創作脚本の部屋へ作 井上唯香 潤色 五ノ井幹也
【登場人物】
優希 映作２年生。
光 映作２年生。
晃 映作２年生。
ミドリ 映作部長。３年生。
ヒロミ 映作副部長。３年生。
桜小路 映研部長。３年生。
秋月 映研２年生。
佐久間 優希の担任。
玲子 優希の母。
少女Ａ
少女Ｂ
研究員
宇津井健二君
『進路希望調査』
学校の教室の中。机がいくつか並び、優希が帰る準備をしていると、佐久間が入ってくる。
佐久間 おう、まだおったんか。
優希 あ、さっちゃんやー。
佐久間 さっちゃん言うな。佐久間先生と呼べ、佐久間先生と。
優希 ええやん。さっちゃんはさっちゃんやろ。
佐久間 はぁ。
優希 んでどうしたん、なんか忘れもん？
佐久間 そやそや。用事忘れとったん思い出してん。
優希 相変わらずそそっかしいなー、さっちゃんは。
佐久間 うるさいわ。
優希 あははー、じゃあねー、さっちゃんー。
教室を出ようと鞄を持って扉に向かう優希。
佐久間 おいおい。待て待て。
優希 え、何よー。
佐久間 せやから用事がある、言うたやろ。
優希 ウチに用事なん？
佐久間 広田、お前まだ進路希望調査出してへんやろ。
優希 あー…。出してへんですねー。
佐久間 『出してへんですねー。』ちゃうわ。とっくに提出期限は過ぎとるんやぞ？
優希 分かってますよー。
佐久間 出さへんねやったら勝手に書くぞ。
優希 そしたら書いといてくれます？ お嫁さんって。
佐久間 え？ええっ？ そんな話あるんか？
優希 さっちゃん。責任取ってもらってね。
佐久間 俺と？ ちょぉ〜っと待て。こういう話には順序ってものがな。
優希 あほちゃう？ なにもだえてるんですか。冗談ですやん。
佐久間 （…反応無し）
優希 さっちゃん！ さっちゃん！、あ、ハングアップした。リセットっと。佐久間先生。冗談が過ぎました、ごめんなさい。
佐久間 （再起動）お前と付き合っとったら汗でるわ。
優希 え、やっぱり付き合ってたんですか？うちら。
佐久間 あのなぁ。
優希 嘘です、うそ。もうしません。
佐久間 ともかくふざけとらんとハヨ出せや、進路希望調査。出してへんの広田だけやねんから。悩んでるんやったら頭の良い
姉ちゃんにでも相談し。
優希 …お姉ちゃんは関係ないです。
佐久間 お？ なんやその反応。
優希 いえ。…悩んでるんやなくてお母さんが印鑑押してくれへんからウチかって提出したくてもできへんの。
佐久間 ほんならそうやってちゃんと言えや。
優希 言った！でも、話聞いてくれへんのやもん。
佐久間 ほんまか？、それ。まぁええ。明日忘れたら親、呼び出すからな。
優希 え〜！
佐久間 緊急三者面談じゃ！ ほな。
佐久間は教室から去る。舞台は暗くなり、優希が立つ場所へにサスが当たる。
優希 なんで皆気付いてくれへんのかなぁ。白い進路希望調査用紙は真面目に考えへんかったわけやなくて、いつだって真面目
に考えてた。悩んで悩んで悩んで埋めたその用紙をお母さんは見てくれへんかった。ウチにはできひんってなんで決め
付けるんかな？ なんで信じてくれへんの？ いくらお姉ちゃんとウチに天と地との差があるとしても。ウチはウチやんか。
他の誰とも違う。なのに。
優希が奥にはけると、舞台前面が明るくなり、下手と上手から少女が二人現れる。
少女Ａ もしも、もしも私が
少女Ｂ 今までの人生をリセットできるボタンを持っていたら、
少女達 私は。
少女達はそれぞれ下手上手へとはけていく。
『映研の襲来』
明かりがつくと舞台は教室から映画制作同好会のたまり場へ姿を変えていた。
机が３、４個並び、その机には優希の鞄。テレビなんかもあったり。優希は一人イスに
座り、一枚のプリントを眺めていた。
光 ユッキ――――ッッ！ちょっと大変大変！！
下手から叫びながら走って部室に入ってくる光。その声に驚きながらも優希は
持っていたプリントを急いで鞄の中に突っ込んだ。
優希 あんなぁ光、廊下は走るなっていっつも言ってるやろ？大体自分うるさいねん。もうちょっと静かにやなぁー…
光 そんな文句とかどーーーでもええから大変やねんって！
優希 どうでもええとはなんやねん、どうでもええとは。そんなんやからウチはいっつもやなぁ…
光 話を聞けッ
光は優希に向かって一発。
優希 (殴られて)うぐッ
光 優希が人の話を聞かへんからそんなことになるんですーッ
優希 暴力はんたーい。ホンマに凶暴なんやから(ぼそっ)
光 なに、なんか言った？(低い声で優希を睨み)
優希 地獄耳―ッ
光 あほぅ。関西の女はみーんな地獄耳やって決まってんねやで。
優希 そんな関西の女ひとくくりにしたあかんわ。光以外の関西人に失礼やろ。
光 なんでやねん。
優希 で、なんか大変なことがあったんちゃうの？
光 そや、忘れるとこやった。
優希 何、今度はどないしたん。
光 驚いたらあかんで？あんな、気色悪い話やねん。
優希 (急に真面目な顔をして)…言ってみ？
