2008年度 県立伊丹西高等学校演劇部春期・AIフェス参加作品
作:ハイジ 潤色 ごのい
【キャスト】
白 (男)
黒 (女)
赤 (男)
ピンク (女)
オレンジ (女)
黄色 (男)
黄緑 (女)
緑 (男)
水色 (女)
青 (男)
紫 (女)
茶色 (女)
花ちゃん 12色色鉛筆の持ち主。4歳の女の子。
お母さん 花ちゃんのお母さん。
『白の宿命』
舞台には白く大きな画用紙数枚が置いてある。センターには小さな鐘がある。そして一人、
白がいた。置いてある白い画用紙にゆっくり手をこすりつけ始めた。こすっては見て、こすって
は見てを繰り返す。そのうちこすっていた手はどんどん早くなる。早い。必死にこする。痛いだろ
ってくらい。
白 あ。
手が止まる。猫の鳴き声。体を硬直させ猫の動きを目で追う。やがてため息。そして他の白い
画用紙に手を伸ばす。
白 マ、マ………か。
白はその上から手をこすろうとした。黒が入ってくる。
黒 やめなよ。
白 俺は何も。
黒 花ちゃんが頑張って描いた絵だよ。台無しにするつもり?
白 違うよ、そんなつもりは。
黒 嘘。さっきの目は、そんなつもりだった。
白 さっきの目って、目で分かるのか?
黒 多分。
白 すごいな、黒は。目を見たら何でも分かるんだ。
黒 何でもってわけじゃないけど。
白 たいがい分かるんだ、こんな細い目でも分かっちゃうんだ。
黒 白、下手ね、ごまかすの。
白 ごまかすのって…。
黒 どうしてその絵、塗り潰そうと思ったの?
白 また、黒はすぐ決めつけるんだから。
黒 決めつけてなんてないわ。
白 決めつけてるよ。
黒 決めつけてない。
間
白 あのさ、自分がここからいなくなったら、どうなるんだろうって考えたことある?
黒 え?
白 産まれてこなかったら良かったのにって思ったこと。無い?
黒 白、そんなこと、考えてたの?
白 嘘、嘘だよ。考えてないって。目を見たら分かるんだろ? 見てほら、このつぶらな瞳。
黒 分かった分かったったら。もう。決めつけすぎるのは良くないってことも分かった。
白 それにさ、俺は何もできない。台無しにすら出来ない。白だから。
黒 ぼやけちゃうでしょ。
白 ぼやけるだけ、か。
黒 あ、赤でもピンクでも一緒よ。元の絵が見えにくくなるって意味のぼやける。
白 いいよな、お前は。
黒 どうして?
白 人気だし。大変だろ?毎日。
黒 今日はそうでもなかったよ。
白 別に気を使わなくてもいい。俺も一応今日は働いたし。
黒 ほんと?(なんだか嬉しそう)
白 なんでお前が喜ぶ必要があるんだよ。(ちょっと嬉しそう)
黒 だって嬉しいんだもん!ねえ、何したの。
白 お前ほど立派な仕事じゃないよ。一応って言ったからね。一応って。
黒 一応でも何でも仕事は仕事よ。何書いたの? 塗ったのかな?
白 言えねえよ。
黒 でも、すごいね。ちゃんと仕事したんだ。
白 別に大したことじゃないし…。
黒 そんなことないよ。すごいことだって。
白 う、うん。
黒 よかったね。
白 報告会ってさ、大嫌いだったんだ。みんなの自慢話聞くばっかりで全然楽しくなかった。でも今日は違う。報告することがあるんだ。(かなり
嬉しそう)
黒 みんな驚くわ。
白 そうかな。
黒 そうよ。そして白を見る目も昨日までとは違ってくるはず。
白 信じられないよ、すぐには。
黒 とにかくみんなの前で胸を張って報告するのよ。俺は今日こんな仕事をしたって。
白 ほら、みんな呼ぶのがお前の仕事だろ?
黒 うん。
『報告会』
黒は嬉しそうに頷いてあの小さな鐘を鳴らす。みんなが出てきた。みんな白い画用紙を床から
見えるように広げる。
青 お早うございます、リーダー。
赤 お早う。今日も一段と尖ってるね。みんな、挨拶はどうした挨拶は。
ピンク (赤をさえぎって)くーろー!聞いてよ、花ちゃんったらその時削ってもらったばっかりで尖って綺麗だったアタシで、ねぇ、何塗ったと思う?
黒 …え、たしか。
オレンジ あー。アレは無いアレは。
赤 挨拶だって。
黒 (赤をさえぎって)私で描くならまだ分かるんだけど。
二人 だよねぇ〜。
黒 毎度花ちゃんのイラストのセンスにはビックリするよ…。
緑 お早うございます。
赤 見ろ、緑はちゃんと挨拶できるんだぞ。
ピンク (赤をさえぎって)まず健全な4歳児が描く絵じゃないわよ。
オレンジ まあまだ4歳やしな。
黒 でもさ…
赤 (黒をさえぎりつつ、ものごっついでっかい声で)え〜いこうなったら挨拶なんてどうでもいい! せいれーつ!
