 はい！
奈々 何や、ぴよこ。
陽菜 時代劇！
隆司 はぁ？時代劇？
陽菜 侍が戦うねん。そうや、さっきの人に斬られ役してもらおう。
し〜ん。
陽菜 アカン？
奈々 却下。
陽菜 えぇ〜。
隆司 あいつは演劇部じゃない。
陽菜 でも絶対いけると思う！
綾 衣装どうすんの？
真平 侍やろ？そんなん用意できる？
未希 お金もないし〜、時間もないし〜。
陽菜 じゃあね、じゃあね…昔話！
未希 かぐや姫ならいいかも〜。私、かぐや姫ね。
隆司 俺、反対。そんなちゃちいのやりたくない。
真平 僕も。
陽菜 ちゃちくなぁい！
隆司 イ・ヤ。何が楽しくてサルとかイヌやらなアカンねん。
真平 はずいよなぁ。
陽菜 どこが!?
隆司 ぴよこはお子ちゃまやから。
陽菜 うるさい！ハゲ！
隆司 ハゲじゃなくてハゲタカ。
陽菜 ハゲハゲハゲ！
隆司 ガキガキガキ！
奈々 （二人の手を持って）目くそ鼻くそ。
隆司 俺、目くそ！
陽菜 ずるい！
し〜ん。
奈々 あ〜もう。あたしまでめんどくなってきた。
陽菜 ナナ姉さんしっかり！
隆司 良いのがない〜。
真平 考え付かない〜。
２人 決まらへん〜。
奈々 ハモるな。
未希 今日はもう遊ぼうって。
陽菜 も〜う。みんなしっかりして！
と、そこへまたまたあの男がやって来る。手にはラジカセ。
恭一 失礼するでござる。
未希 あ、侍もどき。
恭一 だまれ、小娘！
未希 バーカ、アーホ、ふにゃふにゃ〜ん。
踊ってみせるみっちー。完全におちょくられてマスねぇ。
恭一 バカにしおって！
奈々 何しにきたんや。
恭一 姉さん！
隆司 ぷ…（笑）
奈々、隆司の頭をバシッとしばく。
奈々 何や。
恭一 覚悟を決めてきた。
奈々 はぁ？
恭一、マイクを取り出す。そしてラジカセスイッチＯＮ。流れてきたのは美空ひばりの歌。なりきりで
歌い出す。一同点。歌い終わると一礼する。
奈々 う、歌いやがった…。
恭一 テストは合格やな。これで拙者も演劇部員じゃ。ハーッハッハッハ！
奈々 お疲れ様でしたぁ〜。
全員 （ヒナと秋人以外）お疲れ様でしたぁ〜。
ぞろぞろと帰っていく部員達。
秋人 部長！
奈々 今日はもうやめ。
残ったのは恭一、陽菜、秋人の三人。
陽菜 ちょっとぉ〜！
秋人 はぁ〜。
陽菜 あんたのせいや！
恭一 拙者が悪いのか？
秋人 間に合わへんな。
陽菜 え？
秋人 じゃ、俺も帰る。
陽菜 待ってください！秋人さんは諦めてないですよねぇ？間に合わないなんて言わないで下さいよ。私達の
お芝居楽しみにしてくれてるおばあちゃんおじいちゃんはどうなるんですか？
秋人 …そんなん分からんよ、俺には。
陽菜 秋人さん。
秋人 みんなやる気ないんや。
陽菜 秋人さんは？秋人さんはどうなんですか？
秋人 …どうなんやろ。分からんくなってきた。
陽菜 そんな事言わないで下さいよ。秋人さんもナナ姉さんも私の憧れの先輩なんですよ。二人が頼りなんですよ。
秋人 重いわ、そういうの。
秋人、帰ってしまう。残された二人。
恭一 …失恋？
陽菜 はぁ？
恭一 ちゃうか。好きとは言ってへんもんな。
陽菜 空気をよめ！そんな事言う空気ちゃうやろ。
恭一 ごめん。反省してまぁ〜す。（ピースしている）
陽菜 それがあんたの精一杯の反省か!?
