創作脚本の部屋へ 作 がっきー 潤色 もみじ
【キャスト】女５
橘 結衣（高３）
橘 えみ（高２）
橘 さなえ（中３）
橘 蘭々 (母)
りーぽん（高３）
セットは現実的、舞台には見えない立方体のイメージ。壁で囲まれたリビングを意識すること。
真ん中にダイニングテーブル。ソファー、サイドボード。サイドボードには小型の仏壇。窓が上手と、
正面にある。出入り口は下手前が玄関、上手前がキッチン、下手奥が各部屋に繋がっている。
中年女性が肩にカバン、腕にコート、手にはサイフやら封筒、ペン、携帯電話などを持って下手
奥から走りこんでくる。冬の朝。荷物をテーブルに、コートをイスの背に置くと、息で手を温める。
うっすらと上手奥から差し込む日差し。お天気確認。くるりと振り返り、サイドボードにおいてある
小型の仏壇の扉を開け、息を整えて鈴を鳴らし手を合わせる。何か言ってるみたい。言い終わると
鈴を鳴らし、腕時計を確認。ドタバタ再開。カバンの中に荷物を詰め込んでいく。
蘭 々 あかん。空港までタクシー…。タクシー…。
サイフを掴んで首を振って、いくらかお札を出して机に置き、サイフをカバンに入れる。
蘭 々 （下手奥に向かって）結衣、えみ、さなえー。
ペンで何かを書きなぐりながら声をかける。起きてないのか返事が無い。書いた紙を強引に
封筒に突っ込んで、お金の隣に置く。カバンとコートをひっつかみ下手前で一時停止。振り返って。
蘭 々 いってきます。
くるり。慌しく出て行く。少し離れた所で玄関の扉を閉める音。カシャン、カチャ…、バタン。
カギも閉めた。カシャン。ようやく静寂。差し込む朝日がすがすがしい。やがて、様子を伺う
ように次女、えみが現れる。手には勉強道具。無表情で蘭々が出て行った方向を見つめて、
そのまま何も言わず乱暴に机の上に勉強道具を広げる。置かれた封筒やお金には気づかない。
広げるノート。一枚のプリントが出てくる。えみはそれを苦い顔で広げ、また閉じて、
見なかったかのように別のノートに挟む。
え み 気持ちわる。
「橘家」
曲。音楽に合わせるかのようにえみは机の上に道具を広げ黙々と勉強をはじめる。
照明も少し明るくなり、時は過ぎて昼前。さなえが下手奥から入ってくる。
さなえ おはよ。
え み おはよ。
さなえ 早いな。めっずらし。
え み 別に。
さなえ、上手前にはける。手にマグカップを持って戻ってくる。勉強してるえみを見つめる。
さなえ なあ。えみ、なあ。
え み （無視）
さなえ なあなあ。
え み （無視）
さなえ それ宿題？
え み るさいなあ。
さなえ リビングはうるさくて当たり前やろ。なんでこんなとこで勉強してんの。
え み 机汚くてスペースなかったの。ほっといて。
さなえ 片付けーな。
え み めんどくさいの。出かけたみたいやから顔合わさんでいいし、じゃあここでしよっと思って。
さなえ ああ、お母さん。
え み へっ。
さなえ なあなあ、あとどんだけ残ってんの。
えみ、ノートを数ページ掴む。
さなえ え、量多ない。土日挟むにしても多ない。
え み …い
さなえ なんて？
え み 冬休みの、しゅくだい。
さなえ えみおねえさん、冬休みもう終わってますでぇ。
え み うるさいなあ、わかってるよ。これだけ存在忘れてたの。
さなえ ばっかだー。
え み おっしゃる通りでございます。馬鹿にしやがって。
さなえ ばーか。
え み 励ますとか、応援するとか出来ひんの。
さなえ えみ、ガンバ！ えみ、ファイト！ さなえは冬休みの宿題ちゃんと完璧に終わらせたで！ この調子で高校受験一直線！
え み お前なんか、落ちてしまえ〜！
えみ、さなえに向かってノートをブン投げる。避けるさなえ。下手奥から結衣が入ってくる。
さなえ ウォッぶねぇ。お姉ちゃん、おはよ。
結 衣 おはよう。何やってんの？
さなえ えみの応援。
え み （勢いよく仏壇に近づき鈴を鳴らす）おとーさん！ 聞いた？ 今の小馬鹿にした発言、聞いた？
さなえ （えみから鈴棒を取り上げ鳴らす）今のさなえ悪ないよな。八つ当たりやんな。おまけに受験生に向かって落ちてしまえとか
ないやんなぁ。お父さん！
さなえ、えみの勉強道具で遊びだす。止めるえみで乱闘。
結 衣 （鈴を鳴らす）今日も二人とも元気です。
さなえがノートを持ち上げると、挟まっていたプリントが一枚落ちる。気づいたさなえがプリントを
拾って、見ようとする。慌てて奪い取るえみ。
さなえ ？ 見られて困るもん？
え み 別に。
さなえ なあなあ。何それ。何それ。
え み なんでもないってば。
見ようとするさなえを追い払うえみ。第二次橘家乱闘勃発。
結 衣 さなえ。
さなえ はあい。えみのけち。
え み うっさい。
