創作脚本の部屋へ作：山本かな？ 潤色：五ノ井幹也
【キャスト】
松 阪（新部長・夏太）
山 上（おかまの副部長）
本 堂（バイトに忙しい幽霊部員）
青 居（１年男子・ブンブン）
杉 本（１年男子・イッポン）
岡 山（１年女子・サキ）
畑 野（１年女子・ミホホ）
寺 田（２年友人・寺ちゃん）
平 田（２年友人・テンテン）
飯 島（野球部員）
北 川（マネージャ）
『先輩からの遺言』
荘厳な音楽。幕が開くとブルーバックのなか、巨大なパネルのシルエット。
舞台上には一列に人々が並んでいる。幕が開くと誰ともなく声を上げる。
声 先輩。
声 先輩。
やがてその声は次第に大きく。数を増やす。
声 先輩。
声 先輩！
山 上 先輩。今までいろいろアリガトウございました。
青 居 先輩に教えてもらったカメラワーク。
杉 本 レフ板のさばき方。
畑 野 カット割りの付け方や。
岡 山 編集作業。
松 阪 みんな、みんな忘れません。
本 堂 これから僕ら力を合わせ。
杉 本 伝統ある。
山 上 この西高映画映像部を
全 員 盛り上げていきます！
青 居 今までほんとに、
全 員 お疲れ様でした。
その声につられるようにパネルに明かりがあたる。髪の毛が短く、
眼光の鋭い太った男の写真である。
先 輩 ふ、ふ、ふ、ふ。は、は、は、は。だぁ〜っはっは！ よく言った後輩諸君。心強く思うぞ。その意気で
我が部を盛り立ててくれ。
全 員 はい！
先 輩 よろしい。それではただ今より、我が西高映画映像部の次期幹部候補者名を発表する。今日からは
皆、新幹部の指示の元、結束して活動に当たれ。よいな。
全 員 はい！
先 輩 発表する。
間。緊張感が走る。
先 輩 あ、山上。お前に借りてたじゃりんこちえの七巻と八巻…。
皆、ずっこける。
杉 本 先輩、話しそらさないで…。
言うが早いか先輩の眼孔からビームが杉本を狙った。爆音。
杉 本 ぎゃ〜！（もんどりうって倒れる）
青 居 杉本！、しっかりしろ。
山 上 お許し下さい、先輩！漫画は差し上げます！
先 輩 …緊張を和らげようとしただけだ。無礼者は手打ちにいたす。それでは発表する。
再び緊張感。
先 輩 まず会計。岡山、お前に任せる。
岡 山 ありがとうございます。
先 輩 財政は我が部の生命線。心して当たれ。次に副部長だが…。山上、お前に任せる。
山 上 ありがたき幸せ。
先 輩 部長を助け我が部を盛り立てよ。じゃりんこちえの七巻と八巻は必ず返す。最後に部長だが、松阪、
列の一番端にいたのが松阪。突然中央に引き出される。まるで罪人の
ようである。
先 輩 お前がするのだ。
松 阪 うちが部長ですか？
先 輩 そうだ。何か問題が？
松 阪 だって、あたしは。
先 輩 この目に狂いがあるとでも？
松 阪 い、いえ。
先 輩 なら決まった。今日のこの日から、お前は部長だ。しっかり励め。
松 阪 はい。でも先輩。私で本当に。
先 輩 それは神のみぞ知るだ。一つ良いものを授けよう。足下を見よ。
松阪が足下を見ると茶封筒が置いてある。
松 阪 これは？
先 輩 困ったことがあったらそれを開けるが良い。きっと力になるぞ。
松 阪 ありがとうございます。
先 輩 それでは後輩諸君。しっかり頑張ってくれ。さらばだ。ふふ、ふはははは。どぉあっはっはっは。
予測もしなかった出来事ではあるが、先輩の言うには何か訳があるのかも。
戸惑いながら松阪は周りを見渡し笑うしかなかった。こんな始まり方があるの
だろうか。しかし現実は静かに動き始めた。先輩のパネルは天空に去り、周り
の部員達も姿を隠す。残されたのは松阪ただ一人。
松 阪 寺ちゃーん。寺ちゃーん。
寺 田 何ぃ？
寺田はどこに潜んでいたのか忽然と姿を現す。絵を描きそうなかっこに持ち道具。
松 阪 な、聞いて。
寺 田 何。
松 阪 うち、部長になってん。
寺 田 え？
松 阪 な、びっくりやろ。
寺 田 部長って、映画部？
松 阪 ん。
寺 田 ひょえ〜。
松 阪 予想通りの驚きぶりやな。
寺 田 うん。だってな、夏太が部長って、似合わへんやろ。
松 阪 そりゃうちかてそう思うけど、２年が３人しかおらへんからほとんど自動的になったんよ。
寺 田 残りの２人に任せとけばええやん。
松 阪 それがな、先輩が決めてん。他の二人は幽霊部員とおかまやから。
寺 田 ああ、本堂と山上な。
松 阪 よく考えたらうちがするしかないんかなって。
寺 田 大変やな、映画部も。３年の先輩はある意味しっかりしてたから気づかんかったけど、その下は全然
育ってなかったんやな。
松 阪 全然言うな。
寺 田 その点うちはずっと平部員やから関係ないけど。
松 阪 美術部はええなぁ。しっかり者の人がいてさ。うちなんか部長っていうより陰で支えるタイプやねんけど。