恭一 あんたって言わんとって下さい〜。佐藤恭一です〜。
陽菜 じゃぁサトキョンか。
恭一 えー。深キョンのパクリやん。
陽菜 じゃあ、きょんきょん。決まり。
恭一 昔のアイドルでいたような…。
陽菜 気のせい、気のせい。私は山西陽菜。
恭一 ひよこや。
陽菜 ぴよこです。
恭一 ぴよこ？
陽菜 あだ名。
恭一 ふぅ〜ん。なぁ、ぴよこ。
陽菜 もうそういう仲？
恭一 一応演劇部員
陽菜 誰も認めてへんみたいやけど。
恭一 気にせーへん。
陽菜 うらやましいわ。
恭一 そう？
陽菜 仲間やって認めてほしいやん、やっぱ。
恭一 まぁ。
陽菜 いいよ、仲間がいるって。
恭一 …ずっと一人やったから分からんでござる。
陽菜 一匹オオカミやったん？
恭一 ガォー。
陽菜 そんなんしてるから人が寄りつかんねん。
恭一 ひどっ。傷付いた。う〜しくしく。
陽菜 泣いてろ。
沈黙
陽菜 きょんきょんって普通にしゃべれるよね。
恭一 うん、そりゃねぇ。
陽菜 何で普通にしゃべらんの？
恭一 …気分かな。
陽菜 だから一匹オオカミになんねん。
恭一 あ、そう。
沈黙
陽菜 何でテニス部入ったん？
恭一 テレビで「エースをねらえ」がやってて、やってみたくなったから。
陽菜 どういう理由よ。意味不明。
恭一 …なんか、さっきから拙者に冷たくあたってへん？
陽菜 …･あたってる…かも。
恭一 まぁ、いいけど。
陽菜 よくない。普通怒るやろ。
恭一 いいねん。拙者がぴよこのはけ口になるでござる。
陽菜 優しくすんな。キモイ。
恭一 そう？かっこいいやろ？ キラーン☆
陽菜 んなわけあるか！ 成敗してくれる！
恭一 わ、ス、ストップ！ 拙者今日はこれで失礼するでござる！ また明日〜。
逃げるように去って行く恭一。残された陽菜。
陽菜 一人にすんなよ。ふんっ…。
そう言うと中央で一休さんのように座禅を組む。
陽菜 ポクポクポクポク…チーン。
ひらめいた？紙に何か書き出す。が、くしゃくしゃポイする。しばらく繰り返す。床にはくしゃくしゃ
ポイが散乱している。
陽菜 あーもう！一休さ〜ん！
『ロッカーにて』
翌日最初に部室にやってきたのは秋人。散乱しているごみを一つ拾いって広げてみる。
秋人 花咲か桃太郎…？
もう一つ拾って広げてみる。
秋人 鶴の浦島太郎の恩返し…。
そこへ陽菜がやってくる。
陽菜 …おはよう！ございます。
秋人 おはよう。
陽菜 あ、すみません。昨日散らかしっぱなしで帰っちゃって…。
片付け始める陽菜。
秋人 あのさぁ…。
陽菜 はい。
秋人 …昨日はゴメン。
陽菜 あ…いいんですよ！
秋人 …これ、何？
陽菜 あ、これ昨日考えたんですよぉ。昔話合体させちゃうんです！どうですかねぇ？
秋人 どう…かなぁ（苦笑）この、鶴の浦島太郎の恩返しって…浦島太郎は鶴なん？
陽菜 はい！
秋人 あ、そっか。アハハ…（苦笑）
陽菜 にひひひひ〜（笑）
苦笑いする秋人とマジ笑いの陽菜。ごみを拾う。そして、ゴミ箱へ。そこへ次々と部員がやって
来る。（真平、未希、恭一はいない）あいさつ。それぞれマンガを読んだり宿題やったり話したり。
と、そこへ、恭一登場。
恭一 おはようございますでござる！
しーんとする。
陽菜 あ、おはよう。
奈々 何しに来た。
恭一 部活でござる。
隆司 テニスコートは外でござるよ？
全員 （秋人と陽菜以外笑う）
恭一 テニス部はやめたでござる。拙者は演劇部じゃ。
奈々 誰が認めるって言った？
恭一 テストには合格したでござる。
隆司 そうやった？
綾 覚えてない。
恭一 卑怯者！約束が違うではないか。
奈々 うるさい！ここでのルールはあたしが決める。
恭一 許せん！成敗してくれる。
陽菜 やめとき。ナナ姉さんに勝てるわけないやん。
恭一 やってみなければ分からん。でやぁー。
おそいかかろうとする恭一。しかし…
奈々 ９時やな。部活はじめるで。
全員 はーい。
恭一 おい！
陽菜 きょんきょん、ここにお座りしとってね。
恭一 ゛うー。
素直にすみっこにお座りするきょんきょん。集まる部員達。
綾 ナナ姉さん、真ちゃんまた遅刻や。