光 ちょいちょい(優希を手招きして)
優希 (光に近づき)
光 (優希の耳をかじりそうな距離で)優希の耳、餃子みたい。
優希 あーーーーーーッ！なんやねん！！
光 いややわー、ちょっとしたおちゃめ心やんかぁッ
優希 何がおちゃめやねん！くだらん用やったらウチの大事な時間を侵害するんやめてもらえますー？
光 そんな怒らんといてや、優希ぃ〜。心狭いなぁ。
優希 失礼な。ウチの心は宇宙人並みに広いですー。
光 ん？自分で言うのが痛いな。
優希 うっさいわ。用があるんやったら早う言って。
光 そうそうッ。あんな、映研が部活してるねん！
間
優希 はあぁぁぁ？！嘘やろ？！
光 嘘ちゃうって私ちゃんとこの耳で聞いたもん！ 部室に人入っていくからまた荷物置きに来てるんかなと思ったら、
「ミーティング始めます」って…。どうしよ、優希！
優希 どうしよ、言うたって関係ないやろ。ほっとき。
光 いや、でもさ〜。
優希 映研が部活しようが帰宅しようがウチらには関係ないやんか。ウチらは映画制作同好会、向こうは名ばかりの映画
研究部。向こうがどうしようがウチらはウチら。
光 でも、映研があまりに名ばかりやったからうちらは同好会結成、認められてんで。これでもし映研がまともに活動始めた
らうちらのクラブ昇格大作戦はどうなる？
優希 やらしたいんやったらやらしとけばいいんちゃう？ 大体、ミーティングて誰が仕切ってるん。
光 あのさ、ほら、映研の部長のー…なんやったっけ、あの偉そうな人。なんか小難しい名前やん、ほら！
優希 あー…。えっと、えっとー…『桜』って文字なかった？
光 あったあった。桜―…桜餅？ちゃうなぁー…桜坂？
優希 君よずっと幸せにぃ〜、風にそっと歌うよぉ〜うぅ〜いえぇい〜ってそれは福山やろ。
光 しかも古いし。ノリツッコミ長いねん。
優希 っていうかウチ福山雅治ってなんか好きになれないんですけどー。
光 えぇー…いいやん、福山雅治！カッコエエやん！
優希 ウチは藤木直人の方が好きー。
光 うっそやん。そりゃないわ。藤木直人ってなんかナヨくない？
優希 ナヨくない！
優希と光が言い合いをしている間に下手から晃が入ってくる。
晃 やっほー。なぁなぁ…って今日は何で揉めてんの。
光 福山雅治か、藤木直人か！
晃 またくだらんことで…。
光・優 何？！何か文句ある？！
晃 いいいいいいや、べ、別にッ…ホンマに変なとこで気が合うんやから…。
優希 ホンマあんた分かってへんねんから！『ナースのお仕事』見てへんやろー。
光 『ナースのお仕事』がなんぼのもんじゃい！
優希 研修医やったのに気づいたらちゃんと医者になってねんで。すごいやんか！
光 そんなん別にすごくもなんともないわ！
晃 (二人をさえぎるように)あ、そうやそうや。俺らの助っ人やってくれるって人見つけたで！
優希 え？
光 うっそ！すごいやん晃！お手柄やでお手柄！で、何で入ってくれるん？
晃 あー…なんか役者だけは嫌やけど、それ以外ならなんでもやるとか言ってたで。
優希 はぁ？何それ。曖昧な返事。そんなんで大丈夫なん？
光 いや、ある意味凄い。何でもやるなんて普通言われへんで。
優希 あ、そっか。やらせてみる？なんでも
晃 助っ人に来てくれるって言うんやからイジメたらあかんやろ。あくまで助っ人で来てもらうんやから。
優希 いや、そうやけどなんかもっとあれ嫌これ嫌とか言わへん意欲があるような人の方がいいなぁ。
光 それやったら助っ人やなくて新入部員やろ。
優希 本来それぐらいの勢いで探すべきやんか。これからもずっと助っ人探していくわけにはいかへんし。
晃 今回は我慢しようや。時間もないわけやし。
優希 我慢ん〜？。
光 せやな。奴らの動きも気になるし。
晃 何、なんの話。
優希 映研？
光 そやそや、晃も聴いて。大変やねん。
晃 また映研？今度は何文句言ってきたん？
優希 文句ちゃうねん。集まっとるねん。
晃 はぁ？ そりゃ集まるときはあつまるやろ。
光 ちゃうちゃう、ミーティングまでやっとるねんで。
優希 あのさ、映画研究部って普段何してんの？
光 あれ、優希知らんの？
優希 いや、たんまに映画を鑑賞してるってのは知ってるけど。それ以上は知らん。
晃 知ってるやん。
優希 え？
光 それだけやろ、映研がやってるこというたら。
晃 見てレポートを書いたりするわけでもなく、ただの鑑賞会。
光 しかも毎回毎回あの部長が趣味嗜好で選ぶつまらん映画ばっかりらしいで。『Ｂ型の彼氏』とか、『ビューティ
フルボーイ』なんてタイトル見て観に行ったらおかまのムエタイ選手の話でびっくりして中止になったらしい。
優希 ホンマにそれだけしかしてへんの？！
光 うん。
優希 そんなんで部費貰ってるん？！っていうかようそれで部活が成り立つなぁ。先生たちもなんも言ってこうへ
んの？
晃 顧問が完全ノータッチの高橋富美子先生やからな。いや、昔はちゃんと活動してたらしいよ。自主映画も毎年一本は