えみはプリントをカーディガンのポケットに入れる。
え み あのさ。
さなえ うん。
え み ずっと思っててんけどさ。
さなえ なによ。
え み なんで呼び捨てなん。
さなえ え？（笑）
え み 姉ちゃんのことはお姉ちゃんって呼ぶのにえみのこと呼び捨てやん。
結 衣 今更。
え み うん。今更。
さなえ なんでやろ。特に意味なし。
え み じゃあ、お姉ちゃんって呼んで。
さなえ なんで。
え み いいから。はい。呼んで。
さなえ 今？
え み 今。
えみ少し離れたところへ行き背を向けた状態で待つ。
え み はい。いいよ。
さなえ （いやそうに）お姉ちゃん。
え み （振り返り美人）はぁい。
結衣・さなえ 違和かーん。
さなえ もう一回後ろ向いて。
え み うん。
さなえ …おい！ うんこ！
え み はぁ？
結 衣 違和感なし。
え み 最悪。
さなえ 同レベ同レベ。さ、さなえも勉強しにいこ。
え み ここでやったらええやん。一緒にやろうや。
さなえ ううん。部屋行く。
え み なんで。
さなえ 集中できひんから。
え み あっそー。
さなえ えみが教科書とか投げてくるし。
えみ、教科書を投げる。受け止めてドヤ顔さなえ。
結 衣 今日も塾？
さなえ 今日はナシ。明日。
え み ガリベン。
さなえ、下手奥の自分の部屋に去る。
え み あいつ。自分は勉強の邪魔したら怒るくせに。
結 衣 まあまあ。
え み 姉ちゃんは？ バイト？
結 衣 ううん。
え み なんや、じゃあ今日３人とも居るんや。
結 衣 そのかわりお出かけするのでした。
え み ふーん。
結 衣 りーぽんと。
え み え、りーぽん！ ひっさしぶり！
結 衣 やろ。
え み いいなあ。いいなあ。
結 衣 せやからお昼は適当にさなえと食べといてね。
え み ランチかよ。金持ち。
結 衣 たまには贅沢。私のバイト代やしええの。
え み ばばあ。
結 衣 一個しか違わんやろ。
え み あー…。何かあったっけ。お昼の話したらお腹すいてきた。
結 衣 まだちょっと早ない。
えみがごちゃごちゃした机の上から、置いてあるお札を見つける。
え み お金拾った。
結 衣 え。
え み 誰の？
結 衣 や、知らん。
え み 姉ちゃんのじゃないの？
結 衣 私のじゃない。お母さん置いてったんかな。あれ、でもいつもお金置いてくなんてせんのに。
え み お昼何買お。
結 衣 勝手に使っていいの？ 夜遅くなるんかも。晩御飯代かも。
え み （総無視）
結 衣 えみ。
えみ、黙り込んでお金を握り締めている。急に思い立ったような顔をして、走って上手前へ
はける。すぐに戻ってくる。
「たこ焼きしよう」
え み たこ焼き！
結 衣 は？
え み たこ焼きしよう！
結 衣 するって？
え み しよう！
えみ、下手奥へ。袖から部屋の中にいるさなえに声をかける。
え み さなえ。たこ焼きするで！
えみが戻ってくる。すぐ目をキラキラさせながら戻ってくるさなえ。
さなえ たこ焼き、たこ焼きすんの？
え み する！
さなえ やったぁ！ たこ焼きー！
結 衣 突然やな。あんたら２人で作れるの？ ちゃんと片付け…
えみ、勝手に結衣の携帯をいじる。電話をかける。
え み もしもし、りーぽん。うん。えみ。うん。うん。たこ焼き焼くから。うん。来て。うん。うん。はぁい。
電話を切る。
え み りーぽんゲッチュウ。
結 衣 はあ？
さなえ りーぽんも来んの？ やった。
え み みんなでたこ焼きや！
結 衣 ちょ、ちょっと待って。何言ってんの。
え み みんなでたこ焼きするねん。
結 衣 うん。あれ？ えっと。
さなえ でもたこ焼き器ってまだあったっけ。
え み さっき見てきた。棚の上にあった。
さなえ やったー！ たこ焼き。たこ焼き。
えみ、たこ焼き器を取りに上手前にはける。さなえも一緒についていく。
結 衣 ちょ、ちょっと。
戸惑う結衣。とりあえずえみの散らかしたままの勉強道具が邪魔なので、ひとまとめに。
あれ？ その下から封筒が出てきた。何コレ。するとピンポン。慌てて結衣がサイドボードの
上に手紙をぽんと置いて、下手前へはける。扉の音。声がする。すぐ戻ってきて、一緒に
りりが入ってくる。
り り こんにちわぁ。
結 衣 ほんとに急にごめん。ごめん。
り り へ？ ええやん。たこ焼き。そっちのが楽しそう。
結 衣 そ、そう。
り り 丁度お腹すいててん。二人は？
上手袖から声が聞こえてくる。
え み えー。どこやろ。
さなえ あの棚や！
え み はしごはしごー。
さなえ そんなんないで。
え み おりゃー。
ゴチャンバチャンバンバーン。
え み あ。やってもた。
結 衣 大丈夫？