みんながその言葉に反応して並ぶ。
赤 ばんごーう、一!
ピンク 二
オレンジ 三
黄色 四
黄緑 五
緑 六
水色 七
青 八
紫 九
茶色 十
黒 十一
白 ………。
黒 白。
白 あ、十二。
赤 全員揃ったな。よし、では今日の報告会開始!
みんながその言葉に反応していつものポジションへ。赤が一枚の画用紙を指差す。
赤 では俺から。俺は花ちゃんが買った塗り絵のプーさんの服をぬった。でもなぁ、塗り方が荒らすぎてな、納得はしてない。
茶色 4歳児の塗り絵に美しさを求めてどうすんだい。
赤 いや…それはそうだけど…。で、今日の仕事はこれだけ。それでも1回削ってもらった。次。
ピンク じゃあ次アタシね。アタシはこれを書くため3回も削ってもらいました。
白 3回も?
黄色 大活躍だね。
緑 うらやましい。
赤 3回でも1回でも使ってもらえるって事が大事なんだ。
茶色 負け惜しみ?
赤 うるさい。
ピンク で、出来上がった作品は、これ…。
ピンクが画用紙の一枚を指差す。
紫 これなぁに? 食べ物かしら?
オレンジ げぇ〜
ピンク ちょっと紫。これ食べろって言われたらアタシ死ぬから。
紫 だってピンクでほら、可愛いじゃない。
黄色 この長いの、触覚?。
黄緑 カサカサーって動きそう。
オレンジ 本来は茶色か黒やのに…何故ピンクって感じ。
紫 まさかと思うんだけどこれって?
他全員 ゴキブリ。
紫 ひょぇぇぇぇぇ〜。
ピンク はい紫さん、どうぞ遠慮無くお召し上がりください。
紫 来るな、寄るな、堪忍してぇ。
赤 なんでゴキブリがピンクなワケ?
茶色 花ちゃんの爆発的な想像力の前では常識なんて無価値なのさ。
ピンク 塗るの必死だったのよ。
青 それは、これを塗るのが嫌で必死だったんですか? それともこの画用紙一面に描くことに必死だったんですか?
ピンク どっちも。…何故ここまで描く必要があったのよ…。
水色 1、2、3、4…
紫 数えないでよ。
青 1匹発見するとその場所に50匹生息するらしいですよ。
紫 解説しないでよ。
ピンク 最悪…。(嘘泣きを始める)
黄色 あ〜泣くなよピンク。きっとこれは南の島に住む魔法のゴキブリだよ。こんなに素敵な色をしているんだから。
ピンク ホントにそう思う?
黄緑 ぬー。黄色の兄ちゃんは私と遊んでたんだよ。取らないでください。
ピンク なによ。黄色からこっちに来たのよ。
黄緑 ピンクが下手な嘘泣きなんてするからよ。
ピンク なんですって!
水色 やめなよ2人とも。
ピンク だいたいね、なんなのよアンタ。ちょっと黄色に可愛がられてるからって調子のってんじゃないの?
黄緑 私は黄色の兄ちゃんのペットなの。
ピンク それで、その黄色はアタシのペットなの。おあいにく様。
黄緑 頭来た。おいピンク、机降りろや。
ピンク 上等じゃない。
黄色 二人とも、僕のせいでケンカをするのは止めておくれ。ほら、可愛い顔が台無しだ。
青 黄色は相当の馬鹿とみました。
紫 右に同じ。
緑 ピンクちゃん…黄色はいいなぁ…。
みんなの視線が一気に緑に向く。おいおい、何言ってんだ。
黒 今、なんて?
緑 い、いや。別に。(その間黄緑とピンクが引き離される。)
オレンジ じ、じゃあ次うちな。うちは今日2回削ってもらいました。ほんで出来たんがコレ。
オレンジが画用紙の一枚に指差す。
白 それは…。
赤 なんだそれ。
水色 ずいぶん日焼けしてるね。
青 漁業関係のご婦人ではないでしょうか。
茶色 エプロン付けた?
オレンジ 違います。花ちゃんが描いた、お母さんです。
黄色 全身、オレンジか。
赤 尋常じゃねえ!
紫 恐いどころの問題じゃないわ。。
オレンジ 確かに、肌色に近い色ってオレンジかもしれんけど…。もうちょっと優しく塗ってほしかってん。だって。うち見てんもん。
水色 何を?
オレンジ 花ちゃんにできたよーってその絵見せられたときの、お母さんの顔…。
青 衝撃…でしょうね。
紫 最近美白にこだわってたはずなのに、自分の肌の色、オレンジだもんねぇ。
黄色 確かに、色鉛筆で肌色がないっていうのは辛いかもしれないな。
黄緑 花ちゃんは女の子だし、人の絵とかよく描くもん。いつも肌色なくて困ってるんじゃないかな?