寺 田 陰でも夏太じゃ支えにならんと思うけどな。
松 阪 陰でも寺ちゃんは支えようとしないでしょ。
寺 田 だってめんどいやん。だいたい夏太に部長が務まるんか？
松 阪 う〜ん。自信はあんまりないけど、なったからにはやるだけやってみる気。
寺 田 ま、せいぜい頑張って。
松 阪 うん。先輩みたいなカリスマ部長にはなれんでも、声掛けぐらいは出来ると思うから気楽にやる。
寺 田 それがええと思うで。ほな。
寺田は元の場所へ消えていく。再び一人残る松阪。
松 阪 部長さんか。よし。
小さくガッツポーズ。こんな一面を自分が持っていることも知らなかった。
それぐらいの女の子が松阪である。
『部室にて』
ある日の午後。クラブ開始時間には少し間がある様子。部室一番乗りは岡山
サキ。誰もいないのを確認するとカバンから雑誌を取り出す。そこへ畑野ミホ登場。
畑 野 あぁ〜、サキもう来てたん？
岡 山 あ、ミホホ。おはよう。
畑 野 おはようちゃうわ。今朝約束したやん。
岡 山 ？ あ〜ごめんごめん！すっかり。
畑 野 忘れてるやろ。ほんま。
岡 山 ごめん。お昼まで覚えてたのにお弁当食べて５時間目うとうとしたら、すっかり。
畑 野 さっぱり？
岡 山 はい。
畑 野 しっかりしてよ。
岡 山 今から行ったら間に合わへん？
畑 野 あかんって。もうグランド出てる時間や。間近で見れる唯一のチャンスが終礼直後やのに。
岡 山 明日。明日は絶対忘れへんから。
畑 野 ほんまやで。
岡 山 うん。終礼終わるか終わらへんかのうちにミホホの教室走っていくから。あ、でも鍵どうしよ。
畑 野 部室の鍵ぐらい男子に頼んだらええねん。どうせ他に役に立たへんねんから。
岡 山 そやな。でも鍵取りに行くのはそれはそれでメリットもあるねんで。ほら。
畑 野 何？ あ、それ。
岡 山 週刊女性マガジン。鍵取るついでに先生の机から取り返してきた。
畑 野 授業中に没収されたってやつ？
岡 山 うん。一時はどうなるかと思ったけど、これでやっと古本屋に売れる。
そのとき二人の男子が忍び寄っていた。
青居・杉本 売るんか〜い。
岡 山 わ！
畑 野 何よいきなり！ びっくりしたやん。
杉 本 よ！
岡 山 もしかして、ずっとそこに居た？
青 居 一体いつ話しに入ろうかと、ずっとうかがっていたのさ。
岡 山 立ち聞きしてたん？
畑 野 最低〜。
青 居 ごめんごめん。つい出来心で。
杉 本 鍵がどうとか？
岡 山 うん。まあね。
畑 野 聞いていたら話しは早い。ということで明日部室の鍵開けるのお願いね。
杉 本 ああ。それはええけど、なんでまた改めて。
畑 野 あれ？そこは聞いてなかったの？
青 居 うん。なんでなん？
岡 山 今日私が…。
畑 野 （さえぎって）取り返してきた週刊女性マガジンを売り飛ばしに行くというわけ。ね。
岡 山 ま、そうそう。そういうわけ。
杉 本 ふぅん。
青 居 明日、部活さぼるんか？
畑 野 うううん。部活はちゃんと来るよ。ちょっと遅れるだけ。ね。
岡 山 そうなんよ。
青 居 なんか怪しいなぁ。
岡 山 怪しない怪しない。
杉 本 あのさ、それ明日売りに行くんやろ？
畑 野 うん。
杉 本 よかったら僕に売ってくれへん？
全 員 え？
杉 本 定価の２／３でいいから。
岡 山 あ、それだったら売ってあげる。
青 居 売るんかぁい！
岡 山 悪い？
青 居 悪くないけど怪しすぎ。
畑 野 なんで男子が女性マガジン買うんよ。
杉 本 あー。あえていうなら男だから。
畑 野 男だから？
杉 本 男が本屋で女性マガジン買ってたら気持ち悪いやろ。
青 居 今もな。
杉 本 かといって女装して本屋に行くのもやるせない。
畑 野 なるほど。
岡 山 だから私から買うんか。
杉 本 そういうワケです。お金明日でええ？
岡 山 うん。２００円でいいよ。
杉 本 うん。（受け取って鞄にしまう）
岡 山 もうけた気分。
青 居 買った女性マガジンを読んでる姿が怖いわ。
杉 本 大丈夫。隠れて読むから。
岡 山 …なんかもの凄いもの売ってしまった気分。
３人は嬉しそうな杉本の姿に若干引いてしまう。そこへ山上が登場。
山 上 おはよう。
全 員 おはようございます。
杉 本 （嬉しそうに）あ、ちぃぃ〜っす。
山 上 む？何？この空気。この溝は？
青 居 いや、今この部室でブツの取引があったんです。
岡 山 やめてよ、その言い方。
山 上 ほう。で、ホシの目星はついているの？
青 居 はい。売ったのが岡山で買ったのは杉本。黒幕は畑野って奴らしいです。
畑 野 なんでうちなんよ！
山 上 ほう。で、ぶつは何だ。シャブか？チャカか？