さなえ んん。なんとか。
心配そうに上手を見つめる結衣とりり。たこ焼き機を救出してえみとさなえが戻ってくる。
あとたこ焼き粉も持ってる。テーブルにドンと置く。みんなたこ焼き器を囲んで座る。
さなえ あ。りーぽんもう来てる。
え み りーぽん。（手を振る）
り り えみちゃん、さなえちゃん。あっ。
え み ？
り り あけましておめでとうございます。（深々）
え み ああっ。
三人 あけましておめでとうございます。（深々）
結 衣 そや。年明け初や。
り り 一月もう半ばやけどね。
え み にしても、急なたこ焼きにも乗っかってくれるだなんて。流石幼馴染。
り り でも、久しぶりの橘家。
結 衣 うんうん。
り り 結衣と高校別になって、それからあんまりみんなにも会われへんかったもんね。
さなえ せやんね、遊びに来てくれんくなった。
え み そして久しぶりの我が家のたこ焼き器。
結 衣 何年ぶりやろ。
さなえ 三、四年はやってなかったよ。
え み さてさて。みんな揃ったことやし、早速たこ焼き作るでえ！
みんなで声をあわせてオー！
結 衣 うちにたこ焼き粉なんて残ってたんや。
え み 降ってきた。一緒に。
電源を入れる皆おとなしく座ってる。間。
結 衣 …材料は？
え み （たこ焼き粉を指差す）
り り これだけ？
え み （頷く）突然言い出して、突然りーぽんに連絡して、今たこ焼き器と粉を持ってきた。なう。
さなえ そもそも材料って何が要るの？ 姉ちゃん。
結 衣 知らん。私ら料理全然せんやん。
さなえ さなえも知らん。
え み 私も知らん。
り り あんたら凄いな。
え み たこ焼きの担当お父さんやってん。たまに休みの日に焼いてくれた。
結 衣 懐かしい。
さなえ お母さんやったら知ってるかな。
り り おばさんは？ 今日は仕事？
結 衣 そういえば見てない。そうちゃう？
さなえ （えみに聞こえないように）せやからえみ機嫌ええねん。
結 衣 ああ。
さなえ わかりやす。
え み でたでた。（携帯片手に）材料でた。たこ焼き粉。と、卵。とか。うんうん。レシピも出る。作れる作れる。
結 衣 ま、どっちにしろ買いにいかなな。
間。
え み さなえ。
さなえ （首を振る）姉ちゃん
結 衣 （首を振る）
え み （ついでに首を振る）
えみ＆さなえ りーぽん。
り り （激しく首を振る）
みんなで顔を見合わせる。じゃんけんぽん！ 負ける結衣、さなえ。
結 衣 うええ。
え み っしゃあ。
さなえ 言いだしっぺ行けや。
え み じゃんけんは絶対。さなえ、お菓子買っていいで。
さなえ まじで。
え み オッケー、オッケー。
結 衣 あかん。
さなえ ありがと！ 姉ちゃん大好き。
結 衣 話きけや！
さなえ 行ってきます。
結衣、さなえ、お金を握り締めて下手前へハケる。
「えみの気持ち」
え み 今のうちに必要なの用意しとこ。えっと。（携帯を見ながら）ボウルと、油と、あわ立て器と、あの、たこやきクルクルするやつと。
り り お皿とお箸も。
え み あ、そっか。（キッチンに向かおうとする）
り り 手伝おか？
え み 大丈夫。お客さんやもん。ゆっくりしてて。
えみ、上手前にはける。一人残されるりり。ゆっくり部屋の中を見回す。久しぶりの橘家。
懐かしい。やっぱり、見慣れない仏壇。それを見てりりは何を思うの？ ボウルと油と泡だて器、
たこ焼きクルクルするやつ、人数分のお箸、大きめのお皿。あと小さなお皿をもって、えみが
戻ってくる。
り り 相変わらず姉妹仲ええね。
え み んー…。そうでも。
り り え？
え み こうやって、三人で揃ってご飯食べるのも、結構まあ、なかなか久しぶり。
り り そうなんや。
え み 姉ちゃんずっとバイトやん。さなえはずっと勉強。
り り さなえちゃん中三やろ、受験生やもんな。大変そう？
え み 全然。高校はどこでもええねんて。それより行きたい大学あるんやって。今からガリ勉。
り り へえ。凄い。
え み ほんまに。二人とも、凄い。私何もないもん。やりたいこととか、そんなん。羨ましい。でもさ、凄いんやけどさ。けど。
り り けど？
え み あんな。
り り うん。
え み …お父さん死んじゃってから。皆ドタバタしてたからさ。そん時はさ、しゃあないなって思ったんやけど。なんか、日に日に
だんだんすれ違ってく感じがするん。
り り 仲悪なった？
え み そんなことない。なんか、自分のことでいっぱいいっぱいになってるんちゃうかなって。
り り 置いてかれてる、って思う？
え み うーん。
間。
え み わからん。
り り 結衣心配してた。
え み 何を？
り り えみとおばさんがギスギスしてるって（笑）