赤 そもそも何で俺たちは12色入りなんだ? 13色入りでもいいじゃねえか。なぁ。
ピンク 仕方ないじゃない。だって白がいるんだから。
黒 ピンク。
ピンク 最近の色鉛筆って白のかわりに肌色があるんですって。そう考えたら、ねぇ。12色で済むじゃない。
ざわつく一同。
水色 やめよう、この話するの。前もあったじゃない。ピンクも、そんなこというのやめようよ。
静まり返る一同。
白 別に、俺、気にしてないから。ほら、報告会続けよう。
赤 あ、そうだな。白の言う通り。次は誰だ?
黄色 じゃあ俺様な。俺様もまるまる太った熊塗ったぜ。
黄緑 プーさんって言ってあげようよ。
黄色 あの腹のでかさは相当だったな。何を食ったらあんだけまるまる太れるんだってぐらい。
青 主に、はちみつですかね。
オレンジ 真顔でいうなよ。
赤 でかい熊のわりには服小さいからな。あれにはつくづく矛盾を感じる。
オレンジ だから真顔でいうなよって。
黄色 とりあえずでかい熊…じゃなくて…。
黄緑 プーさん。
黄色 そう、プーさんを塗った。これだけデカいんだから削ってもらった回数は4回。以上。
黄緑 じゃあ次は私。今日は仕事なくて黄色の兄ちゃんを見つめていました。終わってからいちゃいちゃしました。
赤 何故いちゃいちゃする必要がある。
黄緑 だって花ちゃん今日、一度も私のこと使わなかったんだもん。
白 そんな日もあるよ。
一同の目が白に集まる。
黒 白?
白 仕事ないときって大体そんなもんさ。気にしなくていいよ。
黒 ちょっと、白。
黄緑 …なんかムカつく。
白 なんだよ、普通のこと言っただけだろ? それとも俺は黙って聞いてなきゃいけないのか?
赤 そんなことはない。ただし発言は手を挙げて。よ、よし。次は緑だ。
緑 (早口で)僕は今日プーさんが立っている地面の、あの、草をその、塗ったんですけど、その
一同 はぁ?
緑 (超早口で)だからそのプーさんが立っているところに草がこう、生えているわけですよ。で、その、あ、草って緑じゃないですか。だから
その生えている草をこう、塗ったわけなんですけれどもその、生えている草がこう、いい感じに曲がっていたりとかしてこう、塗りにくかった
だろうなとかおもったりするんですけどこう、花ちゃん頑張って塗っていましてこう、それが僕的には嬉しかったなぁって思ったりこう、してい
るわけなんですけれどもこう…。
黄色 (さえぎって、なおかつ大きな声で)なげぇよ!
緑 あ…すみません。2、2回です。シュバって。
ピンク 声小さいし。何言ってるかわかんないし。
緑 2回削られました。
緑、ピンクをがん見。
ピンク な、なによ。
緑 あ、いや…。
水色 次は私の番だね。
お母さんの絵のところに行き指差す。
水色 今日はね。これ。
白 (挙手)はい。それ、ちょっと違うよね。
ピンク 今度は何よ。
茶色 余計なこと言うとまたケンカになるよ。
紫 白、やめときなさいよ。
水色 な、なに? 白。
白 花ちゃんの絵だから何をどう書いても自由なんだけどさ、母さんのエプロンの色は確か白だったんだ。水色じゃなかった。
水色 そ、そうだけど。なんか、ごめん。
ピンク 謝らなくてもいいわよ水色。何を言い出すのかと思ったら花ちゃんの絵にいちゃもん付けるなんて、ねえ。
オレンジ ほんまやで。ちょっと調子乗ってるんちゃう?
水色 みんなやめようよ。白の言う通りお母さんのエプロンは白だったんだもん。
茶色 アタシも見たね。
ピンク そんなことどっちでもいいのよ。問題は白画用紙に白塗ったって意味ないじゃないってこと。違う?
白 それは…。
黒 白…。
青 お話中のところをわって入って悪いのですが、報告をさせていただきますよ。水色の報告は終わりましたよね?
水色 う、うん。
赤 じゃあ、青。
青 はい、青でございます。今日の僕の仕事はいたって不愉快なものでした。
間。
青 そこで「何が不愉快だったか?」聞いてくれるのが皆さんの役目で。
黒 あ。
紫 何が不愉快だったんですかー?(棒読み)
青 よくぞきいてくださいました。ピンク、お借りします。
Gの絵を手に取る。
ピンク どうぞ、お借りください。返さなくて結構です。
青 僕が今日担当しましたところは、ここです、ここ。
黄緑 え?
青 僕は今日ゴキブリの、なんと光沢を担当したんです。
ピンク その名前言うのやめてよ…。
黄色 ピンクに青の光沢のGって花ちゃんほんと頭大丈夫なのかよ。
青 僕は感動したんです。わずか4歳の女の子が光沢の色まで塗ろうとするその気持ち。
黄色 お前もたいがい頭大丈夫なのかよ。
青 でーすーがー。光沢が青とはなんですか。教育として、色を間違って塗ってしまうのは間違った覚え方をしてしまう要因になりかねない!