青 居 じょ、女性マガジンです。
山 上 何！女性マガジン？
杉 本 やばい、情報がリークしている。
青 居 杉本が女性マガジンを…。
山 上 …。普通やん。
全 員 へ？
山 上 男が女性マガジンかっちゃいけないわけ？ 私なんか家に腐るほどあるわよ。
杉 本 おぉ！
畑 野 山上先輩…
青 居 だったら、有り得るかな？
岡 山 納得。
山 上 そんなに見たければ今度あげるわ。ついて来なさい。
杉 本 ありがとうございます。
山 上 さ、話のついたところで例のやつ、やる？
青 居 あれっすか？
杉 本 やります？
山 上 やりましょう。
というと男三人は鞄からタオルを持ち出す。
岡 山 ねえ、あれって面白いの？
畑 野 さぁ。
山 上 初めは二人の対決。確か記録では…。
青 居 俺が５８勝５０敗っす。
杉 本 じゃあ俺、５０勝５８敗？
山 上 ただ今より、タオリング選手権を開催します。赤コーナー１６８ｃｍ５２ｋｇ、ブンブン青居。青コーナー
１７７ｃｍ６５ｋｇ、イッポン杉本。さあ、因縁の対決、この競技３ポイント先取した側が勝者となり、昨年
度チャンピョン、マッコイ山上との決勝戦に進みます。
青 居 今日も絶好調っす。ブンブン振り回していきます。
杉 本 きっちりイッポン狙っていきます。応援よろしく。
岡 山 どうする？
畑 野 早くマッコイを出せ！
山 上 ミホちゃん、ナイスよ。さ、試合開始のゴングまもなくです。
この競技、フェンシングのタオル版だと考えていただきたい。相手の
胸元に自分のタオルをまっすぐな状態でヒットさせるとポイントとなる。
両手でぴんと伸ばしたタオルでディフェンスも可能。ただし、ワザを出す
ときにはワザの名前を叫ばなければならない。基本的にはストレート、
アッパー、フック、ボディー、ブロックの５種類だが、練習中に新ワザの
開発を大いに期待したい。ここしばらくの競技は役者に任せてみましょ
う。そこへ時間ぎりぎりに新部長の松阪が登場する。
松 阪 おはよう。
岡 山 あ、おはようございます。
畑 野 あ、ども。
松 阪 ごめん、時間ぎりぎりやった。先に始めてるん？
畑 野 はい。タオリング選手権です。
松 阪 え、もう時間やのに。
岡 山 うちら、さっきから注意しようかどうかまよってたんです。
畑 野 漫画本にぎりしめてよういうわ。
岡 山 あ、バレました？
松 阪 困ったなぁ。もう部活始めるって言ってええやんな。
畑 野 ってうちらに聞かれても。
岡 山 先輩、部長さんになったんだから、いいんじゃないですか。
畑 野 そうそう。
松 阪 あの子らも先輩がおったらちゃんとしとったのに。
岡 山 これから部長は松阪先輩ですから。
畑 野 がんばってください。
松 阪 うん。
山 上 （ここのアナウンスは試合展開によって変更されます）先に２ポイント取ったのはブンブン青居。しかし
ここへ来てスタミナ切れか？イッポン杉本がじりじりと間合いを詰めてくる。ここでイッポン大きく動いた。
松 阪 みんな〜。もう時間だし部活始めよう。
杉 本 ストレート！
青 居 ブロック、アッパー
杉 本 危ない！
松 阪 ねぇ。
山 上 ん？ あ、おお！最後の力を振り絞ったブンブン青居のブンブン攻撃だ！
青 居 死ねぇ！
杉 本 ブロック、ブロック！カウンターアタック！
二人のタオルはなぜか山上を同時に襲った。
山 上 なんで私なの！
杉 本 だははは。
青 居 すいません。流れでそう。
山 上 ここ、パシィィって、しかも後頭部もズシィィって来たから。
松 阪 あの、取り込んでるところ悪いんやけど…。
山 上 何よ！
松 阪 うん。本堂君どうしたんかなと思って。
山 上 え、本堂？あいつまたバイトやろ。なんかソレっぽい事言ってたと思うし。
松 阪 あ〜、うん。そうだね。バイトか、ふぅん。
青 居 試合再開。スキ有りストレート。
杉 本 うお！
山 上 入った！３ポイント先取はブンブン青居！ イッポン杉本がっくりと膝をついたぁ。勝者！ブンブン青居。
（腕を高らかに上げる）
岡 山 先輩〜、そろそろ部活始めないんですか？
松 阪 え！ あ、今始めようっかなって思ってたんだけど。あ〜うん。部活始めよっか。
山 上 なに？部活始めるの？
松 阪 あ、うん。始めるからちゃんとしてね。サメ君一応副部長なんだし。
山 上 そっか。オレ副部長やったんや。
青 居 ダメじゃないですか先輩。
山 上 松阪。オレはいないと思ってくれていいから。今のオレは副部長山上ではなくディフェンディングチャン
ピョンのマッコイ山上だ。
松 阪 え、そんな事言われても。
岡 山 先パ〜イ
畑 野 部活やらないんだったら帰りたいんですけど〜。
松 阪 やるやる！やるから帰らないでよ。