え み あは。ギスギスて。
り り 反抗期ってやつ？
え み んー、なんていうか。いちいち気にくわへん。
り り へええ。
え み 何も話したいって思わんし、話すこともないし。向こうも無いみたいやし。たまに社交辞令みたいに最近学校どうなの、仕事が
こうだの、姉ちゃんやさなえがどうだの。そんなん話して何になるの。それ聞いたら親としてコミュニケーション果たしてますみたい
な話、されんのも腹立つし。出来るだけ顔見んようにしてる。イライラするから。
り り ふうん。えみちゃんとおばさん仲良かったのに。すごい似てたし。性格とか。負けず嫌いなとことか。
え み （あからさまに嫌そうな顔）
り り ごめん、ごめん。
え み 時々お母さんがお母さんじゃないような気がするねん。
り り なんで？
え み ちょっとね。…ほんまにこの人お母さんなんかなーって。そう思ってしもたら、しゃべることも一緒におることさえ嫌になった。
り り あはは。そっか。家族やなあ、ええなあ。
え み なんで？ この流れで？
り り ちょっと、ね。
え み なにそれ。あーあ、お腹すいた。二人ともまだかな。
り り ワクワクしてきた。
え み うん。あ、りーぽん
り り なに？
え み りーぽんの事、小さなころからずっとずっと仲良しやし、お姉ちゃんみたいに思ってるから。家族やと思ってるから。だから、
いつでも遊びに来てね。私、待ってるから。
り り うん。ありがと。
結衣、さなえが帰ってくる。
さなえ ただいまあ。
え み 待ってました！
り り おかえり。
結衣、買ってきた材料を机の上に置いて次々に取り出す。チーズ、たまご、てんかす、
お好み焼きソース、青海苔、鰹節、お菓子。おわり。
結 衣 えっ。お菓子いつ買っとったん。
さなえ レジ私に任せるからやん。
結 衣 お金返しといてよ。もしかしたらそれ晩御飯代なんかもしれんねんから。
さなえ はいはい。
え み …たこは？
り り ほんまや。たこは？
結 衣 …私知らんかった。
え み 何が？
結 衣 たこってコンビニに売ってないんや。
え み そらそやろ。ウソやん。たこ無いとたこ焼きちゃうやん。
さなえ それさなえも言うた。
結 衣 でも、向こうのスーパー行くの嫌やったから。
さなえ さなえもそう思た。
え み 早いと思ったらコンビニ行ってたん。
結 衣 そもそも私、たこあんまり好きやないし。
さなえ チーズがあればなんとかなるんちゃう？ と思って。
え み ええ。
結 衣 まあソースぶっかけたら味は一緒やんね。
え み なんとかなるか。なる、か。
り り なるなる。
結 衣 そうそう。レッツクッキング！
「れっつたこ焼き」
口三味線でＱＰマヨのＢＧＭ。
さなえ （携帯片手に）作り方は任せろ。
え み じゃ、私は生地つくるー。生地作り隊長。
さなえ えっと。まず。卵をボールにわります。んで、水ぶっこみます。混ぜます。
結 衣 水どんだけ？
さなえ ９００cc！
結 衣 取ってくる。
結衣、上手前にはける。
り り おりゃ。（ボウルに卵割る）
結衣が戻ってくる。そのボウルに持ってきた水をぶっこむ。えみは泡だて器を持って臨戦態勢。
さなえ 混ぜます。
え み うおおおおおおおおお！（混ぜる）
結 衣 ちょっと。飛ばさんように混ぜてよ。
さなえ 粉いれます。
り り ぜんぶ？
さなえ ぜんぶ。
りり、全部ぶっこむ。
り り やぁ〜。
さなえ だまを消すように混ぜます。
え み うおおおおおおおおおおお！（混ぜる）
さなえ “だま”って何？
結 衣 知らん。
り り あ。
さなえ どしたん？
り り 粉の賞味期限切れてる。
さなえ え。
結 衣 うわ。一年前。
え み ええ？ せっかく混ぜたのに。
間。
さなえ まあ…焼くし。
結 衣 粉やし大丈夫なんちゃうの。
え み 大丈夫だぁ。
り り 適当やな。
さなえ いけるいける。
えり こんな生地ってシャバシャバやったっけー！（真剣に混ぜながら）
さなえ わからん。水の量あってんの。
結 衣 ９００やろ？
さなえ あっ。
結 衣 今度はなに？
さなえ 水は最初はちょっとで、混ぜてからたくさん入れて。って書いてる。
間。えみ以外みんな顔を見合す。無言な空気。みんなでえみを見守る。
え み 混ぜて…。疲れた…。
ボウルをさなえにパス。
さなえ ま、大丈夫か。
さなえは笑顔でまぜまぜ。たのしくね。
結 衣 大丈夫だいじょぶぅ〜。
え み 大丈夫だいじょぶぅ〜。
三姉妹 ホントにだいじょぶぅ〜？
り り …か、帰ろっかな〜。
三姉妹 ダメ！（きりっ）
り り …居ます。
遊んでる間に完成。しなければ永遠に遊びが続く。ダマってこれか？ これなんか？