黄緑 始まった…。
青 そもそもゴキブリというものは本来熱帯雨林に生息する昆虫で、
以降青の台詞はみんなに無視され会話は進むが気づかず言い続ける。だから紫が青を無視
して喋りだす、青は1人喋りつつける、ということ。つまり声が重なるってことです。
青 (声小さめで)昼間は朽ち木や落ち葉のかげにひそみ、夜になると出歩いて菌類、樹液、朽ち木、動物の死骸や糞などを食べる雑食性の
昆虫です。食物の主体は朽ち木などの腐植質ではありますが、中にはクワガタムシの幼虫やシロアリのように朽ち木のみを食べて生活す
るものも少なくはないですね。
紫 私は、これ。
紫がお母さんの描いてある画用紙を指差す。その絵を指でなぞる。
紫 お母さんが持っているこれ、塗ったの。分かる? あのつるんってしているこれよ。
茶色 ナスの説明でお客を誘惑するのやめなさいよ。
オレンジ 紫に何言っても無駄やと思うけど。
紫 私ナスって好きなの。あのツヤ。いいと思わない? いい紫色だし。
赤 あのー紫さーん。帰ってきてくださーい。
黄色 綺麗だよなー紫って。
黄緑 ちょっと、黄色の兄ちゃん。あんなお客を誘惑してる汚れた女ばっかり見るのやめなよ。
紫 汚れた…ですって? ちゃんと1回削ってもらってるのよ。
黄緑 削り口は綺麗だけど、心が汚れてるの。
紫 1回も削られてないクセに、お姉さん怒らせたらどんなめにあうか教えてあげましょうかー? 黄緑ちゃーん。
黄色 俺はなんて罪作りな男なんだ。
青 すごい。誰ひとりとして僕の話を聞いていない。
水色 あはははは…。
茶色 じゃあ次、あたしがいかしてもらうわね。
赤 じゃあ茶色さん。
茶色 やだよー。なんであたしだけ毎度さん付けなのさ。気にしなくてもいいのに。
赤 いや、じゃあ茶色。
茶色 あたしも今日お母さんの絵に協力したんだけどね。服の色を塗ったよ。今日はこんだけだったさ。1回削られた。
黒 次は私ね。私は今日お母さんを描いてその髪を塗って…あ、瞳も塗った。削られたのは3回。
ピンク あれ? 今日はいつもより仕事すくなかったんだね。
オレンジ そういやそうやな。花ちゃんなんかあったんか?
黒 今日はいつもより絵を描いてなかっただけだよ。塗り絵買ったみたいだし。
赤 じゃあ次は白だな。
ピンク ねぇ赤。白には聞かなくていいんじゃない?
赤 何故だ?
ピンク どうせ今日も仕事なかっただろうし。
白 ゴキブリ書く仕事もどうかと思うけど。
オレンジ なんやと!
白 仕事がない? 今日はちゃんと仕事してきたっての。
ピンク 嘘。
白 ほんと。
黄色 何したんだよ。
黄緑 冗談とかじゃないよね?
白 ほんとだって言ってるだろ、しつこいな。
黒 で、何をしたの?
白 チャコペン。
間。
水色 えーと…。チャコペンって、あの…。
紫 裁縫とかの、布に書くあの。
白 そのチャコペン。
みんなクスクス笑い出す。
ピンク あはははははははははは! 何よそれ。あはは、お腹痛い。
白 何がおかしい。
ピンク だって。結局絵は塗ってないわけでしょ? 何よ。チャコペンって。それが仕事もつもり? 馬鹿みたい。
黒 いいすぎだよピンク。
ピンク いい? アタシたちは色鉛筆なのよ。色を塗るのが仕事なの。
白、反発出来ず怒りをこらえながら立ち去ろうとする。
黒 待って。
白 なんで。
黒 何か変よ。自分の仕事を報告するための会じゃない。他人の仕事をバカにするための会だったらやらない方がマシよ。
ピンク ゴキブリ書く仕事がどうかと思うって先にケンカ売ってきたのは白よ!
白 黒、いいって。
黒 赤。1つ聞いてもいい?
赤 ん?
黒 何故こんな報告会をするの? 仕事のない色のこと考えてない証拠じゃない。
赤 仕事のない色のことを考えていない証拠? それは仕事のない子にわざわざ「今日は仕事ありましたか」って聞く…まあ、そうだな、嫌が
らせ…といいたいんだな。
黒 それ以外の何があるっていうの。だから報告会が嫌いだって色ができちゃうのよ。
赤 それは何色のことだ?
何人かが白を見つめる。
黒 それは…、一般論よ。
赤 黒も白に仕事がないことを当たり前の日常だと認めているじゃないか。
ピンク かばっていい子気分になっているつもりかもしれないがけど、結局黒だって白のこと必要ないって思ってるんじゃないの?
オレンジ ほんまやで。
赤 黒。俺がこの報告会をするのは、12色色鉛筆という1つのモノとしてだな。
黒 だったらみんなはどうして白に優しくしてあげないの? 1つのモノなんでしょ? ならもっと白の気持ちを考えてみてよ。こんな報告会した
って何一つ良くなってないよ。
ピンク でもさ。なんで仕事がないだけで優しくしないといけないの? それって偽善じゃない。
黒 偽善なんかじゃない。
ピンク やってらんない。解散解散。
オレンジ うん。ケース戻って並んで寝よ。なあ今日となり来てえや。
ピンク 爆弾トーク、いっちゃう?