作ってたらしい。コンクールに出品してたかどうかは知らんけど。
優希 今はなんで作ってへんの？
光 今の部長が『私たちにはまだまだ映画を作るなんて…もっと研究が必要です』とかなんとか。
優希 はーん…。
ミドリ ちょっと大変大変大変――――――ッ
聴こえてくる叫び声。下手から走って現れるミドリ。
優希 うっわぁー…デジャヴュ…。
光 ミドリ先輩ー！こんにちは！
ミドリ ちょっと聴いた？！映研がまたアホなこと言い出して！
晃 俺も今、光から映研が集まってるって聞いたとこなんですよ。
ミドリ 詳しい話は聞いた？
晃 いや、全然。
優希 なんかあるんですか？
ミドリ 集まるくらいはどうってことない。あいつら映画作るつもりらしい。
光 え？
優希 なんで今更。
晃 研究終わったんか。
ミドリ あの子らのことや、絶対うちら同好会のクラブ昇格を阻止するために無理矢理映画作ろうって言いだしたに決まっ
てる。
光 あ〜むかつく。ウチ、人が真剣にやろうとしてること邪魔する奴大っ嫌い。
晃 好きって方が珍しいやろ。
優希 本気ですか、それ。
ミドリ どこまで続くか分からへんけど今のところ本気みたいや。活動計画書と予算請求が生徒会に提出されたって。
光 生意気な。活動計画書と予算請求やったらこっちが一月も先やんね。
ミドリ まあね。それでも向こうが本気で来るんやったらこっちも本気で受けて立たな。作品作りで勝負やで。
光 なんか燃えてきたって感じ？
ミドリ 映画はなぁ、芸術やで。昨日今日集まってぽっと作れるモンちゃうってこと、思い知らせたろ。
下手からヒロミ登場。手には何かの資料。
ヒロミ そのためには先立つものがないと。
晃 何ですか、先立つモンって？
ヒロミ 金、銭、資金ですがな。
光 は、資金？
優希 資金っていうと夏にあるコンクール用にもらえる製作資金のことですか？
ヒロミ そ、その資金。
晃 で、その資金がなんなんですか？
ヒロミ 遅なってごめん。先生に話し聞きに言ってきてん。はい、これ資料ね。
ミドリ ありがとう。で、なんて言ってた？
ヒロミ やっぱりどっちかにしか出されへんて言ってた。
光 え、え、どっちかって？
ミドリ 映研かウチらかってコトや。
光・晃 どぉえ〜〜！
優希 でも前からウチらがずっとコンクールに出るからって申請してた資金やないですか。なんで今になって映研に
取られるんですか？
ヒロミ 私も納得行かんくて先生に聞きに行ったんやけど、なんや聞いたところによると向こうもコンクールに出たいっ
て言い出したらしい。
ミドリ はぁ？！
光 なんですかソレ！なんかおかしくないですか？！
優希 いきなりなんでそんな話になってるんですか。
ヒロミ それがなー…これも今更な話やねんけど。ほぼ何もしてへんあの映研の活動で部費はあげられへん、言うて
生徒会が言い出して。
ミドリ ほんッッッまに今更な話やな。
晃 あの新しい生徒会長がやってるんですかね。
光 またいらんことを。
優希 まぁまぁ。
ミドリ で？
ヒロミ そんで映研がどうしたら部費が貰えるか、って聞いたら。映画鑑賞だけじゃなくて何か形を残してもらわないと
無理 や、って答えたらしい。それ聞いて部長が『じゃあ何か作ればいいんですよねー？』って。
優希 それでコンクール…。
光 そんな理由で私らの邪魔されるんですか！
晃 …新しい生徒会長も頑張ってるんですね。
ミドリ そんな頑張りはいらん！
光 だって…だって！私らこの部が出来て十ヶ月ずっと自分達で色々調べて、シナリオだって優希がせっかく考えて
くれてるのにーッ！
ヒロミ 先生たちかって知らんわけじゃないやろ。実際にどうなるかはまだわからへんとも言ってたわ。
ミドリ あーもー…なんでこんなことなんのー！
光 どうにかできないんですか？！ミドリ先輩！
ミドリ どうにかって言われてもなー…。
晃 どうにかしないと俺らコンクール出れなくなりますよ！
『映像テロリスト』
その時突然舞台上のテレビに電源が入る。ぎくっとする部員達。画面には一人の女が現れる。
ミドリ さ、さ、
全員 桜小路ぃぃぃぃぃぃ！
桜小路 映画制作・同好会の皆さん。ごきげんよう。映画研究・部・部長の桜小路綾香です。
ミドリ の野郎、部ってとこ、強調してやがる。
桜小路 今日は皆さんにお伝えしたいことがあってお邪魔しました。皆さんもお聞きになっていることとは思いますが、
私たち映画制作部はこの夏のコンクールに向け、満を持して作品作りに取り組むこととなりました。
優希 なんか言ってる！
ミドリ それがどうしたんや！
ヒロミ この映像、どうやって送ってんだろ？
晃 怪電波とか。
ヒロミ アンテナ要るじゃん。
光 アンテナ線つながってないのに。
桜小路 おっと、下手な小細工はやめて大人しく私の話を聞きなさい。そのほうが身のためよ。
ミドリ やかましい！ おめえに指図されたくないんだよ！
ヒロミ じゃ、ビデオか。ＯＦＦってみよっと。