こいつをつぶせ〜みたいな。その間に鉄板に油。温度確認。
さなえ こんなもんでいいんちゃう？
四人で確認。あ。いい感じ。
結 衣 焼きましょか。
え み 具、チーズだけ？
さなえ てんかす。
え み てんかすは具ちゃうやろ。
結 衣 ほんまたこ焼きちゃうで。これ。
疲れたえみは近くにあるお菓子の袋をあける。
さなえ ちょっと。それさなえの。
結 衣 今からご飯やーいうのにお菓子たべんでいいやろ。
え み ばりぼり。
結衣、さなえからボウルを預かり、たこ焼き機に生地を流し込む。じゅーーーーーーー。
さなえ おお。
結 衣 ああ。穴じゃないところにも溢れてもた。どうしよ。
え み たこやきってそんなもんやで。
結 衣 そうなん？
え み そうなん。お父さんが作ってくれたときはせやった。
さなえ 具。具入れよ。さなえ入れる。
結 衣 よろしく。
さなえ、チーズをあける。
さなえ （チーズいれながら）やぁ！やぁ！
え み （お菓子いれながら）やぁ！やぁ！
なにやってんねんこいつ。結衣、さなえ、りり、きれいな二度見。お構いなしにお菓子を
具としていれまくる。
結 衣 ちょちょちょちょちょ。なにしてんの。
え み 入れてるだけよ。
さなえ え。おいしいん？え？えーーーーー
り り （爆笑）
結 衣 どないなるねんこれ。
え み 意外と超美味しかったりして。
結 衣 食べれんかったら責任とりーや。
え み 次は？
さなえ 焼く。
結 衣 そらせやねんけど。
さなえ なんか文章で書いてて、よくわからへん。
え み こんな感じちゃうん。
えみ、不器用にたこ焼きをつついていく。
さなえ あ、ぽい。ぽい。
え み お父さんがこんなことしてた。
さなえ してたしてた。
え み りーぽんてお父さんのたこ焼き食べたことあったっけ？
り り ううん。無い。
え み すっっごい美味しかったんやで。
結 衣 あ。明日お父さんの誕生日か。
え み 何、忘れてたん？（仏壇に向かって）お父さん聞いた。
結 衣 いや、もちろん覚えてた、けど、ふっと思ったっていうか。
さなえ さなえは覚えてたで。
え み せやから、たこ焼き食べたくなったの。
結 衣 明日やなくて、今日？
え み 明日二人ともおらんやん。バイトに、塾。
結 衣 せや。
え み だから、今日。あああ、あかん、丸くならん。
結 衣 ずーっと触ってたらあかんってお父さん言うてなかった？
さなえ 言うてた。そんでよく怒られた。
え み 適度に触りつつぅ…他のを構いつつぅ…。
さなえ うわ。ボロボロや。
え み うるさいな。じゃああんたやりぃや。
さなえ よっしゃ。任せて。
結 衣 こっちも回さんとあかんの違う？
り り これも。
さなえ え。まって。まって。
え み もう一個持ってくる！
えみ、たこ焼きクルクルするやつを取りに上手前へ。何かを蹴飛ばす音。「痛！」と声が
袖から聞こえる。戻ってくる。たこ焼きをつつきだす。
「ジンクスとおまじない」
結 衣 そういえばてんかすっていつ入れるの？
え み 具入れるときやない？
さなえ 忘れてた。
え み 今から入れる？
結 衣 今からはあかんでしょ。
え み あー。グダグダ。お父さんもっと上手に作ったのに。
さなえ チョコ入れてるやつ、色汚いなー…。
り り ソースつければ平気。ソース。
え み まあ、でも、思ってたより簡単やな。たこ焼きって。
さなえ えみ、何もしてないやん。
え み 生地作ったやん。
さなえ あ。中身またでた。
え み こっち焦げた。ああもう、焼くの難しいな。
結 衣 せや、このたこ焼き器、こっちの面だけ焼けるの早いねん。思い出した。
さなえ あー。せやったせやった。えみが壊したんや。
え み 壊したんと違うよ。
り り 壊したん。
え み お、落としてん。
結 衣 何でそうなったんやっけ？
え み 小学三年生の時かな。子供会の遠足から帰ってきたら、このたこ焼き器があってさ。それが気に食わんかったの。
り り 何その理由。
え み 私の知らない間に新しいものが増えるのって、なんか、切ないやん。
さなえ そうかなあ。
え み ご丁寧に「お昼はみんなでたこ焼き食べてん」の報告までしてきやがって。子供の私ブチ切れて当然やわ。
結 衣 だからって叩き落すか。
え み テーブルごとばぁ〜んって。
り り わいるどぉ。
え み 私そんなんばっかりやねんで。五年の自然学校から帰ってきたら冷蔵庫新しくなってるし、中学校のオリエンテーション合宿
から帰ってきたらお風呂リフォームされてるし。なんかもう、ジンクスやわ。
しゃべりながら、焼けたものからお皿にとりだしていく。ラスト一個のたこやきをお皿にぽい。
全部焼けました。汚いできばえ。しかも中身は変なのだし…。机は使ったものそのままで汚いし、