隆司 みっちーもまだやで。
秋人 昨日あれほど言ったのに。
奈々 はぁ〜。さ、台本の話しせな。
そこへ走って来る真平、未希。
２人 遅れてすみません！
隆司 知らんからなぁ〜。
竹刀を持った奈々がじりじりと２人に近づいて行く。小さくかたまる部員。そしてお祈り。
２人 ご、ごめんなさい〜！
奈々 …やめた。
全員 え？
奈々 座って。
２人 はい…。
奈々 何してんの？みんなも座って。台本の話しせな。
隆司 お説教は？
奈々 してほしいん？
隆司 いや、結構です。
未希 ナナ姉さん今日迫力ないなぁ。
奈々 元気がないと言いなさい。
真平 夏バテ？
奈々 部活バテ。
綾 遅刻する奴はおるし、台本も決まらんし。そりゃバテるわなぁ。
奈々 どうする？みんなはどうしたいん？やる気あるん？
陽菜 はい！１００％です！
隆司 ぴよこだけや。
陽菜 ハゲタカは？
隆司 う〜ん３０％くらいかも。
綾 私は２０％くらい。もう、ムリかなぁって。
真平 綾ドンが台本さっさと書いとったら良かったのに。
隆司 そうやんなぁ。
綾 それどういう意味よ。台本決まらへんのは私が台本書かへんかったからって言いたいん？
未希 そういう意味ちゃうねんで、綾ドン。
隆司 そうや。別に綾ドンのせいにしてるんちゃうねん。
綾 してるやんか。
陽菜 綾ドン落ち着いて。
綾 何で私ばっかり書かなアカンのよ。みんなも書いてや。
真平 だって、書いたことないし。
未希 国語苦手やねん。
綾 そんなん関係ない。書く気ないだけやろ。
隆司 そんな怒んなって。しわができるぞ〜。
綾 何やて。
秋人 ストップ。ケンカせんとって。
綾 秋人さんとナナ姉さんにも言いたい事ある。先輩やねんからもっとしっかりして下さいよ。
陽菜 綾ドン！
綾 ナナ姉さん怖いだけで全然部長らしくないし。秋人さんもあんまししゃべらへんし。私らどうしていいか分か
らん。
隆司 綾ドンキレすぎ。
綾 たまってるもんがいっぱいあるんや。
隆司 みんなたまってるわ。一人だけ爆発させんなよ。
綾 だいたいみんな非協力的やねん。台本決まったらあとはお任せやん。どーでもいいんやろ。私が書いた台本
じゃなくてもいいんやろ。
未希 違うよ。私は綾ドンの台本がいいの。
陽菜 そうや、おもしろいもん。
真平 やってて楽しいし。
秋人 見てる方も楽しめる。
奈々 ちゃんと選ばれてるねんで、綾どんの台本。
綾 そうやってみんなで同じ事言っとたらいいねんもんな。選ばれてるって思わせて、ホンマはおしつけてるだけ。
隆司 いいかげんにせーよ。どんだけ自分を被害者にしたら気が済むねん。
綾 私は被害者や！みんなも被害者。私が台本書いたら、いっつもみんなに迷惑かける。
陽菜 綾ドン。
綾 すぐスランプするし、へこむし、なかなか書き上がらんし…。
奈々 そんなん誰も気にしてへんよ。
綾 私は…自信がないんや！自分の台本が選ばれてるなんて思われへんねん。おもしろいとか言ってくれる
けど、みんなの言葉が素直に聞かれへんねん。
隆司 誰も綾ドンのせいにしてへんし、綾ドンの台本を選んでるし、どーでもいいわけちゃう。一人で責任しょい
こむなよ。
綾 私だって一人じゃ無理なん分かってるよ。言われへんかったんやん。何で分かってくれへんのよ。みんな
大キライや！
そういううと綾ドンは掃除用具入れを開ける。と、中には恭一が入っていた。
恭一 ありゃ。
綾 どけ！
ひっぱり出される恭一。綾ドンは閉じこもってしまった。
真平 あ〜あ、スネた。
陽菜 おーい。綾ドーン。
隆司 ほっとけって。
陽菜 ハゲタカ言い過ぎやわ。綾ドンの気持ちも分かってあげてや。
隆司 あれのどこを分かれって言うねん。
真平 ただの被害妄想やん。
陽菜 違うよ！綾ドン頑張ってたやん。みんな知ってるやろ。
隆司 スランプにおちいって台本なかなかあがらんくて。
真平 へこんで、やつあたりされて。
秋人 でも一人で頑張ってた。俺らが何か手伝ったか？綾ドンに全部任せてたやんか。
隆司 …何で頼ってくれへんねん。一人でしょいこむねん。
未希 へ？ハゲタカもしかして…頼ってほしいん？
隆司 …悪いか!?