不幸な少女松阪は意を決しカバンから巨大なバスタオルを出す。
山 上 赤コーナー、１６２ｃｍ５２ｋｇ、マッコイ山上
松 阪 おい！そこのおかま！いつまで遊ぶ気じゃ。
山 上 おかま？
松 阪 お前ら！部長は誰やと思ってるねん。さっきからさんざん好き放題しやがって！タオリングやと？
ここは何部や？タオリング部か？ やるんやったらこのバスタオルできりきりにしばき上げるぞ。
山 上 ま、松阪？
松 阪 それからそこの１年。部活しないんだったら帰りたい？ おのれがせんで何ぬかすんじゃ。ごちゃ
ごちゃ言う暇あったら体動かせ、体。
畑 野 す、すいません。
松 阪 みんな、今からクラブ始めるよ！いいね！
全 員 （気を付けで）はい！
間。松阪を中心に部室の空気が凍り付いたように静まりかえっている。
松 阪 本当はこれぐらい言ってやりたかった。でもうちが言えるわけない。うちが言えたのは…。タオリング
って面白そう。どうやるのか部活終わってから教えて！
青 居 え、先輩もやるんですか？
杉 本 面白いですよ。
山 上 あほ、これは男のスポーツじゃ。
青 居 あれ、先輩男だったんですか。
山 上 はり倒す。
畑 野 先輩もいっしょになってる。
岡 山 うち、心配や。
松 阪 いや、ちがうちがう。とにかくタオリングはクラブが終わってからね。すぐ始めるから帰らんといて。
畑 野 はい。
山 上 これから決勝戦やのに。
松 阪 そしたらミーティングします。今度のＮＨＫ杯に出す映像作品について、
青 居 ＮＨＫ杯って何ですか？
山 上 コンクールや。
青 居 へぇ。
岡 山 優勝とかあるんですか？
松 阪 え、うん。一応。
畑 野 すごい。さすが高校。
山 上 去年は先輩がすごいの作ってんで。大仏が受験戦争に挑戦するねん。タイトル何やったっけ？
松 阪 東大児。
山 上 そうそう、奈良の東大寺と東京大学をかけてるねんけど、受験に失敗した大仏がぐれるねん。
青 居 なんかすごそうですね。
山 上 すごすぎて審査員の感性に合わんかったんやろな。一次審査であかんかったわ。でも笑えた。なぁ。
松 阪 あの…。
山 上 何？
松 阪 うちにも喋らせてくれへんかなぁ。大事な事言おうと思ってたのに。
山 上 あ、すまん。
松 阪 今度のＮＨＫ杯に出す、ぐらいまでしか喋ってないんやけど、なんで東大児の話しまで出てくるん？
杉 本 お前や。
青 居 おれ？ あそうか。すいません。
松 阪 もう喋っていい？
岡 山 どうぞ。
松 阪 じゃ。ＮＨＫ杯に出す作品の制作にこれから入っていこうと思ってるねんけど、まず話作りから入って
いこうと思うからアイディアを聞かせて下さい。
間。よけいな事だけは良く喋る。
松 阪 いきなりなので、まとまらなくてもいいから自由に喋って下さい。
結構な間。つらい感じ。
畑 野 （ため息一つ）
松 阪 （びくっとして）ミホホ。面白くないの？
畑 野 え？そんなことないですけど。急に言われても浮かばへんなぁと思って。
松 阪 あ、そうやね。ごめんね急で。
畑 野 いいえ。
岡 山 何でもいいんですか？アイディア。
松 阪 うん。今日は出し合うだけやから。
岡 山 じゃあ、恋愛ものとか。
畑 野 え〜、それきつくない？
岡 山 だって家で見るテレビってその系統が一番多いもん。
畑 野 先輩。出演者って部員ですよね。
松 阪 そうと決まったワケじゃないけど。でも頼んでやってくれるのは、部員かな。
畑 野 それで恋愛もの？
山 上 あ、オレは裏方専門やから。
青 居 オレがおるやん。
杉 本 僕も！
岡 山 無理か。
青 居 そんなん女子も似たり寄ったりやん。アクションものがいいと思うな。
杉 本 僕も。どっちかというとアクションものでテロリストを倒したい。（ｂｙカワタケ）
青 居 撃ち合いとか、出来ますよね。
山 上 知り合いにエアガン趣味のやつ、いるから。
杉 本 流血ざたのやつとか？
青 居 そうそう、血糊がバァ〜って、
山 上 特殊メイクなら任せてくれ。
青 居 刀なんかもいいなぁ。
杉 本 またつまらぬものを切ってしまった。
山 上 それ、石川五右衛門やん！
青 居 あ〜、ルパン三世か。それ、いいな。ルパン三世チックなのやりたいなぁ。
畑 野 え、うちらは？
杉 本 もちろん峰不二子。
山 上 ううん！特殊メイクでも無理！
松 阪 あのさ、一応コンクールだから、テーマを考えてお話作っていく方が…。
杉 本 質問。じゃ東大児にはどんなテーマがあったんですか？
松 阪 え、それは先輩に聞いてもらわないと。
山 上 なんかさ、青年期の自己実現欲求と社会の矛盾を鋭く描くとかなんとか。
畑 野 それで大仏が？
青 居 わかった。先輩の自己実現やからあえて大仏になったんや！