ヒロミめちゃ冷静にビデオの停止ボタンを押す。消える桜小路の映像。
優希 やった！ 消えた。
晃 ざまあ見ろですね。
ヒロミ 問題はいつ、誰が、どうやってこのデッキにビデオを入れたか…。
その時再びテレビに映像が現れる。
光 ちょぉっと！
晃 なんでまたつくんだ？
桜小路 大人しく話を聞きなさいって言ってるでしょ。
全員 なんでぇ？
桜小路 あなたたちは監視されているのよ。今度下手なことをしたら何が起こるか保障しないわよ。それとも試して
みる？
顔を見合わせるみんな。何が起きるんだ？ 悔しいけど緊張感が辺りに漂った。
緊張のせいか、晃は手近な椅子を引っ掛け大きな音がする。
桜小路 そう、あなたたちがそのつもりならこっちにも考えがあるわ。
優希 そのつもりって何よ！
光 晃！
晃 違うって。何もそんなつもりじゃないって。
突然部屋の電気が消える。暗闇に悲鳴とブラウン管の明かりが浮かび上がった。
桜小路 言ったでしょ、あなた達は監視されてるって。悪いことは言わないから大人しく私の話を聞きなさい。
ミドリ （涙ちょちょぎれそうになりながら）おにょれぇ。
ヒロミ おおっ、良くできてる。
桜小路 映作も聞いてるとは思うけど、自主映画資金のことで話があって。こっちに譲ってくれないかなーっと思って。
ミドリ は？
桜小路 だから、資金を諦めてほしいの。
ミドリ はぁッ？ お伝えしたい事ってそれか！
桜小路 ほら、だって普通は映画研究部が自主映画を作ってコンクールに出すものじゃない？ 映研を真似して作った映画
製作、しかも同好会じゃ格好つかないじゃない。
ミドリ あんなぁ〜…(立ち上がる)
桜小路 ってことで、資金は私たちが貰います。
ヒロミ あんな、そんな簡単に「はい、そうですか」って言える訳がないやろ。あたしらは映画が作りたくて同好会まで作った
んや。そのあたしらがなんで諦めないとあかんの？
桜小路 別に自主映画を作ることを諦めてほしいって言ってるわけじゃないの。ただ資金とコンクールの参加を諦めてって
言ってるの。
ヒロミ だーかーらー、それができへんって言ってるんやろ！ あんたちゃんと日本語理解できてるん？！
桜小路 ありがとう。協力してもらえると思っていたわ。
全員 はぁぁぁ？！
桜小路 夏のコンクール、映画研究部に任せて良かったって思ってもらえるよう、私たちは全力を尽くすつもりよ。映画制作
同好会の皆さんもコンクールには出られないけれど、すてきな作品をつくって下さいね。
ヒロミ 晃あきら、ちょいちょい。
晃 なんですか？
ヒロミ こっち来てみ。
そう言うとヒロミと晃は誰にも気づかれないように上手にはける。
優希 ちょっと待って下さいよ。映研さん、黙って聞いてたら好き放題勝手にしゃべって。
光 ほんまや。あんまりちゃう？
優希 うちらかっていい加減な気持ちやなくて本気で作品、作るつもりなんです。シナリオかて、見て下さい。
そういうと優希は自分のカバンへ走り、書きかけのシナリオを取り出そうとする。
しかし、モニターの桜小路はそんなこと聞いちゃいねぇ。
光 そっちがろくな活動せんと…。
桜小路 それじゃ、私からのメッセージは以上です。映画制作同好会の皆さんの健闘をお祈りしています。
光 おい！ 聞いてへんの？ 人の話。
ミドリ こんな馬鹿にした話があるかい。分かった、こうなったら徹底的に戦争や。
桜小路 な・おっ。このビデオテープは自動的に爆発します。
全員 でぇぇ！
桜小路 ごきげんよう。さようなら。
そう言うと桜小路は画面から消え、カウントダウンの数字が映し出される。
１０、９、８、７、６、ある意味パニック状態に陥るミドリ、優希、光。とてもセリフ
で表現できるモノではございません。お任せね！ あれ？ ヒロミと晃はどこ
行ったん？ その時カウントダウンの映像がストップ。危機一髪の２秒前あたりでお願い。
ミドリ と、止まった。
光 ホンマに？
優希 どかぁん！とか、言わへん？
上手からヒロミの声。同時に明かりがつく。
ヒロミ お〜い。犯人見つけた。
秋月 いや、犯人ちゃいますって。
晃 こいつ、リモコン持ってるよ。
見ると取り押さえられた秋月が教室に引きずり出されてくる。
ヒロミ こいつでビデオ操作して桜小路のメッセージを流してたってわけ。おかしいと思ったんだ。映研にそんな高度な技、
あるわけないもん。
秋月 誤解です。あたしはそんな映研の回しもんやないですから。放して下さい。
光 あ、この人、見た。
優希 え？ 光知ってるん？
光 だって、さっき映研の集まってる部屋に居たもん。
秋月 ご、誤解です。良く言われるんですよ。あんたに似た人駅前で見たよとか。
ミドリ へぇ〜。
秋月 どこにでもいるタイプなんですよ。
晃 おるか？ こういうタイプ。
ヒロミ じゃ、このリモコンはどう説明するわけ？
ヒロミがリモコンで一時停止を解除するとカウントダウンの映像が再び
動き出す。みんな一斉に緊張するけど一番ビックリしたのは秋月だった