オレンジ 行く行く。
ピンクとオレンジが出ていってしまう。
黄色 そのトーク、俺も混ぜてくれないか。
黄緑 おっと、黄色の兄ちゃん。置いてかないで!
黄色がピンクを追って出て行き、その黄色を追って黄緑が出て行ってしまった。密かに緑も
ピンクの後を追って出て行った。みんなの視線が赤にいく。なんとかしよろーの目。
赤 き、今日のところはひとまず解散!
紫 じゃあまた明日。なんとかしなさいよ、リーダー。
赤 なんとかって言われても…。みんなバラバラだもん。
茶色 色が違うのが私らの役目。あんたリーダーだろ?
赤 そう、だけど…。
青 (リーダーやけに強調して)お疲れ様です、リーダー。
青、紫、茶色も出て行ってしまう。なんかみんなの心も離れていくみたいだね。結局残っている
のは白、黒、赤、水色の4人になった。
赤 白、なんかごめんな。
白 …。
水色 行こう、赤。
赤 え?
水色 白は多分、私達じゃダメだから。
赤 白。
白 …。
水色 ね?
赤 あ、あぁ。そうだな。でも。
水色 ん?
赤 お前はそれでいいのか?
水色 …構わないよ。
赤 そ、か。…うん。2人にしてやろう。
赤、出て行く。水色も少し躊躇いながら出て行った。
『僕は必要?』
黒 白、ごめん。
白 なんで謝るの? 黒はちっとも悪くない。
黒 だって、報告会がこんな風になるなんて、思わなかったから。
白 平気平気。慣れてるもん。かえって感心してもらったり褒められたりする方が気持ち悪いよ。
黒 しろ…。
白 何? そんな顔するなよ。なんだか俺、可哀想みたいじゃない。平気なんだから平気な顔してよ。
黒 うん。
白 笑って笑って。
黒 急に言われても無理よ。
白 いいから。
そう言うと白は黒の所へ駆け寄る。何するつもりなんだろう? おっとこれは渾身のギャグで
黒を笑かしにかかった!(@日替わりでお願いね)
白 あ、笑った!
黒 笑ってない。
白 笑ってるじゃん、ほらほら。
黒 笑ってません、何よ。あんたまた背が伸びたんじゃない?
白 そうなんだ、まだまだ伸び盛り? あ、また笑った。
黒 笑ってません。それに私まだ怒ってるし。
白 誰に? ひょっとして俺?
黒 違う。ピンクやオレンジや、赤や、白のこと考えてくれないみんなに。それから、何も出来ない自分に。
白 黒は、黒は悪くないでしょ。
黒 悪いとか、悪くないとかじゃなくて、そんなんじゃなくて、悲しいの。
白 そっか、悲しいのか。
黒 うん。
白 お、俺が居るからだよね、黒が、悲しむのは。
間
黒 違う、違うよ。
白 そうかな。俺はさ。
黒 ん?
白 色鉛筆、だよな。
黒 そうだよ。
白 うん。
黒 なんで、そんなこと聞くの?
白 俺は、何なんだろうなって。そう思ったから聞いただけ。
黒 私と一緒だよ。花ちゃんの色鉛筆。
白 使われてないのにか?
黒 使われるかどうかは、別な話よ。
白 いや。お前はさ。黒だろ?
黒 そうだよ。
白 俺は、白なんだよ。
黒 そうだよ。
白 俺は白色鉛筆なんだよ。なのに、今日はチャコペンだった。おかしくないか?同じ色鉛筆なんだぞ? 俺は…ひょっとしたら色鉛筆なんか
じゃないのかなって思って。
黒 白は白だよ。ちゃんとした色鉛筆じゃない。他の何者でもないよ。
白 何にもできない、白い色鉛筆だ…。
黒 そんなこと。
白 じゃあどうして俺は作られたんだ。必要だから作ったんじゃないのか?
黒 そう。白は必要なの
白 でも花ちゃんは使ってくれない。
黒 まだ、使い方が分からないんだよ。
白 じゃあ黒は分かるのか?
黒 それは…。
白 結局、俺には目もくれない。結局…。黒。
黒 ん?
白 俺は、要るんだよな。
間。
黒 勿論だよ。何言ってるの、白。怒るよ。
白 そっか。ならいいんだけどさ。
黒 白。白はさ。
白 (黒の言葉をさえぎって)お前は自分のことだけ考えたらいいからな。
黒 …うん。分かった。
白 ならよし。今日は休みな。お前は明日また働かなきゃいけねえんだからさ。
黒 うん。白もね。
白 俺にどうせ仕事はねぇよ。
黒 あるわ、きっと。
白 はは。
黒 じゃあお休み、白。
黒が出て行く。ゆっくりサスがつく。白はまた誰もいないこの場所で一人になる。でもみんなが居たとしても独りだと感じていた。
白 羨ましいよ…黒。
白がまた白い画用紙に手を伸ばす。こすりつけ始める。白の動きに重なってどこからか声が聞こえた。
花ちゃん ママー白い色鉛筆ってどうやって使ったらいいの?