岡 山 うわ〜！めっちゃ納得！
松 阪 ちょっと話しがそれてきてる気がするんだけど。
畑 野 先パ〜イ。
間。みんなが畑野の方を向く。
松 阪 何？
畑 野 提案なんですけど、テーマを考えていい作品にしようと思ったら、ちょっと時間が欲しいんです。ねぇ。
岡 山 全然時間がないのは確かにつらいです。
畑 野 だから、各自家でゆっくり考えて来るってのはどうですか？
松 阪 え？家で？
畑 野 別に図書館で調べものして考えてもいいんだけど、とにかくじっくり考えた方がいいと思うんです。
松 阪 あ、うん。あ、ほらみんなにも聞いてみないと、分からないから。
山 上 オレ、別にいいで。家帰って考えてくるの。
青 居 オレも別にソレでいいっすよ。
杉 本 僕もそれでいいっす。
岡 山 ハイ、決定〜！
畑 野 じゃ、帰る用意しよっか。いいですよね。
青 居 お、早く終わったんやったら山上先輩のとこ行こか。
杉 本 女性マガジン？
山 上 ん？寄ってく？
杉 本 お願いします。
着々と帰る準備が進む。
松 阪 じゃ、みんな、ちゃんとアイディア考えといてよ。
女 子 はぁい。
山 上 任せて。いいの考えとくから。
青 居 意外といいヒント見つかるかも。
岡 山 先輩、鍵お願いしちゃっていいですか？
松 阪 あ、うん。やっとく。
みんな出ていく。静かになる部室。松阪深呼吸すると床を思いっきり踏み
ならす。やがて顔を上げると窓の外に目をやる。
松 阪 もううっすら月が出てる。
寺田が部室前を通る。
寺 田 あれ？もしかして夏太？
松 阪 寺ちゃん。なんでココにいるん？
寺 田 トイレに行こかと…。一人？
松 阪 うん。もうみんな帰った。
寺 田 もう部活終わったわけ？ えらい早いな。
松 阪 ほら、今ちょうど作品の骨組み考える期間やから、ココにいなくても各自で考えられるねん。それに
今日かってみんなである程度アイディア出し合って、恋愛ものとか、ルパン三世チックなやつとか、
東大児…。（強がりはココまで）寺ちゃ〜ん。
寺 田 よしよし。
松 阪 寺ちゃん、人生まだまだこれからだよね。
寺 田 は〜？ そりゃまだまだ生きていくつもりやったらな。
松 阪 ちょっと違う気もするけど、まあいいや。
寺 田 最初からはうまいこといかへんって感じやろ。
松 阪 でもひどいねんで。時間になってもタオリングして遊んでるし、チャンスあったら帰ろうとするし。人の話も
真面目に聞いてない。一人として真面目に部活しようって感じじゃないねんで。
寺 田 よしよし。
松 阪 うち、人に注意するとかいややねん。出来へんねん。そんなタイプちゃうねん。もういや。辞める。
寺 田 よしよし。
松 阪 寺ちゃんさっきからよしよしばっかり。
寺 田 …トイレ、行きたいねん。
松 阪 あ、ごめん。
寺 田 まあのんびりやったらええやん。あんまり暴走するな。
松 阪 ありがとう。寺ちゃんは急いで。
寺 田 うん。振動与えんように急ぐわ。
寺田は腰を落としてトイレへ。見送る松阪はちょっと救われた気分に。
気持ちを切り替えて帰ろうとカバンを取るとぽとりと茶封筒がこぼれた。
先輩のくれた茶封筒。開けてみるとＭＤが一枚現れる。
松 阪 聞け。なんやろ。
ディスクをデッキに入れてみる。流れてきたのはあの曲。中島みゆきの
『地上の星』である。
松 阪 これ、あの曲やん。（しばらく聞いて）弱小映画部。託されたのは一人の少女。迫り来るＮＨＫ杯。
やる気のない部員。なんかぴったりくるなぁ。誰か殺した方が盛り上がる？ おかまの突然死。
一発逆転の大勝負。世界は動き始めた！
松阪が元気を取り戻したのは寺ちゃんのおかげ？ それとも先輩の
おかげ？ 暗転。
『憧れの君？』
翌日の放課後。約束通り岡山は終礼後のダッシュを決め、目的の待ち
伏せ場所に二人は向かった、らしい。果たして誰を待っているのだろうか。
こういう時の乙女の団結力と行動力はすばらしい。その調子で部活しろよ、
ホント。
岡 山 間に合った？間に合った？
畑 野 たぶん。
岡 山 ああ痛かったぁ〜。
畑 野 何？
岡 山 終礼短かったから、チャンスや思って走って教室出よったら、机の脚でばぁんって。
畑 野 へぇ〜。
岡 山 あんなときって何で意味のない言葉、口走るんやろ。うちな、あんまり痛かったからオヘって言って
もうてん。オヘって。
畑 野 オヘ？
岡 山 おもろいやろ、オヘって何よ。ねえ。
畑 野 誰か来た！
岡 山 嘘！ どうするん？
畑 野 見てるだけ。
通行人。メガネ。横ワケ。カバンはエックスがけ。いかにもテロリストを
倒したいような男が小股の倍速歩きで通過した。
岡 山 ミホホ。あれタイプなん？
畑 野 うん。って違うわ！