未希 いや、だって。
奈々 いつもへらへらしてるし、まさか頼ってほしいって思ってるなんて考えもせんかったから。
隆司 一応、男やし。なぁ真ちゃん。
真平 分からんでもない。
恭一 拙者もじゃ。
全員いっせいに恭一をにらむ。
奈々 じゃさぁ、頼っていい？
隆司 へ？ナナ姉さんが？
奈々 …なぁんて！あたしがそんなん言うわけないやろ。ほら、綾ドン出ておいで。
綾 いやじゃー！（暴れる）
奈々 出ておいでってば。
綾 いやじゃー！（暴れる）
奈々 …出てこいやぁ！
奈々、竹刀で掃除箱をなぐる。静かになる掃除箱の中。
秋人 部長！落ち着いて！
奈々 あ…ついカッとなって…。
未希 綾ドン生きてる？
隆司 （のぞく）おーい。一応生きてる。
陽菜 綾ドン、綾ドン、綾ドン！
未希 ぴよこうるさい。
陽菜 ぶぅ！（スネて）そっちが意地ならこっちも意地や！絶対そこから出す！
秋人 ぴよこまで意地になってどうすんねん。
陽菜 秋人さん、これは女の戦いなんです。負けるわけにはいきません。私、勝ちます！
隆司 はいはい。で、どうすんねん。
陽菜 今から考える。
真平 はぁ？
陽菜 （奈々に向かって）今から考える。
奈々 あたしに言われても。
陽菜 （秋人の方を向く）
秋人 今から考えるんやんな。
陽菜 はい！（むっちゃうれしそう）
未希 分かったから。どうすんの？
陽菜 あわてな〜い、あわてない。
そういううと座禅を組む。注目する。
陽菜 ポクポクポクポク…チーン！
未希 思いついたん？
陽菜 うん！
陽菜、ごそごそと自分のカバンの中からおかしの袋を取り出す。
陽菜 しー！
そろり、そろりと掃除箱へ。
陽菜 綾ドン。
そういううと袋をカシャカシャ鳴らす。バンッと扉が開く。陽菜はおかしの袋を隠す。綾ドン、
辺りの様子をうかがい何もないと知ってまた閉じこもる。
隆司 おぉ〜。なんちゅう耳しとんねん。
陽菜、おかしの袋を開ける。
陽菜 綾ドン。
そしておかしを一つ口に入れる。カリカリ（サクサク）といい音がする。と、バンっと扉が開き
綾ドンが出てくる。
綾 よこせ〜。（奪う）
陽菜 わぁ〜、私の勝ち！
隆司 何じゃそりゃ。
真平 さすがくいしんぼう。敏感に反応するなぁ。
綾 食い物への執着心なら誰にも負けへん。豚丼３杯でコンクールの台本書いたぐらいやから。
奈々 それにしても、あっさり出てきたなぁ。
秋人 いいんちゃう。これで台本の話できる。
綾 言っとくけど、みんなの事許したわけちゃうから。
隆司 まだそんな事言っとんか。
秋人 ハゲタカ。おまえも、つっかかんな。
恭一 そうでござる。男は女に優しくなければいけないと思います！
未希 あんたは黙っとき。
奈々 こん中入れて火つけて燃やすぞボケ。
恭一 丸焼き!?