お母さん さぁ、ママも使ったことないから知らないわ。
花ちゃん 要るの?
お母さん んー。
白の動きが止まる。その手にはさっきこすりまくってボロボロになった白画用紙があった。
お母さん 要らないんじゃない?
頭の中で、どんどん自分が小さくなる。黒がやってきてあの鐘を鳴らす。11色の色鉛筆たち
が白の背後に出てきた。11色の色鉛筆たちは笑っている。
白 お前ら…。
赤 せいれーつ!
その合図でいつものようにみんなが並ぶ。
赤 ばんごーう、一!
ピンク 二
オレンジ 三
黄色 四
黄緑 五
緑 六
水色 七
青 八
紫 九
茶色 十
白 黒。俺の声、聞こえてないのかよ。
黒 十一
白 なぁ、黒。黒!
赤 よし、全員揃ったな。では今日の報告会開始!
その時、あの猫の鳴き声が聞こえる。
ピンク ポチ太郎だ。
全員 気づかれるな。
赤 息を殺せ。
茶色 正体を悟られるな。
青 我々に
オレンジ 命があること。
11色は息を殺しモノに戻る。ただ白をのぞいて。
白 そうさ、俺だってここにいる、生きているんだ。思い知らせてやる。
全員 (ささやく声で)止めろ! 白!
白 俺はここだ! 来るならきやがれポチ太郎!
ふにやぁ〜って声と共に足下をすくわれたように叫び声と共に倒れる白。激しい音楽と共に、暗転。
『色女達のおしゃべり』
ぞろぞろと黒をのぞく女子軍登場。
水色 せっかくの日曜日なのに花ちゃんはお父さん、お母さんとお弁当持ってお出かけ。
黄緑 今日こそ使ってもらえると思ったのに。
オレンジ 大丈夫。今日見てきたこと、また絵日記に書いてくれるって。
茶色 問題はどこへ出かけたか。
ピンク え、どこ? 茶色、知ってるなら教えてよ。
紫 興味ないわ。なすび畑なら別だけど。
茶色 きれいなチョウチョがいっぱい飛び回ってるところだって。
ピンク お花畑?
茶色 (首を振って)昆虫館。
ピンク (不吉な空気を感じて)ムシ…。
紫 いいじゃない虫。蝶でもカブトムシでもバッタでもカマキリでもナナフシでも。南の島にいるのは特に綺麗らしいから。
水色 喜んでいいのかな。
オレンジ さぁ〜。
黄緑 いいんじゃない?
茶色 だいたい私ら色鉛筆だよ。花ちゃんの絵に注文つける方がおかしいのさ。
ピンク だって。
茶色 生意気なの。
水色 ふぁ〜。
黄緑 ずばっと言うね。
紫 まあまあ、そうトゲトゲしないで。今日は誰もいないんだからゆっくり楽しみましょう。
ピンク ポチ太郎に見つかって食われちまえ。
紫 あら、ピンク? アタシは食えない女よ。
間
黄緑 何、何、どういう意味?
オレンジ さぁ〜
水色 硬いってことかな?
紫 違うワイ。例えばこれ。誰かが書いて出せずにしまっておいたお手紙。時の流れに埋もれて、書いた本人ですら何時何処で誰が何のために
書いたのかすら忘れてしまった忘れられた可哀想な手紙。この手紙にはさみを入れ、自由の世界へ解き放つぐらい食えない女ってことよ。
茶色 人の手紙かってに読むヤナ女って事ね。
四人 あ〜。
紫 ちょっと、つまんない言い方止めてちょうだい。えい。
黄緑 あ、開けた!
水色 出してる。
ピンク 読む気ね。
オレンジ 広げた。
茶色 あたしゃ知らないよ。
紫 素敵、ラブレターだわ。
四人 きゃ〜。
ピンク なんて書いてあるの?
黄緑 ダレ宛? まさか黄色のお兄ちゃんじゃ。
オレンジ ライバル登場や。
水色 まさかねぇ。
紫 なんだ、みんな興味あるんじゃない。
四人 えへへへ。
紫 素敵な中身よ。「突然お手紙、ごめんなさい。でもこのお手紙があなたに届くことは無いはずなので安心してください。だってあなたを驚かせ
たくないんですもん。」
黄緑 乙女だぁ。
ピンク じゃ書くなよって話ね。
オレンジ そこがええねん。甘くて切なくて。
水色 恥ずかし〜。
紫 「あなたは私の存在にまだ気づいて無いはず。だってあなたを見ているとき、私は息を潜めているから。息が出来なくなるぐらい胸がいっぱい
だから」
ピンク 息吸え〜。
黄緑 死んじゃうよね。
水色 それだけ好きって事よ。
茶色 恋だね、恋。
オレンジ なんや、茶色聞いてるやん。
茶色 聞こえるんだよ。
紫 「またいつかあなたの隣で使ってもらえる日が来ることだけを、密かに願っています。輝いているあなたのことが大好きです。お休みなさい、
また明日。」
水色 切な〜〜い。何これ。
ピンク 書けない、今のアタシにはとても書けない。
オレンジ うち、書けるかも。
黄緑 ウチも書く〜。
紫 この中に、この手紙を書いた張本人がいると言ったら、どうする?