岡 山 よかった。終礼終わってダッシュであれタイプやったらうちの青タンが報われへん。
畑 野 あんなんにうちが目を付けるわけないやん。
岡 山 あんなんって、ちょっと失礼やで。
畑 野 あんなんやから、あんなんなでええの。
岡 山 けっ。
畑 野 待っとき。絶対かっこええねんから。
岡 山 うちは別に興味ないねんけど。
畑 野 もうすぐ出てくるはずや。あ、来たかも。
次に登場したのは本堂であった。息を殺す女の子２人に気付き。
本 堂 何してるねん。
岡 山 あわわわ…。
畑 野 …本堂先輩。びっくりさせんとってください。
本 堂 べつにびっくりさせてへんで。何してるって聞いただけやん。
畑 野 あの、ちょっと気分転換に。
本 堂 ２年の下足場で？気分転換なぁ。
畑 野 別にココでなくても良かったんですけどね。
岡 山 先輩今日もバイトですか？
本 堂 ああ。週末は結構忙しいからな。人少ないし。
岡 山 大変ですね。
本 堂 ちょうどよかったわ。今日もバイトやってクラブで言うといて。大会前で人手がいるときは都合付ける
からって。
岡 山 はい。
畑 野 うちらも、そろそろ行こか。
岡 山 そうやね。
畑 野 じゃ、先輩。バイト頑張って…、ん、んんん！
岡 山 ？
畑野の異変に気付く二人。そう。例の彼が現れたのだ。スポーツバックを
ひょいと持ち軽い足取り。
飯 島 本堂。
本 堂 ん？
飯 島 忘れもん。
本 堂 あ、サンキュー。
飯島はそう言うと本堂の忘れ物の弁当箱を投げる。そのとき思わずミホホが
動いた。
畑 野 （飯島の投げた弁当箱を本堂の手前でインターセプト）キャーッチ。
間。全員畑野に注目してしまう。
畑 野 …。あ、思わず。あ、すいません。
本 堂 お前、何やっとん。
畑 野 すいません。
岡 山 ミホホ。すごい。
畑 野 いや、昔わたし、そ、ソフトやってて。フライ上がったら落下点まで走るのが身に付いてるって言うか。
いい球やったし。思わず。おかしいですか？
飯 島 いや。
畑 野 おかしいですよね。あ、どうしよ。変な子やと思わんとってください。
飯 島 ああ。
畑 野 よかった。すいません。失礼します。
飯 島 ああ。
畑野はカバンも何もかも忘れてダッシュする。
本 堂 おい、弁当箱！
畑 野 あ、ごめんなさい。
振り返って弁当箱を本堂に投げる。これがもの凄いノーコンだったりする。
本 堂 あ〜！
畑 野 失礼します。（走り去る）
飯 島 誰？あの子。
本 堂 映画部の後輩。
飯 島 変わってる、な。
本 堂 ああ。
岡 山 いつもはもうちょっと普通なんですけど。
飯 島 そうなん？
本 堂 そやな。あいつソフトボールなんかやってたんか。知らんかった。
岡 山 うちも。確かテニス部やったような気が。
本 堂 は〜。
飯 島 そしたら、オレクラブ行くわ。バイトやろ？
本 堂 ああ。これ、サンキュ〜。
飯 島 がんばれ勤労青年。
本 堂 貧乏なだけ。（岡山にも）じゃな。
岡 山 はい。さよなら。
男二人は別方向に去る。残されたのは岡山と岡山の荷物と、畑野のカバン。
岡 山 ま、悪くはないけど、あそこまで取り乱すほどでは、ないよな。
そう言い残すと二人分のカバンを重そうに持ってクラブへ向かう。
『企画会議』
暗闇に浮かび上がる山上。懐中電灯が下から彼を照らし、その顔はどこと
なく恐怖にゆがむ。こんな長ゼリ、言えるんやろか…。
山 上 その日はどこか吹いてくる風から違っていた。いつもよりゆっくりと、オレの顔をなでるように流れていく。
なにやら怨念のような気配を漂わせていた。誰かに見られているような気がして何度も振り返ったんやけ
ど、そこには誰の姿もない。ただ木の葉が不気味な風にさらさらともてあそばれるように踊っていたんや。
岡 山 山上先輩。もうやめましょう。
青 居 なんで、これからやん。
畑 野 なんかありがちな気もするけど。
杉 本 そやな。
山 上 うわぁ！（突然の悲鳴）
全 員 ぎゃ〜！
畑 野 何？
山 上 …ありがちやない。ほんまにあった話しや。
岡 山 ごわびぃぃ〜。
山 上 ふと気付くとオレは３階の北トイレの前におった。そう言えば朝からトイレに行ってなかった事を思い出した
オレは何気ない気持ちでトイレに入ったんや。今から思えばそれが間違いの始まりやった。
青 居 トイレの花子さん！
杉 本 あそこ、出るらしいで。
畑 野 うそん！
岡 山 （言葉が出ない）めぇ〜。
松 阪 出るん？
山 上 まあ聞け。素早く用を足したオレは、服装を整えてトイレから出ようと思った。そのとき！
松 阪 出たん？
山 上 あ〜！
岡 山 （フリーズ）
山 上 出んかったんや！水がぁ！嘘や！嘘だと言ってくれ。これは悪夢や。出たのに水が出ないなんて！