四人は上手の方を見る。台所は散らかしたまま。苦笑い。
結 衣 めちゃくちゃやな。
さなえ うん。
え み でも、みんなで作るの、楽しいね。
さなえ うん。
結 衣 うわあ。
え み 何？
結 衣 思いついた。たこ焼きウエディングパーティ。
え み はあ？
結 衣 あのな、夫婦初めての共同作業でな、たこ焼き作るねん。それを来賓者に配るの。
さなえ ソース臭い結婚式やな。
結 衣 カメラをお持ちの方、どうぞお二人の前までお進みください。
り り カシャ。カシャ。
さなえ さて、皆さまのたこ焼きの中に二つだけ、お二人のエンゲージリングが入っております。飲み込んじゃダメですよ〜。
えみ・り り え〜！
結 衣 ああ、いい。斬新なアイディアや。ノート…ノート…。
え み 斬新すぎるやろ。
結衣、どっからかノートを取り出してメモ。
え み ああ。それまだやってたんや。
結 衣 そう。おまじない。
り り おまじない？
さなえ さなえもしてるで！
結 衣 橘家に伝わる、なーんでも上手く行くおまじないやねん。自分が毎日触れるものに、思い通りに行ってほしいことを三回心の
中で唱えるねん。
え み ほんでね、それに関することを何かひとつ約束するの。
結 衣 思いついたらちゃんと書くのを忘れません。
り り お願い事って？
結 衣 ステキなウェディングプランナーになれますように。
り り 小さい頃からの夢、まだ変わってないんや。
結 衣 うん。あ、あんな。今式場でアルバイトしてんねん。大変やけど、すっごく楽しい。
り り 着実に夢に近づいてるわけやね。
結 衣 うん。この前やった結婚式なんやけど、ルミファンタジアっていって、暗くして、薬品の入ったボトルから、各テーブルにある
薬品の入ったグラスに注ぐん。そしたら薬品が反応してふわぁーって光って、すっっごい綺麗で、私（興奮気味に）
さなえ （さえぎるように）なあなあ、たこ焼き食べよ。冷めちゃう。
え み せやせや。
結 衣 あ、ごめん。
それぞれいただきまーす。…無言。
り り 食べれんことないもんやな。
結 衣 美味しくは
え み ないな。
さなえ ないな。
みんな笑う。
え み あのさ、リングで思い出してんけどさ。
結 衣 うん。
え み お母さんさ、してないよな。指輪。
さなえ あ、さなえも思てた。
結 衣 結婚指輪？
え み そう。
り り ずっとしてたん？
結 衣 してたな。お父さん死んでからも。
さなえ おそろいの奴な。いつからしてないやろ。
え み 二ヶ月ぐらい前、かも。
結 衣 全然知らんかった。なんで？
え み 知らん。心境の、変化？
り り ふ〜ん。
結 衣 チーズはチーズで美味しい。
間。三姉妹はそれぞれ別々のことを考えている。それに気付いて代わるがわる三人の顔を見回すりり。さなえと目が会う。
さなえ もう一回焼こう。
り り 焼こう。焼こう。
結 衣 えみ、もうお菓子入れたらあかんで。
え み （お菓子の袋に手をつっこみスタンバイ）
結 衣 さなえ、とめて。
さなえ っていうかそれさなえのお菓子やし！
り り いいなあ。みんなでご飯。楽しいなあ。
結 衣 うん。楽しい。
さなえ 久しぶりこんなん。みんなでご飯。
「りーぽんの決めた道」
以下、たこ焼き二回目焼きながらの会話。食いつつ、焼きつつ、回しつつ。
結 衣 りーぽんも元気そうでよかった。
さなえ 全然あってないもん。
り り それ、さっきもえみちゃんと話してた。
結 衣 最近どう？ あ。そういえば今日話ある言うてたやん。どうしたん？
り り ああ。そうそう。またお母さんがさ。転移見つかってもうすぐ入院。
おおぅ。皆動きが止まる。
り り 手術して、様子見て、抗がん剤打ってやから、ちょっと時間かかるかもって。
結 衣 そ…そっか・・・。
さなえ 手術、うまくいったらええね。
り り うん。生存率も昔に比べたら上がってるって。せやから入院長引くんもそんな今更な話と違うし、それはしゃーないなって思う
けど、あ、で四月から本当はバイトしながら進学するつもりやってんけど、て結衣に言うてたけど、色々不安やから、今年は
進学はせんとこ思って。
結 衣 …そっか。
り り せやから一年バイト頑張ってお金貯めて。来年頑張る。あは。えみと同じ学年なるね。
え み りーぽん何でそんなサラっと、軽く言うの。
り り んん、なんか、色々と考えたんやけど。
結 衣 うん。
り り お母さんは、たった一人のお母さんやし。なりたくて病気なったわけちゃうし。
さなえ うん。
り り 誰も、悪無いし。
え み 悪く無い。
り り それでも！
どん。りーぽんが机をどんと叩いたので、三姉妹の背中がびゅんと伸びた。