りする。
秋月 あ、あきませんって。爆発！
カウンターがゼロに。爆破の映像が地味に流れそして終わる。桜小路
再登場。しかも大アップ。
桜小路 嘘よ！ 驚いた？ あ〜っはっはっはっ！（消える）
全員 馬鹿にすんなぁ！
秋月 ですよね。爆発なんかしたら、危ないですもんね。一件落着っと。じゃ、失礼します。
笑顔でごまかして帰ろうとする秋月。みんなが許すはずもなかった。あっと
いう間に取り囲まれる。
ミドリ さ、詳しい話を聞かせてもらおっか。映研がこんななめた真似するワケとか。
秋月 そんな、私はただ、これ流して来いって言われただけで。
優希 誰に？
秋月 いや、誰にってワケじゃ。
光 ちょっと、ここに座ってくれる。
ヒロミ 自白剤、出す？
ミドリ お願い。
抵抗する秋月はみんなに寄ってたかって椅子に座らされる。
優希 拷問だぁ、拷問。
秋月 やめて下さい。私は何も！
晃 みんな、凄く楽しそうだね。
ヒロミ カメラスタンバイできたよ。
優希 それいい。お返しに映研の部室に送り返してやろ。
光 面白そう。
晃 ちょっとやりすぎじゃない？
ミドリ いいから。映研にはこのぐらいやってちょうどいいんだって。やられる前にやりかえす。所属、階級、氏名は？
秋月 …映画研究部、二年、秋月智代。
ミドリ ここへ潜入した目的は。
秋月 ちょっとしたお茶目心で。
ミドリ 嘘を付け！
秋月 ごめんなさい！
桜小路 それぐらいにしてあげたら？
ミドリ 誰だ！
ついに大物登場。映画研究部部長、桜小路があらぬ所から登場する。
光 桜小路ぃ！
桜小路 あなた達の正体、よく分かったわ。捕虜を拷問してビデオに残し、インターネットで公開するなんて、イラク戦争のテロリスト
並みじゃない。かわいい部員が絞首刑になるところ、黙って見過ごすわけにはいかないわ。
晃 誰もそこまでしようなんて言ってないよ。
ミドリ 黙れ、そっちこそ爆弾テロみたいなコトしやがって。
秋月 部長！ すいません。見つかってしまいました。
桜小路 仕方ないわね。助けてあげるから安心しなさい。さ、帰るわよ。
あまりにも堂々と椅子に座らせられた秋月に近づき連れて帰ろうと
する桜小路にみんなあっけにとられる。
優希 あの、ちょっと待って下さい。さっきの話、本気ですか？
桜小路 貴方は？
優希 映作二年。広田優希と言います。
桜小路 広田さんね。覚えておくわ。で？
優希 資金とコンクール出場のことです。どっちもあきらめろっていきなり言われても納得できません。
桜小路 ああ、そのことね。もちろん本気よ。もともと映画制作やコンクールの参加は映画研究部にこそ与えられた権利であり
義務でもあると思うの。確かに今まで私たちは映画制作に対して消極的でした。でもそれは言ってみれば充電していた
だけのこと。本来あるべき活動に向け、私たちの決意は揺るがないわ。
光 いままで散々さぼってたクセに充電とか言わんとって欲しいわ。
桜小路 しばらく公式試合を控えていた野球部があるからって草野球の同好会を勝手に立ち上げ予選に出たいって言っても
誰が認めてくれるのかしら。公式戦に出たいなら、野球部に入部して一からやるのが筋ってものよ。
光 ああ言えばこう言う。
桜小路 何か？
優希 一つ質問してもいいですか。桜小路さんが映画を作った経験は？
桜小路 それは…。まだないわ。広田さんはどうなの？
優希 わたしも、まだ。
桜小路 じゃ、おあいこってコトね。
ミドリ 同じ素人同士やろ。そっちが正統派でこっちが偽物みたいな言い方やめてくれるか。ウチらはな。情けない映研に後から
入って苦労するとか考えられへんのや。映画を作りたいんや。あんたの機嫌取りながら見たくもない映画、見せられる
とか我慢ならんのや。映研の指図は受けへん。ウチらはウチらでええもん作る。みんなを納得させる。昨日今日映画作り
に手、出したあんたらと根本的に違うって所、見せたるからな。
ヒロミ よ。良く言った！
桜小路 かわいい部員を拉致しておいて良くもそんなことが言えるわね。
ミドリ あんたとこれ以上話しててもラチがあかんっちゅうこっちゃ。(桜小路をきっと睨む)
優希 ところで桜小路さん。
桜小路 何よ。
優希 自主映画作る言うんはいいんですけど、映研はもう企画立ててはるんですか？
桜小路 …企画？
優希 そうです。たとえば、誰が何をして、スタッフやったりとか、役者やったり、ていう役割分担とか。シナリオ決めたり。
桜小路 当たり前です。
ヒロミ じゃあ、スクリプターは誰がするんや？ あんたか？
秋月 ？
桜小路 す、すくりぷたー？
ミドリ そっちじゃスクリプターやなくて記録って呼ぶんかな。
桜小路 記録？ ね。
光 あっれー？ もしかして知らないんですかー？
桜小路 …そんなもちろん知ってるに決まってるじゃない。あ、アレでしょ、記録って言うのはその、ホラ、なんだったっけ。
えーと…そう！ 撮影の記録をする人のことよね。