部屋の電気をつける杉本。あっと小さく叫び山上が停止した。
杉 本 それが落ちですか。
畑 野 おもしろぉい。
青 居 あほ、ある意味めちゃめちゃ怖いですやん。大ですよね大。
山 上 巨大やった。
岡 山 （泣きながら無言でたたきに来る）
山 上 痛い、いた、いた、何すんの。怖い話しやねんからしょうがないやろ。
青 居 非常に怖い。
松 阪 でも、それをほんまに映像化する気？
青 居 まじっすか？
山 上 いや、何か考えてきた？っていうから。怖い話しなんてどうかなと思って。
畑 野 絵では見たくないよね。っていうか寄りたくない。
岡 山 最低です。
山 上 最低ですかぁ〜。
杉 本 最低で〜す。
山 上 いけると思ってんけどなぁ。
松 阪 悪いけど、ちょっと。
山 上 じゃ、聞くけど他のやつは何か使える案、考えたんか？ミホホは？
畑 野 え、う〜んと、パス。
山 上 サキは。
岡 山 考えたんですよ。でもいいのはまだ。
山 上 見てみ。オレのが一番進んでるやん。ま、現実に撮るとなると問題は多いけどな。
岡 山 多すぎです。先輩は何か考えてますよね。
松 阪 え、うち。
岡 山 部長さんですもんね。
青 居 そや、先輩の聞いてなかったですね。
松 阪 考えたよ。でもまだ途中で。
杉 本 たとえば？
松 阪 映画のパロディーとか。
畑 野 パロディーですか？
青 居 面白そうやけどなぁ。
山 上 オレのもパロディー。
岡 山 ていうか、えぐ過ぎです。
杉 本 でもやるとしたらかなりみんなが知ってる映画じゃないとダメですよ。
松 阪 なんていうか、パロディーだけど自分たちでちゃんと作り上げていて、最後とかはオリジナルで完成させ
たりしたらいいんじゃないかなと考えてるん…だけど？
岡 山 でも元の話しがあると絶対比べられると思いますよ。
畑 野 確かにね。映画部なんだし、自分たちでストーリー考えた方がいいかも。
青 居 まあ、そりゃそうだろうな。
松 阪 うん。…そうだよね。
山 上 行き詰まりましたね。
無言の空白が部屋をうめた。メール着信は畑野。
畑 野 あ、すいません。（と返信を始める）
岡 山 どうします？
松 阪 うん。
山 上 選択肢は二つ。一つは今日はあきらめて明日までに考えてくる。もう一つはオレの考えた話しで行く。
岡 山 絶対いやです！
青 居 今日はあきらめてタオリングにかけてみるとか？
山 上 お、やりますか？
杉 本 やりますか？
松 阪 ちょっと。
山 上 何？
松 阪 だって、まだ、部活初めて３０分ぐらいしか。
山 上 だってまともなアイディアも一つぐらいしか浮かんでないねんで。オリジナルするんやったら、もうちょっと
考えなしょうがないやん。
岡 山 一つも浮かんでないと思うんですけど。
青 居 あんまりあせってもしょうがないですよ。そのうちいい案出ますって。
杉 本 そうかも。
松 阪 そうか、な。
山 上 そうそう。なんやったら松阪が考えといて。オレはそれでいいから。
松 阪 そんなん。
畑 野 （ぱちんと携帯を閉じて）あれ？もう終わりですか？
山 上 終わりと違う。終わりなき戦いが始まるんや。
岡 山 またするねんて。
畑 野 じゃ、先引き上げていいですか？
松 阪 え、部活まだ終わってないんやけど。
畑 野 だって山上先輩らタオル出してますよ。
青 居 あれ、ほんまや。いつの間にか手にタオルが握られている。
杉 本 僕も。
岡 山 ここでいつ浮かぶか分からないアイディアを考え続けるというのも、難しい気はしますよね。
畑 野 私たちそれだったら帰ってやる事あるし、帰りたいんですよ。
松 阪 う〜ん。
畑 野 どうなんですか？
松 阪 …帰ってやる事があるの？
岡 山 まあ。
畑 野 いっぱいありますよ。
松 阪 ん〜。じゃあ帰っても、ん〜いいけど…。
畑 野 ヨシ！ じゃあサキ、帰ろう。
岡 山 うん。帰ろっか。
青 居 なんなん、お前ら帰んの？
岡 山 うん。二人はどうする？
青 居 おいらはもう少しタオリングしていく。
畑 野 ふぅん。ま、頑張ってね。
山 上 さあ、昨日の雪辱戦だ。お前ら二人でオレをしばいたやろ。今日は反対にぼこぼこにしてやる。
こんな調子でいいのだろうか。松阪は焦っていた。きっと明日も、明後日も。
こんな部活の繰り返し。その時松阪は捨て身の攻撃に出た。
松 阪 あ〜ミホホ、ちょっと待って。
畑 野 なんですか？
松 阪 帰っていいけど、ホントは良くないけど、帰る前に言いたい事があるねん。
畑 野 はい。
山 上 あっちはあっちでほっといて、ブンブン青居ＶＳマッコイ山上の優勝決定戦から始めよう。
松 阪 あ、サメ君。それもやめてくれないかな。