陽菜 きょんきょん。お座りしときなさい。
恭一 ゛うー。
やっぱりおとなしくお座りするきょんきょん。
綾 で、つひはあれああいおんあうん？（で、次は誰が台本書くん？）
未希 口の中に物入れてしゃべるな。
真平 何言ってるか分からん。
陽菜 で、次の台本は誰が書くん？って言ってる。
綾 ほうほう。（そうそう）あい、１コあげる。
陽菜 わ〜ありがとう！
奈々 元はぴよこのおかしでしょ。
綾 もう私のもんや。
隆司 そんなんどーでもいいから。台本の話すんねやろ。ナナ姉さんも話しに参加しない。
奈々 あぁ、ごめん。
秋人 良いアイディア浮かんだ人は？
し〜ん。
綾 考える気あるん？
隆司 あ〜もううるさい！黙っとけ。
綾 良いアイディアが浮かんだら黙ったるわ。
隆司 この！ ゛あー！
隆司、掃除箱の中へ入ってしまう。って、入れるのカナぁ？？
秋人 ハゲタカ！
真平 カルシュウム不足なんちゃう？
未希 ハゲタカも部活バテや。
真平 あれでも自分をおさえてるんやろ。
未希 ただの現実逃避やん。私もあん中入りたいぐらいやのに。
陽菜 何で？狭いし暑いし暗いし…。
綾 でも落ち着くで。
真平 いつからやっけ。キレたり泣きそうになった時あん中入るようになったん。
秋人 う〜ん。気付けば誰かがはいってて…とりあえず伝統になってるみたいやな。
陽菜 秋人さんとナナ姉さんは入った事あるんですか？
秋人 一回だけある…。
未希 キレた？
真平 泣いたんやろ。
秋人 どっちも違うかなぁ。
陽菜 じゃぁ何で入っちゃったんですか？
秋人 …閉じ込められてん、ナナ姉さんに（笑）
未希 何や〜。
真平 ナナ姉さんは？
奈々 あたし？ないない。
未希 そうやんねぇ！ ナナ姉さん泣かへんし。
綾 キレたら一人で暴走する。
真平 そうやな。
奈々 ありえなーい。
笑う部員。バンっとドアが開く。
隆司 暑い！
陽菜 あ、出て来た。
綾 良いアイディアは浮かびましたか？
隆司 浮かぶか！自分よくあん中おれたなぁ？
未希 じゃぁ次は、私！
秋人 こら。入らんで良い！
真平 僕も入ってみたいっす！
綾 あんたらは入る必要ないやろ。
未希 いいやんか〜。入りたいもん。
真平 僕が先！
恭一 ちょっと待った!拙者も入りたいでござる。
隆司 おまえは入るな。
恭一 入ってみたいでござる〜！
恭一、入ろうとする。
未希 私が先やって！
真平 僕や！
綾 私が入るの！
奪い合いになる。
陽菜 ちょっとぉ〜！
秋人 やめろって！ちょ、おい！押すな!
秋人、もみくちゃにされて中へつめこまれてしまう。
陽菜 秋人さぁん！
真平 あれ？秋人さんは？
陽菜 バカぁ！みんながつめこんだんやろ！
陽菜、秋人さんを救出する。へろへろで出てくる秋人。
陽菜 秋人さぁん！大丈夫ですか!?