ミドリ あれ、さっきまでの勢いはどうしたんです？
ヒロミ 記録っていうのは、カットごとの状態状況を記録しておく人のこと。編集時にちゃんとカットとカットがつながるように記録
するんや。
桜小路 そうよ！ よく知ってるじゃない！
ミドリ あんたなぁ。
優希 他にもいろいろ仕事はありますけどね。
ヒロミ もうちょっとちゃんと勉強してきた方が良いと思うけど？
晃 研究、まだ不十分やったみたい。
光 みたいね。
桜小路 …今日は話が進まないから帰る。行くよ、秋月。
鼻息荒く立ち上がると桜小路は教室を出て行った。その後ろをついて
行こうとした秋月が振り返る。
ミドリ あーすっきりしたー。
秋月 あの…
ヒロミ 何？ まだなんかあるん？
秋月 ごめんなさい。迷惑かけて。でも私らも映画作りたいとは思ってるねん。今度はちゃんと話し合いに来ます。
頭を下げると秋月も教室を去っていった。優希は去っていった秋月を
見送る。
ミドリ なんで桜小路が部長なんやろ。せめてやで、あの子が部長やったらもうちょっと話もスムーズに進むやろうに。
光 にしても、ホンマにめちゃくちゃ言ってきましたねー。
晃 資金どうなるんやろ…。ホンマに向こうに取られるんかな。
ミドリ まさか。そんなんさせるかいな。
優希 でもそうなると、ウチの考えたシナリオは全部パアになるってことかぁ〜。結構良い題材やと思うんやけどなー。
光 えぇッうそッシナリオできたん？！この間はまだ考えてるとか言ってたやん！
優希 そりゃそうや。ウチかって昨日やっと固まったとこやねんから。まだ形にはなってないけど。
ミドリ かまへんって。映研に先超されるわけないやん。うちらの実力しっかり見せたろ。
光 うち、めっちゃ燃えてます。くわぁ〜！
晃 火、でそうやね。
ヒロミ ヤケドせんように。
ミドリ どんな話なん？ 聞かせてや。
優希 いいですよ。
『リセット』
四人は優希の書いたシナリオをのぞき込むように集まる。優希は静かに話し
始める。
優希 シナリオのタイトルは『リセット』。物語はある日、二人の女子高生が同じ列車に乗り合わせることから始まる。
一人の少女が上手から現れる。
優希 この女の子はどこにでも居そうな高校生。彼女の高校生活はごくごく普通の女子高生のものだった。仲の良い友達がいて、
仲の良い両親がいて心から愛されていたし、彼女自身も彼らを愛していた。
少女Ａ 自分が恵まれない人間だと思ったことは一度もない。毎日が楽しいかと聞かれれば、すごく楽しいと思う。そりゃ生きてれば
悩みの一つや二つあって当たり前だし、辛いことだって嫌な事だってある。でもそれなりに幸せだと思って十七年生きてきた。
…だけど何か物足りないんだ。
下手からもう一人少女が現れる。
優希 こっちの女の子も同じ高校生。ただ、彼女の生活は普通とはかけ離れていた。物心ついたころに両親は離婚。母方について
いくが義理の父親に虐待を受け、家を追い出され、一人でバイト三昧の毎日を送る。
少女Ｂ 小さい頃な、お母んに怒られたらいつも言われた言葉がある。『あんたはお母さんの所に生まれたいと思ったからここに生ま
れてきたんや。』 私は正直にその言葉を信じとった。でもな、そうやとしたら私はあほや。そこさえ間違えんかったら私にももっ
とマシな人生があったはずやのに。
優希 ある日、この対照的な二人は同じ鉄道事故で偶然命を落としてしまう。
優希がそういうと同時に二人の少女はその場に倒れる。倒れた二人の
ところに下手から現れた人間が近づく。
少女Ａ (体を起こし)…ここ、どこ？
少女Ｂ 何や？
研究員Ａ シミュレーションご苦労様。気分はどう？
少女Ｂ シミュレーション？ シミュレーションってなんや？
研究員Ａ 君たちが今まで経験してきた人生はわが社の開発した最先端の人生シミュレーションだ。君たちの『本当の生活』じゃない。
いや、『本当の生活』に遥かに近い『偽物の人生』だ。
少女Ａ それって…私たちの今までの生活は全部ゲームだったってこと？
研究員Ｂ ま、言い方は稚拙だが構わないよ。ゲームさ。ゲーム。
研究員Ａ 現在、世間には残酷なニュースが毎日のように報道され始めた。子供による殺人事件。増え続ける青少年の自殺。少子高齢
化は依然進むばかり。我々は数少ない貴重な子どもたちを正しく導き、八十年の人生を幸せに、有意義に過ごしてもらわなけれ
ばいけないと考えた。そのために私たち子供の心理研究をはじめた。
少女Ｂ 心理…
少女Ａ 研究…？
研究員Ａ そうだ。そして私たちがたどり進めるべきプロジェクトとして、このプランが立ち上がった。
研究員Ｃ それがこの『人生シミュレーション』 それは君たち子供がとてもリアルな人生シミュレーションのなかでうまく自分の心を
コントロールする能力を身につけ、初めて本当の人生という表舞台にデビューするというプランだ。
少女Ａ そんなバカな話…あるわけない！
研究員Ａ いや、これは本当の話だ。間違いなく、生身の君たちが住むこの世界の本当の話。