全員 え〜〜。
紫 やっぱり忘れちゃったのね、可哀想な手紙、可哀想な白。
ピンク ちょっと待って、じゃあこの手紙の中のあなたって白のこと?
オレンジ めちゃ意外やん。
黄緑 誰、書いたの誰?
紫 この手紙が書かれたのはおそらく私たちがこの家にやってきたばかりの頃。そして書いたのは、あなたよ!
紫は勝ち誇ったようにある色鉛筆を指さした。それは水色。
水色 ちょ、ちょっと待ってよ。全然話についていけないんだけど。なんで手紙を書いたのがアタシなの?
紫 誤魔化しても無駄よ。文字が全部水色じゃない!
水色 (深呼吸)えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!
オレンジ 声でかい! 男子に聞こえたらどうすんねん。
ピンク わ、ホントだ。水色だ。
黄緑 どれどれ。
水色 やめて〜、返して、嘘だ。
そういうと水色は紫の手から手紙を取り戻し見直し始めた。やがて崩れ落ちる。
紫 水色ちゃん、思い出したようね、昔の恋を。
水色 死ぬ。死んでしまう。
紫 さて。今回の迷える子羊さんは水色ちゃんなわけね。
水色 え、何これ。
紫 最近、どうなのよ。
オレンジ なんかないん? 進展は。
水色 知りません。
紫 何よもう。隠しても無駄よ。みんな知っちゃってるんだから。
ピンク ま、相手はどうかと思うけどね。
オレンジ うちも、あんまりなあ。
水色 茶色、何なのこれ。
茶色 あたしに助けを求めないで頂戴。
水色 えー…。
紫 彼はねぇ。うーん。どちらかといえばクールかしら。
水色 どうしよう。始まっちゃった。
茶色 簡単にいうと、アンタの恋路を助けてあげようって話だろうね。
水色 こ、恋路だなんて。
紫 で。アナタから見た今の彼はどうなの?
ピンク 一言でいうと、嫌い。
黄緑 ピンクに言ってないでしょ。
水色 どうって…。今あまり恵まれた境遇にいないから暗い顔していること多いけど、本当はとてもいい人だと思うよ。
紫 それで?
水色 あとは…。
紫 うふふ。自分でも何故好きかは分からないのね。
水色 え、はい。
ピンク 凄い。見抜いちゃった。
オレンジ 流石紫様。
紫 いいのよ。恋ってそんなものだから。何故好きなのか分からないっていうのでも十分オッケーなのよ。恋に、ルールなんて、ないから。
水色 はあ。
紫 アタシの恋なんてもっと複雑よ。だって今アタシが恋してるのは「コクヨ学習はさみ まなびすとイエローさん」だもの。決して結ばれることの
ない切れっぱなしの恋よ。
オレンジ 花ちゃんの使ってるハサミやな。
ピンク 「確かに手は切れないので安全ですが、紙も切りにくいです。結局、あまり使わず、普通のハサミを使ってます。」ってやつ。
紫 願う前に叶ってしまう恋なんて、もはや恋じゃないのよ。
黄緑 レクチャーだ!
紫 彼と喋ったりするの?
水色 あまり…。
ピンク 喋りたくもない。
オレンジ おさえて。
紫 白い彼は普段何をしてる?
水色 な、何をしているかですよね…。何してるんでしょう。
紫 水色ちゃん。
水色 は、はい。
紫 その子のこと受け止めてあげなきゃ。
水色 受け止める?
紫 アナタ、好きなのはいいけど白のことちゃんと見てあげてないじゃない。
茶色 白は誰にも心を開こうとしてないからね、黒以外の。
黄緑 しっ!
紫 まずは観察よ。その子が何をしているとき幸せそうとか、何をしているときに辛そうとか受けとめてあげるべきよ。
オレンジ ほぉほぉ、
水色 私、何にも出来なくて。
黄緑 のってきた。
水色 彼、行き場がないんだと思うの。私がなんとかしてあげたいとは思うんだけど、彼の前に立ったらどうも思うようにいかなくて。
ピンク 何にもしなくていいんじゃない? アイツでしょ? いいわよ何にもしなくて。
紫 ピンク、今は白としてじゃなくて、好きな彼として話を進めてるのよ。
ピンク はぁい…。
紫 硬く考えすぎなんじゃない? 大丈夫よ。全部支えてあげたいって思いは大切だけどそんなのいくら女でも無理よ。いい? 明日からでも
いいわ。彼にちょっとでもいいから自分がついているっていう安心感をあげるのよ。
水色 安心感。
紫 男の子は母性的な女に好意をもつことがあるの。彼なんて特にそうだと思うのよ。
水色 優しさとか?
紫 それだけじゃないわ。もっと大きなものも。それは自分で考えてみて。私はあくまで助言をすることしか出来ないわ。答を知っている問題解い
たって面白くないじゃない。
水色 …うん、分かった。
紫 でも考えすぎちゃだめよ。女の子は一番笑顔が似合うの。考えて眉間にしわの寄った顔を見せちゃだめ。
水色 うん。
紫 はーい! 今日はこのへんでおしまい。じゃこれからまた面白いもの探しに行ってくるわ。
オレンジ 面白いものって?