秋人 コノヤロウ！よくもつめこみやがったな！
キレる秋人。またも、もみくちゃになる。
陽菜 きゃあぁ！秋人さぁん！
次につめこまれたのは恭一。
陽菜 もう！バカぁ！きょんきょん！
パニック状態の陽菜。恭一を救出する。が、中から出てきたのは、ニヤニヤヘラヘラしている
恭一だった。
恭一 ぐふふふふ（笑）
隆司 何で閉じこめられて笑っとんねん。
恭一 いやぁ〜満足、満足。！
陽菜 も〜う…。
静まり返る部室。と、奈々の存在に気付く。
隆司 …わっ！ ナナ姉さん、おったん？
奈々 …終わった？（普通に）
全員、顔を見合わせておそるおそる元の場所へ。
隆司 …でさぁ！台本、どうしよっか！
全員 どうしよっか！
奈々 …そうね。
秋人 部長、今日はもう終わろっか。明日、一人ずつアイディア発表しよう。
奈々 そやね。じゃあ、終わろう。
起立する部員。
奈々 お疲れ様でした。
全員 お疲れ様でした〜。
隆司 よしっ！帰るぞ！
真平 ぼ、僕も！
未希 私も！
綾 あー待って！
次々と帰ってく部員達。
秋人 逃げた。
陽菜 いつも残るのに。
秋人 じゃあ。
陽菜 お疲れ様でした！
秋人 お疲れ。
秋人、帰る。残ったのは陽菜と元気のない奈々。陽菜は奈々の事が心配。でも何て言えばいい
んだろう。言葉が出てこない。すると、奈々が…
奈々 また先のばしになったな。
陽菜 …はい。
奈々 台本、決まるんかなぁ？
陽菜 決まりますよぉ！
奈々 そうやんね。決まるよな。いつもの事やし。
陽菜 はい！じゃあ家帰ってじっくり考えてきます。お疲れ様でした。
奈々 お疲れ。
陽菜帰って行く。
奈々 …いつもの事やし。
奈々そうじ箱の近くへ。
奈々 入って…みようかな。
いつもとは違う奈々。迫力ない…いえ、元気ない。
奈々 あたしだって…。
中に入りたいのに、入れない。「だってあたしは部長だから、先輩だから、しっかりしなきゃ。」
そんな思いが邪魔をする。気が付くとナナ姉さんは奈々になっていた。泣けてくる。こんなの
あたしじゃないのに。そうじ箱の前に立ちつくす。そこへ陽菜が忘れ物を取りに帰ってくる。
陽菜 自転車のカギ〜！
あわててナナ姉さんになろうとする奈々。
奈々 忘れ物？
陽菜 …はい。自転車のカギ。
奈々 アホやなぁ。自転車のカギなかったら帰られへんやろ。
陽菜は必死で考える。今の自分にできる事は何だろう…？
陽菜 …奈々先輩。
奈々 …どうしたんよ。久しぶりやなぁ。奈々先輩やなんて。
久しぶりに呼ばれた気がする。いつからあたしはナナ姉さんだっけ。陽菜、そうじ箱の扉を勢い
よく開ける。
陽菜 はい、どうぞ。
奈々 え？
陽菜 この中に入って下さい。
奈々 あたしが？何で？
陽菜 いいから入って下さい。
奈々 あたしは…。
入りたいけど入れない奈々。あたしは…。
陽菜 奈々先輩！
陽菜、奈々の手を引きそうじ箱へつめこむ。
陽菜 私、帰りますから。お疲れ様でしたぁ〜。
そういうと扉を閉めて帰っていく陽菜。中で奈々は泣いていた。
（翌日）
全員部室にそろっている。が、奈々と真ちゃんの姿がない。
隆司 ナナ姉さんどうしたんや〜。もう、一時間遅刻やんか。
未希 真ちゃんもやで。いつもの事やけど。
秋人 どうしたんやろ、部長。
綾 無遅刻、無欠席やったのに。
陽菜 電話してみよう！
陽菜、電話をかけるが出ない。
陽菜 アカン、出ーへん。
恭一 おいおい。
隆司 おまえが言うな。
綾 おいおい。
隆司 おまえも言うな。こんな時にバリバリお菓子食って。
綾 こんな時やからこそ食べるんやんか。
秋人 はいはい、ケンカするなよ。
そこへ真ちゃん登場。
真平 遅れてすみません！（必死）
全員 真ちゃ〜ん！
真平 ゴメン。
秋人 真ちゃん、こんな時に遅刻すんなよ。
真平 すいません。
隆司 彼女のためなら部活に迷惑かけても良いってか。
未希 最低〜。
綾 みっちー前まで真ちゃんの味方してたやん。
未希 昨日までね。
秋人 真ちゃん、あのなぁ〜…。
真平 バイト、やめちゃいました。
全員 え？
真平 彼女とも別れちゃいました。
全員 えぇ!?
未希 何でよ!? 何があったん!?
綾 浮気されたんか？
隆司 いや、浮気したな。
陽菜 も〜う、真ちゃんのバカ〜！
全員で真ちゃんに怒鳴り出す。
真平 ストープ！全部違うから！
未希 もう！ほら、真ちゃんそこに座って。話してみ。
真平 何でよ。
隆司 いいから、いいから。
秋人 先輩命令だ。
陽菜 秋人さん強気〜。
真平 分かった、分かりました。
未希 はい、では何で別れたんですか？
真平 …僕の今したい事のために別れました。
未希 今したい事？何よ、それ。
真平 演劇。今、演劇したいねん。
未希 部活のために別れた!?