少女Ｂ 今までの人生は全部…ゲームだったってことなん？ ってことはあのお母んもお母んの連れてきたおっさんもみんなゲームの
キャラってコトなん？
研究員Ｂ ああ。現実の人生と違うことはほとんどないとてもリアルなゲームだ。君達の出生や友人関係についても全ては君達自信の
記憶から掘り起こしたもの。痛みだってあっただろう？
少女Ａ あれがゲーム。
少女Ｂ 本当の生活、ちゃうかったんや…。
間
少女Ａ あんなくだらない世界から飛び出せるんだ。
少女Ｂ あんな所から飛び出せるんや。
少女Ａ 毎日毎日同じことの繰り返し。つまらないつまらないつまらない。
少女Ｂ 毎日毎日どんだけ我慢してきたか。こんなんやったらお母んもおっさんも刺し殺したったら良かった。（笑）だってゲームやねん
から。
少女Ａ 私だって「なんでもお母さんの思い通りにはいかないのよって言ってやれば良かった。だってシミュレーションなんだから。なぁ
んだ。一人でもやもや考えてたのが馬鹿みたい。
少女Ｂ 結構頑張ったんだけどね。ムキになって…。
少女Ａ やっと開放される。
少女Ｂ みんな昔のこと。
少女たち 生まれ変われるんだ。
間
研究員Ａ 君たちはたった今、一つの人生を終えた。人に殺されたにしても、事故だったにしても、自殺だったにしても、それは君たちが
自分で進んできた人生だ。
研究員Ｃ さて、君たちはこれからどうする？
研究員Ｂ 君たちの選択肢は二つ。
少女たちは立ち上がる。
少女Ａ シミュレーションの世界を卒業し、決してリセットできない、生身の『本当の人生』にデビューするのか。
少女Ｂ それとも、シミュレーションの中に残り何度でもリセットできる『偽物の人生』を永遠にもう一度始めるのか。
研究員たち さぁどうする？
研究員はそれぞれに少女を見つめる。
少女たち 私たちは。
二人は顔を見合わせると背を向け、各々下手と上手へとはけていく。暗転
『スイッチ』
舞台が明るくなると、優希が一人。教室で机に突っ伏していた。手には包帯が巻かれている。
優希 なんでウチはウチなんやろ。
下手から様子を見ながら入ってこようとした晃が立ち止まる。
優希 ポチッ…ドカーンッ…違うな。ドッグワァァン！ゴロゴロゴロ…ピュー…。
晃 …。
優希 なんか違うんだよねぇー…。なんかこうもっと破壊的に…派手に…こう…うーん…。
晃 …優希、何してんの。
優希 え？あー…晃。やっほー。
晃 何、今の。
優希 え、何が？
晃 ほら、ドカーンッとか、ピューとか。
優希 ああ、あれ。ちょっとした妄想。
晃 もうそう？
優希 晃もやる？(立ち上がって)…もし、今この手に、あるスイッチを持っているとします。
晃 スイッチ？
優希 そうそう、スイッチ。こんなんね(手で形を示して)
晃 こんなやつね。
優希 で、このスイッチを押したら、どうなるかっていう妄想。
晃 押したら。それが優希はドカーンッとかピューだったわけ。
優希 うん。そんな感じ。
晃 スイッチ…スイッチね。
優希 そ。…スイッチ。
晃 …破壊的やね。優希。
優希 破壊的？…ああ、うん。今日はね。
晃 今日は？
優希 うん。今日は。
晃 今日は。
間
晃 ポチッ…シュインッ
優希 あははッ、何、シュインッって！
晃 俺はシュインッなんだって。
優希 …ポチッ…シュインッ
晃 あれ優希、その手…
優希はきまり悪そうに笑いながら包帯をした右手を隠す。下手からミドリとヒロミの声。
ヒロミ なんか用ですか？
宇津井 いや、別に。
ミドリ なんか怪しいやっちゃな。あ、ひょっとして、映研のスパイか！
ヒロミ この子、動揺してるで。
ミドリ 捕まえて尋問じゃ。
部屋に飛び込む少年、宇津井君。中の二人も彼に気付く。
ミドリ 晃、そいつ捕まえて。映研のスパイかも知れん。
晃 えぇ〜（笑ってる）
優希 こないだは怪しいビデオ流しやがって。今日はどういう作戦なん？
宇津井 怪しい？
ミドリ 正直に白状せなひどい目に遭うで。
ヒロミ あんた、持ってるやろ。
宇津井 （否定してます）
ミドリ 持ってるやろっちゅうとんじゃぁ〜！（吠え！）
宇津井 も、持ってますけど。
ミドリ やっぱりな。出せこら！
晃 （やっぱ笑ってる）持ってるんや。
宇津井 いや、学校には。
優希 ほなどこに持ってる言うん？
宇津井 い、家ですけど。
ヒロミ また自動的に爆発するとかいうクサい芝居してるんちゃう？
宇津井 爆発？
晃 おい、宇津井。今度それ、貸してな。
ミドリ 貸して？ そなもん借りて何するんや…、って晃？ 知り合い？
晃 はい。
ミドリ 知り合い？
宇津井 助っ人、来て欲しいって言われたから…。
優希 こないだ言ってた？
晃 そう。
宇津井 悪いんですけど…。
ヒロミ あらぁ、悪いコトしたね。てっきり映研のスパイかと。
ミドリ いや、ホンマ。完全に誤解してた。
優希 先〜輩〜。
ヒロミ こいつがな、悪いねん。
ミドリ なんで。あんたが怪しいとか言うから。