り り それでも、行きたい大学諦めたくないんやって、自分の中にそういう気持ちがあることが嬉しくて。なんか。決意表明みたいな。
そう思うと結衣に会いたくなってさ。
え み …。
り り ああ、ごめんごめん。暗い話にするつもりなかってん。ごめん。別の話しよ。何かない？
さなえ えーとね、えっとね。さなえ、おとといからウンコでてへんねん。
え み え、それ、つらいなぁ。
結 衣 鼻つまんで牛乳飲んだら一発らしいで。ずばぁ〜んって。
り り （笑いながら）他、汚くないやつにして。
さなえ えーとね、えっとね。あ。そうや。えみ、もう少しで修学旅行やな。
え み あ。…うん。
り り えみんところは、北海道？
え み うん…。
り り 私のところも北海道やってん。スキー楽しいよな、なあ、結衣。
結 衣 うん、楽しい。めちゃくちゃ楽しい。下手くそやったけど。短すぎたわ。もっと行ってたかった。
さなえ いいなあ、北海道。さなえのときは行き場所変わるねんで。
結 衣 どこになるの？
さなえ 夢の国。いいけど。楽しいけど。
りり 北海道楽しかったでえ。雪にかき氷のシロップかけて食べまくった。
結 衣 すごい。食べ放題？
り り 食べ放題。学校行事じゃないと出来んな、って思った。
さなえ ずるい。ずーるーい！
結 衣 そろそろ準備はじめんとあかんのと違うの？
え み うん。
えみ、カラ返事。避けたい会話みたい？ たこ焼きで口をいっぱいにする。
結 衣 ゴーグルとか、手袋とか。私のあるから買わんでいいからな。
さなえ おみやげ何頼もうかな。
り り ロイズのチョコレート美味しかった。
さなえ ロイズ！
えみは小さなお皿にたこ焼きをいくつか乗っけて、仏壇に供える。鈴を鳴らす。ふと、
サイドボードの上に置いてある封筒を見つける。
「不審」
え み 誰の？
結 衣 机片付けたら出てきたんやけど。えみのやないの？
えみ、封筒の中の手紙を読む。その手紙の主が母親のものだとわかると、嫌そうな顔をして
結衣に突きつける。結衣、手紙を読む。
結 衣 明日には戻ります。ご飯代置いときます。無駄遣いしないように。母。
さなえ は？
結 衣 あ。ほら。さっきのお金、晩御飯代も入ってたんやん。
さなえ やや、そこ違うやろ。
結 衣 ん？ ああ。今日帰らんねや。
さなえ 姉ちゃん何も聞いてないの？
結 衣 私は何も。
さなえ さなえも。どうしたんやろ。
結 衣 珍しいね。
さなえ ちょっと前もお母さん帰ってこんかった時なかったっけ。
結 衣 ああ、あったあった。そういえばあれも結局何やったか聞いてない。
り り お仕事かな。
え み 男と旅行、行ってたりして。
さなえ お母さんが？
結 衣 まさか。
え み だって、指輪してないもん。
えみ以外顔を見合わせる。
さなえ ほら、職場の親睦旅行とか。
え み おかしいやん、行き先も言わんと。
結 衣 （ケータイを見て）メールも何も来てないし。この手紙だけ。
さなえ （ケータイを見て）さなえにも来てない。えみは？
え み （無視）
結 衣 ちょっと電話してみよ。
さなえ え、やめよ。怖いやん。
結 衣 なんで？
さなえ 誰かといっしょやったら、どうするん。
え み そん時は出えへんって。
結 衣 そん時ってどういう意味？
え み そういう意味やん。またムカついてきた。
結 衣 えみはなんでそんな風にしか考えれんの？
え み だっておかしいやん。黙ってこそこそ。
り り ちょっと、熱くならんと。
結 衣 電話します。
り り してみれば。
さなえ やめようなぁ。
結衣は立ち上がり、少し離れたところへ行って電話をかける。ぴーんと緊張感が張り詰める
リビング。どこかで音が鳴り響く。さなえはその音に近づき、携帯を手に取りみんなにかざす。
三姉妹 おい！
さなえ お母さん、携帯忘れていってる。
結 衣 ええ。うっかりさん？
り り あはは。
さなえ 家から着信きてるやん。もう。
さなえが止まる。
え み どうしたん？
近づくえみ。さなえが携帯を隠そうとする。が、携帯を見てしまう。
え み 井上さん。着信二件。だれ？
結 衣 さ、さあー…。
えみはさなえに携帯を突き返す。黙ってそれを棚の上に置くさなえ。皆何かを感じる。仏壇を見る。
え み 気持ち悪。
暗転。曲。
「結衣のひみつ」
明転すると、その次の日。舞台にはさなえ。机に座って勉強している。トイレの流れる音。
しばらすると下手奥からやってくる結衣。お腹をさすりながらバイト用のカバンを持ってる。
結 衣 おはよう。
さなえ おはよう。
結 衣 あかんわー…。昨日からお腹の調子あかんわ…。
さなえ なんで？
結 衣 多分、たこやき粉。