真平 別にそういうわけちゃうねんけど…。冷めたというか何といううか…。
陽菜 愛ってそんなにあっさり冷めちゃうもんなんですか？
秋人 いや、あのね、僕に聞かれてもね。
未希 真ちゃんも半端な気持ちで付き合っとったんか!?
綾 ムカツク〜。女の敵や。
恭一 ちょっと待って。ちゃんと話聞いてや。
未希 どんな言い訳や。言うてみぃ。
真平 どっちが大事なんかなって考えてみてん。
陽菜 大事って？
真平 演劇と彼女と。
隆司 何かっこいいこと言ってんねん。俺、恥ずかしいわ。
真平 はぁ？
未希 ハゲタカは黙っとき。真ちゃん続けて。
真平 あ、うん。僕、特技とかないし夢中になれるもんもなくて、ただ何となく演劇部入って。でも、だんだん
ハマってって。
陽菜 私と一緒や。
未希 私も。
秋人 実は俺も。
隆司 おいおい、何となくかよ。
真平 でも彼女が出来て部活の事はほったらかしみたいになって、気が付いたらみんなから離れてってるみた
いなかんじがして。正直寂しかったんや。だから彼女のためにバイトしてみたり。でも何か違うなぁって。
未希 ふぅ〜ん。
隆司 何か、真ちゃんじゃないみたいや。
真平 そうか？
陽菜 離れてないよ。真ちゃんはちゃんとココにいるよ。
真平 …照れるなぁ（笑）
隆司 もう、このぉ。
次々と部員に押される真平。照れくさい。
秋人 で、部長は？
凍りつく部員達。
恭一 行方不明？
陽菜 迷子かも！
全員 はぁ!?
陽菜 う、うそ。
隆司 折角真ちゃんがバイトやめてやる気になったのにどこ行ってん。
未希 どうすんの〜？
綾 今日やめる？
未希 折角来たのに。
秋人 とりあえずもうちょっと待とう。
陽菜 はい！（手を挙げる）
未希 何、ぴよこ。
陽菜 部活はじめよう！
綾 ナナ姉さんおらんのに始まらへんやろ。
隆司 ゛あ〜〜もうイライラする！何やねん、もう！
隆司、掃除箱へ入るが…。
隆司 あー。
未希 何よ。
未希 何よ。
隆司 コレ見て。こん中入っとってん。
綾 ナナ姉さんの字や。『都忘れの花が咲く』
隆司 かっくいー。
陽菜 どういう意味それ？
未希 部活やめる気かも。
秋人 なんで
未希 花言葉、都忘れの。
陽菜 うんうん。
未希 別れ。
全員 …。
恭一 大将がぁ！
隆司 部長やから。
秋人 やめる…？？
真平 マジかよ！？
未希 何で？何でよ？
綾 分からん。何で？
隆司 さぁ。
真平 冗談ちゃうん？
陽菜 本気や。ナナ姉さん部活やめる気や。
未希 えー何でよ！
陽菜 だって昨日…。
秋人 昨日どうした？
陽菜 ナナ姉さん、アカンねん。
隆司 何が？
陽菜 アカンねん。ナナ姉さんに頼ったらアカンねん。
綾 ぴよこ何が言いたいん？
陽菜 とにかく、早く台本決めな。
未希 意味不明！
陽菜 ナナ姉さんに頼りすぎたんや。綾ドンの時と一緒やん。
秋人 …よし！台本決めよう！
陽菜 はい！
隆司 なんや？
陽菜 やっぱり時代劇か昔話がいいと思います！
全員 （秋人以外）おいおい〜。
隆司 しつこいなぁ。
綾 却下されたやろ？
真平 何でそれにこだわるん？
陽菜 こだわってへんよ。
未希 こだわってる。私ら高校生やで？幼稚園児ちゃうの。
陽菜 分かってるよ。違うねん。そうじゃなくて。
秋人 こだわってんのはぴよこじゃない。みんなや。
隆司 え？俺ら？
秋人 今回どこで公演するん？
綾 老人ホーム。
秋人 お客さんは？
未希 おじいちゃんとおばあちゃん。
秋人 そうや。俺の言いたい事分かる？
考える。秋人の言いたい事って…。
秋人 みんな何か勘違いしてへんかな？俺らはお客さんに見せてあげるんちゃうねんで。見てもらうんやろ？
お客さん選んでへんか？ちゃうねん。お客さんが俺らを選ぶんやん。