ヒロミ スパイって最初に言ったん、そっちやろ。
ミドリ 言ってないわ、スパイとか！
宇津井 （様子を見ながら後ずさり）失礼します。
晃以外 すいません。申し訳ない。帰らないで。お前いつかぶっ飛ばす。ね。
晃 まあ、そう言うことだから。
宇津井 はあ。じゃあ。
晃 ところで宇津井。怪しいビデオって。
宇津井 …帰る。
晃 悪かった悪かった。
ミドリ 晃君。よかったら彼、紹介してくれない？ ねえ。
ヒロミ ぜひ。
晃 はい。同じクラスの宇津井健二君です。ちょっと変わってるんですけど、手先は器用で、美術とかやらせたら人があっと驚く作品を
作っちゃうのでスカウトしました。役者は出来ないけど、裏方だったらなんでもって言ってくれてます。
宇津井 何でもってわけじゃ。
晃 趣味は、パソコン。学校じゃ無口ですけど、ネットではそこそこ有名人らしいです。
宇津井 そんなこと…。
晃 謙遜謙遜。あのさ、シナリオが完成してないからまだ仕事はないんやけどな、いま優希が書いてるから出来上がったらセットとか、
小道具とか作る仕事たのむな。ちなみに俺も美術担当やから。
ヒロミ なんか、心強いね。晃だけやったらセットや小道具、みんな段ボールで作りそうやもん。
晃 え〜。そんなことないですよ。
ミドリ 言えてる。そや、優希、今のうちになんか頼んでおく小道具とかないの？
優希 今のうちですか？
ミドリ そう、もう使うこと決まってる奴。宇津井君の腕試し。せっかく来てくれてんからさ。
晃 そや、さっき言ってたやつは？ ドカーンッとかピューとかいうスイッチ。使う？
優希 ああ、使う、けど。
ヒロミ 何それ。
優希 リセットでしょ、タイトル。なんかあらゆるモノをリセットできそうなスイッチがあったらなって晃と喋ってたんです。
ミドリ おお、いきなり作品の核心に触れる小道具やね。
晃 ええですやん。きっとこいつならすごいの考えてきてくれるかも。宇津井、これぐらいのかっこいい奴、考えてみて。どない？
宇津井 （うなずく）
ミドリ 考えてきてくれるんや。
宇津井 取りあえず。
ミドリ ありがとう。
宇津井 音、出た方が？
ヒロミ あ、ＳＥはアフレコで何とでもなるから。
宇津井 そうですか。
晃 何か本格的やろ。
優希 うん。
宇津井 光ったりとかした方が？
ヒロミ まあ。出来るの？
宇津井 ＬＥＤでやるか普通のライト使うか。パーツは何種類か。
晃 おぉ〜。
宇津井 じゃぁ。
ミドリ お願いします！ 優希、なんか楽しみやんな。
優希 はい。
一礼して部屋を出て行こうとした宇津井。振り返って。
宇津井 やっぱ押したとき変形したり煙噴いたりとかした方が？
ミドリ 宇津井君に任せるから、思ったようにやってみて。
宇津井 じゃ。
晃 お疲れ〜。
去っていく宇津井君。見送るみんな。
ヒロミ 変形したり…。
ミドリ 煙噴いたり…。
優希 ど、どんなん考えてるんでしょうね。
晃 さぁ〜。
『ボスキャラ？登場』
その時遠くの方からいつもの雄叫びが聞こえてくる。
光 ユッキ――――！！！
走って下手から入ってくる光。
優希 だからさ、大きな声で人の名前を叫びながら走ってくるのやめてくれへん？すっごい恥ずかしいんですけど。この間も言ったやろ？
光 そんなお小言は良いから大変やねんッて！
晃 また映研？
光 いやいやそうじゃなくて！
ミドリ とにかく、落ち着き。光。
晃 ひーひーふー。ひーひーふー。
ヒロミ 晃、それラマーズ法やけど。
晃 知ってます。ひーひーふー。
光 ひーひーふー。ひーひーふー。
優希 落ち着いた？
光 うん。そうそう、それでなッ！ 今職員室で見たんやけど、優希のッ、優希のお母さんが来てるで！
優希 うそ。来てんの？
ミドリ 今日懇談か何か？
ヒロミ いや、それやったら優希が知らんはずないやろ。
晃 優希が知らないうちに来たってことはなんかあったんかな。
光 なんか怒ってはるみたいやったで。心当たりないん、優希。
優希 ははー…あるような、ないような？
ヒロミ あるんやね。
優希 まあ、それなりに。
ミドリ 学校に乗り込んでくるぐらいやからよっぽどのことやねんな。
優希 いやー…イラッとしてつい…。
晃 何があったん？
優希 ごめん、アタシどこって聞かれたら帰ったって。
急いで教室から出ようとする優希。下手から佐久間が現れる。
佐久間 広田おるかー？
優希 …なんですか。
佐久間 お母さん来てはるぞ。
優希 ウチに用ですか？
佐久間 そりゃそうやろ。あれだけ暴れといて親御さんに報告せんわけにはいかんしな。怪我もしてるコトやし。
光 ちょ、何の話？
佐久間の横から優希の母、玲子が顔を覗かせる。
玲子 優希？
佐久間 あ、あの。
玲子 (佐久間を押しのけて)失礼します。
ミドリ ちょっと佐久間さん弱いよ？
佐久間 うるさいわッ
玲子 …優希。ちょっとおいで(優希を無理やり端に引っ張って)
玲子は優希を平手で叩いた。
優希 何すんの！
つづく…