杉 本 先輩、言われてますよ。
山 上 ん？
松 阪 ちょっとタオル置いてくれる？
山 上 …ああ。もう分かったから。
シーンとする部室。
松 阪 え、え〜っと、あの、みんなに言いたい事っていうのは、部活の事なんだけど、あ、私が部長になって
みんな頼りないと思っているかも知れないけど、部活を、もっとちゃんとして欲しいんだけど…、な。うん。
さらにシーン。
松 阪 あのさ、例えば映画の話し作りにしても、なんか皆いい加減だと思うの。それに部活中にいつまでも
遊んでるのもどうかと思うし、せっかく皆集まったのに、何もしないで終わっちゃったりするし。そりゃアイ
ディア考えるのは個人の作業かも知れないけど、うちに帰るとクラブの事は考えなくなったりもするから、
今日もいいアイディア出なかったし。
間。
松 阪 だからその辺をちゃんとして欲しいっていうか、ああ、ちゃんとして欲しいの。
山 上 う〜ん。
杉 本 先輩、耳が痛いんでしょ。
山 上 お前ら、人の事は言われへんやろ。
青 居 さっきも一番に出したのは先輩ですよ。
山 上 あほ、一番も二番もないんじゃ。
岡 山 それは分かりますけど、することないままじっと考えてるの面白くないんですよ。することさえ言ってくれ
たらうちらは何でも出来るんですけど。ねえ。
畑 野 ん。ちゃんとして欲しいっていわれても、ちゃんとってよく分からへんし、映画のアイディアも考えたけど
思い浮かばなかっただけです。青居君らもちゃんと考えたでしょ。アイディア。
青 居 まあ考えんかったわけではないです。
山 上 オレのも一応考えた結果があれや。
松 阪 全然考えてないとは言ってないけど。
畑 野 いい加減やって言ったじゃないですか。それに先輩のアイディアかって映画のパロディーって言うだけで
後は無かったです。
松 阪 それに関しては悪いと思ってるねんけど、昨日遅くまで考えてそれしか浮かばんかったから。
岡 山 うちらも一緒です。これでも考えてたんですよ。
青 居 オレは、そこまでは考えてなかった、かな？
杉 本 でも一応は。
畑 野 考えたんでしょ。考えたけどいいアイディア浮かばなかった点では松阪先輩とかわらないと思うんですよ。
それをいい加減って決めつけるのは良くないと思います。
山 上 まあ、そのへんで。
畑 野 その辺じゃないです。だいたい松阪先輩だっていつも部活来るのぎりぎりで。３年の先輩は開始１０分前
には居てたのに。
松 阪 それは、悪いと思ってるけど、いろいろと。
畑 野 いろいろって何ですか？ 掃除や委員会活動があるのはみんな一緒です。
松 阪 もういい。もういいから。
畑 野 よくないです。先輩の方こそいい加減に考えてるんじゃないんですか。
ごっつい気まずい雰囲気。
畑 野 すいません。言い過ぎました。失礼します。
岡 山 あ、ミホホ。
畑野は走って部室を出て行く。残された男子と傷だらけの松阪。
青 居 先輩。なんかタオリングする雰囲気じゃなくなりましたね。
山 上 あいつ、おもいっくそ言いたい事言ってったな。
杉 本 すごい。
山 上 見る目、変わったわ。おい、どうする部活。
松 阪 今日は、もう無理。
山 上 …そやな。
松 阪 明日も、無理かも。
杉 本 そんなん。
気まずい雰囲気が部室に充満している。その時、一番聞こえて欲しくない
音が聞こえてきた。
平 田 誰だっ！誰だっ！誰だ〜！ 空の彼方に踊る影。白い翼の（ダダダ）ガッチャマーン、
ガッチャメャ〜〜〜ン（無理矢理最後の歌い方）あ、いたいた。松阪君。北斗の拳のＤＶＤを…。
男 達 ばかやろう！
平 田 な、なんだ？
間の悪い男とは彼の事を言うのだろう。不幸な平田であった。
『帰り道の奇跡』
バットを持ったユニフォーム姿の野球部員走り込んでくる。足元を固めると
素振りを始める。一回、また一回。バットを短く持ってたたきつけるバッティング
フォーム。そこへマネージャーらしき女の子が登場。
北 川 飯島君。ティーここでいい。
飯 島 ああ。
北 川 タオルも置いとくね。
飯 島 ああ。
黙々と素振りをする飯島。北川はボールとティーを取りに去る。ふと手を
止めると飯島はゲージにかけられたタオルで汗を拭く。
飯 島 ハミング、１／３…。
この男、単なる無口かと思えば時々取る行動が謎である。バットを置くと
靴を整えランニングに出る。すれ違うようにべっこり凹んだ松阪登場。
下を向いているので走り去った飯島にも気付かない。そこへ松阪を迎えに
来てくれたのは寺ちゃん。後ろから声をかける。
寺 田 まだすることあるの？
松 阪 うううん。もう帰る。
つづく…
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