一人一人自分に問いかける。自分が思い違いをしていなかったか。
隆司 …うん。
陽菜 あのね、高校生と幼稚園児の劇って違うよ、やっぱ。私らは私らの劇しようや。
綾 私らの劇…。
未希 どうやって？
真平 頭ではわかってんねんけど…実際どうやったらいいん？
陽菜 たとえば、綾ドンがかぐや姫になったら生まれた瞬間そのへんに生えてるたけのこ食べてると思う。
綾 何それ。
陽菜 それから、ハゲタカが一寸法師になったら、一寸っていう単位は、めっちゃくちゃでかい数字になっちゃう。
隆司 はぁ？何が言いたいん？
恭一 つまり、自分達の色に染める。オリジナルか！
陽菜 そう！それ！
隆司 ずいぶん分かりにくい説明をぴよこはしとってんな。
綾 オリジナルね。いいやん。
未希 で、何にしよっか！
陽菜 いっぱいあるしなぁ〜。
真平 じゃんけんで勝った人に決めてもらうっていうのは？
未希 試してみます〜？
隆司 よぉ〜し。
全員 最初はグー、じゃんけんホイ！
全員グー。
全員 おぉ〜。
真平 ドキドキする。
隆司 もっかい、すんで。
全員 最初はグー、じゃんけんホイ！
と、チョキで恭一の一人勝ち。恭一、チョキを高く上げて勝利のおたけび。
恭一 あーー勝ったー！
全員 えぇーー。
恭一 やはりここはポピュラーなのでいこう！
綾 ポプ、ポピュ…。
未希 ポポラー！
秋人 ポピュラーだから。
陽菜 で、で、で？
恭一 桃太郎じゃー！
真平 やっぱりそうきたか。
恭一 できんのか？演劇部のくせに桃太郎ができんのか？
全員 できるわ！
恭一 何や、この部活って全員扱いやすいな。
隆司 うるせぇよ。
綾 そうと決まったらさっそく台本書かなね。
未希 綾ドン書いてくれるん？
綾 一人で書くとは言ってない。
陽菜 みんなで協力して書こう！
真平 そうやな！
未希 スタッフはいつも通り放送部の子に頼んどく。
恭一 なんか急に燃えてきたなぁ、みんな。
陽菜 そうや！ナナ姉さんに電話しよう！台本決まったって。
隆司 つながらへんのやろ？
秋人 留守電にメッセージ残したらいいやん。
陽菜 かけるで。
陽菜のまわりに集まる部員達。留守電につながる。
全員 （口ぐちにナナ姉さんに呼びかける）
秋人 ストーップ！ぴよこ。
陽菜 はい！えっと、ナナ姉さん…帰ってきて下さい！台本決まったんですよ！真ちゃんもバイトやめて、やっと
みんなやる気になって。なのにナナ姉さんがおらんかったら意味ないよ。全員そろってないとアカンねん。
だから…せーの。
全員 もどってこーい！
電話を切る。
綾 もどってくるかなぁ。
陽菜 もどってくるよ！だってナナ姉さんも演劇好きなハズやもん
隆司 よぉ〜しエンジン全開！主役は俺やな
恭一 拙者も主役したいでござる！
真平 おまえみたいな日本語おかしい奴はムリ。やっぱ僕やって
秋人 おいおい。先輩をさしおいてそれはないやろ
隆司 いやいや。ここはあえて僕等がするんですって
恭一 ちゃんと日本語しゃべれるから〜
陽菜 はいっ！はい！はぁい！
隆司 何やぴよこ。
陽菜 私、桃太郎！
全員顔を見合す。そして笑い出す。
陽菜 え？オッケー？やったぁ〜！
ぴよこも一緒に笑い出す。
隆司 んなわけあるか！
恭一 桃太郎は男でござる！
陽菜 私が女だっていつ言った？
全員 えぇ…!?
陽菜 いや、女やけど。
秋人 ホンマに？
陽菜 秋人さん、私女ですから！
隆司 じゃぁ、ひっこんでろ。
陽菜 いや！絶対桃太郎〜！
主役をめぐって争いが起きる。勝つのは一体…!? 呆れる女部員。やがて争いは部室の物の奪い
合いへと発展していく。誰が勝って誰が負けるのか。舞台の上はカラとなる。
つづく…