紫 昔ピンクが書いた「忘れられた手紙」とかね。
ピンク アタシが? 何それ。
黄緑 行く行く。
ピンク そんなの無いから。
紫 どうかしら? 他のみんなもせいぜい気をつけて。なにせ忘れられた手紙って当の本人ですら忘れてるんですから。
みんな顔を見合わせる。ピンク、オレンジ、黄緑、茶色が先を争うように出て行く。後を追う紫。
水色 見てあげる、か。
『描かずにはいられない』
白がふらりと現れる。心なしか右足を引きずる様子。水色と目が合う。あわてて手紙を後ろに
隠す水色。
水色 あ。
白 一人?
水色 うん。
白 珍しいね。俺は大抵一人だけど。
水色 最近はね。
白 ずっとだよ、ずっと。
水色 白、覚えてる? この家に始めて来た頃のこと。
白 え、この家に?
水色 そう。
白 覚えてない。
水色 花ちゃんが四歳になって、しばらくしてから。お買い物の帰り道に寄った文房具屋さんでどうしても欲しいって駄々こねて。
白 なんでそんなこと覚えてるの?
水色 今のはちょっと想像入ってるかな。でも花ちゃんはすごく私たちを必要としてくれた。大切にしてくれた。だから私たちは心を持ったの。
白 俺だけは別だけど。
水色 違うよ。ノリや画用紙や色紙には心はないのに、白はちゃんと心を持ってるじゃない。それは花ちゃんが白のことも必要だって思ってる証拠。
白 俺にはよく分からないんだ。そのことが。
水色は少しイタズラっぽい顔になり、自分の手紙を握りなおした。
水色 アタシには分かる。白が必要とされているわけ。
白 嘘。
水色 ホント。
白 教えてくれ、俺はどう必要とされてるんだ。
水色 ぼんやりとしか覚えていない思い出の中で、白はとても輝いてた。赤でも青でもピンクでもオレンジでもない白のままで。アタシすぐ側で
白のこと凄いなぁって見てた気がするの。
白 ホントに?
水色 うん。証拠だってあるよ。
白 あるんだ、証拠。どこにどこに?
水色 ちょっとさ、見せられない証拠なんだけどね。でもホント。
白 なんだよ、あるなら見せてくれよ。
水色 ダメだって。
白 なんで?
水色 恥ずかしいから。
白 なんで水色が恥ずかしがるんだよ。訳わかんねえし。
水色 だめ! 見られたらアタシ死ぬから。
白 より一層謎が深まるよ。谷より海よりそこのゴミ箱より深いよ。
水色 とにかく白は必要なの。だから心を持ったの。
白 その心があるから俺はこんなにも苦しいんだ。
水色 心があるなら苦しくてもあきらめないでよ。もっともがいてよ。一人で心を閉ざさないでよ。
白 お前に何が分かる。
間
白 ごめん。言い過ぎた。
水色 アタシも。
白 また背が伸びたんだ。どんどん背が高くなる。
水色 そんなこと無いよ。(横に並ぶ)
白 あるじゃん。前はそんなに変わらなかった。
水色 そうかな。
白 そうだよ。このままだったら俺、宇宙に届くかも知れない。
水色 いいじゃん。そしたらさ、真っ暗な宇宙を星でいっぱいにして。
白 そっか。
水色 それにさ、流れ星なんかもいっぱい。願い事が叶うんだよ。
白 そうだな。宇宙にだったら書けるものがいっぱいある。
水色 世界中の子供達の願いが叶うように、子供達の数だけ流れ星を書くの。凄い仕事よ。
白 すげぇ、俺、そんなこと出来るんだ。
水色 出来る出来る。
白 流れ星。しゅわぁ〜〜〜ん。
水色 ひとぉつ。
白 しゅわ〜〜〜ん。
見ると白はやっぱり足を引きずっている。
水色 足、どうしたの?
白 (急に現実に戻される)なんでもない。
水色 傷ついてるじゃない。どうしたの?
白 ほら、転んだ…わけじゃなくて、ふまれたの。オモチャのバスに。
水色 バスに?
白 そう。阪神バス。
水色 嘘。
白 いや、お父さんだったかな。遅くに帰ってきて。
水色 やっぱり白は黒にしか心を開こうとしないんだ。
白 そんなこと無いよ。
水色 じゃホントのこと教えてよ。どうして傷ついてるの? 何があったの?
白 だから暗闇で何かに踏まれたんだ。お父さんだったかも知れないし、バスだったかも知れない。分からないんだ。
水色 これ、爪痕だわ。ポチ太郎の?
白 ポチ太郎だったのか。踏んづけていったの。あいつ、今度懲らしめてやる。
水色 ダメよ。勝てるわけないでしょ。
白 そんなのやってみなきゃ分からないよ。
ネコのように静かに黒が二人に近づいていた。
黒 白、嘘はいけない。
水色 黒。
つづく…