さなえ さなえはな、すっきり絶好調。
結 衣 出たんや。
さなえ うん。
結 衣 っていうか珍しいね。
さなえ うん？
結 衣 リビングで勉強。
さなえ うん。
結 衣 えみみたい。
さなえ なんかさ、昨日楽しくてさ。部屋に一人でいるとそわそわしちゃってさ。寂しくってさ。
結 衣 何それ。
さなえ へへへ。
結 衣 パン食べる？
さなえ もう朝ごはん食べてん。
結 衣 そう。
結衣、上手前へ。何かを蹴飛ばす音。「痛！」と声が袖から聞こえる。パンをかじりながら
戻ってくる。
結 衣 片付け忘れてたん忘れてた。
さなえ あんさ、
結 衣 ん？
さなえ 井上さんてさ。
結 衣 …うん。
さなえ お母さんと仲いいのかな。
結 衣 えーと。
さなえ 姉ちゃん何か知ってんの？
結 衣 あたしも名前までは知らんかった。
さなえ なんや、知らんのさなえだけやったんや。
結 衣 あー…。あたしも良くは知らんねんけど、前にね、お母さんからチラッと。聞いた。職場でよく世話焼いてくれる人がいるって。
さなえ その人が？ 井上さん？
結 衣 そうなんちゃう。えみも知ってるんかな？
さなえ 多分。知ってるからあの態度なんと違う？
結 衣 そ、そっか。
さなえ さなえは、別にええけどな。
結 衣 え。
さなえ お母さんに好きな人がいても。
結 衣 …。
さなえ お父さん死んですぐのお母さんって、見てられんかったから。最近、ちょっとマシになってきたかな？ って思ってたら、そーいう
ことね。ふんふん。
結 衣 …さなえ…。
さなえ …再婚とか、するのかな。
結 衣 どう、やろ。
さなえ うーん。でも、お父さんじゃないよね。お父さんは、お父さん。井上さんは、井上さん。んんん。むずかし。
結 衣 そやね。
さなえ お父さんとお母さんの子どもがさなえなんやから、お父さんが井上さんになっても、お父さんやなんて思われへんかな。血も
繋がってないんやからさ。
ちょっと間。結衣、空気を切り替えるように。
結 衣 姉ちゃんは、そうは思わんかな。
さなえ そう？
結 衣 血が繋がってなくても、一緒の時間をゆっくり、ゆっくり過ごしたら、家族になれると思う。私かてさ、お母さんとお父さんのほんと
の子どもと違うけど、ゆっくり、ゆっくり時間かけたから、橘家の家族になれたんやって、思ってる。
さなえ、開いた口が塞がらない。持っていたペンが落ちる。
さなえ え。
結 衣 ？
さなえ え？
結 衣 あれ。知らんかったっけ。
さなえ ななな、なにを？
結 衣 貰い子やねん。私。お母さんとお父さんの子どもと違うの。
さなえ 知らん知らん知らん知らん知らん知らん知らん知らん。初耳。
結 衣 実はそうでしたー。じゃーん。
さなえ じゃーんちゃうで。なんなん。もー。なんもかんも知らんのさなえだけやん。絶望。え？ ってことは、さなえも貰い子？ えみも？
結 衣 私だけ。さなえもえみも、お父さんとお母さんの子ども。
さなえ へ、なんで？
結 衣 お母さん、全然子ども出来んかってんて。結婚して十年ぐらい？
さなえ ほお。
結 衣 でも、子ども欲しかったからお父さんと相談して私もろて。そしたら何か知らんけど、それがきっかけになったんか、えみを妊娠し
て。生まれて。さなえも。
さなえ へえー…。
結 衣 私がキャベツ？ いや、コウノトリ？ みんなのこと呼んで来てんから。…なんか、黙ってたみたいで、ごめんね。
さなえ ううん。言うてくれたし。せやからて、どうするとかないよ。さなえの姉ゃんは、さなえが生まれたときから結衣姉ちゃんや。あ、
えみも。
結 衣 ありがとう。そやからな、血の繋がりとか、そんなんは家族には関係ないなって。私は思う。
さなえ んんー…。んんん…。また姉ちゃんのとは違う話とちゃうかなあ。
結 衣 そうかな。
さなえ やっぱ井上さん次第やん？
結 衣 そらそうや。うん。そらそうや。
さなえ ええ人やったらええけど。人妻フェチとかやったらどうしよ。
結 衣 うわああああああ。うわああああ。いや。むり。きも。
さなえ どうしよ。お母さんだまされたらどうしよ。
結 衣 多分無いと思うけどな。いい人やと思うけど…。
さなえ お父さんに、似てるのかな。
結 衣 どうやろ。
さなえ お父さんみたいにお風呂嫌いかな。
結 衣 さぁ。
さなえ お父さんみたいに足臭いかな。
結 衣 どうやろ。
さなえ お父さんみたいに、たこ焼き焼くの上手かな。
間。
さなえ でも、家族が増えたらさ。
結 衣 うん。
さなえ 今度はイス余らずに、たこ焼きできるね。
結 衣 …うん。あっ。
つづく…
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